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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第五話 レオスとEランクパーティ7

 上級命技について教えるため、俺は全員から少しだけ距離を取った。


「知っている者もいるとは思うが、基本から話すぞ。上級命技とは命力の『形態変化』の事を言う。これまでは自身の身体や武器に纏わせるだけだった命力をコントロールして、自分の思い描いた形へと変化させる技ということだ」


 俺は手の先に剣をイメージして命力を集めていく。基本的に命力は透明だが、一点に集めていくと多少濁りの様なものが生じ、そこに命力が集まっていることを目で見ることが出来る。

 今この場にいる全員が、俺が創り出した命力の剣に視線を向けていた。


「コツを掴めば簡単だが、やはり最初は難しい。そういうものだと知っているだけでは上手く出来ないこともあるだろう」


 俺の言葉にルークが頷く。

 彼は上級命技がどういうものかは分かっていても、成功させたことはないのだろう。


「ここで初心者が陥りがちなミスなんだが、最初からこういう何もない場所に命力で武器を創ろうとは思わない事だ」

「えっ? ど、どういうことですか?」


 俺は創り出した剣を消すと、五行剣を鞘から抜く。


「例えば剣を作りたいなら、最初は剣を持った状態で練習するんだ」

「えっ? そ、それだとただの下級命技では?」

「ただ剣に命力を纏わせるだけならそうだろう。だが、この剣を二倍の長さにしようと思えば、それは上級命技になってくる」


 俺は五行剣に命力を纏わせた後で、剣先に命力を集めて剣の二倍の長さの刃を形成した。


「じ、上級命技にそんな使い方があったなんて……」

「知らなくても無理はない。お前たちは幼馴染だけでパーティを組んでいる。上級命技が使えるベテラン冒険者と一緒に冒険をしたことなどないんだろう?」

「は、はい。ギルドにある本にも、上級命技のそんな使い方は書いていませんでした」

「自分の思い通りの大きさや形の武器を創り出せるのが上級命技だからな。本にはわざわざ本物の武器を持った状態で使うなど書いていないかもな。だが、この方が確実にイメージはしやすく、習得も早いぞ」


 俺は五行剣に纏わせていた命力を変化させて、今度は槍の形へと変える。


「け、剣が槍に!」

「応用すると、こういったことも出来る」

「あっ、レオスさんがよくやってるそれって、上級命技だったんだ」


 俺が五行剣を槍の形に変えたことで、ジョゼが声を上げた。そういえば俺が使っている技の詳細をジョゼに教えた事はなかったが、もしかしたら五行剣の能力の一つだと勘違いさせてしまっていたのだろうか?


「俺は剣、槍、斧、槌などの形を状況によって使い分けている。全て出来るようになる必要はないが、自分の使いやすい形を選ぶと良いだろうな。中級命技の属性によって決めるのも良いと思うぞ」

「属性で決めるとはどういうことですか?」

「各属性の特徴を活かせる武器を選ぶということだ。人によって得意武器も違うだろうから、一人ずつ見てやろう。まずはルークからだ」

「は、はい!」


 俺が指名するとルークが嬉しそうに一歩前へ出た。


「俺は普段はこの剣を使っていて、中級命技は炎です」

「剣と炎か。悪くは無いが、槍も使えるようになった方が良いだろう」

「槍ですか……ということは、普段使う武器も剣より槍が良いという事ですか?」

「いや、剣が得意ながら剣で良い。だが、固い殻を持った魔物が相手の時は槍で一点を突いた方が有効な場合があるし、槍は投げやすいから遠距離攻撃にも使える。通常は剣、硬い魔物や近付くのが難しい魔物が相手の時は上級命技で槍を創って戦うのがベストだな。さっきも言ったが、練習する際は本物の槍を持って練習した方が良いぞ」

「確かに投げ槍は強力そうですね。早速ギルドで槍を購入して来ます!」


 ルークは目を輝かせながら俺の話を聞いた後で、槍を買いに訓練場を飛び出して行った。せっかちではあるが、その燃え盛るようなやる気は仲間たちに良い影響を与えていそうだ。


