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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第七話 レオスとダンジョン(中編)2

 地下二層。

 砕け散っていた床が元通りになっているのを見て、俺はダンジョンの醜悪さを理解した。さっさと井戸から下へ降りて先に進もうとすると、ギルが口を開く。


「どこへ行くんですか? その井戸は明らかに怪しいです。何か罠があるかもしれませんよ?」

「いや、逆にこっちであっているんだ。そっちの道を進もうとすると、足場が崩壊して床下に隠れている水の中へ落とされる仕組みだ」

「それは……中々初見殺しですね。そっちの井戸はどうなっているんですか?」

「この井戸は梯子が付いていて、別の通路へ繋がっている。そこを通ることで二層の出口まで楽に進める」

「こちらの警戒心を逆手に取ったトラップということですか」


 ギル達も納得したところで、全員で井戸の梯子から水底の空間へ降りると、そこを通って奥まで進み、梯子で再び上に上がって二層の出口へと辿りついた。


「よし。次はいよいよ三層だ。ギル、お前たちが頼りだぞ」

「Aランクの魔物ですね。俺たちだけで倒せなくもないと思いますが、そちらの戦力にも期待しますよ」

「分かっている。俺はもちろんだが、エマとシドニーの上級魂術は頼りになるぞ」

「確認なんですが、三層の入り口でいきなり襲われることは無いんですよね?」

「ああ。魔物は水の上を通っている細い通路を渡ろうとする者を襲うようになっているらしい」

「では、実際に地形を目で見てから作戦を立てます。行くぞ、みんな」


 ギルは仲間を率いて臆することなく三層へと続く階段を降りていく。

 俺は4人の頼もしい冒険者の背中を見ながら、若い仲間たちを連れて後に続いた。




 地下三層。

 俺たちは眼前の水中から感じる途轍もない威圧感に耐えながら、作戦会議を行った。


「まず、大前提ですが、このレベルの魔物を相手にして全員生きて突破するなら、討伐するしかありません」

「俺も同意見だ。魂力によるヘイト管理も出来ないから、前に出られるメンツも限られてくるだろう」

「足場もあれですし、少数精鋭で攻めるしかありませんね」


 ギルは水上に橋のようにかかった3本の細い通路をチラリと見てから、険しい顔で言う。

 魔物が水中にいる以上、近接戦闘を仕掛ければこちらが水中へ引きずり込まれるリスクが高まる。かといって、安定した足場のある入り口付近では魔物は姿を現さないだろう。


「俺とギル、ニックでやるしかないな。エマとシドニー、それとイライザだったか? 3人は上級魂術で離れた所から援護を頼む」

「ラ、ランバートさん。俺も戦わせてください」

「レオスさん、俺もやるよ!」


 俺が先頭メンバーを振り分けていると、アルフとジョゼが声を上げた。相手はAランクの魔物であり、こちらも余裕が無いので二人に何かあった時に助けに入れるとは限らない。気持ちは分かるがここは待機してもらうのがベストだ。


「お前たちの実力では危険すぎる」

「危険なんて百も承知です。俺は、あいつらを――ライとウイグルを殺したあの魔物を前にして、戦わないなんて絶対できません。俺の全てを賭けて、あの魔物を倒したいんです!」

「…………ギル、どう思う」

「俺に聞く必要ありますか?」

「だな……」


 俺は出来る限り、全員を生還させたいと思っている。この決断で、もしかしたらアルフは死ぬかもしれない。だが、もしもここで戦わずに生き残ったとして、冒険者としてのアルフはそこで死ぬだろう。

 俺もギルもそれが分かったからこそ、アルフの想いを尊重することに決めた。


「分かった。だが、アルフ、俺が助けてやれるとは限らないからな」

「はい。分かっています」

「アルフ・バレット。よく聞け――」


 ギルはアルフの肩に手を置くと、真剣な顔で真っ直ぐに彼と目を合わせた。


「――まずは耐えるんだ。耐えていれば、必ずチャンスはある。それはお前が自力で切り拓くものかも知れないし、俺たちが作るものかもしれない。重要なのは巡って来たチャンスを逃さない事だ。いつチャンスが巡って来ても良いように、自分の全身全霊をかけた攻撃を出す準備を怠るなよ」

「わ、分かりました!」


 アルフは乱れそうになる呼吸を整えながら、腰の剣を強く握る。幼馴染二人を失い、自分の弱さを痛感した彼が、それでも冒険者として前に進むには、目の前のAランク魔物を倒すしかない。

