第肆話 悪意と憎悪と無意識と
通院やら、整体やらで、忙しかったんです!
……と、言い訳でした。忙しかったのは事実で、あんまり執筆に時間を回せなくてお恥ずかしい限りですし申し訳ない限りです。これから本腰入れて(といってもいつまで時間取れるかわかりませんが…)書いていこうとおもってますので、どうかよろしくお願い致します。
いやあ、幸先悪い。
ということで、埋め合わせとしちゃ明らかに足りないですが今話はいつもの二倍弱です。文字数が。覚悟してお読みください。(それと、急いで書いた結果の急造品なのでいつにもまして粗多めかもです。m(_ _)m)
それでは本編です。
まず最初に光が上がった水晶は、光月のものであった。教皇は説明しなかったが、鑑定が終わると水晶が光るらしかった。その光は、荘厳とでも言うべきで、太く、天井さえなければ天まで届いてしまいそうなほど力強い。それでいて温かみや優しさの感じられる光だった。ただ、
(俺には、少し眩しい。なんと言えばいいか……あからさまな光だな……。)
鉞伐はそんなことを思った。
そんなことはよそに、クラスメイトたちはざわつきだす。やっぱり主人公か、という落胆と羨望の入り交じった声や、すっげぇなぁ、という単純な驚きの声や、やっぱり凄いね、というどこか誇らしげな声が、鉞伐の耳に届いた。
そして全員が、教皇に視線を向ける。その視線は、これはどういう意味だ?という疑問の籠った視線であった。そしてその教皇はと言えば、
「な…………なん……と……。」
目をかっぴらき、前のめりになって、これでもかというくらい驚いていた。
ただ、周りの疑問を知ってか知らずか、姿勢を戻して───それでも圧巻の表情で───、独り言のようにこう続けた。
「数々の史伝級冒険者の昇級鑑定に立ち会った儂じゃが、このような光……見た事がない……。流石……流石、勇者様じゃ……。」
「それって、」
と、誰かが言いかけて、次の水晶が光ったことで、それが遮られた。声の主も自分の言わんとしたことよりも、その光を出したのが誰であるかの方が大事だったようだ。
その光は、光月のものとはまた違う光であった。光り方が違うのではなく、全く別種の光だ。光月の、水晶から天に昇るような光の柱ではなく、天から降り注ぐような人ごと覆う光。その光を受けているのは、……とまで考えて名前が思い出せないことに気づく。まったくもって功刀クオリティである。
「おぉ……今代は女性か……。」
今度は、さほど驚いた風ではなく教皇が呟いた。
(……いや、まてまてまてまて。聞き捨てならん聞き捨てならん。やっぱ俺らは二代目勇者なのか?ドラ〇エⅡなのか?)
いや、Ⅱとも限らないか、とくだらないこと共に考察していると光月が、
「今代……ですか。では教皇様、勇者というのは、先代の方々もいらっしゃったと言うことでしょうか?」
と、聞いたので、鉞伐は思わず、
(ナイス光月!)
と叫んだ。心の中で。気にはなるけど教皇にはもう話しかけたくなかったので、まさに棚から牡丹餅といったところだ。今話しかけたくない人物TOP2が話し合っているので、声に出して話に入るようなことはしないが。ついでに、光月の好感度が上がることもないが。ともかく、そう一筋縄ではいかないようで、教皇の返事と言えばこうだった。
「ああ、はは、いえいえ。そう言うことではないのですよ。紛らわしかったですな。今代と言っても、勇者様をお呼びして何回目かと言うことではなくて、我らが神から職業を授かった方のことにございます。」
「そういった方々がいつの時代も常に一人はいらっしゃって、初めて鑑定するときにはああして彼女のように天から光が降り、そのとき天職を授かるのです。」
(……ダウト。)
鉞伐は心の中でそういう。と言っても、確証があるわけではないので口には出さないし、本当であることも視野に入れている。しかしそれでも、どうしても今の返答をうのみにすることはできなかった。光月はと言えば。
「ああ、なるほど。そうでしたか。紛らわしいだなんてとんでも。僕の理解不足だったようです。」
人を疑うという機能が欠けていると思うしかないくらいに信じ込み、うんうんと馬鹿みたいに頷いている(鉞伐談)。そんな話をしているうちにも、最初の二人ほどとはいかないものの、次々に光柱が立って行った。どうやら光の色は文字通り十人十色で様々な色なようだったが、もうクラスメイトはなれたようで、荘厳な風景に見とれはするが、驚くことなく眺めている。教皇はもう説明をする気配がなかったので、鉞伐もその風景に目を移していた。確かにきれいだ。見ているうちにも水晶からどんどん光柱が立っていく。
(いや、俺は?)
