第五話 レオスとEランクパーティ11
Eランクエリアで強い魔物を探して進んでいると、先頭を歩いていたルーク、ジョゼ、ベラが一斉に立ち止まった。ルークが後ろを歩く俺たちに手でストップを駆ける。
ルークが慎重に腰を落としたのを見て、後ろにいた全員が最大限の警戒をしながらも、ルークの下へと近付く。
俺がルークの後ろから前方を確認すると、木々の無い開けた場所があることが分かった。
目に命力を集めて視力を強化すると、より注意深く観察する。
「……なるほど、泉か」
「はい。水を飲んでいる魔物もいます」
「あれは……鹿か? かなり珍しいな」
獣系魔物はこれまで数多く見てきたが、鹿の魔物は数回しか見たことが無い。
「俺は初めて見ました。鹿の魔物はどういった魔物なんですか?」
「以前戦った個体は水の魂術を使って来た。だが、鹿の魔物は水以外にも土や木の魂術を使う個体もいるらしいから、何を使ってくるかは見てみないと分らんな。それなりに素早い上に、魂術主体の戦いをするのでかなり危険だ」
特に中級と上級の複合魂術を使われたら、下手をすれば即死だからな。俺やルークがどれだけ味方を守れるかが重要になってくる。
「ランバートさん、一つ聞きますが、俺たちが戦っても大丈夫な相手ですか?」
「今回は俺たちが奇襲する立場という事を考えると、8割くらいの確率で完勝できるだろう」
「ということは……2割は負けると?」
「いや、負ける確率はほぼない。だが、誰かが大怪我をする確率が1割以上あり、かなり低いが死ぬ可能性もある」
魂術による攻撃を避けそこなったり、防ぎきれなかった場合、前回のベラのように腕を持っていかれたりする可能性は十分にある。もしも運悪くそれが首だった場合は終わりだ。
「ど、どうする、みんな」
ルークが3人の仲間へ問うと、ベラとシドニーがキャサリンへ視線を向けた。こういう時はキャサリンが決めた事に従うスタンスなのだろう。
「……やるわ。どうせ絶対勝てる戦いなんてないんだもの。私たち4人なら大丈夫。いいえ、今回は8人もいるのよ。こんなところで怖気付いていたら、一生Dランクになんて成れないわ」
「う、うん。分かった。ランバートさん、協力して貰えますか?」
「当然だ」
俺は力強く頷くと、剣を抜く。
「ジョゼ、ベラ、お前たちが先陣を切れ。二人の攻撃に続いてエマとシドニーで畳みかけるんだ」
「俺とランバートさんは防御ですね?」
「ああ。だが、状況によっては攻撃にまわってもいい。セレスとキャサリンもだ。事前に考えた通りに戦闘が進むことはほぼない。今回は魔物の情報も少ないから、状況に合わせて各自で考えて動け。もちろん、俺も状況に合わせて指示を出すが、指示待ちになるなよ」
俺は全員の顔を見て意志を確認すると、ジョゼとベラに合図を出す。
「よし、ジョゼ、ベラ、行け!」
俺の合図でジョゼとベラが魔物へ向かって駆け出し、俺たちは全員でその後に続く。
「『ウインド・ショット』!」
ジョゼが牽制として風の中級命技を撃ち、一番手前にいた魔物へ当てる。その瞬間、背後の二匹が飛び退いて戦闘態勢を取った。
「『ウインド・ダガー』!」
ジョゼは飛び退いた二匹を無視して初撃を当てた魔物へ斬りかかる。魔物は身体を捻って首への斬撃を角で受け止める。
「――っ!? 硬い!」
ジョゼの風を纏った上級命技が通らないとは恐れ入る。あの角は生半可な硬度ではないな。ジョゼは体重が軽いし、筋力強化の命技もあまり強くないので受け止められてしまうとかなり不利になる。しかし、これは一対一の戦いではない。この魔物は既に詰んでいた。
「……そこ」
異常なまでの存在感の無さで背後へと回り込んだベラが魔物の後ろ脚の腱を切断する。これにより足の踏ん張りが効かなくなった魔物はガクンと体制を崩した。
「トドメ!」
ジョゼがその隙をつくように魔物の側面へ回ると上級命技で首を斬り落とした。
ほぼ完璧と言っていいほどに鮮やかな奇襲だ。だが、魔物は後二匹残っている。仲間の魔物が死亡したと分かると、後方で戦闘態勢を取っていた魔物二匹が同時に魂術を放った。
とてつもない魂力を感じる。あれをまともに受ければジョゼとベラは即死だろう。
本来はルークに戦闘の機会を与えようと思っていたが、あれは危険だ。悪いが俺が防がせて貰おう。
俺は『魔導盾』を投げると、裏側に嵌め込んだ術魔石の力でジョゼとベラを守る。
「エマは左、シドニーは右だ!」
俺は命力で強化した脚力で上空へと飛び、エマとシドニーに指示を出す。
「『フレイム・ランス』!」