 前に出るのなら助けてやれるかは分からない。生き残れるかはアルフ次第だ。


「ギル、もう少し詳細に作戦を詰めていくぞ」

「はい。俺に一つ良い案があります」


 こういうところで、自信満々に良い案があると発現できるのは、さすがAランク冒険者といったところだな。

 俺はギルの良い案とやらに耳を傾けた。




「――ということは、俺はギルとニックと共に魔物を水上へ引き付ければ良いんだな?」

「本当はもう少し数が欲しいですが、このメンバーで比較的高確率で生き残れそうなのは俺たちだけですから」

「分かった。イライザ、魔物を引き付けた後は頼んだぞ。エマとシドニーも彼女をサポートしろよ?」

「任せてください」

「おじ様の期待に応えられるように頑張ります」

「ぼ、僕も、出来る限りのことをやります」

「よし。では行くぞ、ギル、ニック!」

「「はいっ!」」


 俺は前衛二人に声をかけつつ、中央の通路目掛けて駆け抜ける。

 ギルとニックの実力は信用しているが、それでも魔導盾を持つ俺が魔物に狙われた方が戦いやすいはずだ。

 俺が中央の通路を進んでいると、水中から軟体生物の巨大な足が飛び出して来た。

 俺は五行剣でその足を斬り飛ばしてやるつもりだったのだが、足先に当たった五行剣が硬さに負けて弾かれる。軟体生物の身体とは思えないほどに硬い。

 結果、俺はあっけなく水上へ弾き飛ばされることになった。


「ぐっ!? か、硬い!」


 これがAランクの魔物か。

 イカの様な吸盤付きの巨大な脚は先端部分が黒く硬質化した殻のようになっており、俺の命力を纏った五行剣をもってしても斬り裂くことが出来なかった。

 水中への落下は死に繋がる。初手でしくじった俺の生存確率は格段に下がったかに思えたが、水に足をつける直前にギルが放り投げた魂魔石が水上に物質化した魂力の膜を張ったおかげで、俺は落水を免れた。そのまま魂力の膜を蹴って跳躍して右の通路へと着地する。

 少し遅れて、両足に痛みが走る。短い間だったとはいえギルの魂術に触れたのだ、痛みを伴う精神ダメージを軽く受けてしまったようだ。


「ニック、今の見たな?」

「うん。あれは真正面から受けられそうにないよ」

「俺が刈り取る。お前は攻撃を逸らせ」


 俺が弾き飛ばされたことで魔物の狙いはギルとニックへと移った。

 二本の足が飛び出して二人へと襲い掛かる。


「レオスさん、後ろは頼みます! 『アース・シールド』!」


 ニックは自分を狙う足の攻撃に対して、大盾で上方向へ威力を受け流すように突進する。ギルはニックの後ろにピタリと付いていて、後ろから迫る足には一切気を配っていない。

 どうやら、俺は随分と信頼されているようだ。

 魔導盾を放り投げると、内側に嵌め込まれた魂魔石をエネルギー源として空中に固定したうえで物理障壁を張り、ギルとニックを後ろから狙う足をシャットアウトする。

 魔物の足は障壁にぶつかると、見事に逆方向へと弾かれた。

 Aランクの魔物とはいえ、魔導盾の作り出す強力な物理障壁を突破したり、魔導盾を固定した位置から奥へと押し込んだりすることは出来ないようだ。

 ギルはその隙にニックによって上方向へ弾かれた足へと目を向け、腰に下げていた剣を抜く。


「あの剣は……やはり『炎蛇剣』か」


 見間違うはずがない。

 その剣は俺が――いや、俺たちが幼少期から憧れていた、中央南ギルド最古の遺物。現役時代のジェフリー・オルブライトがダンジョンから持ち帰った紅蓮の刀身を持つ炎の魔剣。