……鉞伐の前にある水晶1つを除いて。
(いや、マジで。俺は?)
ついには、その光がすべて消えていった後も、鉞伐の水晶から光が出ることはない。さすがの鉞伐も、水晶を触っていなかったり、途中で手を離したりはしない。むしろ、そちらの行動の方が非合理的だ。周りのクラスメイト達は水晶の中に入っていた銀色のカードを見せ合いながら話をしているというのに、鉞伐だけは最初の姿勢のまま待ち続ける羽目になっている。あんまりである。
「どうしましたか?そちらの方。水晶が反応しないのでしょうか?」
そうして待っていると、教皇に話しかけられてしまった。さすがに無視すると言う訳にもいかないので、鉞伐は返事をする。
「まあ、そうだと思うんだが……、これはこの水晶が不良品なのか、俺が不良品なのかどっちだろう。」
「やはりそうでしたか。稀に……ですが。まったく反応しない水晶もございます。どれ、こちらで取り換えてみましょう。」
教皇は鉞伐の答えを聞いて納得したように言うと、近くに控えていた武装した従者と思しき人物に目線で指示を出した。指示を受けた教皇の従者は、鉞伐の前の水晶を失礼します、と言って持ち上げ、部屋から出ていった。
「それでは、新しい水晶が届くまでにしばらくありますので、待っておる間に皆様の職業を教えていただけますかな?こちらでもどのような能力を使える方々がいらっしゃるのかある程度把握しておきたいのです。」
「といっても、スキル、とついている項目がありますでしょう。そこについては教えていただかなくても大丈夫でございます。加えて、ステータスの数値についても結構です。」
「これらは、各々がどういった戦い方をするのかという点が分かりやすい部分です。情報というものは誠に大切でございまして、いつその情報が敵方に抜けてしまうか分かったものではありません。ですから皆様も、やすやすと誰かに明かすことのないよう、お気を付けくだされ。」
従者の退出を一瞥すると、教皇はそう言った。
(うんうん。そうだよなー。でも俺、もうちょっと早めに伝えてあげるべきだったと思うんだよなー。)
その言葉に、鉞伐は脳内つっこみを入れる。まだ理解していないクラスメイトもいるようだが、既に敏い何人かはやらかした、という表情をしていた。それもそのはず、少し前を振り返ってみよう。
『周りのクラスメイト達は水晶の中に入っていた銀色のカードを見せ合いながら話をしているというのに、鉞伐だけは最初の姿勢のまま待ち続ける羽目になっている。』
……。そう。既に見せ合っているのだ。なかなかに手遅れである。とはいえ教皇は、初対面で、しかもかなり偉い人物なので、誰も彼に指摘できなかった。鉞伐は指摘する気も起きなかった。
(……さてはこのジジイ、わざとやったな?勇者同士がお互いに抑止力になるように。)
彼らにとって、勇者とは都合のいい戦力───それも超一級の───であると同時に、爆弾のようなものだ。そんな勇者が爆発、つまり暴走して反逆されないようにお互いに監視し合ってもらう。そのために、能力を明かし合うよう忠告を遅らせたのだ。
と、鉞伐は考える。そしてその予想は正しいだろうというどこか確信めいたものがあった。ついでに言えば、遂に鉞伐は教皇をジジイ呼ばわりし始めた。
そんな少し悪くなった空気を打ち払うように、教皇は言葉を重ねる。
「では、そちらの方から。儂の方へ来ていただいて、この紙に記入していただきたい。名前も同様にお願いします。」
そう言って手で示したのは、光月だった。つまり、教皇に最も近い者で鉞伐ではない方である。こうして、職業大報告会が始まったのだった。(単語にしてみるとネッ友どうしのオフ会が想像されるが。)
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そうしてしばらくが経ち、鉞伐以外の全員の報告が終わった。
「勇者を職業とされる方はやはり貴方でしたか。光月様。」
「はは、どうやらそうみたいです。」
自分の職業はどうやら価値があるようだと言うことを教皇から聞き、光月はまんざらでもなさそうにしながら謙遜とは言えない謙遜をする。
「神託によると、勇者の職業というのは最も退魔において力をもつ職業だと言います。どうか、その力で我々を救ってくだされ……!」
と教皇が哀願するように言う。
「もちろんです。この僕が必ずやあなた方を救って見せます。」
光月はそんな言葉につられたのか、やや演技がかった答え方をした。
