第五話 レオスとEランクパーティ5
「あらためまして、今日は本当にありがとうございました」
食堂で料理を注文して席に着いたところでルークが深々と頭を下げた。こいつは本当に馬鹿正直で真面目な男のようだ。
「それはもう何度も聞いたよ。それより、仲間を紹介してくれるんだろう?」
「は、はい。では、隣から順番に紹介します」
俺たちは現在、大きなテーブルを挟んで二つのパーティが向かい合うように座っている。俺が一番右端で、左隣りにエマ、ジョゼ、セレスと座っている。
俺の正面にいるルークは、右隣にいたベラから順番に紹介していくつもりのようだ。
「彼女はベラ・オークショット。俺たちのパーティの命技アタッカーです」
俺たちの視線が集まると、ベラは何故か顔を真っ赤にして会釈した。
「ん、どうした?」
「すみません。ベラは大勢から注目されるのが苦手なんです」
「そ、そうなのか」
極度の恥ずかしがり屋ということか。冒険者としては珍しいな。
ベラは一見すると栗色の髪に少し色付いた肌の東大陸系冒険者なのだが、瞳の色が緑色なので西大陸系の血が混ざっているようだ。
先ほど腕を治す際に触って分かった事だが、引き締まってとてもよく鍛えられた身体をしており、無駄な脂肪が一切なかった。ジョゼと同じで高速近接戦闘に特化した回避アタッカーなのだろう。
「次に、彼はシドニー・モーム。魂術アタッカーです」
「よ、よろしくお願いします」
ベラの右隣にいた少年が少し緊張した様子で頭を下げる。
「えっ、男なの?」
ジョゼが空気を読まずに驚きの声を上げた。相変わらずデリカシーに欠ける奴だ。隣にいたエマが叱る様に肩をはたいた。
西大陸系の銀髪碧眼であるシドニーは確かに少女に見えなくもない。中性的な顔立ちに加えて身長も低く髪の毛もやや長めだからだ。
俺は骨格からして男だと分かっていたが、ジョゼには分からなかったようだ。
「ジョー、失礼よ!」
「ご、ごめん」
「私に謝ってどうするの!」
「あっ、え、えっと……」
ジョゼがエマに怒られていると、シドニーが苦笑いを浮かべて言う。
「い、いいよ。よく間違われるし、慣れてるから」
「慣れてる? ……じゃあ、俺と一緒だね」
「え? もしかして、君も?」
「うん。俺、こんな顔だし、いつも大人たちに女の子だと思われるんだ。だからごめんなさい。自分がやられたら嫌な事、兄ちゃんにしちゃったよ」
「……シドでいいよ。みんなにはそう呼ばれているんだ」
「え?」
「君の名前は?」
「えっと、俺はジョゼ! よろしく、シド兄ちゃん!」
「よろしく、ジョゼ」
中性的な見た目の少年二人が意気投合して握手を交わす。
ジョゼが失礼な発言をした時はどうなるかと思ったが、逆に仲良くなってしまうとはさすがだ。これもジョゼの才能だろうか?
「えっと、次に進んでも?」
「ああ、頼む」
ルークは一度俺に確認してから仲間の自己紹介を次に進めた。
「最後はキャシー。キャサリン・アイアランドです。彼女は命技も魂術も使えるバランス型ですね。基本はサポーターですが、状況によってはタンクやアタッカーも務めてくれます」
「よろしくお願いします。今日は助けて頂いてありがとうございました」
キャサリンは礼儀正しく頭を下げた後で、自分を凝視しているジョゼに気付いて気の強そうな金色のつり目を少し細めて微笑んだ。
俺はジニーのおかげで美人の笑顔に慣れているが、ジョゼはまだ慣れないようで顔を真っ赤にして目を逸らした。その後は何故かセレスを見て気分を落ち着けようとしていた。多感な時期だろうし、色々あるのだろう。
「よし、次は俺たちが自己紹介する番だな。俺はレオス・ランバート。経歴は少々複雑なんだが、元々この中央南ギルドで生まれ育った冒険者で、15歳の時に南大陸に渡った。それから20年弱経って、今度はこいつらと一緒に冒険するために戻って来たというわけだ」
「ほ、本当に複雑な経歴ですね」
キャサリンが驚いた表情で言う。
誰が見ても引退間近な中年冒険者なわけだし、驚くのも無理はない。
「戦闘ではタンクとアタッカーを兼任している」
「今日は荷車を引いていましたし、サポーターも兼任しているのでは?」
