第2話 捕食、ただしアニサキス。
ちゃんと話は進めました。たぶん。隔日投稿はストップしましたがしばらく期間が開いた時よりはマシではないでしょうか。……頑張ります。
本日、ステータス描写があるので少し文字数自体は多めになっています。
それでは、本編です。どーぞ。
鉞伐は、自分が第二の性を受けた空間を後にして、先の見えない一本道を歩いていた。あの後、少し歩きながら魔法が使えないか試行錯誤してみたのだが、現状できる、“起こしたい現象を想像する”という方法が失敗したので断念した。
(これは、誰かに方法を教えてもらうよりほかないな。しばらくはお預けか。)
と、言う結果になったので考えることをやめ、特に何も考えることはなく細い道を進んでいった。
(とんでもなく狭い道だな。この体、というかこの大きさだから何とか通れるが、人間は通れないんじゃないか?)
ふと、何回目かの縦穴をのぼりながら思う。今思えば、自分の全長が30㎝程度しかないからこそ通れるような場所が何か所かあった。かといってこの道以外に穴の開いた場所は見つからなかったので、正しいルートではあるようだ。
(これ、もう少し大きい生命体になってたらどうすればよかったんだろうな。)
とは思うものの、別に問題はなかったので考えても詮無い話として割り切った。その後も細い道を体をひねるようにして進むこと十数分。少しだけ先が明るくなり、広い空間にでる。
(あー、やっぱこうなってるよな……。予想してたことだけど、どうしたもんか。)
その空間は、基本的に洞窟ではあるものの、玉座の間のように改装されていた。
そして玉座には、図体のでかい人物が座っている。多分、あいつ魔王。
(いや、なんでいるんだよ。いくら王でも謁見の時以外は玉座に座らんだろうよ。)
玉座の間に改装されていたのはその洞窟の空間の1部で、洞窟の壁が剥き出しになっている、その横穴の1つから空間を覗きながら悪態をつく。
「む、下賎な気配を感じるな……。何だ。そこの者、出てくるがよい。」
魔王(推定)が言った。鉞伐は、どこにいるのか悟られる事がないように、息を潜める……様なことはせず、すぐに姿を現した。
(気づかれてるだろうとは思ってたからな。ここで隠れてもいいことはない。)
「ふん。ソードゴーレムか。将来性も知能もない雑魚が。まあいい。仮にもここに現れたのだ。我の糧にしてくれよう。」
現れたとたん、悪口を言われる。べつに鉞伐とてなりたくてなったわけではないのだ。それはともかく、ずいぶんと知識と違うことを言われる。
(俺のステータスは『種類:シュヴェルト・ゴーレム』だったし、成長力についても言及されていた。違和感が……。声は出るが言葉の発声は出来ないし、聞いたとて答えてくれそうにもないししょうがないか。)
前話で『呟いた』とか散々書いたが、喋れていたわけではない。それはおいておいて、そんなに悠長にしていていいのだろうか。
伝わっていると思っていまいが、それなのにひとしきり喋った魔王は、鉞伐に近づいていく。逃げるのも無駄だろうから、鉞伐は逃げようとはしない。そうこうしていうちに、魔王はその場で何かを持ち上げて引っ張るようなしぐさをして、
鉞伐の体はひとりでに浮き、魔王の方へ飛んで行って、魔王にぶつかるというとことで、空間が歪んでその奥の大きな口に飲み込まれた。
(ものを浮かせて操るとかどこの暗黒卿だよ。)
とまあ、鉞伐はつっこみを入れているが、かなりまずい状況ではないだろうか。魔王は『我の糧に~』とか言っていたので、おそらく吸収されようとしているのだろう。
(すごい自然に飲み込まれたけど、ここはきっと……魔王の胃の中。逃げられないとはわかっていたから逃げなかったさ。ただ、まだ死ねないんだよなぁ。)
鉞伐の中にも、焦りが少しずつ生まれていた。その焦りは少しずつ大きくなり、やがて思考力を奪った。無理に動こうとしてみる。やはり、無駄だ。ここは胃であるはずなのに、肉に締め付けられて動くことがかなわない。
動くことができないのでは、四本の剣となった足も形無しだ。奪われてなお残された思考力で考え続け、数秒ののちに気づいた。もう頼れるのは、無意味だったスキル、〖自然体〗だけであると。
頼ると言っても、他に可能性が見いだせず、消去法でそれしか残されていないだけだ。それでも、不可能だと断じてあきらめるような思考力もなく、そんな潔さは持っていない。それが功を奏した。
(……。体の位置が、なんというか……戻った?)