それからも、教皇の独り言という形で何人かの職業名が出されていった。先ほどの《神授職業》とやらは想造ノ王というらしい。何かの神話で出てきた名前だと鉞伐は思ったがそれ以上は知らず、ほかにもその意味が分かる人はいなかった。ただ、どうやら当て字になっているらしいと言うこととその名前からなんか強そうだなあという話題が出た。その割には職業をもつ本人と話をする人はいないことが鉞伐の中で印象に残った。
そんなこんなでしばらくたって全員───本人含め───がほとんど忘れていた“替えの水晶”が届いた。
「彼の前に。」
教皇が短く言うと、最初に水晶が載っていた台座へ同じように替えの水晶を置いた。当然、もう話のネタも尽きてきたクラスメイト達は『ほかにやることもないしな』といった雰囲気で鉞伐の水晶に視線を向ける。
「大変お待たせしました。では、同じように手を置いてくだされ。」
と言われ、心の中では全員が見守る中で“鑑定”なんて嫌だろと思っていた鉞伐も、ここで時間を浪費するわけにもと思い手を水晶に(渋々)乗せた。
それから、それでも二十秒ほど経っていたが、淡い灰色を放ちながら水晶が手の触れていた場所からゆっくりとなくなっていく。拍子抜けだった。鉞伐にとっても、クラスメイト達にとっても。そりゃあそうだろう、全員が触り始めて十秒以内にあれだけの光を出していたのだから。故に、だれも何の反応できないでいた。否、反応を見せた人物は一人いた。反応と言えるかは微妙だったが。それは、ある意味無慈悲な、説明だった。
「……鑑定に使われるこれらの水晶は、その才能によって光り方を変えます。特に、その、光の強さ、が、その者の才能の大きさを示します。強い光ほど、大いなる才能があると、言われているのです……。」
「心配することはないさ。誰にだって向き不向きはあるだろう?きっと功刀にも役に立つ力があるさ、きっと。」
教皇の説明が終わって、間髪入れずに光月は微妙なフォローをいれた。本人は気づいていないようだが、安心したような、どこか得意げな、そんな顔をしていた。
(向き不向きとか……そういう問題じゃなくないか?)
さすがの鉞伐も落ち込むときはある。『あなたの才能は全くありません』と言われたようなもので、期待があっただけあってその落差に落ち込みもしよう。俄然テンションも下がるわけで、もうそうにでもなれ、という様相でため息をついた。それを見かねてなのか、教皇が声色を改めて鉞伐に問いかけた。
「これは、きっと神が貴方に与えたもうた試練です。決まってしまったことはどうしようもありません。改めて、お名前と職業を教えていただけますかな?」
それを聞いて、鉞伐は『それで慰めのつもりか』と思いながらも無言で教皇に差し出された紙へ名前とステータスプレートにいつの間にか彫られた職業を書き入れた。
『Κυνυγι Κουκι Φαιζιν』と。書いてから気づいた。知らない言語を話し、書いていることに。確かに、ここは異世界だと信じるなら、言語が同じはずはない。それを違和感なく遣う自分に困惑しながら、知らない言葉で書かれたクラスメイト表を教皇に返した。
鉞伐は何かこの現象にヒントがないかとステータスプレートを眺める。すると、プレート自体はクレジットカード程度のサイズしかなく、名前や先ほど言われた冒険者としてのランクが書かれているのみなのだが、不思議なことにホログラムのように空中に自分の能力が映し出された。ここはどうやら日本語表記のようだ。
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『功刀 鉞伐』
種族:地球人(人間)
Lv .1
職業:【廃人】
体力:4
筋力:4
魔力:4
攻撃:4
防御:4
精神:亜繪∥f不。意℃hl籟㎤臓
《パッシブスキル》
〖無感動〗
〖神の叡智〗+前世の記憶
〖無限成長〗
〖言語理解〗
《アクティブスキル》
〖常態〗
《ネームドスキル》
〖学徒〗
《ユニークスキル》
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何もせずに起動したことと、周りにそんな光景はなかったことから近くで見ている人にしか見えないのだろうと推測を立てる。そんな映し出された情報を読み、真ん中のあたりにある〖言語理解〗が悪さしてるのか、と考えているときだった。さっきからうんうん唸っていた教皇が、こんなことを言い出した。
「うむ……。このような職業、聞いたことがない。【廃人】とは……。」
