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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第四話 レオスと幼馴染6

「あっ、先輩! 遅いですよ~!」


 空が茜色に染まり始めた頃。

 約束のギルド前へ向かうと、いち早くこちらに気付いたモミジが手を振って出迎えてくれた。


「すまん、遅れたか?」

「いいえ、約束通りです。むしろモミジが早すぎただけですから気にしないでください」


 俺の問いにミツハが淡々と答える。


「昨日は約束だけしてすぐに外へ向かったみたいだが、今日はずいぶん時間があるんだな」


 俺たち冒険者が『外』と呼ぶのは北門の外側、つまり魔物が生息しているエリアのことだ。

 昨日の昼頃、買い物の帰りにギルドの前で偶然出くわしたかと思えば、矢継ぎ早に今日の約束をしてパーティそろって北門へ向かって行ったのだ。あれは余程の事件が起きたに違いない。


「すみません。あの時は緊急の討伐依頼が入ってしまって……」

「Bランクエリアにある森でAランクの魔物が出たんですよ。知ってます? ホワイトメタルジャガーっていうんですけど」

「な、何っ!? もちろん知っているが、本当にいたのか? 目撃例は何十年も前にあったらしいが、討伐された事は一度もないはずだぞ?」


 ホワイトメタルジャガーとは、その名の通り白いジャガーの魔物で、Aランクの魔物だとされている。

 高い身体能力も脅威だが、最も恐ろしいのは金属を生み出す上級魂術を使いこなすと言われていることだ。発見された当時は魂術に関する知識があまりない時代だったので、冒険者たちは手も足も出なかったらしい。


「ふふふ……先輩、今ギルドに行けば見れますよ?」

「お前、まさか倒したのか?」


 モミジは自慢げに指でVを作ってアピールする。相変わらず子供みたいな奴だ。


「モミジ、店を予約しているんだから、そんな時間はないよ」

「え~、先輩にも見て欲しかったのに~」

「レオスさん、とりあえず店に行きましょう。詳しいお話はその時に」

「分かった」


 俺としてはホワイトメタルジャガーを見てみたい気持ちもあったのだが、それは後日でも間に合うだろう。

 肉はすぐに解体して処理されるだろうが、毛皮や骨などは後でも見せてもらえるはずだ。




 ミツハに先導されて少し歩くと、見覚えのある店に到着した。


「ミツハ、予約しているのはこの店か?」

「ええ。個室を予約してあります」

「そ、そうか……」


 3人で店内へ入ると、ふわりとした女性の声が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。3名様で――レオスくん?」


 薄桃色の長い髪の毛を後ろで緩く編んでいるウェイトレスの女性は俺の幼馴染である、ジニーだった。

 モミジが驚いて俺とジニーを交互に見る。


「あ、あれ? 先輩とヴァージニアさんってお知り合いなんですか?」

「まあな。いわゆる、幼馴染ってやつだ」

「幼馴染? 先輩とヴァージニアさんが? ずいぶん歳が離れた幼馴染ですね」

「いや、ごさ――っ!?」


 5歳差だと言おうとした瞬間にジニーが俺の口に手を当てて発言を封じてきた。口元は笑っているが、目が笑っていない。


「レオスくん? 人の年齢をこんな大勢の前で言うのは失礼よ?」

「……す、すまない」

「あれ? ヴァージニアさんって私と同じか、少し下くらいの歳じゃないんですか?」

「こら、モミジ。少しは空気を読め!」


 モミジが空気を読まずにボケた発言をしたが、ミツハが素早く窘める。

 それにしても、やはりジニーは25歳くらいだと周囲には思われているようだな。


「……レオスさん、少々目立ち過ぎたようですね。はやく部屋へ案内してもらいましょう」


 入り口でジニーと騒いていたせいか、酒場にいた冒険者たちの視線が俺たちに向けられている。特に男連中の目が痛いな。若干の憎しみが籠っているのを感じられる。


「ジニー、ミツハが個室を予約しているらしいんだ。案内して貰えるか?」


 俺が頼むと、何故か周囲にいた冒険者たちがザワついた。

 今の発言に何か問題があっただろうか?


「ええ、分かったわ」


 ジニーに連れられて二階の個室へと移動する。

 冒険者たちの睨むような視線から解放されて一息つくと共に、ミツハに尋ねる。


「あいつら、何だってあんなに睨んできたんだ?」

「ここに通い詰めている男性陣からしたら、睨みたくもなると思いますよ。憧れのヴァージニアさんと幼馴染というだけでもかなりのヘイトを買いそうですが、ご両親しか呼ばない愛称で平然と呼んでいましたからね」

「憧れ……ジニーがか?」


 俺とミツハの会話を聞いて、前を歩いていたジニーが困ったような目でこちらへ振り返った。


「あはは……一応全員お断りはしたんだけどね……それからもお客さんとして居着いちゃったのよ。私に対しては礼儀正しいし、無理も言って来ないから気にしてないんだけど、新しく来た男性の冒険者にはああやって睨みを利かせちゃうのよね」