説明がしづらいが、地面に立っているような状態に、強制的に戻されたのだ。そんないきなりの現象に対して、あまり驚かなかった自分を疑問に思う。
あまりにも冷静すぎる、とは思うものの、このチャンスにそんなことを悠長に考えている暇はない。体の向きが変わったが、肉はそれに合わせて動かない。
つまり、四本の剣が肉へ突き刺さることになり、その周囲の緊張が崩れて身動きが取れるようになったのだ。
(これを逃すわけにはいかない。……〖切りつけ〗、〖すべる〗。この組み合わせでいけるのでは?)
思うが早いか、行うが早いか。考え付くとほぼ同時に、残る2つのアクティブスキルを起動した。そこからは惨状だった。
〖すべる〗で摩擦が取り払われ、〖切りつけ〗で切れ味が上乗せされた四本の剣たちは、止まることを知らない。周りの肉を裂いては、どんどん動きが速くなり傷はどんどん深く、広がっていった。
ここは内側だ。なので、魔王が、あるいは自分を飲み込んでいるのは別の何かかもしれない、がどうなっているかはわからなかったがこのまま進めば脱出できるだろうと思えた。
どれほど経っただろうか。少なくとも、想像以上に長く、暴れ続けていたことは確かだ。効果が切れてはかけ直し、切れてはかけ直し、気づいたときには血だらけで。そして同じように血でまみれて、切り刻まれた“玉座の間”だった部屋に横たわっていた。
───『有効獲得経験値』580600。───『レベル』上昇。───『レベル』上昇。───『レベル』上昇。───『レベル』上昇。───『レベル』上昇。───『同様処理』表示限界。省略。
───〖フォン・シュヴェルテン・ラプター〗効果発動。
まだ聞きなれない、無機質なアナウンスが頭に響く。
「58、万……。」
他の何者にも伝わらない、高音がその場に反響した。
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(……魔王、倒しちゃった……。)
あれから、どれくらい放心していたか、わからない。数秒の出来事だったかもしれないし、もしかしたら数時間はそうしていたかもしれない。とにかく、我に返って鉞伐は立ち上がった。
腕を使って、二足で。自分の目線が幾分か高くなったと思って、ようやく気付く。
(進化した……のか?)
そして、自分の体を見る。確かに、二本足で立っていた。が、見慣れた人間の姿はなかった。幸運にも元・玉座の間にあった鏡───血だらけで見にくかったが───を見ると、そこには“剣でできた骸骨”とでも言うべき怪物が立っていた。
頭部は、コアが多種多様な直剣をまとったような見た目で、そのほかは、様々な種類のありとあらゆる刃物で全身骨格が形作られていた。ただ。
(手は、なしか。二足だと不便さが際立つな……。)
ついでに言えば、足もなかった。正確には、脛はあるものの、その下の部分がなかった。
(我ながらすげえバランス神経だな。どうやってたってんだこれ。)
脛の骨も当然刃物で、先は尖っている。そんな細い部分でバランスを取っているのは驚きだった。
(まあ、別にできてる事だからいいか。)
そう考えながらしげしげと自分の足を見つめ、片足立ちもできるのか、我ながらすげー、とか考えていた鉞伐だったが。
(あ、そうそう。ステータスステータス。忘れてた。)
いちばん確認すべきことを忘れていたことに気づき、また人の目を気にしてから、
(……ステータスオープン。)
と心の中で唱えた。声に出しているわけでもなく、声に出しても無意味な音しかでないものの、なぜか気にしてしまうのはラノベをかじっている者としては仕方ないだろう。
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『・・・・・・』
種類:スフィエット・ゴーレム :C-(成長力:L+α)
Lv .27
体力:692 (コア)
筋力:0 (+200 魔力変換Ⅱ+
魔力:12501 (自動回復+
攻撃:522
防御:293 (+190 コア生命体+
精神:逡ー蟶ク蛟、謨?ィ域クャ荳崎?
