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私が助けた?

 ......おそるおそる私が手をどけると、ファフニールの傷は消えていた。



(傷が治った?)


 状況をやっとのことで飲み込んだ私は、喜びをダリウスと共有せんとダリウスを少し後ろにいたダリウスを振り返るけれど、ダリウスはまだ処理落ちしている。


 ファフニールが、グオー、と大きく雄叫びをあげる。はっと気づいたダリウスはこちらに戻ってきたもよう。


 足で立ち上がったファフニールは、私の身長では背や頭を撫でてあげることができないほどに大きい。ダリウスは怖気づいて後退り思わず後退りしているが、私は脇腹の毛を撫でてあげる。


「あなたはよく頑張ったわ、本当に良かった」


 ファフニール自身が頑張ったからこんな奇跡が起こったのだと思う。私には祈ること以外、なにもできなかったのだから。


 ファフニールは後ろに下がって、私に頭を下げてお辞儀をする。


(命を救ってくれてありがとう。あなた方2人に受けた恩は忘れまい)


 そういってダリウスにもお辞儀をする。ダリウスは目を丸くしている。


(後ろの彼もあなた方の仲間だろうか)


 後ろの彼? 少し離れた木陰にザンクがいることにはじめて気づいて戦慄するが、彼は怒っているよりも呆然としているようだ。


(もし仲間でないのなら私に排除させてくれないか。命を救ってくれた恩には及ばないが)


 善意でいってくれているらしいが、お断りする。


「ありがとう。でも彼も仲間だから大丈夫よ」


 これまでの会話も聞いていただろうにダリウスはようやくザンクに気づいたようだ。いつも喧嘩腰なのになんだかホッとした表情をしているのを見た私は、ダリウスはツンデレキャラなのかもしれないと思い至る。


(そうだったか。失礼をした。ところであなたはその年齢で聖女なのだろうか)


 いや、私が聖女であるはずはない。聖女のことはよくわからないが、聖女というからには品行方正、清廉潔白、才色兼備、全知全能の女性のはず。


 私はやっと人並みになったらしいけれど、もともと魔力が足りなくて捨てられた人間である。さらにさらに、ファフニールの傷に対して私は何もできていないのだから。


「いいえ。私は聖女など、そんな立派なものではないの。あなたの傷が癒えたのはあなた自身の頑張りでしょう?」


 肩をすくめた私がそういうとファフニールはなぜか感極まったように


(ああ。あなたは素晴らしい方だ。どうかまた恩をお返ししにあなたの前に現れることをお許しください)


 主らしき人のもとに戻るファフニールが空を飛び立っていくのを見送ると、ピルーが私の指に飛んできた。


(セレナ ありがとう)


 私にそう伝えたピルーはダリウスのもとにも飛んでいき、彼の指に止まった。



 ザンクにも見られていたことに気づいた私がダリウス、そして覚悟を決めてザンクのもとに近寄ると、ザンクは麓の方を顎で示して『帰るぞ』とだけ言った。拍子抜けした私だが、何も言われないならばこれ幸い。自分からは言うことは何もない。


 そんなことで、難しい顔をしているザンクとダリウス、そして私の3人は誰も一言も喋らないままに山の麓に行き着いた。


「なあ」


 初めに言葉を発したのはダリウスだった。意を決したように続ける。


「夢じゃないんだよな? ....セレナ、さっきお前は何をしたんだ? いや、最初から何をしてたんだ?」


 夢じゃない、と頷くザンクに確認を取ったダリウスは私に質問を投げかける。あれは奇跡だ。ファフニールの頑張りが命を救ったのだろう。私にできたのは祈ることだけだった、と伝える。


「祈っただけだと? 戯言をいうな」


 ひえっ。ザンクの冷気が怖い。ダリウスもいるよ、その口調で大丈夫?、と目で訴えかけるけれどザンクもダリウスも今はそれどころではないらしい。


「あの光は......お前からでてたぞ?」


 ダリウスが真面目な顔でそういうので、面白くなってしまった。笑い出しそうになる前にザンクを見ると、こちらも真剣な鋭い表情で私を見ているので、面食らう。


「え? 私が治したの?」


 2人は同時に頷く。ダリウスが言うには、あの光は私の手がファフニールに触れた瞬間に私の周りにあらわれて、傷口におさまったらしい。いつもなにかと反目しあっているザンクも肯定するので、どうやら本当のようだ。私が治したの? 私のちからなの?


「??? 本当に? ......ザンク、これは魔力なの?」


 混乱する私に、ザンクは苦々しく首をよこに振ってみせる。


「確かに魔力と似ていた。しかし、魔力では魔痕を治すことはできないと聞く。魔力でないならば、あれはなんだったのか?」


 黒い侵食はどうやら魔痕というらしい。最後は私に聞いているというよりもむしろ自身に問いかけているようだった。


「......セレナ、お前は動物と会話できるのか?」


 再度静まった私にダリウスが会話の舵を切ってくれたので便乗する。


「ええ! 本当に素晴らしい能力だわ。動物と人とが意思を伝え合えるなんて! ダリウス、あなたも聞いたでしょう? あのファフニールはザンクを敵だと思って排除しようしていたじゃない? ザンクが隠れていたからいけないのだけど、あれは面白かったわね!」


 なんて素晴らしい世界だろうか。私がファフニールの勘違いについて共感を求めてダリウスに目配せするも、ダリウスに引きつった表情で見つめられた。ザンクはというと、こめかみを押さえて疲れ切った表情をしている。


「そもそも、動物と会話ができるのは普通ではないぞ? 私やダリウスには聞こえなかった」


 なんですって??? セレナの記憶では小さいときから動物の考えていることが理解できてきたので、『魔力』が存在する『この世界』では普通のことだと思っていた。オーマイゴッド!!


 じゃあ2人から見たセレナ(私)は、『動物に聞いた!』と山に行くために窓に突撃し、なにかわからない力で傷を癒やしたとおもったら、あんなにおおきなファフニールにすごまれている人だったってこと??


 ふたりとも疲労困憊だけど、私はパニックに陥る。


「バレたらどうされるかわからない。絶対に他言するなよ」


 ザンクは私とダリウスに念をおす。パニック状態の私がコクコクと何度も頷くのを確認すると、ザンクにも念をおすように鋭い視線で制する。


 さすがに正門からは入れないので、私達3人は、再度窓から部屋に戻った。





いつも読んでくださり、ありがとうございます!

自分の能力にびっくりするセレナをお送りしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] テンポの良い物語展開の中にしっかりとした世界観が構築されているのが垣間見え、安心して読み進めることができました。主人公の力も大きくなり始め、これからどのようにして物語の本流を渡っていくのか楽…
2023/05/01 22:57 退会済み
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