第五話 レオスとEランクパーティ6
新しいパーティで初めての採掘活動を終えた翌日。
俺は昼過ぎにエマ、ジョゼ、セレスとギルドの訓練場に集まっていた。
昨日は夕食後にジョゼが疲れから眠ってしまったので、翌日にあらためて話そうという事になり、俺が集合場所に訓練場を指定したのだ。
なぜギルドの食堂でも会議室でもなく訓練場なのかというと、ついでにルークたちに上級命技などを教えようと思っているからだ。
俺たちが到着してからしばらくすると、数人の話し声が聞こえて来て、訓練場にルークたちが現れた。
「ランバートさん、すみません。お待たせしてしまいましたか?」
「いや、俺たちが早く来すぎただけだ、気にするな。それより……」
俺はルーク、ベラ、シドニー、キャサリンと一緒に現れた年上の女性に目を向ける。
「お久しぶりですね。ヘレナさん」
「久しぶり、お互い老けたわね、レオス君」
冒険者としての俺の先輩で、ルークの母親であるヘレナさんは、俺の顔を見て懐かしそうに笑った。
ヘレナさんはギルドで生まれ育った俺にとっては、姉のような存在だった。同じく俺たちの先輩であり、兄のようだったレックスさんとパーティを組んでいたのは知っているが、いつの間にか彼と結婚して冒険者を引退。息子のルークが16歳と言われると、歳を取った事を実感させられる。
「20年ぶりに帰って来たなら、挨拶に来てくれても良かったんじゃない?」
「うっ、す、すみません。ギルドにいればそのうち会うかと思ってました……」
「私は新人育成担当だから、いつもはこの隣にある子供たち用の訓練場で働いているのよ。だから会いに来てくれない限りは中々会えないわ」
「そうだったんですね。バーバラに聞いておけばよかったです」
「バーバラちゃんとは家が近くて結構交流があるのよね。暇なときはバーバラちゃん経由で連絡してくれたら時間を作るから、昔話でもしましょう?」
「分かりました。その時はぜひレックスさんとも話したいです」
「あの人なら、その子たちの昇格審査で会えるわよ。ギルド内で偶然出くわすこともあるだろうし」
「昇格審査? では、レックスさんの担当は」
「ええ。今は上級ギルド職員としてCランクへの昇格審査を担当しているわ」
「なるほど……前途多難だな、ルーク」
俺がルークに同情するように視線を向けると、彼は意外にも何のことか分からないという顔で首を傾げた。
「君はまだEランクだろう? Dランクには俺が認めてやれば昇格できるが、Cランクへはレックスさんの認可が必要になる。そしてあの人は、身内や仲の良い人にやたらと厳しいんだ」
俺の言葉を聞いて、ルークはもちろん、後ろにいた仲間たち全員が血の気の引いた顔色へと変わった。
「何だ? まさかお前たち、レックスさんが自分の息子とその仲間を優遇するとでも思っていたのか?」
「い、いえ、父は真面目な人間なのでそのような贔屓は有り得ませんが、より厳しい目で見られるとは思っていませんでした」
「俺がDランクへ昇格するのも大変だったんだ。お前の場合はもっと大変だと思うぞ」
ヘレナさんが口元を押さえて笑う。
「あれは大変だったわよね。あの人がいなかったら、レオス君たちはもっとはやくDランクになっていたと思うわ」
当時からDランクへの昇格は冒険者の先輩からの推薦制だった。ヘレナさんは俺が13歳くらいの頃にはDランクへ昇格させても良いのではないかと言ってくれていたのだが、レックスさんがまだ早いと言って反対を続けたため、昇格は15歳の時になったのだ。
あの時は不満にも思っていたが、今ではレックスさんの判断に感謝したい。もしも13歳でDランクに昇格などしていたら、俺たちは中央大陸の探索で無茶をやって全滅していたことだろう。
「それじゃあ、レオス君。私は仕事に戻るわね」
「えっ、これからですか? てっきり休みなのかと思っていました」
「ルカがレオス君に訓練場に呼ばれているって聞いたから、顔を見に寄っただけよ。息子の事、よろしくお願いするわ」
「はい、分かりました。少々厳しめでもいいですか?」
「大歓迎よ。ビシバシ鍛えてやって」
ヘレナさんは嬉しそうに笑うと、手を振って訓練場を出て行く。すぐ隣にある子供用の訓練場へ向かったのだろう。
俺がヘレナさんを見送っていると、ルークが嬉しそうに目を見開いて尋ねてきた。
「ラ、ランバートさん。今の話、本当ですか?」
「ん? な、何がだ?」
「俺の事を鍛えてくれるって話ですよ」
