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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第八話 レオスとダンジョン(後編)2

 俺の合図通りにエマ、セレス、シドニー、イライザが一斉に魂術を放った。


「『紅炎破』!」

「『魂術破』!」

「『白銀破』!」

「『黒水破』!」


 それぞれが放物線を描いて広間の両側にある水中へと飛び込み、水飛沫を上げる。


「全員、一気に駆け抜けろ!」


 魂術による攻撃の結果を見届けることなく、俺たちは奥の階段目指して駆け出した。

 俺、キャサリン、ギル、グレンダの4人は走りながらも黄土石を水中へ向かって投げる。

 次の瞬間、最初の魂術が爆発する振動と音が聞こえたが、構いはしない。攻撃の結果などどうでもいい、とにかく時間を稼ぐことに全力を尽くすだけだ。

 先頭を走っていたジョゼが半分の地点を抜けたところで、広間の奥側にある水中から一斉に魔物が飛び出して来た。

 ギルが黄土石を投擲して大量の土を生み出したが、魔物たちは魂術を使ってそれを迎撃し、広間の床へと難なく上がって来た。

 最後尾からでも分かる、見慣れたシルエット。

 水中から現れた魔物は、人間に魚の鱗と尻尾が生えたような独特な形をした化け物。南大陸で大殺戮を行った半魚人系の魔物だった。


「ジョゼ、気を抜くなよ!」


 俺はあえて半魚人と戦闘経験のあるジョゼに注意を促した。

 一度戦った相手だと油断すると、間違いなく痛い目を見る。なぜならここはダンジョンであり、あの魔物たちは俺たちが南大陸で戦った半魚人どもとは内包している魂力の量が桁違いだからだ。


「ジョゼ、お前は右奥をやれっ!」

「うん! 『ウインド・ダガー』!」

「『ファイア・サーペント』!」


 ギルの指示でジョゼが右奥のAランク魔物に風の短剣を投げつける。そのすぐ後にギルは遺物の剣を引き抜いて炎の大蛇で左奥のAランク魔物に襲い掛かった。

 ここまでは俺たちの予想通りの展開だ。

 いや、予想通りでなかったのは、魔物が半魚人系魔物だったことか。

 人間とほとんど同じ作りの手足を持ち、人間と同じ武器を自在に操る怪物は、手にしていた銀色に煌めく刀剣でジョゼの命技をいとも容易く斬り払った。もちろん、ジョゼは防がれることなど織り込み済みであり、魔物が斬り払った隙を突いて高速で接近して近接戦に持ち込んだ。

 しかし、Aランクの半魚人系魔物は完璧にジョゼの攻撃を見切り、まるで熟練のAランク冒険者のような動きでジョゼの攻撃をあしらってみせた。

 続くギルの攻撃は、たかが金属製の武具では防御出来るものではない。魔物はそれを一目で理解したのか、最初の一撃を防御ではなく回避する選択を取った。そして、回避と同時にギルに向かって魂術を放ち、遺物を防御に使わせることで連撃を封じる。

 俺は最後尾から先頭の様子を見ていたが、明らかにこちらの戦力が足りていない。

 一連の攻撃は全てこちらの予想通りに展開し、確実に先手を取ったものだった。にもかかわらず、完璧に対処されて傷一つ負わせられないというのは、相手の技量がこちらを上回っている証だ。

 一括りにAランクと言ってはいるが、あの半魚人系魔物は明らかにこれまで戦ったAランクの魔物よりも手強い。

 防御力は『アーマード・クラーケン』、攻撃力は『ブラッドアイ・クロコダイル』の方が上だろう。しかし、素早さと対応力のレベルが明らかに違う。これは致命的な違いだ。速いだけならまだ良かった。だが、あそこまで完璧にこちらの動きに対応されてしまうと、仕留めるには倍以上の戦力が必要になる。

 そして最悪なのは、数でもこちらが負けているという事だ。

 先陣を切ったAランクの半魚人に続くようにして、Bランクの半魚人たちが武器を構えて俺たちから出口を守る様に立ちふさがった。

 明らかに、統率が取れている。魔物たちはこちらの狙いに気付いて、守りを固めてきたのだ。


「お父様! 後ろから来ます!」


 前を走っていたエマが叫ぶ。

 俺は即座に身を翻して後方へ手をかざす。


「『アース・ウォール』!」


 広間を区切るように後方へ岩の壁を生み出したのだが、瞬き程度の時間で破壊された。

 半魚人系魔物は水の魂術を得意としているはずなのだが、俺の土の命技がこうも容易く打ち砕かれるとなると、それ以外の属性を使えるのかもしれない。そんな魔物の属性に対する疑問は、砕かれた命技を消し去った瞬間に判明した。