「じゃあ次は……ベラ、お前はどうだ?」

「わ、私は短剣を使っています。中級命技はウォーターが使えますが、戦闘で使ったことは一度もないです」


 水と短剣と聞いて、俺は言葉に詰まる。水属性は刃物との相性がそこまで良くない。尖らせて切断力を上げることが出来なくはないのだが、かなり難度が高いのだ。


「正直に言って、水属性は短剣と相性が悪い……別の武器を使う気はないか? オススメは鞭だ」

「鞭……」

「ランバートさん、ちょっと待ってください」


 俺が鞭を提案すると、ベラとの間にキャサリンが割り込んで来た。


「ベラは短剣を使うのがとても上手いんです。私たちは彼女に何度も助けられてきました。ベラが短剣以外を使うなんて考えられません」

「なるほど……だが、属性との相性が良くないのは事実だぞ?」

「例え属性の相性が悪くても、ベラは短剣を使った方が強いと思います!」

「……そうか」


 そこまで言われると、どれほどのものなのか見てみたくなってくる。

 短剣使いと言えば、短剣と最も相性の良い風属性を持っているジョゼがいるが、果たして風属性のない短剣使いがどこまでやれるのか、これを機に見ておきたい。


「では、少し実力を見せてくれ、ベラ」

「えっ?」

「中級命技のウォーターを戦闘で使ったことが無いということは、お前は下級命技だけで今まで仲間を助けてきたんだろう? それでキャサリンにここまで言わせるという事は、お前の短剣の腕は相当なもののはずだ。俺を納得させてみて欲しい」


 俺は訓練場の真ん中へと移動すると、五行剣と魔導盾を構える。


「俺に一撃入れて見ろ」

「そ、そんな……私なんかが……」

「ベラ、やってやりましょうよ。確かにランバートさんは凄く強かったけど、最初に腕を失ったのがベラじゃなかったら、私たちはあの魔物にあそこまで追い詰められる事は無かった。ベラならきっと、ランバートさんに一撃くらい入れられるはずよ」


