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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第八話 レオスとダンジョン(後編)3

「なあ、ギル。俺はさっき……何をした?」


 俺自身全く分からなかった現象に対して尋ねると、ギルは申し訳なさそうに首を振った。


「すみません、俺もAランク魔物と戦うので精一杯だったので、兄さんの攻防を目で見ることは出来ていないんです」

「……まあ、そうだよな。ニックも見ていないか?」

「はい。とても大きな音は聞こえましたけど、見てはいないです。ただ、明らかにあの後からBランク魔物たちの動きが鈍りましたよね」

「ああ。俺に怯えているようだった」


 あの威力。どう考えても普通の命技ではなかった。炎の上級命技を超える威力の命技。そんなものは、一つしか存在しない。

 実感が湧かないが、どうやら俺はモミジの立つステージに一歩近付くことが出来たようだ。


「兄さん、さっき使ったのは命技と魂術、どちらですか?」

「……命技だ」

「なら、俺が知る限り答えは一つです。あの轟音にも、実は聞き覚えがあります」

「……やはりそうなのか? まさか使えるようになる日が来るとは思っていなかったが、こんな土壇場で習得するとはな」

「俺が新しい命技を覚えたのは、いつだって実戦でしたよ?」

「それは……俺もそうだ」


 土の命技を覚えたのは、ピンチの仲間を守ろうとした時。

 炎の命技を覚えたのは、仲間の仇を討とうとした時。

 そして、今回は何としても生き残るために、俺は信じられないほどに集中した一撃を放った。

 周囲がスローモーションに感じられるほどに集中しきった状態で放ったあの一撃は、スローなはずの世界で、まるで稲妻のように一瞬だった。


「さすがです、兄さん。まさかダンジョン内で最上級命技を習得するなんて」


 どうやら俺は、モミジと同じ最上級命技。雷の属性を習得したらしい。


「さ、最上級命技!? レオスさん、それってどんな命技なの?」


 階段の少し下にいたジョゼが目を輝かせて俺に尋ねる。

 そういえば、エマとジョゼには最上級命技について教えていなかったな。


「……最上級命技は、『属性強化』と呼ばれている。命技の4属性がそれぞれ別の属性へと強化されるんだ。俺の場合は炎の命技『フレイム』が雷の命技『ライトニング』へと強化されたようだな」

「炎が雷に……じゃあ、風は? 風は何になるの?」

「風の命技は――」


 ジョゼの質問に答えようとしたところで、俺は膝から折れるようにバランスを崩す。近くにいたニックとギルが素早く支えてくれたおかげで転倒こそしなかったが、立っていることが出来ず、階段に座り込んだ。


「レオスさん!?」

「兄さん、大丈夫ですか!?」

「わ、悪い。さっきの命技は命力の消費が大きかったようだ……」

「初めての最上級命技ですからね。必要以上に命力を使ってしまったんだと思います。ここはおそらく安全だと思いますから、しばらく休んでください」

「ああ、そうさせてもらう」


 最上級命技で命力を使い過ぎたのは事実だが、それ以上に俺の体力が思っていた以上に落ちているのだろう。

 同じようにAランク魔物と戦っていたギルとニックが既に息を整え終えて元気そうにしているのが証拠だ。

 階段の下の方で休んでいた仲間たちが心配そうに俺を見上げている。認めたくはないが、この中で最も消耗しているのは俺だろうな。

 冒険者のほとんどが30代で引退するのが良く分かる。10代や20代の後輩たちと同じペースで冒険するのがしんどくなり、長年の経験を活かして比較的安全かつそれなりの収入を維持出来る採掘者になるのだろう。

 ましてやここはダンジョンで、地上では滅多にお目にかかることは無いような強い魔物がひしめいているのだ。この歳でここまで無理をしている冒険者は俺くらいだろうな。


「ジョゼ、さっきの質問の続きだが、俺の知る限り風の命技の最上級属性は判明していない」

「そ、そうなんだ」

「だがそれは、俺が情報にも精通していた10代の頃の話であり、おそらく今は違う。そうだろう、ギル?」


 俺が視線を向けると、ギルは荷物を階段に降ろして座り込む。ニック達もそれに続き、全員が休息を取る態勢に入った。


「先に確認したいんですが、兄さんの若い頃は雷の命技以外に判明していた属性はあるんですか?」

「中央西ギルドのSランク冒険者が水の命技を強化して氷の命技を習得したという噂は聞いたことがある。噂話ではあったが、『ウォーター』が『アイス』になるのはかなり自然な流れだし、真実だと思っていたな」

