第弐話 偶然の容疑者共
投稿しました、次話。本日中に投稿出来ました。まだ体調はフルじゃないので、前書きもそこそこにしておきます。それでは本編の方、どうぞ。
鉞伐のクラスは、パニックに陥り、騒然としていた。と、いってもそれは仕方ない事だったが。
転入生が来て、立てこもり犯が襲ってきて、そして今度は目の前が真っ白になったのだ。それはパニックにもなろうというものだった。未だに謎の光のせいで視界は回復しない。
そして鉞伐たちは、と言ってもすぐに落ち着けた数人だけだが、一瞬だけ浮遊感を感じたことを思い出す。そう、まるでエレベーターで階を移動したような。
(つまり、俺たちは、どこかへ移動した?上下移動だよな。つまり地下か?しかしどうやって。本当に移動したか?)
鉞伐はパニックになるのもそこそこに一人考察を始める。切り替えの早さが彼の長所のひとつでもあった。
しかし、いくら考えても答えはでない。鉞伐は仕方なく、視界が治るのを待つことにした。
そして、視力が回復する。
(な!?!?!?!?!?!?)
そこは、地下でも、上階でも、学校でも、最早地球でもない。そう理解させられるような場所だった。それもそのはず、そこは、ともすれば古代遺跡のような場所だった。ひとつ違うのは、現役で使われている、ということだが。そして鉞伐たちの周りには神官風の老若様々な人達がいた。もっぱら男ばかりで、女はかなり少数だったが。
(何が……何が起こった……?)
鉞伐や、クラスメイトはみな一様に困惑する。学校から、どこかも分からない場所へ急に移動したという状況を飲み込むことができないのだ。
そんな時、頭に声が響いてきた。
『みなさん、落ち着いてください。私は、あなた達をここへ呼んだ女神です。』
響いてくるような声だった。いや、実際頭に響いているのだが。
そして、何やら神々しい光が迸ったかと思うと、これまた神々しい女性がどこからともなく現れた。
(浮いてる?)
そう、女神と名乗った女は空中に浮いていた。なおも光を放ち続けながら。しかし、クラスメイトたちは、何かのトリックかと思っているようでそこまで驚いていない。どころか少しずつ落ち着き、怒ったような表情を見せるものすらでてきた。
「これはどうなっているのですか!?」
光月が言う。さすが、先陣切ったな、と鉞伐は思った。光月は、息を整えてから次の言葉を発した。
「これは……ドッキリか何かなのでしょうか?」
「どこなんだよここ!誘拐だ!そうだ、これは誘拐だぞ!」
「誘拐!?ねぇ、私たち帰れるの!?」
「誰かっ!」
クラスメイト達は口々に不安を吐き出していく。冷静に考えればありえないような事も、話の俎上に上がるほどだ。
『それについても、いまからご説明したいと思います。』
演技がかった声で女神らしき人物は言った。
(口が動いていない。“本物”か?いや、別の人間の声だという可能性もあるか。)
鉞伐は今の一連の流れで、この状況は本物なのではないか、という正解に近づいていた。ただ、自分の推理にも信用が置けないようであったが。
『まず始めに、これは貴方が言うような“ドッキリ”ではありません。』
『その証拠に、
女が言う(?)と、今度はボソボソとなにかを呟く。それが終わったと思うと、全員の体が浮き上がった。
(………………俺らは意識を失ってない。だからこそ、あの一瞬の間、体に細工されたことは考えられない。もっとも、そんなものは見あたらないしな。つまりは、これは本物だ、ということになるのか?)
鉞伐は、もう超常現象が起こりすぎて逆に冷静だったが、周りはそうはいかない。またもや、パニックに陥っていた。
「っなんだよ!これっ!」
「降ろしてください!」
「きゃ――――――――!!!」
「なんなのよ!これ!!」
否、鉞伐以外に1人だけ、例外がいた。転入生――――八乙女 麗だけが、不思議そうな、しかしどこか楽しそうな表情をしていた。
『いきなり、手荒なことをして申し訳ありません。しかし、これでここがあなた方にとって異世界であることはわかったと思います。』
やけに通る声で女神は言った。全員がはっとする。だんだん状況を飲み込み、理解していくと、今度は不安が大きくなってきた。だんだんと皆がざわざわと不安そうに会話を始める。
「なら、僕達は……帰れるのですか……?」
「マジで誘拐じゃねぇかよ!今すぐ帰せ!」
「そうよ!」
光月や不良生徒、クラスカースト上位――――と言ってもそこまで優劣がある訳でもないが――――の女子たちが言うと、
パンッ!
