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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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外伝 若手冒険者は好奇心が絶えない2

 ギルドカードを受け取って顔色を変えたレオスはバーバラと二人で話したいと言って受付の奥へと入っていく。取り残されたエマ、ジョゼ、セレスの三人は仕方なくギルドの食堂へ向かう事にするのだった。

 エマは近くにいた金髪の青年に声をかける。


「すみません、食堂へはどうやって行ったらいいですか?」

「ん? 食堂なら、あの扉の先だ」

「ありがとうございます」


 お礼を言って食堂へ向かおうとすると、青年が手で軽く行く手を阻んだ。


「あっ、少し待ってくれ」

「な、何でしょうか?」

「君たち、南大陸から来た新人だろ?」

「はい。エマと言います」

「俺はジョゼ」

「わ、私はセレスです」


 エマは堂々と、ジョゼはにこやかに、セレスは少し怯えながら名乗ると、青年は笑顔で力強く名乗った。


「俺はルーク・オルセン。16歳。Eランクだ」

「……オルセン? ねえ、セレスちゃん、さっき聞いた名前だよね」

「うん。確か、ヘレナ・オルセンさんってバーバラさんが言っていたよ」

「……それは俺の母の名だ。そんなことよりも、君たちに少し聞きたいことがある」


 セレスはルークが嫌そうな顔で自分の母の話題を流したのを見て、少しだけ共感した。彼女も他人に母親であるベアトリクスの話をされるのが嫌だったからだ。


「先ほどまで君たちと一緒にいた――」

「――あの、兄ちゃん」


 ルークが質問をしようとした矢先、ジョゼが腹部をさすりながら言葉を遮った。


「俺、お腹減っちゃった。話は食べてからじゃダメ?」

「ん? 気が回らなくてすまなかった。では、こういうのはどうだろう。今日の昼は俺が奢るので、君たちについて教えてくれないか?」

「えっ! いいの?」


 奢るという言葉にジョゼが嬉しそうに喰い付いたが、エマが素早くブレーキをかける。


「ジョー、待って。お兄さん、どうしてそこまでして私たちの事が知りたいんですか?」

「それを説明しても良いが、本末転倒ではないか? 先に昼食にしたいのだろう?」

「そ、それは……」

「そう警戒しないで欲しいな。危害を加える気はないし、奢られたからといって言いたくない事まで言えとは言わないよ」

「わ、分かりました。そういうことであれば、お昼は奢って頂かなくて結構ですから、情報交換と行きましょう」


 エマが提案すると、ルークはにっこりと笑った。


「いいだろう。では、俺の質問の後で、君たちも好きな事を俺に聞くといい」


 こうしてエマたちはルークと共に食堂へと向かうのだった。




 食堂で少し大きめのテーブル席を確保すると、エマたちはルークに勧めてもらった獣系魔物の肉を使ったピザを注文した。

 魔物と聞いて最初はエマが嫌がったのだが、中央大陸では魔物の肉を食べるのは普通の事であり、別の席で食事していた冒険者が美味しそうに食べているのを見て首を縦に振った。


「さて、さっそく聞きたいのだが、君たちと一緒にいた男性は何者だい?」


 ピザが焼きあがるのを待つ間に、ルークが質問する。ちなみに、ジョゼは焼きあがるまで待てなさそうだったので、繋ぎとしてパンを一つ買って先に食事を開始していた。


「何者と言われても……レオス・ランバートおじ様です」

「やはりあの人がレオス・ランバートだったか。そして君たちはその弟子というわけか」

「弟子……まあ、一応そうなりますね」


 レオスがエマたちの師匠であることは事実なのだが、エマはいよいよレオスの事を家族だと思うようになっていたので、師弟として扱われることに少しだけ不満があった。


「そうか……ならば君たちは、ダンジョンについて何か聞いていないかい?」

「ダ、ダンジョンですか?」

「ああ。知っているだろう? ランバートさんは20年以上前にダンジョンを攻略した。俺が知りたいのはそこなんだ。どのようなダンジョンを攻略したのか、魔物や罠はどのようなものだったのか。ダンジョンマスターの強さはどの程度なのか。知っていることがあれば教えて欲しい」