《パッシブスキル》
〖コア生命体〗+再構築
〖ゴーレム〗+魔力変換Ⅱ
〖脚下照顧〗+数値化+言語化+幻視
〖神の叡智〗+前世の記憶
〖無限成長〗
〖言語理解〗
《アクティブスキル》
〖自然体〗
〖すべる〗
〖切りつけ〗
《ネームドスキル》
〖フォン・シュヴェルテン・ラプター〗
〖多刀流〗
〖名刀〗
〖効率厨〗
〖神の友〗+邪神の親友+邪神の盟友
〖学徒〗
《ユニークスキル》
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(ん?種族が変わったわけじゃないのか。思ったよりレベルも上がってない。魔王討伐だったのにな……。あでも、ランクみたいなものは変わってるな。さっきまでD+だったはず……。)
そして下の方までステータスを見て、結局変わっていた部分は数字の部分と、魔力変換というオプションがⅠからⅡに変わったということだけだった。
それでよくこんな外見の変化があるなと思っていると、あることに気づく。どうやら尻の部分に今までと違う感覚があるようだった。
ゴーレムになって、真後ろも見られるようになったことを生かして見てみると、鏡では血痕で見えなかったものの、背骨になっている蛇腹剣がそのまま伸びてしっぽになっている。
(……そうか、尻尾があるってこんな感じなんだ。)
そんな新鮮な感覚でゆらゆらと尻尾を揺らしていると、微かに岩を割るような音が響いてきた。
(そうだ。地上、目指してるんだ。……行くか。音の主に出会わないといいけど。)
不穏な音に我に返された鉞伐は、先を目指して足を踏み出した。
「ここからあんな細い道、無いといいけど。」
部屋を出ると、脇には剣を持った甲冑の石像があった。外から扉に触れるとどうせ動き出したのだろうが、今は動かなくて安堵した。暗い洞窟を、進む。
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鉞伐は、あれから代り映えのしない洞窟を歩いていた。魔王の配下に全く出会わないことは不思議だったが、そんなことは考えて分かることではない。
魔王が現れてすぐだったか、配下は既に地方に散って悪さをしているのか、とにかくそんなことを思った。
…………ガッッ
また、音が聞こえる。近づいているかもしれない。
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それから、まばらにいかにも強そうなモンスターを見かけるようになった。いくら魔王を倒したとはいえ、不意打ちのようなものだし、正々堂々戦って魔王の近衛のような存在に勝てるとは思えなかった。だから気づかれないようにコソコソ移動する。
……ガンッッ!
また、音だ。確実に近づいている。奴らにばれたら殺されるかもしれないので、勘弁してほしい、と思う。
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だいぶ魔王の配下と思しき魔物を見かけるようになった。一度気づかれてヒヤッとしたが、どうやら敵か味方か判断するような能力はないらしく、魔物の姿だったからか、スルーされた。
ドッッ!
明らかに、戦闘音だ。かなり近づいてきた。遠くから、人のうめき声や、獣の唸り声のような音も聞こえる。助けようと思いはしなかったが、鉞伐は少し歩調を速めた。
そういえば、また魔物、だと思われる獣や動く甲冑的なよくわからない霊系?のなにかとの遭遇頻度が下がった。
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少しづつ確実に大きくなる戦闘音を何とはなしに辿って、たどり着いたそこは、まさに戦場と化していた。と言っても、大群どうしのぶつかり合いではない。大群が、一か所に集中している。
そして床には、ところどころ凹んだ魔物(推定)の死体がいくつか転がっていた。生きている奴らはことごとく興奮状態で、我先にと先に進もうとしていた。
(素通りしたいとこなんだが……ここ通らないと先がなさそうなんだよな……。)
地図もない中で彷徨い、やっとこさ上に進んでいる手ごたえがあっただけに、引き返して別の道を探す気にはなれなかった。それに、この状態の原因に興味がないと言えば、嘘になる。
鉞伐は、魔物であることと、剣で構成されているおかげで細身な体を生かして、化け物どもの隙間を抜けていく。
中心にいたのは、見た目中学2年くらいの、高級そうな服を着た、銀の長髪で紅目の女の子だった。誰かに守られているわけじゃない。戦っている。
だが、それももう辛そうだった。色々な場所から血が流れ、服ももうボロボロになっている。飛んでくる攻撃をいなしているものの、肩で息をしている。
(別に、助ける必要は無いんだよな。このまま素通りも出来そうだし。)
先程ここまで来た要領で、向こう側の大群も抜ければいいだけだ。しかし、鉞伐は無表情を貫く彼女の目を見て、思ってしまった。
復讐の色というか、淀んだ炎のようなものを、彼女の瞳から感じた。
(……自分の感覚に従って動いてみるのも悪くない。シャノンと会って学んだことだ。)
合理的な判断ではないし、得もない。それでも彼女を助けてみようと思えた。
それに、勝算が0な訳でもない。鉞伐は、少し日本で実戦的な武術をかじっていた。本番でどうなるかはわからないが少しは動けるだろう。
加えて、そんな鉞伐の目には、疲れているはずの少女の動きに、依然無駄を見止められなかった。足手まといにはならないだろう。
もしかしたら回復まで時間を稼げば、自分より結果を出してくれるかもしれない。そんな期待もあった。隙間を縫って進み、開けているとことまで進む。
「──、───。─────────────。」
伝わっていないのは分かっているが、『おう、睨むな。ちょっと参加させてもらうぞ。』と言ってから少女の横を通り過ぎる。少し怪訝そうに睨まれるが、攻める余裕はないようで、なにもされない。明らかに異常行動をする個体を警戒してこちらも手を出さない群衆に向かい合って、少女と背中合わせになるように、勝手に位置取りをする。
群衆がそれぞれに唸る中、四本の腕を持つ鬼のような個体へ一気に距離を縮め、
(……〖切りつけ〗ッ!)
