第四話 レオスと幼馴染5
ジニーを含めた4人と一緒に暮らし始めて、二日が経過した。
俺たちは丸一日かけて使っていない部屋の片付けを終わらせると、オードリーの部屋をセレス、マリアの部屋をエマ、ライアンの部屋をジョゼが使うことになった。
ジニーとセレスはそこまで気にしていないようだったが、寝る時と部屋に居ない時はドアを施錠するように頼んでいる。何かあった時に疑われたくないからな。
エマだけはまだ子供という事と、そもそも南大陸でも俺の家に居候していた経緯から部屋を施錠するようにせっついてはいないのだが、部屋から出てきた時に鍵をかけている所を見たことがあるので、自衛は出来ているようだ。
因みに、俺も部屋はそれなりに鍵をかけるようにしているのだが、ジョゼは鍵どころかドアを開けっぱなしにしていることが多い。まあ、その辺りはジョゼが年頃に成長すれば解決すると思うので、好きなようにやらせている。
「レオスさん、明日はいよいよ冒険に出かけるんだよね?」
5人で朝食を食べている際に、ジョゼがキラキラした目で俺を見た。速く中央大陸を冒険したくて仕方がない様だ。
「冒険というか、採掘と魔物討伐だな。色々と揃えたい家具もあるし、お前たちも貯金が減ってきているだろう?」
ジニーを含めた話し合いの結果、ジニーに毎月の生活費を渡して生活用品をまとめて調達して貰う事になった。
俺は長年の貯金があるので余裕の額だったが、エマとセレスはジニーが計算してくれた生活費の額を見て表情を引きつらせていたのを見逃さなかった。ジョゼはよく分かっていなさそうだったが、南大陸と中央大陸では物価が違うのだ。基本的に生活費は5倍以上かかるので、早めに採掘に出て五行魔石だけでも自前で調達しなければ破産するだろう。
「貯金……? エミー、そうなの?」
「余裕があるとは言えないわ。おじ様、採掘と討伐ではどちらの稼ぎが良いですか?」
「今の俺たちはFランクエリアでしか活動できない。となると五行魔石の中でも需要が高い『黒水石』と『紅炎石』の採掘だろうな。自分たちが使う分を確保して、後は全てギルドに買い取って貰える。魔石自体の単価は安いんだが、一定量を持ち帰るとギルドから特別報酬が出るからそれで生活出来るぞ」
中央南大陸ギルドの冒険者が採掘した五行魔石が南大陸へと運ばれて多くの人々の生活を助ける仕組みなので、冒険者に魔物討伐ばかりではなく採掘にも目を向けて貰うための報酬というわけだ。
採掘の特別報酬で生計を立てているベテラン冒険者は他の冒険者に採掘者と呼ばれているが、まだ強い魔物を狩れないEランクやFランクの若手冒険者ならそういった扱いを受けることもない。
「でもレオスさん。採掘ばっかりしていたら、いつまでたっても強くなれないよ?」
「それはそうだ。だから俺がEランクの頃は採掘と同時に必ず一匹は魔物を狩る様にしていたぞ」
「たった一匹?」
「ジョゼ、中央大陸を侮るなよ。Fランクエリアと呼ばれているからって、Fランクの魔物ばかりがいるわけじゃない。Fランク冒険者はそれ以上奥のエリアに入ったら死ぬから注意しろ――という意味のFランクエリアだ」
俺の言葉にジョゼが怯えるように顔を引きつらせた。
「えっ、じ、じゃあ、どのくらい強い魔物がいるの?」
「そもそも、Fランクエリアには魔物がほとんどいない。だが、遭遇した場合はほぼ間違いなくDランク以上の魔物だな」
「それって、遺物を使わないレオスさんと同じくらい強いって事?」
「いや、15歳の時の俺と同じくらいの強さだな。中級命技か中級魂術を完璧に使いこなす冒険者レベルってことだ」
「お、俺より強い?」
ジョゼと比べるとどうだろう?