 エマはルークの目から純粋な好奇心だけを強く感じ取った。裏表など一切なく、彼は本当にダンジョンについて知りたいだけだった。


「あいにくですが、ダンジョンに関しては私たちも教えてもらっていませんので、何も答えられません」

「……口止めされているわけでもなく、何も教えてもらっていないのかい?」

「はい。私たちの目標はダンジョン攻略ではなく、大陸奥地の探索ですから」


 エマの回答にルークは不思議そうに首を傾げた。


「大陸奥地だって? それなら、尚更ダンジョンを攻略した方がいいではないか」

「え? どういうことですか?」

「ダンジョンで異能や遺物を手に入れてランクを上げることで北の探索隊に選ばれやすくなるだろう? 大陸奥地を目指すなら、北の探索隊に入るのが一番近道だ」

「北の探索隊……?」


 エマはルークの話に付いて行けず、セレスに視線を向ける。しかし、セレスも困った表情で首を横に振った。

 二人の反応を見て、ルークはエマとセレスが本当に何も知らないのだと理解する。


「南大陸ではこの大陸の北部について教わらないのかい?」

「他人がどうかは知りませんが、おじ様から教わった事はありません」

「私の両親は南大陸のギルド職員ですが、中央大陸北部については三大陸共有の土地であり、基本的に冒険者は立ち入らないとしか知りません」


 エマとセレスの話を聞いて、ルークは爽やかな笑顔を浮かべて宣言した。


「そういうことなら仕方ない。まずは俺が情報を提供しよう」

「――ほう、それは助かるな。俺も同席していいか?」


 突然後ろから声をかけられて、ルークは驚きながら振り向く。

 そこには、金属とは違う異様な雰囲気の大盾を持った中年冒険者――レオス・ランバートの姿があった。


「おじ様、もうお話は終わったのですか?」

「ああ。それより、エマ。彼は何者だ?」

「はい。この方は――」


 エマが紹介しようとすると、ルークはそれを制止するように手のひらをエマへと向けた。素早く席から立ち上がって一礼すると、レオスの目を見て元気よく名乗る。


「俺はルーク・オルセンと言います。お弟子さんの三人とは情報交換をさせてもらっていました」


 レオスはルークの爽やかな熱血美少年ぶりに圧倒されながらも、オルセンという苗字を聞いて彼に対する警戒心を緩めた。


「そ、そうか……君はレックスさんの息子だな?」

「はい。俺は母似だと言われていますが、分かりますか?」

「髪の毛はヘレナさん譲りのようだが、その生真面目な態度と大きな声は、間違いなくレックスさんの遺伝だろう」


 レオスの感想を聞いて、ルークは嬉しそうに口角を上げた。


「そう言って貰えたのは初めてです。父は俺の目標で、父の様になりたいと思っています」

「そ、そうか、頑張れよ」


 レオスはルークの肩に軽く手を置いて応援の意志を示した後で、空いていた席に着く。同時に頼んでいたピザが焼き上がり、運ばれてきた。


「懐かしいな、若い頃によく食べたのを思い出す」

「おじ様の分も頼んでおきましたので、一緒に食べましょう」

「ああ」


 レオスたちは冷めないうちにピザに口を付ける。20年前から変わらない味に、レオスは10代の頃の記憶を思い出した。


「…………ライアンの好物だったな」

「ん? おじ様、何か言いました?」

「いや、何でもないよ。それよりルーク、さっきの続きだ。北部について教えてくれるんだろう?」


 レオスに声をかけられ、ルークは素早く手に持っていたピザを口の中へと放り込んだ。数秒後に全てを飲み込んだ後で口を開く。


「分かりました。ですがその前に、俺にダンジョンについて教えてもらえませんか?」

「何?」

「あなたはダンジョンを攻略したのでしょう? ダンジョン攻略は俺の目標なんです」


 エマとセレスはルークが触れてはいけない内容に触れたと思ったが、二人の予想に反して、レオスは冷静に返した。


「……君のランクは?」

「Eランクです」

「ならダメだ」

「ど、どうしてですか!」

「俺はさっき、ギルド職員から新しいランク制度について教わって来たばかりだ。俺がここに所属していた20年前とはずいぶんと変わっていてな、なんでもダンジョン攻略には最低でもDランクでなければ参加できないらしい」


 レオスにランクのことを指摘され、ルークはバツが悪そうに顔をしかめた。どうやら彼もその事は理解していたようだ。


「お前がもしDランクに昇格したなら、その時は俺の経験したことを教えてやらんでもない。だが、今のお前には教えられないな」

「わ、分かりました。では、俺がDランクに昇格した時に、もう一度お尋ねします」


 ルークは気持ちを切り替えるためにテーブルに置いてあった水の入った木製のマグを手に取って、一気に飲み干した。


「――では、大陸北部についてお教えします」

「いいのか? こちらだけ情報を貰って」

「……俺の持っている情報はギルド職員に聞けば教えてくれる内容ですから」

「そうだったのか。正直だな」

「それが取り得です」


 レオスとしてはこの後でギルド職員に聞いても良かったが、せっかくなのでルークの話を聞くことにした。


「中央大陸には中央東、中央西、中央南の三つのギルドが存在しています。そしてそれぞれが東部、西部、南部を探索していたのですが、一向にダンジョン攻略が安定せず、稀に発見される大規模ダンジョンに関しては、いまだに攻略者が一人も出た事が無いのが現実です」

「大規模ダンジョンか……たしか、中央西ギルドの連中がギルドマスターのところまでは到着したことがあるらしいが、あまりの強さに撤退したと聞いたな」

「はい。それでも何とかして大規模ダンジョンを攻略したかった東西南のギルドは、自分のギルドの実力者を選出してレイドを組ませ、大陸北部に存在する大規模ダンジョンを攻略することにしたんです」


 そこまで聞いてエマがなるほどと手を叩いた。


「その実力者のレイドが先ほど言っていた北の探索隊ということですね」

「その通り。そして、その北の探索隊の力を持ってしても、大規模ダンジョンは攻略できなかった。おかげでギルド側は二年前からダンジョンの攻略よりも大陸の中心にあるガイストホルンの登頂を目標に変更したんだ」