俺は炎の上級命技で『五行剣』を槍に変えると、上空から投擲する。
すると二匹の魔物は俺の読み通り左右へ別れるように回避した。これによって、後方にいたエマとシドニーからは狙いやすい位置になったはずだ。
「『紅炎斬』!」
「『白銀斬』!」
炎の斬撃と鋼の斬撃が放たれ、どちらも魔物へと直撃する。
しかし、ここで五行の相性が結果を分けた。
シドニーが放った金術の白銀斬は魂術の中で最高硬度を持つ鋼の刃であり、ジョゼの上級命技を受け止めた硬い角を斬り落とすことに成功したが、エマが放った火術の紅炎斬は魔物の角によって弾き飛ばされてしまったのだ。
俺は両者の結果を見届けて地上へと着地すると、『五行剣』と『魔導盾』を拾い上げる。
「ランバートさん、トドメはお願いします!」
すると、いつもはあまり主張しないセレスが大声で俺に指示を出した。俺は彼女に言われるままに、素早く五行剣に命力を注ぎ込み、エマが相手をしている方の魔物へ狙いを定めた。
「『魂術陣』!」
セレスがエマを庇うように前に出ると魂術陣を発動して魔物にダメージを与える。魔物は魂術で反撃したがセレスの持つ術魔石の杖によって吸収された。
「『奥義・白銀斬破』!」
俺は一番相性の良さそうな金術の斬撃を放つ。俺の攻撃に気付いた魔物は角で防ごうとしたが、俺の魂術はその角ごと切り刻み、魔物を細切れにする。
二匹目の死亡を見届けると、俺は視界の端に捉え続けていた最後の一匹へと意識を集中させる。
俺たちが二匹目と戦っている間に、三匹目はルークたちが相手をしていたのだが、既に角を一本失っている事で魔物の戦闘力はガタ落ちしており、残った一本の角でルークの剣を何とか受け止めていた。
「ルカ、引いて!」
キャサリンが声を上げ、ルークが魔物から飛び退くように離れる。
すると、キャサリンはバックパックから取り出した魂魔石をいくつも魔物の周りへばら撒いた。
「『黄土陣』!」
キャサリンが叫ぶと、魂魔石の中に貯めこまれていた魂力が土術へと変化し足場がぬかるんだ土へと変化した。
魔物は『陣』による痛みと不安定な足場という二重苦によってバランスを崩す。
「『ウォーター・ウィップ』!」
更にキャサリンは水の鞭で魔物の角を巻き取ると、地面へと魔物を叩きつける。
「みんな、総攻撃よ!」
キャサリンの掛け声に合わせて、ベラが即座に上級魂術で創った短剣を投擲する。
続いてルークとシドニーが同時に攻撃を放った。
「『フレイム・ランス』!」
「『白銀斬』!」
3人の総攻撃を受けて、魔物は完全に絶命した。
俺はルークたち4人の戦いぶりを見届けて、確信する。
まるで暗殺者のように魔物を背後から攻撃できるベラ。希少かつ殺傷力の高い金術を使いこなせるようになってきたシドニー。得意の剣技に加えて槍の遠距離攻撃を習得したルーク。的確な指示と魔石を使ったサポートが出来るキャサリン。
この4人は、既にDランク冒険者に昇格できる実力を持っている。
「4人とも見違えるほど強くなったな。特にキャサリン、君の戦い方はかなり良かったぞ」
「あ、ありがとうございます」
キャサリンはいつの間にか上級命技だけでなく上級魂術まで使えるようになっていた。消耗を抑えるために魂魔石を使用していた事といい、サポーターの素質としてならCランクに届くほどだと思う。
「よし。魔石と素材を少し回収したら、休憩しよう」
冒険者ギルドに帰ったら4人そろってDランクに昇格させてやろうと思いながら、一番近くにあった魔物の死体から魔石を回収していると、突然エマが声を上げた。
「おじ様、何か来ます!」
「何?」
エマに言われて俺も周囲へと意識を向けると、確かに少し離れた所に魂力を感じた。
「確かに、少し離れた所に強めの魂力を感じるな……いや、待て……これは」
魂力がどんどんとこちらへ近付いてきている。
そして、それは当初俺が思っていたよりも、ずっと強力な魂力だった。
「全員、戦闘態勢を取れ! とんでもないのが来るぞ!」
俺が叫ぶと、全員が魔石や素材を放り出して武器を構えた。
もう魂力など関係なく、移動する音で分かる。かなり大きく、強い魔物だ。恐らくは先ほどの戦闘で俺たちの存在に気付き、一直線にこちらへ向かって来たのだろう。
木々が薙ぎ倒される音が森全体に響き、ついに俺たちの目の前に一匹の巨大な魔物が飛び出して来た。
「こ、こいつは……!」
俺たちの目の前に現れたのは、人間3人分ほどの高さがある巨大な獣。
中央大陸に到着した日にモミジたちが討伐した、二つの頭を持つ獅子の魔物だった。