その声は、惰性で経緯を見守って黙っていたその場によく響いた。とたん、笑いがあふれる。廃人って、つまりニートだろ?それが職業とかいいのかw、とか、待って、はいじんははいじんでも『俳人』、俳句作る方かもよ、とか、そんな言葉が飛び交う。そのほとんどに悪意はないだろう。ステータスプレートに書かれたたったの数文字がこれからの運命を決定するなんて、実感が湧くわけないのだから。しかしその実態は嘲笑と変わりなかった。ただ、別に鉞伐は悔しいとか悲しいとかなんとかとは思わなかったが。教皇は特にそれを咎めることなく、笑いがおさまり声が通るようになるまで待ってから言った。
「それではこのステータスプレートは皆様の身分を保証するものです。決して紛失することはございませんよう。それでは、急にお喚びしてしまい、こんな老いぼれの話を長々と聞かれてお疲れでしょう。皆様に使っていただく部屋へご案内いたします。もちろん一人一部屋でございます。さあ、こちらへ。」
そう言いながら立ち上がると兵士が立っている大きな扉の方へ移動した。
「よし、みんな、教皇様についていこう。」
そんな言動を受けて、光月がクラスメイトを先導する。誰も文句なく、二人の後ろをついていった。
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そうして、しばらく───道中の窓から見えた景色的に───城と思しきこの建物を移動して、エントランスのような場所に着いた時だった。神官風の服をまとった人物が、教皇に話しかけた。
「教皇様。勇者様方は36名いらっしゃるとのことでしたが、現在使用できる部屋が35部屋しかなく……。」
「何。……うむ。そうか、分かった。下がってよい。」
「失礼いたします。」
どうやら、部屋が足りないようだった。鉞伐は、能力的に自分が倉庫のような部屋になるか、光月か《神授職業》を持つ彼女がワンランク上の部屋を宛がわれるかのどちらかかな、と考える。そして教皇がまたもうんうん唸って考えている様子を眺めていと、ふと思いついたように顔を上げてこちらを振り向いて、言った。
「そうじゃな……。では、……功刀様といったか、貴方様に儂の部屋を使っていただくことにしましょう。」
驚きだった。いや、人選と起こったこと、そのそれぞれは予想できたが、その組み合わせが驚きだった。誰もがその真意をうかがえないでいると、その答えを教皇が言った。
「丁度、儂の部屋へお呼びして話をしようと思っていたので、そのほうが都合がよろしいかと。皆様に使っていただく部屋も儂の部屋と遜色ないものを用意しておりますので、ご心配なさるな。」
鉞伐にとっては寝耳に水だった。確かに倉庫のような部屋で一人過ごすよりはいいが、教皇が自分一人にだけ何かを伝えるという方は嫌だった。寝耳に水なのはほかの面々にとってもで、光月あたりは一瞬眉をひそめていた。その後、なんだか納得したような表情をしていたが。教皇はそんなことに気づかないようで、さきほどの人と同じような神官姿の人を呼び、最後にこうまとめた。
「それでは皆様、この者の案内に従ってくだされ。儂とはここで一旦お別れでございます。儂がおる場所はその者に聞いてくだされ。皆様いらっしゃる中では伝えにくいことがあればそこにいらしてください。それでは勇者様方、ゆっくりお休みください。功刀様、こちらへ。」
こうして鉞伐は、教皇に一人でついていくこととなった。と言っても、さっきからいたうちの数人の衛兵はついてきたのだが。
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そうしてクラスメイトと別れ、嫌々ながらも教皇の後をついていくこと五分ほど。かなり奥まった場所に教皇の部屋はあった。クラスメイトと合流するときは離れた場所に行けばいいということを移動中に聞いたが、そこまで行くには屋外───と言っても渡り廊下だが───すら経由して五分もかかるというのだから不便ここに極まれりである。然しながらその内装は圧巻の一言だった。まぶしいほどではないものの装飾には贅が尽くされ、それでいて“宗教のトップの居室”らしく質素さすら感じられるというのだから、設計者や施工者の技術に脱帽である。そんな場所で鉞伐は教皇に改めて問うた。
「それで話というのは?」
「ええ。それは貴方様の職業についてです。落ち込んでいらっしゃるようにお見受けいたしましたので、心配なさることはないとお伝えしたかったのです。それと、これからのことを少し。」
そんなことを答えた教皇だったが、鉞伐としては肩透かし……とも少し違うが、そんなことか、と拍子抜けしたような気持ちになった。
