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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第四話 レオスと幼馴染4

「……ランバートさん」


 これまで黙って話を聞いていたセレスが、とても真剣な目で俺を見て口を開いた。


「何だ?」

「私……ランバートさんが私たちの意識をダンジョンから地上での冒険へ向けさせようとしていることには気付いていましたけど、それの本当の意味が分かった気がします。ダンジョンとは、巨大な罠のような場所なんですね。異能や遺物、強力な魔物が持つ魔石、冒険者としての名声、そういった欲望を刺激して誘い込み、凶悪な罠で侵入者を捕食する。そういう悪意の塊のような場所なんだって、今の話を聞いて思いました」


 どうやらセレスは俺の思っていた以上にダンジョンに対して警戒心を持ってくれたようだが、もう少し自由に冒険をさせてあげたいという気持ちもある。彼女はエマやジョゼとは違って俺が冒険者になることを手助けしたわけでは無く、自らの意志と力で冒険者になったからだ。

 ダンジョンへ挑むということ自体を絶対にしてはならないことのように扱うと、恐らくは中央南ギルドに所属している他の冒険者たちと考え方が大きく離れてしまい、信頼関係を築くことも難しくなる可能性がある。

 ルークが教えてくれた北の探索隊に入ることを目標として考えると、それでは少々困ったことになってしまう。


「セレスの言う通りダンジョンは悪意ある罠で満ちている。だが、冒険者を続けるならいつかは挑むことになるだろう」

「えっ? それは……どういう意味ですか? 私たちのパーティの目的は、大陸の奥地を見る事ですよね?」

「もちろんそうだが、大陸の奥へ行くという事はBランク……いや、Aランクの魔物を討伐出来る実力が必要ということだ。そのためには、俺たちのパーティだけでは人数が足りない。信頼のおける冒険者を勧誘してパーティの人数を増やすか、別のパーティとレイドを組む必要があるだろう。それこそ、北の探索隊に入ったりなどだな」


 Bランク魔物の強さは見たばかりなので想像がしやすいからか、セレスは当然のように頷いた。


「そこで重要になってくるのは、他の冒険者パーティとの信頼関係だ。俺たちが信用できる冒険者だと知ってもらうには、少なからず他の冒険者の活動に協力的でなければならないだろう」


 俺たちがモミジたちのようにトップクラスの実力者なら何もしなくとも北の探索隊の方から勧誘が来そうなものだが、現実はそうではない。自分たちの実力を他の冒険者たちにアピールする必要があるのだ。そしてそれは、口だけではなく、実際に探索や討伐で見せなければ信じてもらえないだろう。

 エマは俺の言いたいことにとっくに気付いているようだが、ジョゼは小首を傾げている。そしてセレスはというと、小さく「なるほど」と呟いてから意見を述べた。


「つまり、他の冒険者から認めて貰うために、ダンジョン攻略へ協力する必要があるということですね」

「そうだ。もちろん、今の実力ではダメだが、数年後にはそういった経験を積むことになるかもしれないとだけは理解して欲しい。その際はとにかくサポートに回り、無理をしないのが絶対条件だ。それと、他の冒険者が危険な行動に出た際にブレーキ役になってやる必要もある」

「こちらの言う事を聞いてくれない場合はどうするのですか? あまり強く引き留めると、逆に信頼関係を壊すと思いますが」

「自分たちの実力が分からずに制止を振り切って下層へと進むような奴とはそもそも一緒にダンジョンに潜らないのが鉄則だが、場合によっては見捨てて引き返すのもありだ。一緒に心中してやる義理はないし、そういう冒険者とは地上でもレイドを組みたくないだろう?」

「……それは……そうですね」


 セレスは見捨てるという言葉に少しだけ拒否感を覚えたようだが、なんとか納得してくれたようだ。

 するとエマが何か自分の中で気付いたように、ポンっと手を打った。


「冒険者ギルドで感じた値踏みするような視線はそういうわけだったんですね。実力を測るためだけかと思っていましたが、自分たちと上手く連携が取れる冒険者なのか見極めるためにも、皆さん情報収集に躍起になっているということでしょう?」

