第六話 レオスとダンジョン(前編)6
3月末。ついにダンジョン攻略へ出発することになった。
俺たちは北門の前で集合し、パーティのリーダーが軽く挨拶を交わす。
本当は数日前に顔合わせをしておきたかったのだが、エイベルが必要ないと言って前日まで魔物討伐に出てしまっていたので、このような形になってしまった。やはりエイベルには慎重さが足りないと思う。
ダンジョン攻略隊に参加するパーティは全部で6つ。俺、ルーク、エイベル、アルフのパーティに加えて、エイベルが連れてきたCランク冒険者のパーティが二つだ。
「それじゃ、案内を頼むよ、ランバートさん」
「ああ、付いて来てくれ」
場所を知っている俺とルークのパーティが先行する形で東の森へと進んで行く。何が起こるか分からないダンジョン攻略ということで、サポーターであるセレスとキャサリンはいつも以上の大荷物だ。
エイベルと他のCランクパーティにも巨大なバックパックを背負った冒険者がいるので、サポーターがいないのはアルフのパーティだけのようだ。
森を突き進み、見覚えのある開けた場所へ出る。中央にある泉の底には薄っすらと遺跡の姿が見えた。
「ここだ」
「……まさか、水の底が入り口か?」
エイベルが俺の視線の先を見て、苦笑いを浮かべた。
「ああ。上からだと分からないが、泉の底の遺跡周りには水が無く、呼吸できる空間がある」
「なるほどね、さすがダンジョン。何でもありだな」
「濡れて体力を消耗するのは得策ではないから、命技か魂術で身体を覆って降りるのが良いと思う」
「だな。レヴィ、水の命技だ」
エイベルがサポーターの女性に声をかけて、パーティが彼女の周りに身を寄せた。それに習うようにそれぞれのパーティが各々の得意なやり方で濡れずに水底へ降りる準備に取り掛かった。
俺はエマとジョゼと一緒にセレスの下へ集まる。
「セレス、行けるか?」
「はい。任せてください」
セレスが元気よく返事をして、俺たちを包み込むように水の命技を発動させる。薄い水の膜に覆われた状態で、俺たちは息を合わせて泉へ飛び込むと、水底を抜けて遺跡の前へ着地した。
セレスが恐る恐る命技を解くと、呼吸が出来ることを確認してホッとしたように息を吐いた。
「へえ、これは面白い空間だな。どういう理屈で水が降って来ないのかは分からないが」
エイベルが興味深そうに周りを見ながら遺跡へ近付くと、入り口付近に差し掛かったタイミングで、奥へと続く道に明かりが灯った。
炎とは違う白く輝く謎の光源が遺跡の奥へと続く暗い階段を照らすように両サイドの壁に等間隔で設置されている。
「レ、レオスさん。あれって何? 炎の魔石とは違うよね?」
「ああ。俺にもどういうものなのかは分からないんだが、ダンジョンにはああいう謎の光源があるものなんだ」
「興味深いですね。一つくらい取り外して持ち帰った方が良いのでは?」
エマの言葉にエイベルが反応し、やや馬鹿にしたように笑ってから、頼んでもいない解説を始めた。
「んなもん、とっくの昔に大先輩たちがやってるよ。あれは取り外すと光らなくなるんだ。全世界の学者が研究しているが、どういう原理なのかいまだに分からないんだと」
「そ、そうなのですか……」
「というか、俺たちの目的は遺跡調査じゃなくて、ダンジョン攻略だろ? 魔石や遺物以外の骨董品を持ち帰る余裕なんてねえぞ。こっからは観光気分だとマジで死ぬし、俺は下手打った奴を助けてやるつもりはないからな」
「は、はい」
エイベルはエマだけではなく、他のパーティにも釘を差すように言い放つと、剣を抜いて先陣を切るように階段を降りていく。
戦闘面では頼りになりそうだが、これは他のトップ冒険者から嫌われるわけだ。
地下一層。
階段を降りた先は迷路のような作りをしていた。
先頭にいるエイベルが剣を使って壁に傷痕を付けながら進んでいる。時折、パーティメンバーと相談しながらも、順調に迷路を進んでいった。
「なんか、俺たち後ろを付いて行っているだけだね」
ジョゼがポツリと呟き、エマとセレスが同意するように頷く。
他のパーティたちも同様で、初めてのダンジョンに抱いていた期待を下回る地味な滑り出しに肩透かしを食らったような顔をしていた。
俺としては、一層から強力な魔物やトラップに出くわしたくはないので、緊張感を保ちつつも攻略はエイベルのパーティに一任することにした。
ちなみに隊列だが、エイベルパーティが先頭で、そのすぐ後ろをCランクパーティ二つが左右を警戒しながら護衛。その後ろに俺のパーティがあり、後ろにアルフとルークのパーティが横並びで続いている。