 キャサリンに鼓舞されると、それまで不安そうにしていたベラが、唇を引き結んで真っ直ぐに俺を見た。

 恥ずかしがり屋だと聞いていたが、その真っ直ぐな目を見れば、彼女がやる時はやる少女なのだと分かる。

 ベラは俺に向かって数歩近付くと、突如として短剣を投擲して来た。

 動きが機敏で投擲するモーションはとても速かったが、真正面からそんなことをされても、大盾使いである俺には無意味だ。素早く魔導盾で身を守って短剣を弾き飛ばす。

 しかし、そこで不可思議な事が起きたのだ。


「えっ、消えた!?」


 俺とベラの戦闘を好奇心に駆られた目で見守っていたジョゼが、突然の事に驚いて声を上げる。

 先ほどまでベラが立っていたというのに、突如として姿が消えたのだ。

 俺は素早く左右を確認するが、ベラの姿がどこにも見当たらない。

 それは絶対にありえないことだった。

 短剣を俺が弾く瞬間、俺の正面にベラの存在感はまだあったのだ。

 直前まで確かにそこにいたはずで、魂力も気配もそこにあった。だがしかし、本当に突然それら全てが消え失せた。そして左右にも上にもベラの姿はない。


「『アース・ウォール』」


 俺が反射的に背後に土の命技を使って壁を創ると、何かがぶつかる音が聞こえた。

 振り返ると、俺の土の命技に攻撃を阻まれたベラが驚きの表情で立っており、俺に気付かれたことですぐに後方へと飛び退いて距離を取った。


「『アース・ショット』」


 俺が土の命技で作った岩をベラに飛ばすと、再び奇妙な事が起きた。

 俺の攻撃はベラに当たったように見えたのに、次の瞬間には回避されていたのだ。


「……何だ?」


 俺は続けて二発ほど命技を飛ばしたが、やはり違和感と共にベラは攻撃を回避した。

 紙一重で避けているだけではあるのだが、長年の俺の戦闘経験値が異常を感知している。まるで俺の攻撃が明らかな直撃コースだと錯覚させられているような、不気味な感覚だ。

 速さだけならジョゼの方がずっと速い。だが、どういう訳か俺はベラを捉えきれずにいた。


「『ウォーター・ショット』」

「っ?」


 水属性命技のウォーターは単体では殺傷能力が皆無だ。それを飛ばすだけの『ウォーター・ショット』には目くらましや相手を濡らす以外の使い道はない。

 そう。

 それは本当にただの目くらましだった。

 だが、ほんの一瞬、かけられそうになった水を盾で防いだだけで、俺は再びベラを見失った。


「『アース・ウォール』!」


 反射的に先ほどと同じように背後に土の命技で壁を創ると、次の右手側に気配を感じた。

 素早く右手の剣で薙ぎ払うと、そこにいたベラが後方へ飛び退いて距離を取った。

 俺は右手の甲に衝撃を感じて確認するが、血は出ていない。


「…………まさか本当に一撃を入れられるとはな」

「刃が通らなかった……」

「俺の命力強化は下級命技では貫けないからな。だが、一撃は一撃だ」


 あそこまでの接近戦となれば、長剣である五行剣よりもベラが持つような短剣の方が素早く振る事が出来るので有利だ。

 ジョゼと違って動きが特段速いわけでは無いが、接近する技術は異様なレベルで高いと言えるだろう。


「さすがベラね。ランバートさん、分かったでしょう? ベラは短剣を使わせるのが一番なのよ」


 キャサリンがまるで自分の事の様に自慢げに語る。


「……今のベラの動き、普通ではなかったぞ」

「ベラは昔から影が薄いというか、気が付いたら居なくなることが多いんです」

「影が薄い……?」


 先ほどの動きは影が薄いというだけでは片付けられないレベルだったぞ?

 ベラの幼馴染たちはそれで納得しているらしいが、俺はどうにも腑に落ちなかった。同じように変だと思ったのか、エマとセレスも首を傾げている。


「お、お待たせしました! 槍を買ってきました!」


 訓練場に走って戻って来たルークの声が響く。

 見ると、中々に上等な金属製の槍を購入したようだ。


「ルーク、練習用なのだし、使い古された支給品の槍でも良かったんだぞ?」

「いえ、例え実戦で使わないとしても、これから毎日練習で使う物なので、これでいいです」


 ルークは嬉しそうに買った槍を見て言う。

 彼は武器に愛着を持つタイプのようだな。持っている剣や盾も実戦で使って来た割には綺麗だし、しっかりと手入れをしているのだろう。


「それで、ランバートさんは何をしていたんですか? 盾が濡れていますが」

「少しベラの実力を見せてもらっていたんだ」

「なるほど、その水はベラがやったのですね。どうしでした? ベラは強いでしょう?」

「ああ。正直に言って予想以上だったよ」


 俺はベラへと向き直る。


「ベラ、君の戦い方は中々面白い物だった。あそこまで短剣だけで戦えるのであれば、これからもその技術を磨いていくと良い。上級命技が使えるようになれば、君は格段に強くなるはずだ」

「は、はい。ありがとうございます」


 ベラへの指導を終えると、俺は残るシドニーとキャサリンへ視線を向けた。


「シドニーは魂術使いだったな。キャサリンはバランス型らしいが何が出来るんだ?」

「私は中級命技まで使えます。属性は水ですね。武器は魂術の威力を下げないために持たないようにしています」

「なるほど、セレスと一緒だな」

「え? セレスさんは剣と盾を使っていますよね?」

「それはタンクをやる時だけだ。普段は魔石を嵌めた杖を持たせている」


 俺が説明すると、セレスが術魔石の嵌められた愛用の杖をキャサリンに見せる。


「こ、これだよ」

「それ、昨日はエマちゃんが持っていたけど、本来はあなたの物だったのね。南大陸にはBランクの魔物なんて出ないって聞くけど、どこで手に入れたの?」

「これは……ランバートさんがプレゼントしてくれたんだ」

「へ、へえ、さすがランバートさんね……プレゼントで術魔石って、私には想像も付かない話だわ」


 キャサリンは術魔石を羨ましそうに見ながら言う。

 本来はFランクの冒険者が持っているような装備ではないからな。とはいえ、南大陸からやってくる冒険者は一つくらい術魔石を隠し持っていることは稀にあることだ。高価すぎて使わずにバッグの中にしまわれていることが多いので、俺はあえて武器に嵌めて気軽に使えるようにしてやった。

 高価な魔石でも使わないのなら買った意味がないからな。


「セレスは杖から水の鞭を出すのを練習していたよな」

「はい。この前、テレンスさんが使っているのを見て、ようやくイメージが固まったんです」


 そういえば、モミジの仲間のテレンスという青年も水の鞭を使っていた。セレスはあれを参考にしたようだ。


「では、キャサリンはセレスと一緒に上級命技の練習をすると良いだろう」

「分かりました。よろしくね、セレスさん」

「あっ、セレスでいいよ……同い年だし」

「じゃあ、私の事もキャシーでいいわ」

「うん。よろしくね、キャシーちゃん」


 セレスは同年代の友人が出来たことが嬉しいのか、いつもより積極的だ。

 やはりルークたちのパーティと交流を持って正解だったな。

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