 2体のAランク魔物と、それに率いられたBランク魔物。

 Bランク魔物は見慣れた水の魂術をこちらへ放とうとしていたが、2体のAランク魔物は手に持っていた槍の先端に銀色に輝く魂力を集束させていた。


「ちいっ、金術だと……!?」


 俺は盾を前に出すと、裏側に嵌め込んでいた術魔石の力を発動させる。


「『術魔障壁』!」


 この状況は、どう考えても出し惜しみをしている場合ではない。

 一斉に放たれた魔物の魂術が俺の『魔導盾』が生み出した虹色の障壁に吸い込まれる。

 『魔導盾』が展開できる障壁には種類があり、命力を使用した『魔導障壁』、魂力や魂魔石を使用した『魂魔障壁』の他に、魂術に対して最強の守りとなる『術魔障壁』が存在する。

 命力を使った『魔導障壁』は最も使いやすく、あらゆる物理攻撃や魂術を通さない壁となるが、俺の命力を消費するために長持ちしない。その弱点を補ってくれるのが、魔石を使って使用できる『魂魔障壁』だ。防御力は『魔導障壁』と変わらないが、消耗品の魂魔石を使って展開できるので、魔石をいちいち嵌める面倒さに目を瞑れば長期戦に向いている。

 そして『術魔障壁』は、術魔石の能力を増大させて広範囲に展開できるというものだ。これまでも『魔導盾』の裏側に嵌め込んだ術魔石の力で魂術を吸収することはあったが、その能力を増大させて広範囲を守ることが出来る『術魔障壁』は使用してこなかった。そんなことをすれば、術魔石はたちまち限界を迎えて砕け散ってしまうからだ。

 数えきれないほどの魔物の攻撃が『術魔障壁』に吸い込まれ、虹色の障壁はより一層の輝きを増す。同時に、俺の盾の裏側に嵌められていた術魔石にヒビが入る。

 出来ればダンジョンマスターとの戦いまで取っておきたかったが、この状況ではこんなことを言っていられない。


「返すぞ! 『反転・魂術撃』!」


 俺は術魔石に魂力を流し込み、命令を下す。それによって貯め込まれていた魂術が『術魔障壁』から放たれ、魔物たちへ襲い掛かった。


「全員、前衛を加勢して突き進め! とにかく道をこじ開けろ!」


 俺は術魔石が砕け散ったのを横目で確認しつつ、再び広間の奥へと向き直った。

 今の一撃で後方にいたBランク魔物の半数近くは仕留めたと思いたい。Aランク2体は健在だろうが、時間は稼げたはずだ。

 前衛に目を向けると、ジョゼとニックがそれぞれAランク魔物を相手取っている間に、ギルとベラが出口を守っているBランク魔物を倒そうと奮闘していた。

 そこへ追い付いた後衛が魂術で加勢する。狙うのはあくまでも出口を塞いでいるBランク魔物だ。


「アルフ、ルーク、一瞬だけ後ろの守りを任せるぞ!」

「ええっ!?」

「は、はいっ!」


 アルフが悲鳴のような声を上げ、ルークが動揺しつつも力強い返答をしたところで、俺は命力を脚に集中させて天井ギリギリまで跳躍する。

 アルフとルークは慌てて炎と土の盾を後方へ展開したようだ。

 俺は『五行剣』に命力を流し込んで魂力へと変換すると、出口を塞いでいるBランク魔物たちへ狙いを定めた。

 一瞬だけ視界の端に捉えたのだが、アルフとルークの代わりにセレスとグレンダが側面の防御を担当してくれたようだ。

 後方からの猛攻撃と違って、そこまで数があるわけでは無いので、サポーターの二人でも少しの間なら持ちこたえられるだろう。


「『奥義・黄土斬破』!」


 Bランクの半魚人系魔物は水の魂術を使う。つまり弱点は土の魂術だ。

 極限まで練り上げた魂力を圧縮した土の斬撃が出口を塞いでいるBランク魔物たちへ飛来する。

 俺が床板へ着地するのと同タイミングで斬撃は水術の迎撃を斬り裂いて突き進み、完璧なタイミングで圧縮されていた魂術が炸裂する。

 本来なら仲間を巻き込まないための威力調整が必要な技だったが、俺の奥義はモミジほどの威力は無いので、ほとんど全力で放った。

 その結果、一か所に密集していたBランク魔物たちは一瞬にして細切れになり、出口への道が開ける。


「今だ! 俺たちが守っている間に先に行け!」


 ギルが叫び、後衛の魂術アタッカーとサポーターたちが出口へと雪崩れ込む。

 俺も早くギル達に加勢しようと思ったところで、後方の守りを任せていた二人の悲鳴が聞こえてきた。

 振り返ると、Aランク魔物2体の金術と卓越した槍術によって深手を負わされて、膝を付いている二人の姿あった。


「くっ、『魂魔障壁』!」


 俺は後ろに向かって『魔導盾』を投げつけると、二人の前に障壁を張る。

 すぐに二人に駆け寄ると、腰のホルダーに引っ掛けてある『霊薬瓶』を取ろうと手を伸ばす。


「しまった、『霊薬瓶』は――」


 俺が『霊薬瓶』をセレスに預けたことを思い出すと同時に、何者かが負傷した二人に透明な液体を浴びせた。


「――セレス!?」

「ランバートさん、急ぎましょう!」


 セレスはアルフとルークを助け起こすと、キャサリンとグレンダと協力して側面にいる魔物たちからの攻撃を防ぎつつも出口へと走った。

 俺も続こうと思ったところで、『魂魔障壁』を発動させていた魂魔石が砕け散る。素早く『魔導盾』を掴み取ると、今度は『魔導障壁』を展開してAランク魔物2体の攻撃を防いだ。

