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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第七話 レオスとダンジョン(中編)

 アルフとジョゼの同意を得た俺たちは、ダンジョンを引き返して地上へと戻り、森を抜けてギルドへと帰還した。

 ギルドに入ると、俺が探すまでもなくギルがこちらに気付いて仲間たちと共に近付いて来た。もしかすると、俺たちが帰ってくるのを待っていたのかもしれない。


「ギル、頼みたいことがある」

「い、いきなりですね……エイベルたちがいないようですが、まさかやられたのですか?」

「手短に状況を説明する。聞いてくれ」


 俺は出来る限り簡潔にダンジョンで起きた事を話し、そのままギルとモミジを勧誘しに来た意志を伝えた。

 ギルは黙って俺の話を聞いており、俺の勧誘を聞いて少し考えた後で真っ直ぐにこちらを見て口を開いた。


「まず、あなたに伝えないといけないことがあります」

「何だ?」

「モミジたちは北の探索隊に合流するために北部へ向かいました。なので、ダンジョン攻略に参加できるのは俺のパーティだけになります」

「なっ!? そ、そうか……」


 正直に言うと、モミジのパーティが一番頼りになるのだが、いないものは仕方がない。ギルのパーティだけでも一緒に来てくれるのなら、三層やそれ以降の階層の攻略も可能になるだろう。


「どうしますか? モミジたちがいないのであれば、ダンジョン攻略を断念しますか?」

「いや、お前たちが一緒に来てくれるのなら、それだけでも十分に頼もしいよ」

「そうですか。では、俺たちがレイドを組む条件は、ダンジョン攻略権利を俺に譲ることになりますが、良いですか?」

「……何?」


 一応聞き返したが、聞き間違いでは無いだろう。

 ギルもいたって真面目な顔付きで、その条件が冗談でも何でもなく、本気の提案なのだと分かる。


「遺物はエイベルたちに譲るのでしょう? なら俺が欲しいのはSランクへの昇格権利です。このダンジョンを攻略した暁には、あなたは権利を俺に譲った事をギルド職員に宣言し、俺をSランクへ昇格させるように申し出てください」

「な、なるほど」


 つまり、基本は俺の判断に従ってダンジョン攻略に協力するが、もしも攻略できた場合は口裏を合わせて権利を譲っていた事にし、Sランクへ昇格させて欲しいという事か。

 エイベルの提案とは違い、ギルはちゃんと俺たちがやりたいことを理解した上で、それをサポートしつつも自分の欲しい物を得ようとしている。

 俺は既にSランクであり、ダンジョンを攻略出来ても昇格はしない。であれば、最後にその権利をギルに譲っても何の問題もないのだ。


「分かった。その条件で良いから、協力を頼む」

「決まりですね。では、出発は明日の朝にしましょう」

「は?」


 こいつ、何を言っているんだ?

 今は昼過ぎだが、まだ太陽は高い位置にある。だというのに、なぜ出発を明日にする必要があると言うのだろうか?


「待て。俺の話を聞いていただろう? エイベルたちは四層へ向かったんだ。はやく合流しなくては取り返しの付かないことになる。出発は今すぐだ」

「こちらにも準備というものがありますし、もしも本当にエイベルたちだけでは勝てないレベルの魔物がいるのなら、今から出発しても間に合いませんよ。そのくらい分かるでしょう?」

「い、いや……それは……」


 確かにそうかもしれない。人間は本当に一瞬で死ぬのだ。アルフの仲間だったライとウイグルも、俺たちが水の底から梯子で戻って三層へ移動する少しの時間で死亡した。もしもエイベルたちだけでは対処できない魔物が現れた場合、今からダンジョンへ向かっても間に合わないだろう。