「ガイストホルン?」


 エマが首を傾げると、ルークよりも早くレオスが説明した。


「北に見えている巨大な山のことだ。大陸の丁度真ん中にあり、いまだ誰一人として登頂に成功した者はいない。それ以前に、麓に辿り着けた冒険者もいないだろう」

「それは少し違います」

「何? ではその探索隊が登頂したのか?」

「いえ、探索隊はあなたの言う通り麓にも辿り着けていません。ですが、戻ることを考えなかった冒険者は登頂した可能性があると父から聞きました」

「……なるほどな。かもしれんが、それは確認のしようがない」


 中央大陸を探索する際に一番のネックは、夜行性の魔物だ。南大陸にはほとんど現れないが、中央大陸にいる魔物は平気で夜も活動する。夜の闇の中では人間側があらゆる面で不利であり、休息をとる時間も場所も確保できないとなれば、帰還するより他にないのだ。


「ルークと言ったな。君の言いたいことは分かった。つまりは大陸の奥地を探索するなら北の探索隊に入るのが一番であり、その北の探索隊に入るにはダンジョンを攻略するのが手っ取り早い、ということだろ?」

「その通りです」

「一つ聞きたいが、北の探索隊に入る条件はダンジョン攻略者であることなのか?」

「い、いえ、人選はギルド長が決めますので条件は分かりません。ですが、今のところ選ばれているのはダンジョン攻略者が率いるパーティです」

「それはつまり、俺のパーティは条件を満たしているというわけだな」


 レオスの言葉にエマとセレスが頷き、ジョゼが目を輝かせた。


「レオスさん、俺その探索隊に入りたい!」

「ああ。そのためには、お前たちの実力をギルド長に認めさせる必要がある。最低でも、全員Dランク以上は欲しいところだな」

「Dランク……なれるかな?」

「俺が15歳で到達できたランクだぞ? ジョゼならもっと早く昇格できるはずだ」

「うん。頑張ろう、エミー!」

「ええ。若い頃のおじ様に追い付いてみせるわ!」


 ジョゼが元気よく答え、エマとハイタッチする。その向かいの席でセレスは不安そうに手を握りしめていた。

 レオスから見ればセレスも十分に才能ある若手なのだが、すぐ近くに本物の天才がいるせいで自分の実力に自信を持てなくなっていた。

 レオスがセレスの様子に気付いて何か声をかけてやろうと思っていると、ルークが困惑した表情で質問した。


「あ、あの、待ってください。ランバートさん、あなたはお弟子さんの付き添いで中央南ギルドにやってきただけでなく、パーティのリーダーを務めるつもりなんですか?」

「ん? 当たり前だろう?」

「し、しかし、中央大陸での冒険者の引退年齢の平均は30ですよ?」

「そんなことは知っている。だが、俺はこいつらと冒険がしてみたいと思ってしまったんだ。君も冒険者なら分かるだろ? 例え10代、20代の頃より体力が衰えていたとしても、俺はこいつらと一緒に冒険して見届けたいんだ。まだ見ぬ景色、まだ見ぬ三人の成長を、な」


 ルークはレオスの話を聞いて、自分はなんて馬鹿な事を聞いてしまったのだろうと後悔した。冒険者なら、常識よりも好奇心が勝るに決まっているのだ。だからこそ自身がまだDランクにすらなれていないというのに、ダンジョンの詳細をレオスに尋ねたのではないか。

 実力が足りないのにダンジョンに挑みたいルークと、体力のピークを過ぎたのにまだ冒険がしたいレオス。両者に違いなど全くなかった。

 ルークは素早く頭を下げる。


「失礼なことを聞いてしまい、すみませんでした」

「いや、気にするな。当たり前の反応だ」

「当たり前……ですか。俺は父に当たり前のように「お前にダンジョン攻略はまだ早い」と言われるのが嫌でした。自分がされて嫌な事をあなたにしてしまった。本当に申し訳ありません」

「顔を上げてくれ、俺から君に頼みがある」


 ルークは予想していなかったレオスの言葉に驚き、テーブルに擦り付けるように下げていた顔を上げる。


「頼み……ですか?」

「ああ。見ての通り、俺はエマたちと年齢が離れ過ぎている。場合によっては、君の様な同年代の若者の方が話しやすいこともあるだろう。もし、三人が困っている所を見かけたら、君の出来る範囲で良いから、力になってやってくれないか?」

「……そんなことで良ければ、喜んで引き受けます」

「助かるよ、ルーク」


 こうして、レオスとルークはパーティの垣根を超えて協力関係を結んだ。

 レオスが10代の頃と違い、自分のパーティメンバー以外は競争相手という認識が強い現代においてはとても珍しい関係だったが、ルークはその申し出を自然に受け入れた。レオスの事をそういった競争心とは無縁の人物だと思ったからである。

 ルークはいつかレオスのパーティとレイドを組んで冒険してみたいと、心の中で思うのだった。

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