「それはそうだろう。でなければ訓練場に呼んだりはしない」
「か、感激です。よろしくお願いします」
ルークが勢いよく頭を下げると、後ろにいた仲間たちもつられるようにして頭を下げてきた。
「おじ様、どういう風の吹き回しですか? 私はてっきり、昨日の話の続きをした後で、私たちの訓練をしてくれるのだと思っていました」
「もちろん、エマたちの訓練も見るが、おそらくはルークたちの訓練も俺が見てやった方が良さそうだからな」
「私はそこが引っ掛かるんですが、ルークお兄さんはご両親が元冒険者なんですよね? ご両親に教わった方が良いのではないですか?」
エマがルークに向かって質問を投げながら、俺の腕に自然な動きで抱き着く。
何となく分かってきたが、エマは俺をルークたちに盗られたくないのだろう。こういうところは子供らしくて可愛いな。
「それは昨日の話の続きになるな。ルーク、昨日聞きそびれたんだが、お前はヘレナさんやレックスさんから上級命技を教わっていないのか?」
「は、はい……俺たちは全員、母に新米冒険者として訓練してもらってFランクまで昇格したんですが、そこからは母の仕事の範疇を越えるという事で、何も教わっていません」
「ヘレナさんはあくまでもギルド職員として訓練を見てくれていたということか。休日にもダメなのか?」
「それは……母はいつも忙しく働いているので、休日にまで訓練を見てくれと頼むのは憚られまして……」
「つまりは、教えて貰えないというよりは、ヘレナさんやレックスさんに休日を使って訓練を見て欲しいと頼むことを、お前自身が遠慮してしまっているということか」
「そ、そうです」
なるほど、本当にルークは超が付く真面目男だったレックスさんによく似ているな。
子供なのだからいくらでも甘えておけば良いものを、実の両親に何を遠慮しているのか。
「お前たちの事情はよく分かった。よく聞いて欲しいんだが、この前の様な窮地に都合よく俺たちが居合わせる可能性はとても低い。今後は自分たちで身を守れるように、上級命技か上級魂術を身に付けてから冒険に出るか、実力のある冒険者のパーティに入れ」
「「は、はい」」
「今から俺が上級命技と上級魂術について教えてやるから、昨日の様な目に会いたくなかったら、死ぬ気で身に付けろ」
「「よろしくお願いします!」」
ルークとキャサリンが元気よく返事をして頭を下げるのを見て、ベラとシドニーが続く。何というか、熱量の違いを感じるな。
基本的にこのパーティはルークとキャサリンが引っ張り、ベラとシドニーが付いて行く形で成り立っているのだろう。
「お、おじ様! 上級魂術ならまず私に教えてくださいよ!」
「い、いや、一緒に教えるから、良いだろう?」
「むぅ……おじ様はこの方々と私とどっちが大切なんですか?」
エマが面倒臭い恋人のようなことを言い出した。どういうわけか、ルークたちに対抗意識を燃やしているようだ。
「比べるまでもないだろう? エマとジョゼは俺の大切な家族だ」
「お、おじ様……」
エマの頭を優しく撫でてやると、エマは年相応の少女の様に笑顔を浮かべた。
咄嗟に出た言葉だったのだが、それによって俺はエマとジョゼが自分の中で本当の家族なったのだと実感する。
出会った頃は一人前になるまでの間の関係だと割り切って父親役をやっていたが、今はもうそんなことは考えていない。
血の繋がりは無いが、エマとジョゼは間違いなく、俺の家族だ。
「じ、じゃあ、おじ様……これからは『お父様』と呼んでも……良いですか?」
「いや、それは今まで通りで頼む」
「どうしてですか!?」
「もう『おじ様』呼びで慣れたからな。今さら『お父様』なんて呼ばれても困る」
「ぐぬぬ……おじ様の馬鹿! ヘタレ!」
「うわっ、痛っ!? エ、エマ、命技で殴るなよ」
少女が駄々をこねるようにポカポカと俺を殴るエマだったが、その一発一発にしっかりと命力が纏わされているおかげで、見かけ以上に痛い。
その後はジョゼとセレスが仲裁に入ってくれたおかげで何とかエマの機嫌が戻り、何故か俺は明日エマと一緒に服を買いに行く約束をさせられた。意味が分からない。
「あ~、えっと、待たせて、すまないな」
「い、いえ、大丈夫です」
ルークたちが苦笑いを浮かべている。
頼れる先輩というものをやりたかったのだが、何だか情けない姿を見せてしまったな。
「それじゃあ、まずは上級命技から教えていくぞ」
俺は気を取り直して、後輩たちへの授業を開始した。




