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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第五話 レオスとEランクパーティ9

「お待たせしました。これが、3人の新しいギルドカードです」


 エマ、ジョゼ、セレスの三人はギルドの受付でバーバラから新しいギルドカードを受け取った。

 3人のカードには大きな文字でDランクと記されている。


「それにしても凄いわね。いくらランバートさんに教わっているって言っても、最年少記録がこうも簡単に塗り替えられちゃうなんて」


 バーバラが先ほどまでのピシっとした態度から一転して、近所のお姉さんのような雰囲気でジョゼの頭を撫でる。


「へへへ……」


 ジョゼが軽く頬を赤らめながら照れくさそうに笑う。Dランク冒険者になっても、ここまで子供扱いされて可愛がられている奴も珍しい。


「あの、最年少記録を更新したのは私も一緒なんですけど……」

「ん? ごめん、ごめん。エマちゃんも凄いわよ」


 バーバラは思い出したようにエマを撫でようと手を伸ばす。しかし、エマは後ろへ下がることでその手を回避し、俺の腕に抱き付いて頭をすり寄らせてきた。


「あら、振られちゃったわ」

「エマ、お前は何がしたいんだ?」

「……どうせ私にはジョゼの様な可愛気はないんです。だったら、おじ様が褒めてくれればそれで良いです」

「ふっ」

「あっ! おじ様、どうして笑うんですか!?」

「いや、可愛いところがあるじゃないかと思ってな」


 俺は子供らしく拗ねるエマを可愛がるように、彼女の黒髪を撫でやった。


「なんか、その可愛いは馬鹿にされているようで嫌です」


 エマは不機嫌そうにそっぽを向きながらも、俺から離れようとはせずに頭を撫でられている。素直じゃない奴だ。


「エマちゃんとジョゼくんが昇格したのは分かりますが、まさか私なんかがたったの一か月でDランクになれるとは思いませんでした」


 セレスが自分のギルドカードを眺めながら、喜びを噛みしめるように呟く。

 中央大陸で冒険者登録してから一か月と数日。

 俺は3人を連れて計4回の採掘活動、16回の探索及び魔物討伐をやり遂げた。これによって3人はEランクへと昇格する条件を満たしたのだが、ハッキリ言って3人の実力は他のEランク冒険者を軽く超えているので、俺がギルドに進言してDランクまで昇格させた。

 エマとジョゼは現在12歳で、俺がDランクへ昇格させるように進言した時はさすがに早すぎるのではと上級ギルド職員たちからストップがかかったが、話を聞きつけてギルドの奥から出てきたギルド長が許可を出したので、晴れて3人そろってDランクへと昇格でいたというわけだ。

 そして、その許可をくれたギルド長だが、やはりというか、俺の知り合いだった。


「君は……南大陸のベアトリクスの娘さんだったね。そう謙遜しなくても、バーバラからの報告を聞く限り、Cランクの魔物を相手に出来るほどの実力があるそうじゃないか。自信を持ちなさい」

「は、はい。ありがとうございます」


 白髪交じりの赤毛にオレンジ色の瞳をしたギルド長は、60代とは思えない若々しく屈強な身体付きの男性で、まるで孫を見るような優しい目でセレスに微笑んだ。

 ジェフリー・オルブライト。

 俺が15歳の時はギルド長補佐官だったのだが、前任のギルド長が引退したことで繰り上がったらしい。ギルド育ちの俺たちにとっては父親的存在だった。


「ジェフリーさんもベアトリクスを知っているんですね」

「当たり前だ。南大陸に突如として現れた超天才剣士。その実力はCランクを超え、Bランクに届くとさえ言われていた。私もいつ彼女が中央へ渡ってくるのかと楽しみにしていたのだぞ?」

「あいつ、随分と期待されていたんだな……」


 実際、ベアトリクスは強かった。誰に教わるでもなく上級命技を使いこなし、3つの属性の適性を持っていただけでなく、戦闘センスが抜群だったのだ。

 あいつとの訓練で手合わせした時は何とか互角に戦えていたが、遺物が無ければ俺など足元にも及ばなかっただろう。


「お母さんがBランク? 昔は強かったって聞いていましたけど、そんなに強かったんだ……」

「レオス、実際のところはどうだったのだ?」

「……全盛期の俺が遺物をフルに使って互角でした。ただ、手加減されていた可能性もありますし、実際はBランク上位程度の実力があったと思います」

「ううむ、実に惜しいな。何故、彼女は中央へ来なかったのだ?」

「単純な話ですよ。あいつは南大陸の男と結婚する道を選んだんです」


 コンラッドには中央大陸でやっていけるほどの強さは無かった。そのせいでコンラッドはベアトリクスに告白するのをギリギリまで悩んでいたのだが、最終的には聞いているこちらが恥ずかしくなるレベルの愛の言葉を叫びまくり、中央大陸へ渡ろうとしていたベアトリクスを引き留める事になったのだ。