腕を振りぬいて、首を落とした。筋力値が他に比べて低いが、それでも持てる全力でバックステップをして再び距離をとり、少女の後ろにつく。いきなりのことで、意表を突けたのが幸いして、その場の何者もがあっけにとられ、鉞伐は追撃を免れる。数瞬ののち、少女が呟いた。
「……助太刀か。」
それに鉞伐は伝わらない音で『ああ。』と短く返す。これで言葉が通ずることに気づいてくれればという気持ちもあった。少女はそれに一瞬逡巡して、こう返す。
「時間稼ぎ、感謝。こちらも出る。」
短い言葉だったが、鉞伐は『今の時間で少し回復した。こちらも戦闘を再開する。』という内容を読み取り、合わせることを意識し始める。
少女の動き出す音が聞こえた。それが周囲の獣たちの本能を呼び戻し、動き出す。今度は鉞伐も『獲物』とみなしていた。
乱戦が始まる。鉞伐も前に出たものの、数の圧力で、また少女と背中合わせのところまで後退を余儀なくされる。如何せん数が多すぎて、何の攻撃かもわからない。拳やカギ爪、果ては剣までありとあらゆる攻撃がそこら中からやってくる。
(チッ!殺し合いは初めてなんだよッッ!)
鉞伐は心中で悪態をつく。武術の心得は今、そのほとんどが防御に回されていた。しかし、全身が剣なだけあって、生身の攻撃に対して少しずつ傷を与えていける。その傷に少し躊躇を見せた者がいれば、半ば突進のように腕を、頭を、足を突き刺し、相手の勢力を削っていく。
「チッ!一体抜けた!」
後ろの少女も同じような状態なようだ。受け流しが基本なようで、受け流した奴が鉞伐の方にそのまま突っ込んできたようだ。振り向きざまに、
ドンッッ
頭が2つ、尻尾が2本ある狼のような化け物の横っ腹に左腕を食い込ませ、
ドスッッ
胸に右腕を差し込んで、引き抜く。そして念のため、〖切りつけ〗を乗せた足で横たわったそれの頭を2つとも飛ばす。
追撃を警戒して辺りを見回すと、死体の山が周りにできていて、それがバリケードとなって次団の侵入を阻んでいた。ただ、依然こちらを囲う化け物どもの数は減っているように見えない。
(……いずれ、死体の山も突破される。埒が明かん。彼女一人で抑えられてたんだから、協力すれば突破できるんじゃ……。)
「……いずれ、死体は突破される。埒が明かない。私一人でも抑えられた。二人であちら側を突破する。来い。」
奇跡的に、思考が被った。少女は鉞伐が来た方向と逆を指さす。鉞伐としては伝える方法がなく困っていたところで渡りに船といったところだ。また、音で肯定の意思を示し、気合を入れ直す。
「合図で出る。3、2、1、行け!」
その合図とともに鉞伐と少女は、走り出した。
やっと、メインヒロインが出てきましたね。まあありがちなヒロイン像になってる気がせんでもないですが、気にしたら負けです。あと、ついにまとも(?)な戦闘描写です。戦闘なしで六話も、って長すぎだと思うのって私だけじゃないはず。いや、ほんとにすみません。m(_ _)m
読みやすさについてなんですが、文のまとまりごとに二行分開けたほうがいいでしょうか。今は一行開けでやってるんですが。意見くれると嬉しいです。ついでにアドバイスも、何かありましたら随時お知らせください。エゴでもOKです。
評価感想、良ければよろしくお願いします。特に感想、誤字脱字報告含め、これからの執筆に活かしたいので、よろしくお願いします。
アンチコメ、酷評大歓迎。