「気遣いには感謝すべきだが、心配されるようなことはないさ。確かにがっかりはしたけど……別に、絶望したとかじゃない。もともと戦うってはガラじゃなくてな……。ちょうどいいかもしれない。」
「……そう、でしたか。強いのですね。しかしもし、何か心苦しいことがございましたらすぐに、この私にご相談ください。できることは少ないかもしれませんが、できるだけのことはさせていただきます。」
「それで、これからのことでしたね。戦わないことを選ばれたのでしたら、この城で待機していていただきます。ですが、何もされないとなると反感を抱く者もおるやもしれません。ですから、後方支援を手伝っていただくと言うことを考えておりますが、どうでしょうか?」
鉞伐の言葉を聞いて、教皇はそんな言葉を返してきた。鉞伐としても、すべて本当のことを言ったわけではないのだが、教皇の提案には賛成だ。
「そうだよな。何もせずに過ごすってのもうれしくないし、そうするよ。」
そう鉞伐が答えると、ありがとうございます。では、ゆっくりお休みください。と言って教皇は退出しようとした。その背中を呼び止めて、聞く。
「本当に、よかったのか?この部屋を見ても、教皇の職が決して軽くないことは分かる。そんな教皇の部屋をどこの馬の骨とも知れぬやつに貸して、それこそ怒るやつがいるんじゃないか?」
「はは。いいのです。このことを知る者は限られておりますし、それに。」
そう言って、教皇は振り向く。
「初めから、この世界のために戦うことをはじめからあきらめていた儂よりも、そんな儂を、儂らを手伝ってくださる勇者様がお使いになられた方がよいでしょう。後方支援の内容についてはまだ決まり切っていませんので、後日お知らせいたします。それでは。」
また、踵を返して、教皇は今度こそ部屋を出ていった。
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「まあ、すぐに空くがの。」
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教皇が部屋を出てからは、メイドがやってきて明日の朝の予定を伝えられただけで特に何もなかった。メイドの存在にちょっと驚きはしたが。それにしても、中世的な世界観でありながら機械時計があるのはうれしい誤算だった。中世とは言っても、後半の方であったらしい。適当に時間をつぶして、一度クラスメイトと合流して風呂に入り(混浴でなくて安心した)、睡眠をとった。
昨日風呂に行ったとき、クラスメイトの部屋の前の広間までどれくらいの時間がかかるか確認してあるので、慣れない場所だからと言って早めに部屋を出ることはない。ただ、そろそろ時間も近づいてきたので出発することにした。
渡り廊下まで行くと、向こう側に人影が見えた。
(まあ、おおかた光月だろ。間に合わないことないっての。俺もそうだがあいつも相変わらずだな。)
そんなことを考えながら、いったん立ち止まったものの渡り廊下を歩いていくと、人影に動きがあった。こちらに走ってきている。
(……なんで走って……、光月じゃ、ないな。)
光月ではなかった。そんなことを考えているうちにすぐそこまで接近され、
渡り廊下から突き落とされた。
「うぉッッ!?」
声にならない声をあげる。相手が小さく息を呑む音がやけに鮮明に聞こえる。終わりだ、と思った。だって、この下は。
(底も見えない……崖!!)
そしてやっと、自分を突き落とした奴を見る。
(光月じゃなくて、不良くん……いや、)
「市井田……衛介……。」
こんなことになって初めて、鉞伐は彼の名前を思い出した。そして、呪った。いつまで経っても見えない谷底へ落ちながら、無駄に加速する思考で。
(ここで、俺も死ぬのか。)
(許してなるものか。ああ、許すものか。)
(お前らも、理不尽に死ね。)
(何か気に入らねぇか、市井田。)
(クソみてぇな場所に喚びやがって、エセ女神が。)
(手前の差し金だろ、教皇。)
(何奴も此奴も、意味もなく俺から奪ってく。)
(そこに意義なんてねぇのに、手前で満足するためだけに。)
そして、その原因を作った、
(邪神……。)
(全員、理不尽に、訳も分からず、死ね。)
一応、今回のことを踏まえると多くとも週一更新になりそうです……。売れっ子web作家のごとき更新頻度でもうしわけないです。
いいいい イキってすみません……!
評価感想、良ければよろしくお願いします。特に感想、誤字脱字報告含め、これからの執筆に活かしたいので、よろしくお願いします。
アンチコメ、酷評大歓迎。




