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プロローグ


 空野愛美そらのあいみは自転車で坂を急降下する。


(明日から夏休み〜!!) 


 私は現在、大学2年生。獣医学部に通っている。将来はどんな病気でも治せるようなスペシャルな獣医になりたいと思い、日々奮闘している。


 気が緩んだのがいけなかった。突然飛び出してきた犬にびっくりしてハンドルを急いで切る。でも、場所が悪かった。


(誰かたすけて。)


 崖からの浮遊感を感じながら、愛美は淡い希望とともに意識を手放した。




 シン、と静まりかえった部屋で目が覚めた。


(ここは......?)


 私はいかにも殺風景な部屋にいた。自分の部屋より広いけれど、とてもほこりっぽい。


「セレナ様。なにを呆けてらっしゃるのです」


 年はお母さんくらいだろうか。とても厳しい目をした女性が部屋に入ってきてカーテンを開ける。


(セレナ? 誰か他に人が?)


 ここは死後の世界なのかもしれない。気を取り直して、部屋をしげしげと観察してみる。白が基調の部屋みたいだ。


(セレナさん?....はこの部屋の主なのかな?)


 キョロキョロと見回してみるが、他に人は見当たらない。


「........様! セレナ様!」


 揺さぶられて気付く。


「え?」


「『え?』ではありませんよ、セレナ様! 本日はポルジア家へ行かれる日でしょう!」


 どうやらセレナは私のことらしい。そう認識した途端、知らない人(おそらくセレナ)の記憶がザッと入ってきた。


 上流貴族のアルデンヌ家に生まれたセレナ、もとい私は生後10年での魔力が上流に足るものではなかったらしい。母自身が正妻ではないこともあって、母の死後唯一血の繋がりのあるお父様にも見捨てられる。


 魔力量が物を言うこの世界でセレナは一族の恥さらし。軟禁状態だったらしい。


 ポルジア家は下流貴族ではあるものの、家格に見合う魔力を持たない魔族の子を引き取る孤児院、聖堂の采配を任されている。


 ゆえにポルジア家に行く、というのは貴族としては捨てられるのに等しい。だから、アルデンヌ家の人々はセレナを一族の一員として扱って来なかった。


 と、セレナの生い立ちはこんな感じだ。


 セレナはポルジア家に向かう日が近づくのが、悲しくてついに昨日自死しようとしたようである。


 セレナの身体に私は入ってしまったようだ。


 自分で服を着替えて部屋から出ると、きらびやかに着飾ってはいるものの、虫でも見ているかのような目で私を見ている父の正妻カミラ様に声をかけられた。


 セレナの記憶によると、生母リリーがなくなった4歳のときに父の家に引き取られて以降、カミラ様にひどくお世話になっているようだ。どんな小さな失敗も厳しく咎められ、部屋に閉じ込められた。


「もとからアルデンヌ家の子ではありませんでしたけど、アルデンヌ家の使用人でもなくなるなんて、なんと喜ばしいことでしょう」


「ええ。母上は汚らわしい異国の女の娘に十分すぎるほどよくなさいました」


 長男ラオスは28歳。私とは実に13歳差である。


 そう話しながら私のことなど見えないかのように通り過ぎていく2人の後ろ姿を目で追いながら、2人に対するセレナの憎しみが今なお残っているのを悟った。








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