「――喰らい尽くせ! 『ファイア・サーペント』!」


 赤い刀身が細かく砕けると同時に、それら全てが柄から伸びる炎によって繋ぎ止められ、鞭のように長い炎の身体を創り出す。

 その名の通り炎の蛇となった剣は、真上にあった魔物の足へと巻き付いて焼き焦がす。


「戻れっ!」


 ギルの声に合わせて炎蛇剣は元の長さへと戻るよう動き出し、焼いた魔物の足を這いずっていく。

 細かな刃を内包した炎の蛇が元の長さの美しい紅蓮の剣へと戻った時には、先ほどまで巻き付いていた魔物の足はズタズタに焼き千切られていた。


「まずは一本! イカかタコか知らねえが、その足全て俺が焼き斬ってやるよ!」


 ギルがこれまでの雰囲気とはかけ離れた荒々しい口調で叫ぶと、足を斬られた魔物は怒り狂ったように大量の足を水上へと露出させた。

 更には千切られた足も、一瞬のうちに再生して元の姿へと戻っている。


「ちっ、ニック、本体をやらないとダメみたいだぞ」

「みたいだね……でも十分に役目は果たせたんじゃない?」


 さすがはAランクとBランク冒険者の幼馴染コンビだ。状況判断が早く、油断が無い。魔物の驚異的な再生能力を見ても、さして動揺せずに作戦通りに行動している。


「イライザ! 撃ち込めっ!」


 ギルは後方にいる魂術アタッカーのイライザに声をかけると共に、ニックと共に後方へ向かって駆け出す。


「任せて! 『黒水破』!」


 ギルの声が聞こえると、事前に魂力を練り上げていたイライザは巨大な水の魂術を放った。

 あれだけの数の足を水上へ出しているという事は、魔物の本体はすぐ近くまで浮上しているはず。エマでなくとも場所の特定は容易だ。


「レオスさん、これを!」


 ニックが空中に固定されていた魔導盾を掴んだのを見て、俺は即座に固定化を解く。すると彼は俺に向かって盾を投げ返してくれた。


「よしっ! セレス、キャサリン、波に備えろ!」


 俺は水の命技を得意とする二人へ声をかけながら、ニックが投げ渡してくれた魔導盾を持って上空へと跳躍する。下を見ると、ギルが炎蛇剣で魔物の足を焼き斬りながら走っていた。あの調子なら巻き込まれることは無さそうだ。

 イライザが放った水術が水中へ沈むと、圧縮されていた魂力が炸裂して大爆発を起こす。すると、爆発に乗って大量の水と巨大な魔物が上空へと打ち上げられた。

 事前に聞いていたとはいえ、とんでもない威力だ。角度も完璧で、魔物は見事に放物線を描いて三層の入り口方向へ飛んで行く。

 魔物の姿は、予想通りの巨大なイカの化け物であり、足先だけでなく、胴体のあらゆる箇所が硬質化した黒い殻で覆われている。想像以上に防御力がありそうだ。

 俺は空中に魔導盾を固定して足場にすると、次に備えて剣を構えた。同時に、セレスとキャサリンが魔物と共に打ち上げられた水から後衛のみんなを守るために命技を発動する。


「「『ウォーター・バリア』!」」


 全員を水から守りつつ、魔物に対する視認性を損なわない透明で薄い水の膜が彼女たちを覆う。

 土壇場で練習もしていない連携命技をあそこまで上手く発動させるとは、あの二人は本当に優秀だ。

 俺は二人の繊細かつ流麗な命技に心を動かされながら、空中の魔物目掛けて剣を振った。俺と同時のタイミングでエマとシドニーも魂術を放つ。


「「『白銀斬』!」」

「『紅炎斬』!」


 鋼と炎の刃が魔物へと迫るが、魔物は空中で難なく身を翻して攻撃を見極め、足先の硬質化した殻を使って魂術を弾いた。


「何っ!?」


 エマの炎術までなら分かるが、全魂術の中で最大の切れ味を誇る俺とシドニーの金術が弾かれたのは予想外だ。


「レオスさん、次の手を!」


 ニックの声が響き、俺は攻撃を防がれた動揺から即座に立ち直る。そうだ、これで仕留めきれないであろうことは想定済みだ。

 傷一つ負わせられなかったのは誤算だが、俺の一番の役割は攻撃じゃない。そちらはギルに任せよう。

 俺はすぐに魔導盾の固定を解くと、後衛のみんなから魔物を挟んで反対側へ着地する。

 魔物は俺よりも少し先に陸地へ落下しており、素早く体制を立て直して水場へ戻ろうと動き出していた。


「それだけは絶対にさせん! 『魂魔障壁』!」


 俺は魔導盾の内側に嵌められた術魔石の力をフルに使って特大の障壁を展開する。魔石を使い潰すつもりで張ったので、俺たちの何倍もの大きさがあったAランク魔物であろうとも、手持ちの魔石が尽きない限りはこの障壁を突破することは出来ないはずだ。加えて、この障壁は俺の命力ではなく魂魔石をエネルギー源としているために魂術寄りの障壁であり、触れると精神ダメージを受ける。水場に戻ろうとすればするほど魔物はダメージを受ける仕組みだ。