女神は、手を叩いた。急な大きい音に、クラスメイトたちは驚き、話を止める。普段優しい人が怒ると怖いとはよく言うが、それは普段とのギャップが大きいからだろう。今まで下手に出ていた女神が急に大きい音を出したとあれば、その驚き具合も理解できる。そして、
『それでは、ご説明したいと思います。』
と女神は言った。
(心做しかイライラし始めている気がする。最初の手馴れた対応は何だったんだ、初めてじゃないんじゃねえのか。)
と、だんだんと長引く会話に鉞伐も、状況を忘れてイライラし始める。変なところで気の合う女神と鉞伐だった。一拍置くと、女神はまた話し始める。
『まずは、あなた方をこの地に召喚した理由から話させて頂きます。』
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「っざけんなよ!そんな事して俺らになんの得があんだよ!チッ!『このままでは滅びてしまいます〜』なんてお前らの都合だろ!早く帰せよ!そんで勝手に死んでろ!」
「そうよ!死んでろってのは言い過ぎかもだけど、私たちは関係ないじゃない!」
「早く帰しなさいよ!」
内容は、鉞伐たちにこの世界を侵略してくる魔王から救って欲しいというものだった。最初に言葉を返したのは不良生徒の方で、それに女子たちも追随する。いつもこういう時に最初に発言する光月は、なにやら考え込んで動かない。
(お前が喋らないせいで収集がつかないじゃねえか。俺に講釈垂れてる時の剣幕はどこいった。)
いざと言う時に頼りにならない光月に、鉞伐は少し苛立つ。面倒事になるだけなので口に出したりはしないが。
『確かにそうです。しかし、私たちにはもうどうしようもないのです。』
「だからってよぉ『あなたたちには才能があります。』
不良生徒が畳み掛けようとしたところで、女神が遮った。
『他の誰でもなく、あなたたちにしか出来ないのです。』
と、そう続ける。
『私たちにも、この世界に生きる人々にも、あなたの世界に生きるその他の人々にも、できないことなのです。』
こんどは女神が畳み掛ける。
『無理を言っているのは承知ですが、どうしても、あなたたちの力が必要なのです。だから、あなたたちを召喚したのです。』
悲壮感、或いは哀愁を漂わせながら、女神はそう締めくくった。鉞伐には、どうもそれが、演技か、オーバーな表現か、そんなものにしか見えなかったが。
「…………そこまで言うんだったら、やってやらなくもねーなー。」
口ぶりの端々から、喜色をのぞかせながら、そう言った。誰だって、“あなたは他の人とは違う”、“あなたには才能がある”などと言われて喜ばないものはいない。数人の例外を除いて。
(ほんとかね………………。)
そして、女子たちもだんだん絆されてくる。
「そっ、そうよね。私たちだって鬼かなんかじゃないしぃ?」
「手伝った方がいいっしょ、やっぱ。」
『ありがとうございます……!それでは、あなた方の才能を鑑定しに行きましょう!』
女神は、さっきの悲しみが嘘のようにクラスメイトたちを先導――――或いは扇動かもしれないが――――し始めた。ただ鉞伐は、人類の窮地を救う決断を命をなげうつような真似をしてまでしてくれたことに対する感謝が、いささか形式的過ぎるのでは、なんてことを考えていたが。
ふと思い出して、八乙女の方をちらりと見てみると、ひたすらにこにこするだけで、特に何かおかしい所があるわけでもなかった。
「チッ。」
誰かの舌打ちを聞いて鉞伐が顔を上げると、もう既にクラスメイトたちは、どこにあったのか、開かれた扉の方に歩いていったのに気づいた。鉞伐は、少し嫌そうな表情をしながら、後を追うのだった。
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扉をぬけ、薄暗い部屋から出て明るさに目が慣れてくると、そこは高級そうな装飾で飾り付けられた豪華な、城の一室のような部屋だった。
(いや、実際に城の一室なんだろう。)
なんとなく鉞伐は、そう予想していた。
「勇者様方、こちらの席にご着席くだされ。」
そう、声のした方を向くと、そこには白を基調とした、至る所に金が散りばめられている豪華な法衣のようなものを着た好々爺然とした老人が座っていた。
「儂はこの国で正聖神教会教皇をさせて頂いておる、ノウァティアヌス・フェルランゲンじゃ。今からは儂が畏れ多くも女神様に代わって責任をもって説明させていただきます。」
それを受けて生徒たちは、部屋の真ん中に鎮座している円卓に着きはじめる。手前から。
(いや奥から詰めて座れや!)