「今から行っても間に合わないなら、俺はしっかりと準備をしたいですし、そちらも二層までの消耗を回復しておいた方が良いでしょう?」

「消耗……か」


 俺は仲間たちへと視線を向ける。

 そこまで激しい戦闘はしていないが、ダンジョンで罠にはまって死にかけたという体験は、全員の精神をかなりすり減らしたことだろう。肉体的にも、ここへ来る間に炎と風の命技を使って濡れた身体を乾かしはしたが、やはりある程度体力は奪われていて万全の状態とは言えない。


「今後の考えられるパターンは三つです。一つ目はエイベルがダンジョンを攻略する未来。このパターンは俺たちが今から向かっても間に合わないので徒労に終わります。二つ目はエイベルが途中で死ぬ未来。このパターンも同じで、今から向かっても間に合いません。三つ目はエイベルが危険を察知して攻略を断念する未来。これが唯一エイベルと合流可能なパターンですが、攻略を断念しているのですから、エイベルたちは引き返すか、その場に留まって助け待つかのどちらかになります。どうですか? 今から急いで再出発する意味がありますか?」

「……無いな。お前の言う通りだ、出発は明日にしよう」


 俺も相当頭に血が上っていたようだ。冷静なギルに丁寧に説得されたおかげで、やっと状況が理解できたように思える。

 ジョゼやアルフたちも俺と同じようにギルの言う事が正しいと思ったのか、誰一人として文句を言うものはおらず、俺たちはすぐに解散して体力と精神の回復に努めることにした。




 翌日。俺たちは再び北門の前に集結していた。

 連日のダンジョン攻略だが、昨日は帰りが早かった事もあり、家で十分に身体を休める事が出来たので体調は万全と言っていい。


「よし、全員揃ったな。ギル、出発前に軽い自己紹介を頼む」

「分かりました」


 ギルは軽く頷くと、自分と仲間の紹介を始めた。


「俺はギルバート・オルブライト。Aランク冒険者だ。パーティでの役割は、命技アタッカーになる。戦闘中はお前たちにも支持を出す場合があるから、死にたくなければ従っておけ」


 ややぶっきらぼうで上から目線の態度が俺に対する時と随分違ったので驚いたが、普段はこういう喋り方なのかもしれない。ルークたちとセレス、それにアルフが緊張した声で返事をしている。


「次にパーティの仲間だが、タンクのニック・アシュベリー。魂術アタッカーのイライザ・マガフ。サポーターのグレンダ・プレイステッドだ。戦闘時にヤバいと思ったら、とりあえずはニックの後ろに隠れろ。それだけで生存率が全く違う。特にレックスさんの息子――ルークと言ったか? お前のパーティはDランクだと聞いている。ダンジョンの強力な魔物の攻撃を防ぐのは無理だろうから、あまり前に出過ぎるなよ」

「は、はい!」


 ギルはルークの元気の良い返事を聞いた後で俺に向き直る。


「こんなところで良いですか?」

「十分だ。それと、一応言っておくが、俺もタンク兼命技アタッカーだから、お前や後衛の二人も危なくなったら俺の後ろに隠れてくれて構わないからな」

「……ニックがいるのでそんな事にはならないと思いますが、もしもイライザとグレンダが危険な時は頼みます」

「分かった。俺にはこの『魔導盾』があるから、頼りにしてくれていい」

「その盾は……遺物ですよね?」


 ギルは少し探るような目で俺の盾を見ながら言う。


「ああ。空中に固定したり、物理障壁を張ったりすることが出来る強力な盾だ。例えAランクの魔物の攻撃でも、大抵のものは防げるだろう」


 双頭の獅子との戦闘では、俺が盾を空中に固定するよりも先に攻撃されて膝を負傷したが、あれは上から押し潰された際の負傷であり、今のところこの盾の障壁が破られたことは無い。おそらくは俺の命力や裏側の窪みに嵌めている魔石が尽きない限りは破られることはないと思われる。