 魔物は俺の障壁に長い足で殴り掛かり、びくともしないのを見て体当たりをかます。それも通用しないと見るや、特大の魂術を放ってきたが、それに関しては魔導盾の内側に嵌めていた術魔石が発動して吸収してみせた。

 そこまでしてやっと、魔物は自分の力ではどうしようもない事を理解したようだ。くるりと身を反転させて、後衛にいる仲間たちの方へと身体を向ける。

 俺は魔導盾の内側に嵌めていた術魔石が砕け散ったのを見て、舌打ちする。残りの術魔石はあと一つしかない。これ以上魔物の魂術を受け止めるのは遠慮したいところだ。

 術魔石はもちろん、魂魔石も砕け散るたびに盾の内側の窪みに新しいものを嵌めなくてはいけないため、俺はこの場から動けない。ここからは俺以外の全員が安全圏ではない場所でAランクの魔物と戦わなければならないが、水中という圧倒的に魔物に有利な地形のアドバンテージを奪う事が出来たのはかなり大きいだろう。


「ルーク! みんなを守れ!」


 俺が叫ぶと、ルークが少しだけ前に出て盾を構え、エマ、セレス、シドニー、キャサリン、イライザ、グレンダの六人が後ろへと下がった。


「『ファイア・サーペント』!」


 魔物の側面にいたギルが炎蛇剣を使って攻撃をしかける。命技や魂術とも違う遺物によって生み出された炎の刃が魔物の側面へ直撃するが、硬質化した黒い殻を破ることが出来ず、金属同士がぶつかるような甲高い音を立てて弾き返される。


「ちっ、硬すぎるな……」


 ギルが炎蛇剣を元の長さへ戻して悪態をつく。俺も隙があれは後ろから攻撃するつもりだが、うかつに障壁を解くわけにもいかないので、しばらくは見守るしかない。

 すると魔物は水管の様な部分をギルへ向けると、そこから先ほど俺に向けたものと同じ強力な魂術を放った。

 ニックがギルを庇うように割り込むと魂術を大盾で受ける。命技も使わずに攻撃を受けたのでどうなることかと思ったが、そこで彼が持っていた大盾の遺物の真の力が発揮された。

 大盾表面の牙のような模様に見えた部分が口のように開き、魔物の魂術を飲み込んだのだ。


「平気か? ニック」

「うん。けど、次は無理かも」

「分かった。なら、次からは逸らすだけで良い」


 二人の会話から、そう何度も今の力で魔物の攻撃を防ぐことは出来なさそうだが、こちらの言葉を理解していない魔物は今の攻防でニックをかなり警戒したようだ。魂術が通らないと見るや、すぐにターゲットを変更し、数本の足でルークに守られている後衛へと攻撃を仕掛けた。


「ルーク!」

「フ、『フレイム・シールド』!」


 ルークは自身の盾に上級命技を纏わせて巨大な炎の盾を創り出した。

 ここが地上であり、踏ん張れる足場があるために何とか初撃を防ぐことは出来たが、鞭のようにしなる魔物の足で何度も殴られることで、ルークはすぐに後方へ押し込まれて体制を崩す。