鉞伐は最後尾であったため、1番長い距離を移動することになり、教皇と名乗ったノウァティアヌスという老人の隣に座る羽目になった。普通、奥から順に詰めて座る所だろうと思うものの、これだけの非常事態でそんなことを求めるのも無理があると無理やり納得することにした。
「女神様は……どうされるのですか?」
そんなことお構い無しに、いつ復活したのか、光月が言う。しかし、その内容は尤もなものだった。
『私が下界に降臨していられる時間には限界があるのです。』
(その割には涼しい顔してるけどな。)
『こう見えても、お招きした皆様に情けない姿を見せてはいけない、と取り繕っているのです。』
(………………。)
鉞伐は一瞬、思考が読まれているのかと思った、が、どうやらそうではないようだ。
『そのような質問をされることは考えておりました。どうか、お見苦しいところをお見せする前にお暇させて頂きたく思います。』
「そうでしたか。それはすみません。ここまでありがとうございました。どうぞ、私たちには気にせずお帰りください。」
(どうだか。)
光月はそう答えたが、鉞伐にはそれが俄には信じられないようだった。
『ありがとうございます…………!ああ……なんとお優しい……!』
『それでは勇者様方、我々の世界をどうか、どうかお願いします……!ご武運を…………!』
そう勇者たちに告げると、女神は、降臨した時と同じような極光と共に消えた。
女神が去ると、さっきまで考え込んでいた光月がクラスメイトに向かって語りかけ始めた。どうやら、なにかを決心したようだった。
「……みんな、僕はこの世界の人たちを助けたい。」
「……でもよ……俺ら日本で育って、戦ったことなんてないんだぜ?やっぱりこれ、誘拐なんじゃねえのか?」
「そんなことしたやつらのために命かけるって……やっぱおかしくねぇか?」
さっきは“助けてやるぜ!”的なノリだった不良くんだったが、どうやら冷静になってみるとやっぱり理不尽だと思い始めたらしく、反対しだした。召喚した側であるノウァティアヌスは何も言わず、ただ微笑を崩さずに見守るだけだった。
「確かに、そうかもしれない。でも、きっと理由があるはずなんだ。それに、あの親切な女神様が理由もなしにそんなことするはずがないじゃないか!」
(おいおい、あれのどこが親切だって?もとから激しいっても思い込みにも限度があんだろうがよ?)
「そう……かもしれねえ……。」
(おいおいおい。おいおいおいおい。言葉も出ねえぜおい。)
なぜだか全く分からないが、全員が女神を信用しだし、世界を救おう的な雰囲気が出始めてきた。
(そんな雰囲気で俺が1人反対してもだなァ。白い目で見られてはいお終い、だ。なんなら光月のお説教タァ〜イムに突入する。勘弁してくれってんだ。)
いい加減嫌になり始めたのか鉞伐はやさぐれ始め、頭ん中お花畑(?)になりつつあった。
「勿論、この世界を救う決意をすることは難しい。決心がつかない人は、ここに残ってくれて構わない。」
「ノウァティアヌスさん、ここは安全な場所なんですね?」
「然り。例え世界が滅ぼうとも、ここは最後まで残り続ける所存でございます。勇者様のご同胞方は、安心して拠点にお使いくだされ。」
「世界が滅ぶなんて……そんなこと僕がさせません……!でも、ありがとうございます。それなら、とても心強いばかりです!」
(相も変わらず自分本位な事だな。そこは“僕達”って言っとくとこだろうが。まあ、俺は参加する気もないが。)
「おお……!さすが勇者様。我々こそ、心強いばかりじゃ……!どうぞ、よろしく頼みます。」
「いえいえ……。それじゃ一応今、ここに残る人を聞いとこうかな。」
と、光月が決を採ろうとし始めた時、
「さすが勇者様方。早くも意見を纏められた……!しかしながら、ここに残る方を決めるのは待っていただけないでしょうかな?」
「どうかしましたか?」
「後方支援組の方を決める前に、皆様のステータスを鑑定した方がよろしいかと。その方が、選定する基準になって良いのでは無いですかな。」
「確かにそうですね。ありがとうございます。では、よろしくお願いします。」
「では。おい、あれをお出しせんか。」
こうして、光月は誰の話もまともに聞かずに話を進め、鉞伐たちは自身の能力を鑑定をすることとなったのだった。
うわッッ、テンプレだッッ!今日はこんなもんにしといてやるか……(強がり)。ということで、本日の投稿はここまでです。次の投稿は週末くらいになるかな……と思いますが、またそのときに会いましょう。いや会えるかな……。会えるといいな……。
評価感想、良ければよろしくお願いします。特に感想、誤字脱字報告含め、これからの執筆に活かしたいので、よろしくお願いします。
アンチコメ、酷評大歓迎。