第五話 レオスとEランクパーティ2
南大陸では魔物を討伐して解体、魔石や素材を持ち帰るのがそこまで苦ではなかったのだが、中央大陸では中々の重労働だ。
そもそも魔物のサイズが大きいということもあるが、ギルドまで距離がある事と道が舗装されていないという事が荷運びの難度を上げている。
また、魔物の血の匂いや魔石が他の魔物を呼ぶ事もあるので、俺たちは大急ぎで倒した魔物を解体し、不必要な部位は炎の命技で焼いた後で土に埋めた。
魔石はかなり純度の高い魂魔石だったのでジョゼが高く売れそうだと喜んだが、売る必要が無いことを言って聞かせた。中央大陸では一度探索に出たら丸一日かけて活動するので、魂魔石は魂力の回復用に自分達で使用するからだ。そもそも南大陸で魂魔石が高く売れるのは、それが中央大陸へ輸送されてここで活躍している冒険者たちに使われるからである。
俺は魔導盾の裏側に嵌めていた魂魔石にヒビが入っていることに気付き、丁度いいので新しい物と入れ替えた。
少し離れた所に放置していた荷車を回収して魔物の素材を乗せると、いよいよ採掘へと取り掛かることにした。
荷車に乗せていたツルハシと紅炎石入りのランタンを持って洞窟へと踏み入る。
「うわぁ、結構奥まで続いてるね」
ジョゼが洞窟の奥を覗いてから、俺の手を握った。どうやら少し怖いようだ。
「あまり奥までは行かないぞ。この辺りの岩を掘るだけでも十分なほどの魔石が取れるはずだ」
「おじ様、Fランクエリアはあまり地形が変化しないそうですけど、どうしてまだ魔石が取り尽くされていないんですか?」
「ここはいわゆる『湧き場』というやつだな。Fランクエリアにもこういう場所がいくつかあって、地形が大きく変わるほどでは無いが、地下から岩が押し出されるように湧き出てくるんだ」
「なるほど……ですがこの形はおかしくありませんか? その説明だと洞窟の形ではなくただの岩山になると思います」
「さっき見ただろう? 魔物の中にはここの魔石を食べる奴もいる。それにギルドで教えてくれるほど知られている湧き場ということは、俺たち以外にも冒険者が何回も採掘に来ているということだ。この洞窟を掘ったのは魔物と俺たち冒険者だよ」
「こ、これだけの洞窟を冒険者が掘ったのですか? 奥は真っ暗で見えませんよ」
「それだけここの魔石に需要があるということだ。俺たちだって、荷車一台分をしっかり持って帰ればかなりの額の報酬が出るんだぞ」
エマが報酬の話を聞いて持っていたツルハシを強く握り直した。やる気が出てきたようでなりよりだ。
「まずはさっきの魔物がかじっていたこの辺りを掘るぞ。出来る限り魔石を壊さないように、外側を砕いていこう。もしも魔石を割ってしまった場合はそこから炎が出るから気を付けるんだぞ」
3人に手本を見せるように下級命技を使用したツルハシを振って岩壁を掘っていく。ある程度一緒掘って3人が慣れてきたところで、俺は採掘を中断して荷車へと戻った。
「レオスさん?」
「俺はもう少し奥で採掘するから、お前たちはこの辺りで目に付く魔石を取っておいてくれ」
「奥って、レオスさんだけで大丈夫?」
「問題ない――いや、一応連絡役として、エマかジョゼが付いて来てくれないか?」
俺が頼むと、ジョゼは咄嗟に目を逸らした。
「えっと……だってさ、エミー」
「……分かったわ。じゃあ、おじ様。私が同行します」
エマは何かを察したように笑いながら、俺の方へと駆け寄ってきた。俺はランタンをエマに手渡すと、荷車を引いて奥へと進む。
ジョゼの意外な弱点を発見してしまった。暗闇が怖いとは、まるで子供だ。いや、まるでではなく子供だったな。
「……ジョゼは可愛いな」
俺が呟くと、エマが気を引くように手を握ってきた。
「おじ様、私は?」
「あ~、エマも可愛いぞ」
「取ってつけたような褒め言葉は嫌です」
「よおし! この辺りにするか!」
「……露骨に話を逸らしましたね」
俺は半目で睨んでくるエマを無視して、良い具合に採掘されていない紅く光る岩壁にあたりを付けて荷車を止めた。
エマは小さくため息を吐くと、荷車の上にランタンを乗せる。持ち物をツルハシに持ち替えたことで気持ちを切り替えたのか、やる気満々の顔で魔石を見上げていた。
「あれを壊さないように外側から掘っていく感じですね?」
「ああ。とはいえ、奥から更に魔石が出てくることがあるから、ある程度砕いてしまっても仕方ない。噴き出す炎にだけは気を付けて距離を取るんだぞ」
「分かりました」
そして数十分ほどエマと仲良く採掘作業を行った。魔石を取りながら少しずつ奥へと進んでいると、エマが突然作業の手を止めて俺に向き直る。
「おじ様、ジョーとセレスお姉さんがこちらへ向かっています」