「お断り? 何をだ?」

「レオスさん、どれだけ鈍いんですか。あの人たちは全員ヴァージニアさんに片思い中という事です」

「ヴァージニアさんは中央南ギルドの男冒険者たちの憧れの女性ってわけだからね。先輩が羨ましくてしょうがないんだよ」

「そ、そうなのか。まあ、ジニーは美人だからな」


 俺がそう言うと、ジニーは耳まで真っ赤になった。


「こ、この部屋よ。すぐに料理とお酒を持ってくるから、待っててね」


 ジニーは俺たちを部屋へ案内し終えると、素早く料理と酒を取りに一階へ戻っていった。


「……あ、あんなヴァージニアさんは初めて見ました」


 ミツハが唖然としながら席に着いたので、俺は彼女の向かい側へと腰を下ろす。モミジはミツハの隣に座った。


「ジニーは昔から照れ屋だからな。直球で褒め過ぎたみたいだ」

「いや、あれはどう見てもレオスさんが――って、モミジ? どうしたの?」


 ミツハが何かを言いかけたところで、モミジの顔を見て驚きの声を上げた。

 俺もモミジに視線を向けると、そこには不機嫌そうに俺を睨む後輩がいた。


「レオス先輩。ヴァージニアさんとはどういう関係なんですか?」

「は? だから、幼馴染だと言っただろう?」

「それだけですか? 本当は付き合ってるんじゃないんですか?」

「なっ!? ば、馬鹿を言うな。俺なんかがジニーと付き合えるわけないだろう?」

「どうしてですか?」

「それはその……俺とジニーとでは釣り合いが取れないだろう?」


 俺みたいな引退目前の中年冒険者が美人で人気者のジニーと付き合えるわけがない。そもそもジニーはあの歳で独身なのが不思議なくらいなのだ。


「釣り合いって……レオス先輩。中央南ギルドに移籍したのなら、昇格しましたよね?」

「っ!? なんでそれを知っている?」

「知っているというか、予想が付きますよ。先輩の実績は知っていますから」

「……それもそうか」


 俺がダンジョン攻略者だと知っているモミジなら、昇格するのを予想できても不思議じゃない。


「それで、昇格した今の先輩なら、美人の彼女がいてもおかしくはないですよ。上位の冒険者はそれだけでモテますからね」

「モテるねえ……」

「あれ、全然興味なさそうですね」

「今更、女にモテてもなぁ。30代の後半に入った辺りから、恋愛や結婚は諦めている」


 南大陸でも全く縁が無かったが、自分から良い人を探そうという努力もしてこなかった。

 唯一の不安は年老いた時に孤独になることだったが、今の俺にはエマやジョゼがいるからな。そこに関する不安も既にない。


「先輩~、そこはもっとガツガツしてても良いと思いますよ? 30後半って言っても、先輩はまだ現役の冒険者で、体力もあるんですから」


 モミジが何故か俺を励まそうとしてくれていると、個室のドアが開いてお盆に酒を乗せたジニーが入って来た。


「――な、なんか、お酒が入る前から凄い話してない……?」

「すまん。モミジに色々と勘繰られてな」

「勘繰る? 何を?」


 ジニーがテーブルに酒を置きながら首を傾げる。


「ええい、この際本人に聞いちゃおうっと。ヴァージニアさん、レオス先輩とは付き合ってるんですか?」

「ふぇっ!?」


 ジニーは今まで聞いたことが無い様な声を上げて驚くと、顔を真っ赤にして手を振った。


「つつつ、付き合ってなんていないよ! モミジちゃん、何言ってるの?」

「だって、幼馴染っていっても20年も会ってなかったわけですよね? ヴァージニアさんの年齢を考えても、物凄く幼い頃の記憶しかないわけで、なのにそんなに親しげなのって怪しいですよ」

「そ、そんなこと言われても……」


 ジニーがグイグイ来るモミジにたじろいでしまったので、俺は素早く彼女を庇った。


「やめろ、モミジ。昔の俺とジニーは本当の兄と妹の様に仲が良かったんだ。さすがに今は妹とは思っていないが、話せば話すほどジニーは昔から変わっていないことが分かる。だからお前からは距離が近いように見えるんだろう」

「そ、そうそう。レオスくんとは一緒に住んでるけど、別に付き合ってるわけじゃないのよ」

「っ!? お、おい、ジニー!」

「あっ!」


 ジニーはこのタイミングで最も知られてはいけないことを言ってしまい、個室の空気が凍り付く。

 そしてジニーは苦笑いを浮かべながら個室のドアへと移動した。


「あ、あはは……それじゃ、私は予約してあった料理を運んでくるね?」


 ジニーめ、俺を置いて逃げやがった。

 モミジとミツハの冷たい視線が俺に突き刺さる。


「レオス先輩。詳しく教えてくれるんですよね?」

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