 冒険者として将来有望だった彼女の未来を潰したとコンラッドは苦悩していたが、あいつと結婚したベアトリクスの幸せそうな顔を見れば、あの告白は間違っていなかったのだと確信を持って言える。


「なるほどな、ちなみにその男は?」

「南大陸のギルド職員ですよ。コンラッドと言って、俺の親友です」

「コンラッド……?」


 ジェフリーさんはコンラッドの名前を聞くと、何か考えるように顎に手を当てた後でニヤリと笑った。


「なるほど、そういうことか」

「どうしたんですか?」

「いやなに、確かそんな名前のギルド職員がこちらへ異動の申請を出していたことを思い出したのだ。合点がいったよ」

「なっ!? あ、あいつ、そんな事をしていたのか」

「お、お父さんが!?」


 中央大陸のギルド職員なんて基本的には中央出身者か、高ランクの元冒険者くらいしか就くことが出来ない。

 あいつはほとんどダメもとで異動の申請を出していたのだろう。


「レオス、その男は優秀か?」

「……騙されやすいのが弱点ですが、冒険者の実力や将来性を見る目は本物です。こちらへ戻って来て驚きましたが、あいつが認めていた冒険者のほとんどはEかDランクの冒険者として活動を続けていましたから」

「ふむ、ということはFランクへの昇格審査官として使えるか……。いや、そもそも南大陸から渡ってきたFランク達の実力を再審査する役職というのも良いな……」


 ジェフリーさんはブツブツと呟きながら、別れの挨拶すら忘れてギルドの奥へと戻っていく。

 俺はその後ろ姿を見送った後で、セレスへと視線を向けた。


「どうやら、そのうちコンラッドに会えそうだな」

「はい。なんだか嬉しい様な、恥ずかしい様な気持ちです」

「だろうな。だが、ベアトリクスに会えるのは素直に嬉しいぞ」

「お母さんに、ですか? お父さんではなくて?」

「ん? いや、まあコンラッドにも会えたら嬉しいな」

「……もしかして、ランバートさんってお母さんの事……あっ、いや、えっと、何でもないです……」


 俺は何かを言いかけて止めたセレスを見て苦笑する。

 さすがに今の発言は誤解されても仕方ない。


「あ〜、変な事を言ってすまないな。確かに昔はベアトリクスが気になっていたよ。けど、俺以上にコンラッドが彼女に熱を上げていたからな。本格的に好きになる前に身を引いたんだ。今はもうベアトリクスにそういった感情を持っているわけではないから、安心しろ」

「そ、そう……なん、ですか。なんというか、その……私から振った話題ですけど、自分の母親のそういった話は、複雑な気分になりますね」

「うっ……悪かった。コンラッドとベアトリクスには内緒にしておいてくれ」

「言われなくても、言えるわけがないですよ」


 そこで俺は、何故かニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている二人の女の存在に気が付いた。

 バーバラとエマだ。


「聞いちゃったね、エマちゃん」

「ええ、聞いちゃいました」

「お、おい、二人とも。もしもコンラッドがこっちに異動して来ても、今の話は絶対にするなよ?」

「どうしよっか、エマちゃん」

「おじ様、私、新しい服が欲しいです」

「あら、いいわね。私は新しい靴が欲しいわ」

「ぐっ、お、お前らな……」


 大失態だ。今の話はセレスと二人だけの時にするべきだった。


「えっ、何々、レオスさん、何か買ってくれるの?」


 そしてここで何も話の内容を分かっていないジョゼの登場だ。

 俺はジョゼの純粋な目と、バーバラとエマの邪悪な目を交互に見て、妥協案を提出する。


「う、美味い飯をみんなで食べに行くのでは……ダメか?」

「美味い飯!? 俺は賛成!」


 ジョゼが元気よく賛同してくれたが、バーバラとエマはヒソヒソと何か相談している。


「おじ様、お店は私たちで決めても良いですか?」

「む……ま、まあ、良いだろう」

「おじ様の奢りですよね?」

「も、もちろんだ」


 数日後、俺はエマとバーバラが選んだ店にジョゼとセレス、それに何故かジニーとヘレナさんを入れた7人で行くことになった。

 まったく知らなかったのだが、俺がいなかった20年間で中央大陸にも高級料亭というものが誕生しており、馬鹿みたいに高い東大陸料理を奢らされた。

 料理人から聞いたのだが、モミジの行きつけの店だったようだ。あいつ、相当稼いでいるな。

 俺はガクンと減ってしまった貯金を見て、これからはバーバラとエマの前での発言にはもっと気を配ろうと思ったのだった。

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