 この状況は、思っていた以上に不味い。

 出口への道をこじ開け、後衛を安全圏に逃がすことには成功したが、俺自身はここから容易く逃げ出すことは出来なさそうだ。

 出口の近くにいるギル達は何とかなるだろうが、今この『魔導障壁』を解除すれば、2体のAランク魔物の攻撃をまともに受けてしまう。

 俺は魔導盾を空間に固定するのを止めて身を守りながらも後方へ下がってみるが、とてもじゃないが振り返って走る程の隙は無い。

 そして、このままではいずれ側面にいる魔物たちは俺に対して攻撃を始めるだろう。そうなれば俺は身を護る術がない。


「兄さん、今そちらへ行きます! ジョゼ、ベラ、ここを何とか死守してくれ!」

「待て、ギル! こっちは俺に任せろ!」


 ギルの声が聞こえたが、俺は即座に彼を制止する。ギルやニックには出口の横にいるAランク魔物を止めてもらわなければならない。後衛がいなくなった分、生き残っている魔物たちの攻撃は全て俺たちへ向いているのだ。俺を助けに来れば今度は残されたジョゼとベラがやられかねない。


「……やるしかないな」


 どうやら、一体だけでも目の前のAランク魔物を倒さなければ、俺の生存は絶望的らしい。

 俺は少しずつ後方へ下がりながら、2対のAランク魔物の攻撃を『魔導盾』で防ぎつつ、『五行剣』に命力を注ぎ込む。

 Aランクの半魚人系魔物は銀色の魂術を使っている。あの金属特有の輝きは、間違いなく金術だ。

 金の弱点は火。金属を溶かす、灼熱の炎が必要だ。そして、運の良い事に俺は炎の命技を使うことが出来る。

 俺は意識を研ぎ澄まし、反撃に出る一瞬に備える。

 強い命技に大切なのは、強い意志とイメージする力だ。守ることに特化してきた俺だが、今だけは圧倒的な攻撃で魔物をねじ伏せる事に意識を集中させる。

 俺の意思に呼応するように五行剣に命力が集まり、痺れるような感覚を覚えた。

 いける。

 右手に宿る感覚だけで分かった。これまでの人生で最大級の攻撃力を持った一撃を放つことが出来そうだ。


「――っ! そこだ! 『フレイム・ブレイカー』!」


 2体の攻撃が同時に途切れた一瞬を突くように、俺は防御から攻撃へ転じる。

 上級命技で五行剣を斧へと変化させ、ありったけの命力を込めた一撃を2体の魔物目掛けて薙ぎ払うように一閃する。

 その瞬間、聞き慣れない轟音と共に光が走り、周囲にいた魔物たちの動きが止まった。


「なっ!?」


 一体何が起こったのか、俺自身もすぐには分からなかった。

 ただ一言言えるのは、俺の放った一撃で目の前にいた2体のAランク魔物が綺麗に上半身を吹き飛ばされ、絶命したということだ。

 なぜそれほどの威力が出たのかは分からない。そして、その結果に驚いたのは俺や仲間たちだけでなく、周囲にいた魔物たちも同じだった。

 側面にいた魔物たちは俺を見てはいても、警戒するように動きを止めており、怯えている様にも見えた。


「兄さん、今のうちに!」

「――っ! あ、ああ!」


 ギルの声で我に返り、俺はすぐに身を翻して出口へと走る。

 ギリギリまで俺を助けようとBランク魔物を牽制してくれていたセレス達サポーター組とルークとアルフが安全圏に逃げたのを見届けると、残っていた2体のAランク魔物の攻撃を防ぎながら、ベラ、ジョゼ、ギルの順番に六層を抜け、最後に俺とニックが出口に入ったところで、魔物の攻撃がぱたりと止んだ。

 どうやら奴らは六層内でしか戦う気はない様だ。


「な、何とか全員無事に通り抜けられたな」

「ええ、兄さんのおかげです」


 俺は七層へと続く階段に座り込み、息を整えている仲間たちを見る。

 何とか生き延びたが、間違いなく今の戦いがこれまでのダンジョン攻略で最も綱渡りの戦いだったと思う。というよりも、俺が生き延びることが出来たのが、奇跡としか言いようがないものだ。

 俺は押し寄せる疲労感に耐えながら、先ほどの出来事について考え始めた。

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