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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第五話 レオスとEランクパーティ12

 双頭の獅子は俺たちを見るや否や、二つの口を大きく開けて息を吸い込んだ。


「――っ! 全員、俺の後ろに下がれ!」


 俺は『魔導盾』を構えると同時に、命技を発動する。


「『アースウォール』!」


 双頭の獅子の口から火炎が放出され俺の上級命技へと直撃する。一瞬受け止めたかに思えたのだが、すぐに俺の命技はひび割れて砕け散り、火炎が迫る。


「くっ! 『魔導障壁』!」


 俺は『魔導盾』の障壁を張る力を最大で発動し、後ろに下がった仲間たちを守る。

 何て威力の攻撃だ。術魔石が発動しないところをみると、この攻撃は魂術ではないらしい。ということは、単純な炎のブレスということだ。

 土の上級命技を粉砕するブレスなど、俺は初めて見た。セドリックの奴はこんな攻撃を軽々と防いでいたのか。

 俺はセドリックが使っていた『遺物』を羨ましく思いながらも、何とか掃討の獅子の攻撃から仲間たちを守り切った。


「エマ、ジョゼ、セレス。あの時のモミジたちの戦闘を思い出せ! 次の一撃で俺が仕留める。お前たちは何としてでもあいつの動きを止めろ!」


 俺は大声で指示を出し、『五行剣』にありったけの命力を込める。五行剣の力でそれが魂力へと変換され、刀身が白く変化していく。


「『ウォーター・ウィップ』、『魂術陣』!」


 最初に動いたのはセレスだ。

 双頭の獅子の足場に『陣』を発動し、水の鞭でテレンスがやったように右前脚を捉えた。


「『紅炎斬』!」

「『ウインド・ダガー』!」


 続いてエマの魂術とジョゼの命技が放たれたが、双頭の獅子はそれを左前脚の爪で弾き飛ばした。

 セレスとタイミングが合わなかったことで、遅れた二人の攻撃は対処されてしまったのだ


「ぐっ、お、重い!」

「セレスちゃん!」


 双頭の獅子が水の鞭が巻き付いた右前脚を引くことでセレスが空中へ打ち上げられそうになったが、その瞬間にジョゼが風の命技を使って高速で突撃。獅子の右の頭に飛び付くと、右目に短剣を突き刺した。