「……その遺物が、ライアンさんたちと手に入れた物なんですね」

「そうだ。正確に言えば、オードリーが手に入れた盾だな。そしてこの剣がライアン、この瓶がマリアの手に入れた遺物だ」

「み、3つも遺物が手に入るダンジョンだったんですか」

「ああ。だから、いざという時は頼ってくれていい」

「分かりました。そうさせて貰います」


 その後、エマたち、ルークたち、アルフの順番で軽くギルに挨拶し、ダンジョンへ向けて出発することとなった。

 道中で遭遇した魔物をギルたちが片付けるのを見たが、やはりモミジのパーティに引けを取らないくらいには強い。特にギルとニックはミツハやセドリックと互角の強さがあると感じた。

 自己紹介の時には特に触れなかったが、ギルの持っている赤い鞘の剣と、ニックの持っている牙の様なものが付いた大盾は明らかに普通の武器では無いように見えるので、おそらくは遺物だろう。どのような力を秘めている武具かは分からないが、頼りになるのは間違いない。


「よし、着いたな。この泉の水底にダンジョンの入り口があるんだ」

「こんなところに……よく見つけましたね」

「ベラが魔物に突き飛ばされた際に湖に落ちてしまったんだが、それを救助するために潜ったキャサリンが見つけたんだ」

「なるほど、本当に偶然見つけたわけですね」


 上から見ただけでは全く分からないからな。よく目を凝らせば遺跡が沈んでいるのは分かるので、調査に来た考古学者なら潜って確認するかも知れないが、冒険者が発見するのは本当に奇跡的な確率だっただろう。

 俺たちは昨日と同じように命技を使って濡れないように工夫しながら水底へと降りる。

 ギルがダンジョンの入り口に踏み入ると、謎の光源が依然と同じように点灯した。すると彼は剣を使って近くにあった光源を壁から取り外すと、サポーターのグレンダへ手渡した。

 グレンダは当たり前のようにそれを受け取ると、背負っていた大きなバックパックへ収納する。


「あ、あの。どうして灯りを回収したんですか?」


 昨日、光源について言及してエイベルに一蹴されていたエマが、不思議そうにギルに尋ねる。


「ん? この灯りは取り外すまで正常に動いていた。学者に渡せば何か分かるかも知れないだろう?」

「ですが、それは大昔から研究されていると聞いています。今さら新しい物を持ち帰る意味はあるのですか?」

「この灯りについてはほとんど解明されていない。つまり、これまで回収されてきた物とこいつが全く同じ物かも分からないという事だ。ならば、新しくこいつを持ち帰って調べることで分かることもあるかもしれない」

「な、なるほど」


 ギルはまだ何か言いたそうなエマに対して眉を寄せると、質問を返した。


「どうしてそんなこと聞いた?」

「あっ、いえ……私たちはダンジョン攻略に来たのであって、遺跡調査に来たわけではないと言われたことがあったので、Aランクのギルバートさんがそういうことをするのは少し意外だっただけです」


 エマの返事を聞いてギルは呆れたように息を吐くと、彼女の肩に手を置いた。


「エイベルだな? あのバカの言う事は気にするな。あいつは異能や遺物欲しさに目が眩んで、それ以外が見えなくなっているんだ。気になるのなら、お前も一つ回収していくといい」

「……は、はい」


 エマが振り返って俺に目で確認を取ってきたので、軽く頷いてやる。するとエマは中級魂術の『斬』を使って光源を一つ壁から切り離すと、回収してセレスに渡す。

 セレスは笑顔でそれを受け取ると、バックパックへしまい込んだ。


「ギル、一層は迷路だ。俺が先導する」

「分かりました。お願いします」

「……それと、ありがとな」

「え?」

「エマの事だ。エイベルにキツイ言い方をされてな」

「別に、俺は普通の対応をしただけです。エイベルがおかしいんですよ」


 エイベルに関しては同意だが、ギルの対応は決して普通の冒険者のものではなかったように思う。

 俺はやんちゃだったギルが優しい大人の男へと成長していたことを嬉しく思いながら、全員を率いて一層を踏破した。

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