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どうしても助けたい

 ザンクが神官に呼び出されたので、久しぶりに自由を謳歌しよう、と決意する私。


 池に落ちてから一週間半ほど経ち、いつも隣でつきまとっているザンクを、いい加減ストレスに感じてきたのでとても良い機会だ。


 ザンクがいない今夜は仲良くなった小鳥ピルーと語り明かすことにしたい。


 なんと! この世界では動物との意思疎通ができるらしいのである! 使わなきゃもったいなさすぎる! 本物のセレナは動物があまり好きではなかったようだ。私には理解し難いが。でも、ティティちゃんのことは大事にしていたみたいで、あの家にいるときの唯一の支えだったよう。


 コツコツと窓を叩いているピルーに気づいたので窓を開けてやると、ピルーはパタパタと慌ただしく、わたしの指に止まった。


(セレナ 助けて 山 ファフニール 血 止まらない 助けて)


 ピルーはそう繰り返し伝えながら私の指をつついてくる。助けに行くには行くけど、ザンクがいないすきに出たら、なんて言われるか。それに山に行くことは私は未だに禁止中なのだ。


 しかし、そんなことはそこまで問題ではない。ひとつの命と私の説教時間、どちらが大切だろう? もちろん前者だ。100回聞かれたら100回同じ答えになる自信がある。

 

 部屋に作った畑には果物がたくさん植えてあり、温かい空気と魔力を提供することで促成栽培に成功していて、創設者である私の独断で複数の薬草も栽培している。


 このまえクロンが転んで怪我をしたときに栽培を始めたのでまだ小さいけれど、促成栽培のイメージで『おおきくなれ』と念じるとすぐに大きくなった。血止めになる百薬っぽい薬草と鎮痛剤になるカフウと消毒になるバミを急いで採集する。大急ぎで扉から外に出ようとして立ち止まる。


(廊下でザンクと鉢合わせしたら、時間が無駄になるわ。 ......窓から出ましょう)


 そう決めて窓と対峙するが、あいにく窓はだいぶ高い。低かったならば、ここに子供がとどまっているはずがないことに思い当たるが、諦めない。


 ふう。精神統一。気分はサスケの挑戦者。えいっと窓枠に指をかけるけど、セレナの指にはそんな筋力はない。


 ズルズルと対して上がってもないけれど地面に落下する私。ピルーは、はやく、と急かしてくる。やはり扉から....


「おい」


 そう思った矢先に背後から声がした。ザンクに見つかった! そう思って恐る恐る振り向くが、そこにいたのはザンクではなく、ダリウスだった。


「ダリウスだったのね! ザンクでなくて良かったわ」


 あからさまにホッとした私をみて、『なんでザンクが出てくんだよ....』と小声でつぶやき、なんだか複雑そうな表情をする。窓と私を見比べるダリウス。


「....で、何やってんだよ?」


「ダリウス、説明したいけれど、時間がないので察して頂戴!!」


 はあ?! と焦った表情をするダリウス。


「ちょっと待てよ。ここから逃げるなんて正気か?」


「逃げるんじゃないのよ! 森に行かないとなの。動物が助けをよんでるの。協力してくれないならいいわ、別に」


「察せるか! そんなの!」


 ピルーはまちきれなくなったようで私を一層つついてくるようになった。そう、こんな時間はない。ひとつの命が私を待っているのよ! 


「ザンクに見つかりたくなかったけれど、ダリウスが協力してくれないなら仕方ないわ(扉から行きましょう)」


 諦めてダリウスに踵を返す私に対して、何故か焦ったダリウスは申し出る。


「分かったよ。力には自信があるんだ、俺が先に登って引き上げてやる」


「ほんとうに!? ダリウス! ありがとう。感謝するわ!」


 くるりとダリウスに向き直った私と目を合わせまいとしているのか、ダリウスは少しそっぽを向く。そして少し助走をつけてふっと窓枠を登りきる。バックが月明かりなので、ダリウスの表情はよく見えないけれど、ダリウスは腕を下げて、私を引き上げようとしてくれる。しかし......


「わっ」


 勢い余って外に落ちてしまった。よかった、今日刈り取った草が積まれたところに落ちた。横に落ちたダリウスをみるとちょうど彼ももこっちを振り向いたところだったので、目が合った。


 ははは、と愉快そうに笑うダリウスにつられて私もなんだか笑ってしまった。



 ピルーに案内されたのは命の山にある川のほとり。命の女神ミネルヒロースのちからなのか、昼間のように明るいのにはびっくりだ。


 ピルーのいうファフニールという動物は、翼の生えたホワイトタイガーみたいな動物で、首に鋭くて痛々しい、引っかかれた傷があった。真っ赤な血がファフニールが倒れ込む大地に広がっていて、失血死しかけているのが見て取れる。


 まずは消毒のためにバミを傷口にあてがって強く押さえる。倒れ込んでいて気力が消えかけていたファフニールは、私が押さえたのに気力を振り絞って身を起こし、グオッと威嚇してきた。


「うごかないで。大丈夫よ。私が助けてあげるわ」


 ファフニールに伝わったのか、それとも気力を使い切ったのかはわからないけれど、ファフニールはまたぐったりと身を倒す。しばらく押さえるけれど、まだ血は止まらない。


「セレナ、俺がやってやる。お前はほかにやることがあるんだろ?」


 横から手が伸びてきて、私が押さえていたところをダリウスが交代して押さえてくれる。強く押さえるようにダリウスに伝えた私はありがたくダリウスに止血を任せる。ダリウスが押さえてくれている間に、私は川で手をすすぎ、血止めの草を石ですりつぶす。


「ありがとう、あとは私が」


 私は、血止めを塗って再度押さえつける。もう大丈夫だろう、そう思って血が止まっているか確認しようと傷口をみたけれど、血は止まっていなく、前世でみた傷とは少し違って黒い部分がだんだんと侵食しているようだ。これはただの出血ではない。


 ファフニールはまだずっとつらそうにしている。どうすれば助けてあげられるだろうか。


 ここは命の山。命の山の池には王室管理になるほどの聖水が存在している。だったら、この川の水にも癒やしのちからがあると信じたい。一縷ののぞみをもって、持ってきた杯で水をすくってかけてあげるけれど、一向に治る気配はない。


 ああ。私はこの子を助けてあげられないのだろうか。自分の無力さを突きつけられているような感覚に襲われる。その間にも黒い部分はさらにさらに広がっていき、それにつれファフニールは苦しそうに声を上げる。


 この子はまだ生きているのに、私にできることはないというのだろうか。


(助けてあげたい) 


 どうしてもそう思った。


(どうか、治って。どうか、どうか!)


 強く祈りながら傷口にふれるとその瞬間、どこからともなく来た青色の光がぶわっと傷口で奔流する。




 ......おそるおそる私が手をどけると、ファフニールの傷は消えていた。



また更新が遅くてすみません。今週はもっとだせると思います!

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