「ジョゼ、離れろ!」


 俺が叫ぶと、ジョゼは素早くその場から離れる。

 そして貯め込んだ魂力を爆発させるように解き放つ。


「『奥義・白銀斬破』!」


 俺の放った白い鋼の刃が双頭の獅子へと迫る。

 しかし、双頭の獅子はセレスの命技を反対側の腕の爪を使って斬り裂くと、左へ転がる様にして回避を試みる。

 結果として、俺の魂術は直撃コースから逸れ、双頭の獅子の右わき腹辺りで斬撃が拡散することになった。

 双頭の獅子の身体におびただしい数の斬撃を入れる事には成功したが、仕留めきるには届かず、双頭の獅子は怒りの咆哮を上げながら、俺目掛けて飛び掛かって来た。

 俺は右の爪を『魔導盾』の障壁で受け止めるが、その圧倒的な力と重量で押し潰されるように地面に膝を付いた。


「ぐっ、ま、不味い!」

「お、おじ様から、離れろ! 『紅炎斬』!」


 エマが大声を上げて上級魂術を放つ。

 すると双頭の獅子はその魂術を左の爪で弾き飛ばすと、エマ目掛けて火炎を放った。


「『フレイム・シールド』!」


 ルークが咄嗟にエマを庇い、炎の上級命技で盾を創って火炎を防ぐ。


「うぐっ……、な、何て威力だ……」


 ダメだ。ルークではあの火炎は防ぎきれない。

 俺は双頭の獅子の右前脚で抑えつけられながら、次の手を考える。


「うわあああ!」


 すると、ベラが叫び声を上げながら飛び掛かる。

 双頭の獅子は突然現れたベラに驚いたのか、火炎を放つのを止めてベラへとカウンターを入れた。

 ベラは左の爪の一撃を受けて弾き飛ばされ、泉へと落下。それを見て、セレスが叫ぶ。


「キャシーちゃん! ベラちゃんを!」

「う、うん!」


 キャサリンがベラを救助すべく装備を放り出して泉に飛び込み、同時にセレスが魂力を高める。


「ランバートさん、ごめんなさい!」


 俺はセレスのやろうとしていることを察し、叫ぶ。


「構わん! 俺ごとやれ!」

「『魂術陣』!」

「ぐぅ……」


 セレスは俺のいる場所に『陣』を展開し、双頭の獅子へダメージを与える。すると双頭の獅子はセレスへ目掛けて火炎を放射した。


「『ウォーター・シールド』!」


 セレスは巨大な水の盾を命技で創り出すと、火炎を完璧に防ぎ切った。やはり水属性の命技は相性が良いようだ。となると、双頭の獅子の次の動きは大体予想が付くな。

 幸い、セレスは泉のすぐ近くにいるので、何とか出来るはずだ。


「エマ! シドニー! セレスの足場に『陣』を張れ!」


 双頭の獅子は火炎がセレスに効かないと見るや、『陣』から逃れるために俺を抑え込むのを止めてセレスへ飛び掛かる。


「ジョゼ、頼むぞ!」

「分かってる!」


 ジョゼが風の命技で加速してセレスに突進し、彼女ごと泉へと潜った。

 双頭の獅子はセレスが元々いた場所へ着地することになったのだが、そこは既にエマとシドニーによって地獄の大地と化していた。


「『紅炎陣』!」

「『白銀陣』!」


 地面が金属と炎に包まれ、双頭の獅子は全身に『陣』による激痛を受けた。

 そしてシドニーの金属がエマの炎で溶かされた事でドロドロの液体となり、双頭の獅子の脚が沈み込む。


「くらえっ! 『黒水斬』!」


 俺は何とか立ち上がると、『五行剣』から水の上級魂術を双頭の獅子の首目掛けて放った。

 踏ん張りの効かない足場と、全身に走る激痛によって動きが鈍った双頭の獅子は俺の攻撃を避けることが出来ず、ついにその右首を落とすことに成功した。

 しかし、それによって地面に転がった獅子はエマとシドニーの『陣』の外へと脱出した。

 そして再び立ち上がると、左だけになった頭から怒りの咆哮を発して俺に飛び掛かる。


「くっ、膝がっ!」


 俺は『魔導盾』で防ごうと思ったのだが、先ほどまでの攻撃で痛めたのか、膝に激痛が走り、再び片膝を付いてしまった。


「『フレイム・シールド』!」


 すると、ルークが俺を庇うように前に立ち、炎の上級命技で獅子の攻撃を受け止めた。


「ぐあっ! な、何て重さだ……」

「ルーク! 助かった、あと少しだけ持たせてくれ!」


 俺はルークに守られながら、獅子に向かって右手をかざす。


「お前も味わえ……『逆襲』!」


 俺が右手を握り込むと、『逆襲』の異能が発動し、獅子が後ろ脚から崩れ落ちる。


「やれっ、ルーク!」

「は、はい! 『フレイム・ソード』!」


 ルークは炎の盾を巨大な剣へと変化させると、獅子の首目掛けて振り下ろして両断した。