「入口付近の魔石を取り尽くしたのか?」
「いえ、魔物が近くに現れたのに気付いて、合流するつもりです」
「分かった。場合によっては洞窟内で戦う事になるな……」
洞窟内は広いとは言い切れない上に、紅炎石が至る所にあるので攻撃に巻き込んでしまうと大惨事になることもある。
ここは出来るなら戦闘は避けたいところだ。
「ラ、ランバートさん!」
ジョゼと手を繋いでこちらへ駈け込んできたセレスに俺は手で落ち着くように指示する。
「状況はエマの異能で分かっている。全員魂力を完全に抑えて気配を出来る限り消すんだ」
「は、はい」
ツルハシを武器へと持ち替えると、俺は3人を率いてゆっくりと外へと進み状況を確認した。
明るい外の世界に、ゴツゴツとした体表の黒い魔物が見える。こちらの存在に気付かれないように身をかがめて暗闇に溶け込みながら観察すると、それが巨大な顎を持つ地を這う巨大爬虫類だと分かった。
「……厄介だな。ワニ系魔物だ」
「ワニは南大陸にもいましたけど……あそこまで大きいのは初めて見ました」
「それは魔物ではなく普通の動物だろう?」
「そうですけど、動物のワニでさえ普通の人間は太刀打ちできませんよ」
「まあそうだが、あれは普通のワニの比じゃないぞ。あいつは中央大陸の南部と西部にしか生息していない魔物で、とんでもなく凶暴なんだ。俺は昔一度戦ったことがあるが、かなり苦戦した」
「おじ様が苦戦……ランクはどのくらいなんですか?」
「ワニ系魔物はAからCまでいるが、あれは子供だな。Cランクだろう」
「あ、あの大きさで子供ですか……」
エマが驚くのも無理はない。あのワニ系魔物は一般的なワニと比べてもやや大きいくらいだ。何も知らない冒険者が見つけたら成体だと思うだろう。
「でもレオスさん、Cランクってことはさっき倒したカメと同じくらいだよね?」
「言っただろう? あいつは凶暴なんだ。さっきのカメはかなり大人しい魔物で、魂術を使ってくる前に倒せたから良かったが、あいつはそうはいかない。子供だからどこまでやってくるか未知数だが、大人の個体は当たり前のように上級魂術を連発してくるぞ」
「じ、上級!?」
そうは言ってもやはり子供なので、使って中級魂術までだと嬉しいのだが、そう甘くは無いだろう。もともとはBランクの魔物の幼体だ。油断すれば俺でも苦戦する。
「あの、ランバートさん、さっきから気になっているんですけど」
「なんだ、セレス?」
「あ、あの魔物、私たちに気付いていませんか?」
セレスは洞窟の入り口付近を行ったり来たりしている魔物を見て、不安そうに尋ねてきた。
「ああ、十中八九気付いているだろう。明らかに挙動がおかしい」
俺があっけらかんと言い放つと、3人は声にならない悲鳴をあげてより一層警戒態勢を強くした。
「ど、どど、どうするの、レオスさん? 先手打つ?」
俺の先ほどの説明のせいだろうが、明らかにジョゼは怯えてしまっている。
「まあ、落ち着け。もしかしたらこの場所が良かったのかと思っていたところなんだ」
「どういうこと?」
「先ほどからあいつは入り口をうろつくだけで奥へ入ってこないだろう?」
「う、うん」
「奥には餌になり得る俺たちがいるのに入ってこない。その理由は俺たちを警戒しているという事もあるだろうが、この場所自体にあいつは入りたくないという事だと思う」
「この場所に……もしかして、火の魔石が燃えるのを警戒してる?」
ジョゼの回答を聞いて、俺は褒めるように彼の頭を撫でてやった。
「正解だ。あの魔物は水場によくいる魔物で、今回も川に沿って下って来たと考えられる。しかし、この場所は水のない洞窟で、強い刺激で炎をまき散らす魔石まみれ。不利な環境で俺たちを仕留められるか悩んでいるんだろう」
「へえ……魔物って、そんなことを考えられるくらい頭が良いんだね」
「少なくとも普通のワニよりはな。ということで、俺たちは襲ってきたらいつでも反撃してやるぞという気持ちを持った状態で動かない方が良い」
俺の言葉に3人が頷き、武器を構えてその場で魔物を睨み付けた。
魂力を出すと他の魔物が寄ってくるかもしれないので、眼力だけの威圧だったが子供の魔物には通用したようで、しばらくすると魔物はどこかへと去って行った。
「ふぅ……疲れたぁ」
ジョゼが緊張の糸が切れたようにその場にへたり込む。
エマとセレスも同様に疲れが見て取れた。
「よし、食事休憩にするか」
「賛成!」
「そういえば、お腹が空いています」
「わ、私も」
俺は洞窟の入り口付近へ移動して周囲を警戒しながらも、バックパックに入れていた食料と黒水石を人数分取り出して配る。
いつまた魔物が来るか分からないが、食事は出来る時にしておかないと大変なことになるからな。