迷路攻略の途中、数匹の魔物に出くわすことがあったのだが、そのどれに対してもエイベルが上級命技で一蹴してしまったので、俺たちの出番はなかった。魔物自体の強さもDランク程度であり、エイベルなら余裕の相手だ。
そしてついに、下層へと続く階段へ辿り着いた。
「よし、まず一層クリアだな」
エイベルは少しだけ嬉しそうに仲間たちと軽く拳をぶつけ合い、二層へ続く階段を降りていく。
「いいなぁ。なんかあの人たちだけダンジョン攻略を楽しんでるよね」
「ジョゼ、気持ちは分かるが、彼らのおかげで楽が出来ていると考える様にしろ。ダンジョンは一層降りるだけで難易度が一気に変わることもある。俺たちの出番も必ずくるだろう」
「うん、分かった」
俺は周囲の冒険者たちの空気が緩んできていることを感じて、より気を引き締めた。
ダンジョンでの油断は即座に死に繋がる。こうやって低難度のフリをして冒険者を騙し、突然牙をむくのがダンジョンなのだ。
地下二層。
俺の予想通り、ダンジョンの雰囲気が突然変わった。
これまではただの人の居なくなった石造りの建物に、謎の光源が設置されているだけだったのだが、二層は一層よりも外壁や床板が老朽化しており、所々朽ち果てているだけでなく、天井から雨漏りして、水溜りが出来ている場所が散見された。
「な、なんだか突然、廃墟らしさが増しましたね」
「ああ。エイベル、気を付けろ。一層よりも強い魔物が出るかもしれん」
「そんなこと分かってるよ。あんたは自分のパーティの心配だけしていろ」
エイベルは俺の忠告に対して煩わしそうに返すと、真剣な表情で先頭を進んで行く。
態度は悪いが、彼は全く気を抜いていない。あの調子なら大丈夫だろう。
「レオスさん、見て。井戸があるよ」
ジョゼが古びた井戸らしきものを発見して指をさす。
「近付くなよ、ジョゼ。おそらくは何かしらのトラップだ」
「そうなの?」
「ここはダンジョンだ。近付くことで発動するトラップは多い。だからこそ先頭を歩いていたエイベルは井戸を無視して先に進んでいるんだ」
「へえ。でもそれなら、一声かけてくれてもいいのにね」
エイベルからしたら声をかけるまでもないということなのだろう。俺は仲間たちの行動にも注意を払いながら、エイベルたちの後に続いた。
「水量が増えてきたな……」
二層を進んで行くと、だんだんと水浸しの場所が増えてきた。特に進行方向の右半分は床に穴が空き、大きな水溜りが出来ている。
「おじ様、あの水溜り……何かいます」
「やはりか。全員気を付けろ、水中に魔物がいる」
俺が声をかけると、先頭を歩いていたエイベルが振り返った。
「どうして分かる?」
「エマは魂力を感知する能力が高い。まず間違いなくいるはずだ」
「へえ……なら、警戒しつつ素早く通り抜けるぞ。わざわざ戦う必要はない」
「同感だ。気を付けながら進もう」
そうしてエイベルが道の左側に寄りながら通り抜けようとすると、水中から一本の細長い針が発射された。
「――っ!?」
エイベルは即座に反応して風の上級命技で針を弾き飛ばした。
「な、なんだ、今の針は? 魂術じゃないぞ」
「あれは針じゃない、ウニの棘だ! 全員先に進め、俺は南大陸であの魔物と戦い慣れている」
俺は素早く前に出ると、水中にいる魔物の注意を引きつけた。
その隙に他のパーティが俺の後ろに隠れるようにして通り抜けていく。
「『アースウォール』!」
土の上級命技で壁を作ってさらに時間を稼いでいると、俺の命技がひび割れて砕け散った。
「な、何っ!?」
俺は命技を砕き水中から顔を覗かせた魔物を注視すると、それが緑色の棘を持った巨大なウニだと分かった。
南大陸にいたウニの棘皮系魔物は黒や紫だった。どうやら、普通の魔物ではないらしい。
「全員、速く進め! おそらくCランクを超える魔物だ」
俺が叫ぶと同時に、ウニの魔物は緑色の棘を数本こちらへ飛ばして来たので、魔導盾の障壁を発動して弾く。
弾いた棘が床や天井に突き刺さると、それらは床や天井の石材に根を張って小さな植物へと変質していく。
「なるほど……木術の性質を持つ棘か。アースウォールで防げないわけだ」
土は五行の相性で木に弱い。
俺は水の魔物に強い土の命技を出したつもりだったのだが、逆に相性の悪い命技だったようだ。
「シドニー! 奴の弱点は金術だ!」
「は、はい!」
俺は咄嗟に金術の使えるシドニーへ指示を出す。すると彼は素早く前に出て、魔物へと狙いを定めた。
「『白銀斬』!」
シドニーが放った銀色の刃がウニの魔物を一刀両断する。相変わらず、とんでもない切れ味の魂術だ。
「よし。よくやったな」
俺がシドニーへ労いの言葉をかけた瞬間、エマが叫んだ。
「おじ様! 何かが下を移動しています!」
「何っ!?」




