第五話 レオスとEランクパーティ8
「さて、ジョゼはすでに上級命技が使えるようになったからいいとして、次は上級魂術だな」
俺がそう口にすると、エマとシドニーが待っていたとばかりに目を輝かせた。命技の練習に移ろうとしていたセレスとキャサリンも慌てて俺の下へと戻ってくる。
「エマとシドニーは分かるが、セレスとキャサリンもか? もう少し上級命技に慣れてからの方がどっちつかずにならずに良いと思うが……」
「いいえ、実際に練習するのは後になるかも知れませんが、知っておいて損はないですから」
「そ、そうか」
俺はキャサリンの気の強そうな黄金の瞳に若干気圧されながら、軽く頷いた。
まあ、知識を持っていた方が良いのは確かなので、このまま続けよう。
「じゃあ、まずは上級魂術の基礎知識からだ。全員俺が使っているのを見たことがあると思うが、上級魂術とは『五行変化』と呼ばれている」
「五行変化……本で読んだのでその呼び方は知っていますが、なぜ命技と違って属性ではなく五行という呼び方なのですか?」
「良い質問だな」
エマのタイミングの良い質問に頷きながら、俺は解説を続ける。
「そもそも魂術とは東大陸から流れてきた術で、西大陸の命技は属性、東大陸の魂術は五行と呼んでいるんだ」
「つまりは言葉が違うだけで同じという事ですか?」
「一部同じ部分もある。大きく違うのは、命技は炎、水、土、風の四種類だが、魂術は火、水、土、木、金の五種類だというところだな」
「えっと……風が無い代わりに、木と金があるんですね」
「木と金を使える魂術アタッカーは珍しいから、あまり会えないがな」
モミジが木術を使っていたが、自力で木術を使える冒険者を俺は生まれて初めて見た。おそらく中央南ギルド内で木術を使えるのは彼女くらいだろう。
「おじ様は以前、命技の四属性を使用者の性格から向き不向きを判断していましたけど、魂術にもそういったものはあるのですか?」
「基本的には無いと思うんだが、俺は独自に発見したことがある」
「さすがおじ様です。どのようなことですか?」
「この剣だ」
俺は4人に五行剣を見せる。
「この五行剣は命力を流すとそれを魂力に変換する遺物なんだが」
「い、遺物!?」
遺物と聞いて、キャサリンが声を上げる。
「私たちの怪我を治してくれた瓶と、魔物の攻撃を防いだ大盾は遺物だと思っていましたけど、この剣もなんですか?」
「ああ。あまり広めるようなことは止めてくれよ?」
「わ、分かっていますけど……ランバートさん、ルークに聞きましたけど、本当にダンジョン攻略者なんですね」
俺はキャサリンから向けられてくる羨望の眼差しに耐え切れずに彼女から目を逸らすと、誤魔化すように話を進めた。
「それで、この剣なんだが、実は五行を特に意識しないで使った場合は、一番適性のある上級魂術が出るようになっているんだ」
エマがニコニコの嬉しそうな笑顔でパチンと両手のひらを合わせる。
「では、その剣で私たちが魂術を使えば、私たちの適性が分かるのですね?」
「そうだ。さっそくエマからやってみろ」
俺が五行剣を手渡すと、エマは両手でしっかりと握った。
「あら……思ったよりも軽いですね」
「金属製ではないからな。何で出来ているのかは分らんが」
金属よりも軽いが、何をやっても刃こぼれ一つしない剣。それだけでも十分に五行剣は優秀だ。
「じゃあ、命力を流してみろ」
「はい、いきます!」
エマが五行剣に命力を流すと、それが魂力へと変換され銀色の刀身が紅色へと染まった。
「刀身が赤くなりました!」
「エマは火術の適性があるみたいだな」
「火術……紅炎破や紅炎斬ですよね?」
「そうだ。五行の中で最も破壊力がある術で、アタッカーのお前にはピッタリだな」
「嬉しいです。実は火だったら良いなと思っていたんです」
エマが赤く染まった刀身を眺めて、嬉しそうに言う。
俺はそのままにしておくと危ないので、さりげなくエマから五行剣を取り上げると、シドニー、セレス、キャサリンの3人にも順番に使わせて刀身の変化を確認した。
シドニーは刀身が白くなったので金術。セレスは黒だったので水術。キャサリンは黄色だったので土術の適性があることが分かった。
個人的には金術の適性があったシドニーに期待してしまうな。金術を使える魂術アタッカーを俺は誰も見たことが無い。かなり珍しいはずだ。
「おじ様、魂術は面白いですね。水が青じゃなくて黒なんて」
「まあな。ちなみに術の名前は紅炎、黒水、黄土、緑葉、白銀という。更にその上位術だと名称が変わるが、俺はそれを使える冒険者を見たことが無いし、今は気にしなくて良いぞ」
「上級魂術よりも上があるのですか?」
しまった。おまけ程度の情報だったのだが、思いのほか興味を引いたらしく、エマがワクワクした子供のような顔でこちらを見上げてきている。
いつもは無駄に大人びているくせに、突然子供らしさを取り戻すのだから厄介だ。
「一応、最上級命技と最上級魂術というものが存在するが、それが使えるのはトップ冒険者の中でもごく一部だけだ」
「シドお兄さんとキャシーお姉さんは知っていますか?」
「存在は知っているけど、見た事はないわ」
「僕も見た事はないけど、確かモミジさんが使えるって噂で聞いたことはあるよ」
「モミジお姉さんが……」
俺はそれを聞いて、北門前で双頭の獅子を一刀両断したモミジの命技を思い出した。
あれは間違いなく最上級命技だった。モミジは遺物の能力共々隠し通そうとしているようだったが、あれだけの人前で使っていれば噂くらいはたってしまうのだろう。
今度会ったら、噂になっていることを教えてやろうと思う。
「まあ、その話はこの辺で良いだろう? 今日は夜まで俺が練習を見てやるから、各自取り掛かってくれ」
俺が噂話を早々に打ち切って命技と魂術の練習に移らせると、俺の下にエマとシドニーだけが残った。
「どうした、二人とも」
「おじ様、上級命技は練習法がありましたけど、上級魂術にはないんですか? 何をしたらいいのか分からないです」
「……そう言われてもな。中級命技と同じで、上級魂術は何かの拍子に使えるようになるもので、具体的な練習方法は――」
練習方法が無いと言いかけたところで、俺は言葉を切った。
待てよ?
中級命技と一緒で感情の揺らぎで発言し、後は感覚で使い方を覚えていくのなら、最初から無理やり感覚を覚え込ませれば、習得が早くなるのではないだろうか?
俺はおもむろにエマに五行剣を手渡す。
「おじ様? ……あっ、なるほど!」
俺はエマに頷くと、よく分かっていなさそうなシドニーの肩に手を置いた。
「俺の五行剣を使えばお前たち二人でも上級魂術を使うことが出来る。つまり、上級魂術を使う感覚に慣れることが出来るんだ」
「あっ! そういうことですか!」
「そういうことだ。交代で五行剣を使って上級魂術を放ち、その感覚を身体に覚え込ませろ」
その場の勢いで思い付いた練習方法だったのだが、かなり的を射たものだったらしく、二人はその日の夕方には自力で上級魂術を放つことが出来るようになっていた。
練習方法が良かったと二人は絶賛していたが、俺はいまだに五行剣無しでは上級魂術を使う事が出来ない。
俺は静かに、二人の才能に嫉妬した。