「その方は俺が冒険者になった頃には引退されていましたが、最上級命技を習得していたのは事実だと思います。父が直接見せてもらったらしいですから」


 ギルの父親であるジェフリーさんは中央南ギルドで最初のSランク冒険者だ。同じSランク冒険者ということで、中央西ギルドのSランクと交流があったのだろう。


「そしてその後も、SやAランク冒険者の中で最上級に到達する者は現れています。俺たちの代では、SSS(トリプルエス)ランクのモミジがそうですね」

「あいつは雷を使っていたな」

「…………はい。確かに、『ライトニング』はモミジが好んで使う最上級命技です」

「ん?」


 俺はギルの返答に妙な間があったので見上げるように顔を確認すると、何か困ったように眉を寄せていた。


「兄さん、確認なんですが、モミジとはどういった関係ですか?」

「関係? いや、普通に先輩後輩として仲良くしている感じだぞ。たまに飲みにも行くから、友人とも言えるな」

「モミジの持っている『遺物』についてはどの程度知っていますか?」


 その質問で、俺はギルがモミジの『八命刀』の能力について詳細に知っているということが分かった。だからこそ、彼女の遺物の能力を言いふらす結果にならないように言葉を選んでいるのだろう。


「名前と、何度か使っている所を見て、ある程度は察している。俺の遺物とも似たタイプのようだしな」

「そ、そうですか」


 ここは上手く話を戻して、自然な流れでジョゼが知りたい情報だけをギルに喋らせる方向へ持っていこう。


「ギル、話が逸れているぞ? 俺やジョゼが聞いているのは最上級命技の属性だ」

「え? あっ、そ、そうでしたね」

「『ライトニング』と『アイス』は分かったが、後の二つはどうなんだ?」

「はい。どちらも既に発見されていて、土の命技『アース』が重力の命技『グラビトン』、風の命技『ウインド』が空気の命技『エア』に強化されるようです」

「『グラビトン』と『エア』……それは随分と使い方が難しそうな命技だな」


 重力と言うのは物が地面に落ちるエネルギーの事だったはずだ。それが命技になるということは、触れたものを地面に叩き落すような命技ということだろうか?

 そしてもう一つの、空気の命技。これは風の命技に近いが、風よりもイメージが難しい上に攻撃性が無い。正直に言うと想像が付かない命技だ。


「空気の命技……レオスさん、俺もいつか使えるようになるかな?」

「俺が雷の命技を使えるようになったんだ。ジョゼならもっと若い内に使えるようになるさ」

「うん。俺、頑張るよ!」


 何の根拠もない言葉だったが、ジョゼのやる気は上昇したようだ。

 実際、俺程度の命技使いが最上級命技を習得出来たのだ。ジョゼだけでなく、ギルやニックも最上級を習得出来てもおかしくないだろう。


「それと、兄さん。これはモミジから聞いた話なんですが、最上級命技はこれまでの命技と違って特別な力が属性ごとに備わっているらしいです」

「特別な力?」

「はい。俺もあいつから全てを教えてもらえたわけではないですが、あいつがよく使っている『ライトニング』は『貫通』の能力があるそうです」

「『貫通』? つまり、防御不能攻撃ということか?」

「おそらくは。モミジが言うには弱点属性以外には防がれないそうです」

「弱点属性? 炎の命技の弱点は水の命技だが、雷の命技の弱点というと……」


 俺はしばし考え込んだが、そもそも雷があまり身近な存在でないため、弱点など思い付かない。雷が落ちた海で魚が死んでいたという話を聞いたことがあるから、水や氷では雷は防げないだろう。

 すると、階段の下の方でエマが声を上げた。


「あの、雷の弱点は地面ではないでしょうか?」

「地面と言うと土の命技か? 確かに防御に優れた命技だが、それこそ特殊能力の『貫通』で貫かれるのではないか?」

「いいえ、お父様。土ではなく地面です。自然界の雷は空から地面に向かって落ちます。私が暮らしていた村の近くに雷が落ちた事があるのですが、木は燃えてしまいましたが地面は焦げ付く程度でした。雷には地面を貫く力は無いと思います」

「地面を貫く……そうか――」


 俺はエマの言葉をヒントとして、モミジの言う雷の弱点が何なのかが分かった。


「――雷の命技の弱点は、重力の命技だ。重力とは物が地面に落ちる力。雷の命技も重力の命技に触れれば地面に向かって落ちてしまうということか」

「はい。ですが、逆に言えば重力以外で雷の命技を防ぐ手段はないということです。そしてお父様、魔物は命技を使う事はありませんよね?」

「実質的に、雷の命技は魔物に防がれることはないということか」


 これはモミジに教わった奥義以上に強力な攻撃手段を得たようだ。今後、狙って出せるかはやってみなければ分からないが、もしも思い通りに扱えるようなら、ダンジョンマスターとの戦いで有効に使えるだろう。


「兄さん、ダンジョンマスターとの戦いでは兄さんがアタッカーを務めた方が良いかもしれませんね」

「ああ。ただし、俺が雷の命技を使いこなせるようなら……だ」

「体力的にはどうですか?」

「もう少し休めば万全では無いが、戦闘は出来る。七層でもう一度試してみて、実戦で難なく使えそうなら、八層ではタンク寄りのアタッカーとして戦おう」

「頼りにしていますよ、兄さん」


 六層の戦いで消耗しきっていたはずの俺の身体は、気付けば立ち上がれるほどに回復していた。

 最上級命技。この力を使って、今度こそ仲間たちと共にダンジョン攻略を成し遂げて見せようではないか。

 俺は七層で雷の命技を試し打ちするためにも、軽い食事と休憩を取って体力の回復に努めた。

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