「それは採掘活動をする時限定だな。俺が何でもかんでもやってしまうとこいつらの成長に繋がらないから、その時々で役割を決めて出しゃばり過ぎないようにしているんだ」
「なるほど、さすがですね」
実際のところ、今日はセレスにタンクを任せて正解だった。おかげで彼女はまた一つ成長し、Cランクの魔物を受け止めることが出来たのだ。
セレスの最大の弱点は自信がないことなので、それを少しでも克服できたのなら良かったと思う。
「それじゃあ、仲間の紹介だ。まずはエマだ」
俺は隣にいたエマの肩に手を置いて紹介する。
「エマ・メイレレス。魂術アタッカーだ。こう見えて、すでに中級魂術は完璧に習得している」
「「えっ!?」」
エマの紹介を聞いて、キャサリンとシドニーが驚きの声を上げた。二人は魂術を使うようだし、中級魂術をマスターしていることがどれだけすごい事なのかよく分かるはずだ。
「私はまだ『破』が使えないわ……あなた、まだ小さいのに凄いのね」
「君、歳はいくつなの?」
「えっと、もうすぐ12歳になります。皆さんはいくつですか?」
「僕たちは今年で16歳だよ」
「皆さん同い年なんですか?」
「うん。同い年の幼馴染4人で組んだパーティなんだ」
多少年齢にばらつきがありそうだと思っていたが、全員今年で16歳なのか。セレスと同じだな。
俺は彼らから昔の自分と似ている部分を感じながら、話を先に進める。
「次に行くぞ。エマの隣にいるのが、双子の弟のジョゼだ。俺と同じでタンクとアタッカーを兼任できるが、基本的にはアタッカーを任せている」
「よろしくね、兄ちゃん、姉ちゃん!」
ジョゼが笑顔を振りまくと、ルークたち全員が顔を綻ばせる。
エマには悪いが、うちのパーティで一番可愛いのは間違いなくジョゼだな。
「そして最後が、セレス・シーン。サポーターだ。採掘活動時は俺と交代でタンクを任せている」
「ランバートさんの代わりにタンクを任されるとは、セレスさんは相当な命技の使い手なんだな」
「えっ、わ、私はそんな大した実力者じゃないですよ」
セレスはルークの言葉を反射的に否定して両手を振る。だが、それは同じ命技タンクであるルークに対しては失礼にあたる可能性があるので、素早く口を挟んだ。
「セレス、謙遜しすぎるのも良くない。お前は上級命技が使えるんだ、間違いなく同年代ではトップクラスの命技使いだよ」
Dランク以上になれば上級の命技や魂術を使えるものだが、EやFランクでは中級止まりの冒険者も多い。
ワニ系魔物に襲われていたルークが中級命技で仲間を守ろうとしていたことからも、彼はまだ上級命技を使えないはずだ。にもかかわらず上級命技を使えるセレスがルークに対して自分を下げて発言するのは良くない。
「上級命技を……それは、ランバートさんに教わって習得したものなのかい?」
「えっと、ち、違います。上級命技は母に教わりました」
「そうか、羨ましいな。セレスさんのお母さんは上級命技まで教えてくれるのか……」
「ん? ルーク、君の――」
俺がルークに質問しようとしたところで、注文していた料理が運ばれてきた。するとジョゼが嬉しそうに声を上げる。
「待ってました! もうお腹ぺこぺこだよ!」
「……確かに、昼も軽めの携帯食だけだったし、俺も今日はそれなりに腹が減っている。ルーク、聞きたいことはあるが、先に食事にさせてくれ」
「はい。そうだ、今日の食事代は俺たちに持たせてください」
そう言うと、ルークは俺の前に小銀貨を4枚置いた。明らかに俺たち4人の注文した料理代を越えた額だ。
「……いいのか?」
「命を助けて貰ったんです。食事代くらい安い物ですよ」
「そうか、では遠慮なく貰っておくよ。ジョゼ、喜べ、おかわり自由だ」
「ホント!? やったぁ!」
俺が小銀貨一枚をジョゼに投げ渡すと、彼は大喜びで近くにいたギルド職員に声をかけておかわりを頼んでいる。食べ終わる前から頼むあたりがジョゼらしい。
「……俺もエールでも頼むか」
食事代として貰った銀貨を懐に入れるのも気が引けるので、今日の夕食は豪華にいかせてもらおう。使い切れない分は食費としてジニーに渡せばいいだろう。
こうして俺たちは、初の中央大陸での採掘活動を大成功で終えたのだった。




