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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第八話 レオスとダンジョン(後編)9

 ギルドへ到着すると、たむろしていた冒険者たちの視線が突き刺さる。

 俺たちの顔色を伺って、ダンジョン攻略が成功したのか失敗したのかを探っているのだろう。

 俺は仲間を引き連れて受付まで進むと、居住まいを正して待ち受けていたバーバラへ声を掛けた。


「バーバラ、報告をしたい」

「は、はい!」


 ダンジョン攻略者の権利はギルに譲る手筈になっているので、ギルが素早く前に出てバーバラへと報告を始めた。


「今回、Cランク冒険者であるキャサリン・アイアランドが発見した東の森のダンジョンだが――」


 ギルは真剣な表情を少しだけ崩して、笑顔を見せる。


「――俺を中心としたこのメンバーで、完全攻略した」


 完全攻略。その一言で、ギルド内で歓声が上がる。

 冒険者の夢であるダンジョン攻略が、また一つ成し遂げられた。中央南だけでなく、全ギルドを賑わせるニュースとなるだろう。


「お、おめでとうございます! えっと、さっそく詳細をお伺いしても良いですか?」

「もちろんだ。みんな、回収した素材を提出してくれ」


 ギルドの素材提出用のテーブルへ素材を乗せていくと、話を聞きつけたギルド職員たちが集まってきて大急ぎで回収と鑑定が開始される。

 もはやギルド内にいた冒険者たちは遠慮という言葉を忘れて俺たちが提出する魔物の素材の数々に釘付けになっている。

 Sランクであるダンジョンマスターの素材は上級ギルド職員と各方面の学者たちによって鑑定されるらしく、かなり厳重に運ばれて行った。


「えっと、ランバートさん。ギルバートさんのパーティが攻略隊に参加された際のメンバーは全員ここにいるようですが、それ以前にダンジョンに挑まれた方々は……その……未帰還ということで、いいのでしょうか?」


 バーバラは慎重に言葉を選びながら俺に尋ねてきた。

 回りくどい言い方になっているが、つまりは他の冒険者は死んだのかと聞かれているわけだ。


「ああ、そうだ。遺体が残らなかった者や、残っていても回収等が不可能だった者もいたが、数名分は遺品を回収できている。親族がいる場合は渡してやってくれ」


 グレンダがバーバラではない別の職員に冒険者の遺品を渡すと、それが誰のものなのか説明を始めた。この辺の処理は俺よりも中央での活動経験が長い彼女の方が適任だろう。


「ねえ、レオスさん。手に入れた遺物については報告しなくて良いの?」


 俺の隣にいたジョゼが軽く疑問を口にしたのだが、その一言で周囲にいた冒険者たちからの視線が一斉にこちらへと向いた。


「ジョゼ、遺物に関しては報告の義務はない。誰に聞かれても、絶対に答えるなよ?」

「う、うん。分かった」


 事前に教えておけば良かった。

 誰が遺物を手に入れたのか、そもそも何個の遺物が手に入ったかなどは報告する必要は一切ない。

 今の時代はどうなのか知らないが、俺が若い頃は遺物が盗まれそうになる事件が何度もあったからだ。

 それこそ、存在や能力が広く知られている遺物など、ギルが持っている『炎蛇剣』くらいだろう。


「ルーク、戻ったか!」


 ダンジョン攻略達成で賑わっていたギルドへ話を聞いて駆け付けたらしいルークの父親、レックスさんが入ってくる。表の入り口から来たという事は休みだったのかもしれない。


「父さん!」

「ルーク!」


 レックスさんはルークの身体を確認して、大きな怪我が無いことが分かると大きく息を吐いて安堵した。

 いつも冷静なレックスさんでも息子がダンジョンから帰って来たとなれば、こうも豹変するのか。


「……レオス、息子は足を引っ張らなかったか?」

「もちろんです。それどころか、何度か命を助けられましたよ」

「そ、そうか……それは……うむ。ルーク、よくやったな」

「あ、ありがとうございます!」


 尊敬する父親に褒められて、ルークはダンジョン攻略を成し遂げた時と同じくらいの笑顔で喜んだ。


「レックスさん、今日はお休みですか?」

「ん? いや、丁度休憩時間でな。外の店で遅い昼食を取っていた。お前たちが戻って来たと聞いて慌てて戻って来たというわけだ」

「そうでしたか、でしたら早速、ダンジョンの詳細を報告するのと並行して、全員の昇格審査をお願い出来ますか?」

「もちろんだ。だが、俺が出来るのはCランクへの昇格審査だけだ。ダンジョン攻略ともなれば、そこから先の審査も必要だろう。少し待っていろ、ギルド長と補佐官を呼んでくる」