中級命技の『ウインド・ショット』を船での訓練で習得していたし、互角以上の戦いが出来るとは思うが、ジョゼの方が強いとは言い難い。
「相性にもよるが、無傷では勝てないだろうな。無論、俺がいるから問題ないが、群れに囲まれた場合は逃げるしかない」
「レオスさんが居ても群れには勝てないの?」
「俺一人でお前たち3人を守り切れる保証がないからな。同時に相手をするなら一匹か二匹が限界だろう」
もちろん、もしも群れに囲まれた場合の対処法が無いわけでも無いし、上手くいけば勝てるだろうが、上手くいかない場合は誰かが致命傷を負う危険もある。
マリアが残してくれた『霊薬瓶』ですぐに治療を行えば大抵の怪我では死ぬことは無いが、そんな危ない橋を渡りたくはないからな。俺は誰よりも慎重に動くと決めたのだ。
「まあ、何事も経験だ。ジョゼはその内、俺の様に上級命技を使えるようになるだろうし、落ち込む必要はないぞ?」
「う、うん」
「明日の目標は荷車一台分の五行魔石とDランク魔物一匹の討伐だな。セレス、覚悟しておけよ?」
俺に突然話を振られて、黙って食事をしていたセレスがビクリと驚いて手に持っていたパンを落とした。
「は、はい!?」
「採掘の場合はセレスが一番大変だ。頑張れよ、サポーター」
「えっ、そ、そうなんですか?」
「当たり前だ。荷物運びはサポーターの仕事だぞ? 採掘した魔石を乗せた荷車を引いて帰るのはセレスだ」
やはり分かっていなかったか。もしかして、俺が荷車を引くと思っていたのだろうか?
青ざめたセレスを少し不憫に思ったが、サポーターをやるなら避けようがない道なので、どうしようもない。
「レオスさん、俺がセレスちゃんと代わるよ!」
「お前の持ち味は速さと身軽さなのに、荷物を運ぶのか? ハッキリ言って、俺たちの4人の中で一番力が弱いのがお前だぞ?」
俺が現実を突き付けると、ジョゼは泣きそうな顔で俯いた。
ジョゼは速く走るための命技は誰よりも上手いのだが、重いものを持ったり、衝撃から身を守ったりする命技は一番下手だ。出来ていないとは言わないが、普段命技をあまり使わないエマよりも劣っている。
「……おじ様、ジョーがかわいそうですよ」
「そうだよ、レオスくん。男の子に弱いなんて一番言っちゃダメだよ?」
ジニーが落ち込んでしまったジョゼの頭を撫でながら俺を軽く睨む。
俺はただ真実を言っただけなのだが、もう少しオブラートに包むべきだったか。
「す、すまない。だが、ジョゼには周囲の警戒を頼みたいんだ。俺たちの中で一番身軽で素早いジョゼが適任だ」
「おじ様、それを先に言うべきですよ」
「……その通りだな。悪かった」
「それにおじ様。持ち味を生かすという意味なら、私たちの中で一番体力があって力も強いおじ様が荷車を引くのがいいのではないですか?」
「確かに一番力が強いのは俺だろうが、そうすると俺は戦闘に素早く参加できなくなる。魔物に襲われた際はセレスが俺の代わりにタンクをやることになるが……出来るか?」
セレスはしばらく悩んでいたが、最後は力強い目で宣言した。
「わ、分かりました。その時は私がレオスさんの代わりにタンクをやります!」
「よし、決まりだな。それなら採掘をする際は俺とセレスの役割を交換する方向で計画を立てて行こう」
この年齢で五行魔石を大量に積んだ荷車を引いて帰ってきたら、他の冒険者たちから採掘者だと勘違いされそうだが、せっかくセレスがやる気を出しているので彼女のやりたいようにやらせてやろう。
「じゃあ、おじ様。今日は明日へ向けて稽古を付けて貰えますか?」
「そうだな……午前中は採掘用の装備をみんなで買いに行って、午後からはギルドの訓練場に行くか。夕方までは付き合えると思う」
「それで十分ですよ。というか、日が暮れるまで訓練していたら明日頑張る元気も無くなっちゃいます」
「それもそうか」
明日の事を考えると、今日は立ち回りの練習重視で、あまり戦闘訓練はやらない方が良さそうだ。怪我は霊薬瓶を使えば治るが、体力は回復しないからな。
「私は夕方から仕事だから入れ替わりになっちゃうけど、みんなが明日頑張れるように美味しいご飯を作っておくね」
この二日間、食事はジニーが用意してくれているのだが、本当にプロレベルに美味くて驚いた。家庭的な料理が多いが、味は高級レストランにも負けていないだろう。
ジニーの仕事は両親が経営している酒場のウェイトレスらしいのだが、厨房担当だと言われても信じられる。
「すまない、ジニー。俺は夕方から約束があるから、夕食はエマたちの分だけでいい」
「えっ? そうなの?」
「知り合いと飲みに行く約束があるんだ」
「明日、採掘に行くんでしょ? 大丈夫なの?」
もっともな心配だが、そこまで酒を飲みまくる予定ではないので、明日に響くことは無いだろう。
「ああ。だから少し早めの時間に始めて、そこまで遅くならないうちに帰る予定だ」
「そう……誰と行くのか聞いていい?」
ジニーが探るような目で俺を見る。
隠すような事ではないので、俺は堂々と答えた。
「モミジという名前の、後輩だ」