「――っ! や……やった……?」

「ああ……よくやった、ルーク」


 俺はその場に座り込むと、ルークに労いの言葉をかける。するとルークは気が抜けたようにその場に両手と両膝をついて大きく息を吐いた。

 周囲に視線を向け、駆け寄って来たエマに尋ねた。


「エマ、周りに他の魔物はいるか?」

「い、今のところは大丈夫です。それよりおじ様。怪我をされたのでは?」

「ああ。悪いがこれで治療を頼めるか? 俺は体力を消耗し過ぎた」

「わ、分かりました」


 俺が腰のベルトに金具で引っ掛けていた『霊薬瓶』をエマへ渡すと、エマが命力を使って霊薬を生み出し、俺の膝へかけてくれる。


「どうですか?」

「痛みが引いた。もう大丈夫だ」


 先ほどまでの膝の痛みは、本気で引退を考えるレベルだったのだが、今はもう完全に痛みが引いている。

 俺がこの歳でまだ現役でいられるのも、『霊薬瓶』のおかげだ。


「そうだ。泉へ落ちた奴らは大丈夫か?」


 俺が泉へ視線を向けると、ジョゼとセレスは既に泉から上がってこちらに手を振っていた。あの二人は大丈夫そうだ。

 次にもっと離れた所に見えた二人を注視する。どうやらキャサリンがぐったりと横たわっているベラを看病しているようだ。

 俺はエマから『霊薬瓶』を受け取ると、こちらへ向かって歩き出そうとしていたジョゼ目掛けて投げつける。

 ジョゼが『霊薬瓶』をキャッチしたのを見てから、ベラを指差す。ジョゼは俺の指差す方向を見ると、血相を変えて走り出し、『霊薬瓶』を使ってベラの治療を始めた。

 しばらくしてベラが起き上がり、キャサリンに抱き付かれているのを見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 同じように安心した顔で、ルークが息を吐いた。


「よ、良かった……ベラも無事か。ランバートさん、二度もベラを助けて頂き、ありがとうございます」

「いや、今回助けられたのは俺も同じだ。お前やベラが居なかったら、俺がやられていた可能性もある」

「お役に立てたのなら、良かったです」

「役に立ったなんてレベルじゃなかったよ……さて――全員、集合!」


 俺はその場で立ち上がると、声を張り上げる。すると、周囲に散っていた全員が俺の近くに駆け寄って来た。


「また先ほどの様な魔物がいつ現れるとも分からない。悪いが休憩をすることなく、出来る限り早くこの場を離れたい」

「それには俺も賛成ですが……魔物の素材はどうしますか?」

「これだけ大きいと肉や骨を持ち帰るのは不可能だ。魔石や牙、爪、後は目玉などに限定して解体して持ち帰ろう」

「わ、分かりました。少々残念ですが……仕方ないですね」


 その後は全員で協力して解体作業を行った。

 牙に関しては大きさの問題で犬歯以外は諦めることにしたのだが、ルークはとても残念そうにしていた。

 それでも、獅子の心臓近くから二つの術魔石が取れた事で不満などは無いようだった。俺が取り分をルークのパーティと均等に半分だと言ったのも決め手だったと思う。


「よし、では他の魔物に嗅ぎ付けられる前に、ギルドへ帰還するぞ」

「あ、あのっ、ランバートさん!」


 俺が帰還を宣言したところで、キャサリンがそれを阻むように俺の前に躍り出てきた。


「ん、どうした?」

「実はさっき……泉の下に潜った時に、泉の底に建造物みたいなものが見えたんです」

「建造物?」


 古い遺跡が水の下に沈んでいるということか?


「は、はい。それで……見間違いかも知れないんですけど、泉の底に水のない空間があるように見えたんです」

「……水のない空間」


 普通の人間なら、そんなもの見間違いだと断じるだろう。だが、ここは中央大陸で、俺たちの常識が通用しない物で溢れた場所だ。

 加えて、泉の底にある建造物。

 それらの情報が導き出す答えは、冒険者なら誰もが見当が付くものだった。


「まさか……ダンジョンか?」


 俺の一言で、キャサリン、ルーク、ベラ、シドニーの目が好奇心に彩られた。

 一方で、エマとジョゼ、セレスの3人は気まずそうに顔を見合わせる。

 本当に何の因果だろうか。

 中央南ギルドに所属する冒険者の中で、最もダンジョンに関わりたくないと思っている俺が、再びこの森でダンジョンを発見することになろうとは。

 俺は無意識の内に、仲間たちが残してくれた遺物に手を触れていた。

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