「よそ見していいのかよ!?」


 すると、ルークが押し負ける前にギルが炎蛇剣を使って魔物の足を数本絡め捕り、先ほどと同じやり方で一気に焼き切った。


「今度は四本だ! これでも俺を無視できるか!?」


 魔物は側面から四本もの足を刈り取られたことでギルへと標的を変えた。いや、変えさせられたというのが正しい。

 そして、ギルは自分と魔物を挟んで反対側に位置取った『彼』にアイコンタクトを送る。

 それを合図として、これまで戦いに参加したい気持ちを抑え込んできた感情を爆発させるように『彼』が叫ぶ。


「『アース・ブレイカー』!」


 魔物によって幼馴染二人を殺された、南大陸出身のDランク冒険者にして、土属性の命技を使うタンク兼アタッカー。

 アルフ・バレットの渾身の上級命技が炸裂し、Aランク魔物はギルに刈られたのとは反対側の足を三本ほど叩き斬られる結果となった。


「どうだっ! ライとウイグルの仇は、必ず俺が取るぞ!」


 アルフが斧の形状をさせていた武器を元の両刃剣へ戻すと、魔物に向かって剣を構え直した。


「……今の攻撃が通るのか。ギル、どうやらこいつは三方向へは意識を向けられないようだ!」

「みたいですね。俺とニック、アルフ、そしてイライザたち。三方向から攻めればいけそうです」

「問題は胴体の殻だ。どうする?」

「足は斬り落とせるんです。足の付け根からいけるんじゃないですか?」

「あの再生力だぞ? 無茶だ」

「なら、もう一つ簡単な部位がありますよね」


 ギルは不敵に笑うと、炎蛇剣で狙うべき部位を指し示す。

 やはり考えることは同じか。

 俺は息を大きく吸い込むと、大声で全員へ指示を出す。


「全員、奴の目を狙え! そこから命技でも魂術でも体内へぶち込んでやれ!」


 そこからは、本当の意味での討伐が始まった。

 あれだけ強いと思っていたAランクの魔物が防戦一方になったのだ。

 再生する足の三分の一はギルによって刈り取られ、ニックは命技で上手く魔物の攻撃を逸らしている。

 実力不足に思っていたアルフも、その爆発的な攻撃性をギルが上手く支持して誘導してやることでしっかりとした戦力になっていた。

 そして何より、地上戦で俺とギルすらも驚くほどに猛威を振るったのが、ジョゼとベラの高速命技アタッカー二人組だった。

 Aランクの魔物とはいえ一つの生き物であり、注意出来る敵の数には限りがある。ギル、ニック、アルフに加えて、目を狙って攻撃を続けてくる後衛の魂術使い達を前にして、ちょこまかと動き回るジョゼとベラにまで意識を割くことなど到底できる芸当ではなかったということだ。

 二人は覚えたばかりの上級命技を上手く使って魔物の足を再生するたびに斬り落として魔物の攻撃力を削り続けてくれた。

 ジョゼは単純に速いだけだが、ベラはその異様な存在感の無さもあって、俺ですら戦いの中でどこにいるのか把握できなかったほどだ。


「――今だ! 『フレイム・ランス』!」


 魔物の攻撃の手が緩んだ一瞬の隙をついて、ルークが槍を投擲。魔物の左目を串刺しにする。

 俺の思った通り、足以外には再生能力は無かったようで、魔物は視界を半分奪われた事で動きを鈍らせた。

 そして、その隙を見逃さなかったアルフが凄まじい命力を纏って魔物へと接近する。

 ギルに言われた通り、彼はチャンスを逃さなかった。途轍もない集中力で、格上の魔物相手に渡り合いながら、必ず自分がトドメを刺すつもりで飛び出す機会を伺っていたのだろう。

 己の生み出せる最大の攻撃で魔物の息の根を止めるために、防御を捨て、この後のダンジョン攻略のために残す体力など一切無いとばかりに全ての命力を剣に注ぎ込んでいた。


「そこだぁぁ!」


 アルフは魔物へ肉薄すると、命力を纏った剣を眼球へと突き立てた。

 そして、そこからさらに魔物の体内へ命力を送り込む。


「これで……くたばれぇぇぇぇぇええええええ!」


 仲間を殺されたアルフの悲しみと怒りが、彼の命力に呼応する。

 いつだったか、ジョゼに命技の属性は使用者の適性によって決まるという話をしたと思う。

 アルフは土の属性を持っていた。

 四属性の中で最大の質量を持ち、最も防御に優れた、仲間想いで臆病な奴が習得する属性だ。

 しかし、今の彼は全ての防御を捨て、絶対に魔物を仕留めるという意志に満ちていた。

 その爆発的な攻撃の感情に応えるように、アルフの命力は燃え盛る炎となって拡大し、Aランク魔物の巨体を内部から焼き尽くした。

 黒く固い外殻の隙間から炎が漏れ出し、ギルやジョゼたちによって斬り落とされた足が再生を止める。

 魔物の身体から発せられていた強大な魂力が消滅し、人間の何倍も大きい身体は力なく崩れ落ちた。

 俺は魔導盾の障壁を解除すると、屍となった魔物を踏みつけ、涙を流しながら勝利の雄叫びを上げるアルフの姿を見た。

 次第に雄叫びが鳴き声へと変化し、彼はその場で崩れ落ち、嗚咽を漏らす。

 Aランクの魔物を討伐したというのに、今この場には勝利を喜ぶ者など居なかった。

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