「若い連中がそこまで考えているかは知らんが、ベテランはそうだろうな。個人的には今日の昼に話したルークは好印象だった」

「私も今、同じことを思いました。ジョーとセレスお姉さんはどうですか?」

「ん? 俺はレオスさんが良いって思うなら、何でもいいよ。人を疑うのは好きじゃないし」

「私は、もう少し様子をみたいけど、確かにあの人はこちらの話をよく聞いてくれる人だと思ったよ。ちょっと、暑苦しい雰囲気だったけどね」


 セレスはルークの馬鹿正直な熱血漢ぶりを思い出したのか、くすりと笑った。


「まあ、レイドを組んだり、ダンジョンに挑んだりなんていうのはずっと先の話だ。それこそ、俺たちが全員でBランクエリアに入れるようになってから考えれば良い」

「確か中央大陸ではランクごとに入れる区域が決まっているんですよね? おじ様がいても私たちはFランクエリアまでなんですか?」

「そうだ。だから、最初はFランクエリアで魔物狩りや採掘をしていこうと思っている」

「楽しみですね」

「だね」

「うん、楽しみ」


 エマ、ジョゼ、セレスの三人はまだ見ぬ中央大陸での冒険に思いを馳せて目を輝かせた。

 そんな俺たちを見ていたジニーが嬉しそうに笑う。


「レオスくん、昔と変わらないね」

「そうか? 一応成長したつもりだが」

「それはそうだけど、楽しそうにこれからの計画を立てているところは昔と同じだよ。まだ冒険者を続けているって知って少し不安だったけど、今の話でレオスくんなら無茶はしないって分かったから、少し安心かな」


 ジニーはソファから立ち上がると、笑顔で提案する。


「そうだ。今日の夕食は私が作るね? あの頃は料理なんて出来なかったけど、今は私も大人だし、成長したところを見せてあげる」

「あ、ああ……それは嬉しいが……」


 待て。少し雲行きが怪しくなってきた。


「今日の――とはどういう意味だ?」


 俺はジニーの冗談かとも思ったのだが、彼女の次の言葉を聞いて、それが冗談ではなく本気だと理解した。


「もしかしてレオスくん、私に料理当番全部任せる気? 別に良いけど、冒険に行かない日くらいは手伝ってよね?」

「い、いやいやいやいや。まさか本当に俺たちがここで一緒に暮らすつもりでいるのか?」

「そうだけど……まさか、出て行っちゃうの?」


 ジニーは悲しそうな目で俺を見る。

 何というか、美しく成長した彼女に言うのは悪いが、その姿は10歳の少女の頃とまるで変っていなかった。俺たちが冒険に出発する際にいつも見せていた表情だ。


「こ、この子達ならまだしも、俺がここで暮らすのは問題があるだろう?」

「どうして?」

「ど、どうしてって……お、お前はもう大人の女性だ。俺の様な男と一緒に暮らすのは問題があるに決まっている」


 俺がそう言い切ると、ジニーは顔を赤くして目を逸らした。


「……私は、気にしないよ?」

「なっ!?」


 それなら、そんな顔を赤くして言うな。こっちまで恥ずかしくなるだろう。

 俺とジニーが何とも言えない空気を作り出してしまっていると、ジョゼが面倒臭そうに言った。


「レオスさん、何を遠慮してんのさ。ここは元々レオスさんの家なんでしょ? 部屋の数も人数に会うし、ジニー姉ちゃんも良いって言ってるのに何が嫌なのさ」

「ぐ……そ、それは」

「あの、ランバートさん。気にされていることは何となく分かりますけど、この家は元々シェアハウスとして建てられたものですよね? さっきお手洗いに行ったんですが、男女で分けて作られていて驚きました。そういう空間がしっかりと守られているなら、私は一緒に暮らしても問題ないと思いますよ?」

「そうそう。セレスちゃんの言う通り。レオスくんだって知っているでしょう? この家、お風呂も二つあるじゃない」

「そ、そういえば……そうだったな」


 よく考えたら、セレスも年頃だし本来は俺が一緒に暮らすのは不味い。だが、この家ならそこまで問題にならない造りであることを思い出した。

 俺たちは鍵などかけて生活していなかったが、一応二階の部屋には鍵がかけられるようになっているし、風呂とトイレは二つある。


「分かったよ。一応再確認するが、ジニーとセレスは俺が一緒に暮らしても問題ないんだな?」

「ええ、むしろ嬉しいわ」

「私も問題ありません」


 こうして俺は、エマとジョゼ、セレス、ジニーの4人と一緒に暮らすことになった。

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