 レックスさんはギルドの奥へと入ったかと思うと、すぐにギルド長であるジェフリーさんと、Bランクへの昇格審査権限を持っているギルド長補佐官を連れてきた。

 その後は俺とギルが中心となりつつ、ダンジョンの詳細と攻略時の全員の活躍を順番に報告していく。

 現役時代の血が騒ぐのか、ジェフリーさんたちは楽しそうに話を聞いてくれていたが、エイベルたちのパーティが全滅した事に関しては表情を曇らせていた。

 正直に言って精神的にはあまり優秀な冒険者とは思えなかったが、戦闘面ではかなり優秀だったのは間違いないらしく、ジェフリーさんと補佐官は若くしてAランクに登り詰めたエイベルにかなりの期待をしていたらしい。

 全てを話し終えると、ジェフリーさん、補佐官、レックスさんによる昇格者の発表が行われた。

 野次馬の冒険者たちも見守る中で、ジェフリーさんが前に出る。どうやらギルド長であるジェフリーさんが直々に伝えてくれるようだ。


「まず初めに、アルフ・バレット、ルーク・オルセン、ベラ・オークショット、シドニー・モーム。お前たち四人はCランクへ昇格だ。それぞれがこのダンジョン攻略で大きく成長しており、既にDランクにしておくには惜しい実力を持っていると判断した」


 四人はそれぞれ驚きつつも、礼を述べてCランク冒険者のギルドカードを受け取る。ルークたち3人は純粋に喜んでいたが、アルフは少しだけ複雑そうな表情をしていた。おそらくは亡くした仲間の事を考えているのだろう。


「次に、エマ・メイレレスとジョゼ・メイレレス。二人はBランクへ昇格となった」

「えっ!?」

「どうした、レオス?」

「どうしたじゃないですよ!? 二人をもうBランクにするんですか? 何歳だと思っているんです?」

「年齢は関係ない。二人にはBランクに相応しい実力がある。それはお前が一番よく分かっているのではないか?」

「そ、それは……」


 確かにエマとジョゼは俺が面倒を見ている若手たちの中でも飛び抜けて優秀だが、まさかBランクに昇格するとは思っていなかった。Bランク冒険者ということは、世間ではトップ冒険者の一人として認知されることになる。南大陸ギルドにまで名前が知られるほどの有名人だ。しかもそれが12歳の子供だと分かれば中央大陸ギルド全てを震撼させる一大ニュースになりかねない。


「ともかく、これは決定事項だ。二人とも、受け取りなさい」

「はい。ありがとうございます」

「わ~い! ありがとう!」


 エマとジョゼは嬉しそうにBランクと記されたギルドカードを受け取った。

 BランクになるとCランク以下のエリアでソロ活動が可能となるが、二人が勝手なことをしないようにセレスと協力して見張った方が良いだろう。いつの間にか二人で探索に出られた日には気が気ではなくなりそうだ。


「次に進むぞ? ニック・アシュベリー」

「――っ!? は、はい!」

「今回のダンジョン攻略ではあらゆる攻撃を引き受け、見事に仲間たちを守り切ったと聞いた。ダンジョンマスターとも渡り合ったその類まれなる防御力と判断力を評価し、Aランクへの昇格とする」

「あ、ありがとうございます!」


 ニックのAランクへの昇格が発表され、エマとジョゼの昇格でただでさえ騒がしかったギルド内が更に賑わう事になった。

 エマとジョゼの時は驚きの声が多かったが、ニックの昇格は喜びや祝いの声が大多数だった。それだけ彼が他の冒険者たちから評価されていたということだろう。


「やったな、ニック」

「うん。まさか僕まで昇格できるなんて思わなかったから、本当に嬉しいよ!」


 ニックはAランクのギルドカードを受け取って、涙を浮かべながら喜んでいた。彼にとっては念願のAランク昇格なのだろう。

 俺は一足飛びに昇格してしまったので、その喜びを真の意味で味わう事は出来ないが、20年前に俺の後ろを付いて来ていた彼がAランクに値する実力があると評価されている姿を見られたことは、本当に喜ばしく、まるで自分の事のように嬉しい。


「最後に、ギルバート・オルブライト。今回のダンジョン攻略において、中心となって活躍し、強力な魔物を数多く討伐したその実力はもはや疑うべくもない。そして、本来の攻略隊長であるSランク冒険者レオス・ランバートの推薦も考慮に入れた上で、お前をダンジョンの攻略者として認めることになった」


 ギルはジェフリーさんからSランクと記されたギルドカードを受け取ると、喜びを噛みしめるようにカードを見つめた後で、笑顔で父親であるジェフリーさんに向き直った。


「ありがとうございます!」

「よくやったな、ギル」

「――っ! はい!」


 こうして、中央南ギルドに5人目となる現役のSランク冒険者が誕生した。

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