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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第五話 レオスとEランクパーティ4

 エマとセレスと合流し、魔物の残骸を処理して素材と魔石を回収した後で、俺たちはルークのパーティとあらためて話をした。


「お前たち、怪我の具合は?」

「おかげさまで、深かった傷は全て治りました。ですが……」


 ルークは悔しそうな目で仲間の一人へ視線を向ける。


「彼女の右腕はどうしようもありません」


 その少女は右の肘の少し上辺りから腕が無かった。彼女は俺たちの視線からその腕を隠すように左手で残っている右腕を覆った。


「その腕、今の戦闘でやられたのか?」

「はい。あの魔物にいきなり襲われて、最初の攻撃で彼女の腕が斬り飛ばされて……ジョゼ君がその『遺物』で治療してくれたので出血は止まりましたけど、利き腕が無いのでは冒険者を続けられないでしょう」


 俺の質問にルークが苦々し気に語るが、今はそんなことはどうでもいい。問題はその斬り飛ばされた腕の所在だ。


「その腕はどこにある?」

「えっ?」

「斬り飛ばされた彼女の腕はどこだと聞いている」

「そ、それは……おそらく川に落ちたかと……」

「それを先に言え!」


 俺はすぐに川へ向かって駆け出し、戦闘跡がある場所よりも下流へ視線を向けた。一縷の望みをかけての捜索だったが、少し離れた所の岩に人の腕の様なものが引っ掛かっているのが見えて、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 俺は素早く川に入って腕を回収すると、ルークたちの元へと戻る。

 ルークを含めた全員が、俺が何をしているのかと川岸まで様子を見に来ていた。


「そ、それ、ベラの――彼女の腕ですか?」

「腕の状態から見て、そうだろうな。君はベラと言うのか?」


 俺が腕を無くした少女に尋ねると、彼女はこくりと小さく頷いた。


「ベラ・オークショット……です」

「そうか。ベラ、今からこの腕を繋げてやる」

「えっ?」

「で、出来るんですか!?」


 当事者であるベラよりも大きな声でルークが叫ぶ。暑苦しそうな奴だと思っていたが、声も大きいようだ。


「出来る。だが、それにはお前の塞がった傷口を開く必要がある」


 ベラは残っている右上腕を左手で押さえて少しだけ怯えるように表情を曇らせた。


「時間が惜しい。お前たちはベラの身体を押さえて暴れられないようにしろ。相当な痛みを伴うが、俺が必ず繋げてやる」


 俺の言葉を聞いてルークたちは不安そうに目を見合わせる。同年代の男女混合4人パーティ。まるで昔の俺を見ているようだ。

 4人の中で一番年上に見える金色に近い赤毛の女性が口を開いた。


「やるべきよ、ベラ。このままだと、あなたはもう冒険者を続けられない」

「キャシー、ベラの腕の傷を開くんだぞ? そんな簡単に決められる事じゃないだろう?」

「悩むだけ無駄だわ。それに時間が惜しいって言われたでしょ? これからも私たちが4人で活動するなら、今すぐにやってもらうべきよ」

「ぐっ……そ、それはそうだが……大丈夫か? ベラ?」


 ルークがキャシーと呼んだ女性に論破されながらも、当事者であるベラへと伺いを立てる。

 ベラは小さく頷くと、俺に向き直った。


「……お、お願いします。私はまだみんなと冒険がしたい……です」

「よし、そこに仰向けになるんだ。他の全員は彼女の身体を上から押さえるように固定しろ」


 俺に指示されるままにベラは地面に横になると、ルークたちが彼女の身体を地面に押さえつける。エマ、ジョゼ、セレスもやや遠慮がちに彼女の手足を押さえた。


「これをくわえて耐えるんだ。傷口を開いたらなるべく早く繋げるから、それまで何とか我慢するんだぞ?」

「……は、はい」


 俺は木の枝に布を巻き付けたものをベラに渡してくわえさせ、腰のホルダーに入れていた短剣を引き抜いて彼女の右腕と対峙した。


「行くぞ!」


 掛け声をかけると、全員がベラを押さえる手に力を込めた。

 その瞬間に俺は短剣でベラの右腕を先端の骨が露出する辺りまでスライスするように斬り裂く。ベラがくわえていた枝を噛みしめながら悲鳴をあげ、彼女の全身に力が入った。

 俺はルークたちがベラを押さえつけている間に素早く腕を正しい位置に合わせると、上から霊薬瓶の液体を浴びせて腕を接合した。

 霊薬瓶の治癒力は凄まじく、ただ怪我が治るだけではなく腕の血管や神経、骨なども正しい位置へと繋ぎ直されることを経験上知っているので、これで一安心だ。


「よし、終わったぞ」


 俺が終了を告げるとすぐに全員がベラの拘束を解き、彼女の腕を確認した。


「ベラ、大丈夫か?」

「……う、うん……すごく痛かったけど、もう痛くない」

「う、腕は動くのか?」


 ルークに心配され、ベラが確かめるように自分の右腕を動かしてみせる。指先までしっかり動くことを確認して、彼女はホッとしたように息を吐いた。


「だ、大丈夫みたい」

「よ、良かった! 本当に良かった!」


 ルークはベラに抱き付いて大声で喜んだが、抱き付かれたベラは驚きで目を白黒させた後で、恥ずかしそうに頬を染めた。


「ルカ、ベラが困ってるわよ」

「む? す、すまない、ベラ。つい嬉しくて」

「……う、うん。ありがとう」


 ルークはベラから離れると、再び俺に向き直った。


「ランバートさん。あらためて、助けて頂いてありがとうございました」

「ああ、偶然近くにいて良かったよ。今回は成り行きで遺物の力をお前たちに見せたが、出来れば他の冒険者には秘密で頼む」

「それはもちろん。分かっています」


 俺の持っている遺物の内、霊薬瓶は使い方がとても簡単で冒険者なら誰でも使いこなせる。使い方が分かってしまえば、欲しいと思ってしまう冒険者いる。そして人間とは魔が差す生き物だ。盗みの対象にされる可能性も考えて、霊薬瓶の能力は信頼できる者にしか教えたくない。


「ねえ、ルカ。この方たちといつ知り合ったの?」

「ついこの間だ。ランバートさん、仲間を紹介しても良いですか?」

「それなら、ギルドで落ち着いて話さないか? 俺たちは採掘の帰りなんだ。いつ魔石を狙って魔物が集まってくるか分からない」

「し、失礼しました。では、俺たちも護衛として一緒にギルドまで同行します」

「いいのか?」

「はい。助けて頂いた上に、全員の怪我とベラの腕まで治してもらっておいて、護衛程度では釣り合いが取れないかもしれませんが……」

「いや、助かるよ。一緒に行こう」


 こうして、俺はルークのパーティを連れて中央南ギルドへと帰還することになった。

 その後は一度も戦闘することが無かったので、夕方前にはギルドへ到着した。

 待ち構えていたギルド職員たちに紅炎石と魔物の素材を渡すと、俺たちが採掘だけでなく、Cランク相当の魔物を二匹も討伐して来た事に驚いていたが、バーバラが何かを耳打ちすると全員納得していた。恐らくは俺のランクを教えたのだろう。

 他の冒険者が聞き耳を立てているこの場で俺のランクを大声で言わないでいてくれたことには感謝したい。もちろん、ギルドカードを見せてくれと言われたら断れないルールなのだが、直接そんなことを言ってくる冒険者は今のところ居ないようだ。

 俺は採掘の報酬を受け取ると、ルークたちと共に食堂へと移動する。夕食を取りつつ自己紹介をするつもりだ。

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