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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第四話 レオスと幼馴染

 中央南ギルド。

 俺が物心ついた頃から暮らして来た実家の様な存在であり、本当の家族の様に思っていた幼馴染たちと共に過ごした思い出が詰まった大切な場所。

 だが、20年という時の流れによって、ギルドの内装は俺の記憶とは別のものに変わっていた。

 当たり前の話だが、ギルド内で過ごしている顔ぶれも、俺の記憶の中とは全く違った。多くの人々の視線が俺たちに突き刺さる。

 一瞥して興味を失ったように目を逸らす者、逆に興味深げにこちらを値踏みするような視線を向ける者、中には見下すような目を向けている者もいる。


「レ、レオスさん、なんかレオスさんだけじゃなくて、俺やエミーも目立ってない?」

「……やっぱり、私たちの肌が珍しいのでしょうか?」


 ジョゼが居心地悪そうに俺の手を握り、エマが自分の褐色の肌と他人の肌を見比べて呟いた。


「西や東と違ってここは多くの人種が混じっているギルドだ。俺も西大陸系と東大陸系のハーフだし、南大陸からやってくる冒険者は西大陸系と南大陸系のハーフもいる。エマたちほど濃い肌の色は多少珍しいかも知れないが、ここの奴らは肌の色なんて大して気にしてはいないよ」

「でも、明らかに注目を集めていますよ?」

「それは俺たちが新顔だからだ。ここの連中の興味は俺たちが強いか弱いかだけだからな」


 優秀そうなら声をかけてレイドに誘い、場合によってはパーティに勧誘する。昔からよく見る光景だ。自分がやられる側になる日が来るとは思わなかったが。


「例えばすぐに目を逸らしたあっちの隅にいる奴ら。あいつらはかなり上のランクだろう。俺を見た後でエマたちに視線を移してすぐに興味を失った。恐らくは俺を引退間近で若手の育成に力を入れているベテランだと考えたんだろう」

「どうしてあの人たちが上のランクだって分かるの?」

「……さっきから俺たちをじっと見ている若い連中が何人かいるだろう?」

「うん」


 俺が周囲に聞こえないように小声で話しかけると、ジョゼも小声で返して来た。冒険者の中には命力で聴覚を強化できる者もいるので小声でのヒソヒソ話など大して意味をなさないが、堂々と話す内容でもないので一応声を抑えることにした。


「あいつらはまだまだ若手で、新人だろうと有望そうなら勧誘しようと思っているんだ。だが、上のランクの奴は自分たちと近いランクの冒険者しか勧誘しようとは思わない。下手に下のランクの冒険者をレイドやパーティに入れると強敵との戦闘で足手まといになるし、育成にも時間がかかるからだ。お前たちを見てすぐに興味を失ったって事は、お前たちがどれだけ将来有望な新人だろうと、今はまだ勧誘すべきじゃないと判断したに違いない」

「な、なるほど」


 因みに、三人に説明する気は無いが、俺を見下すような目で見ている若い連中は南大陸で見た事がある顔ぶれなので、俺の事を知っている奴らだ。

 生き残って中央で活動できているのは喜ばしいが、彼らと交流するつもりはない。


「そういうわけだから、あまり気にしすぎるな。とにかく今は移籍の手続きを済ませるぞ」


 俺は少し怯え気味な三人を連れて、ギルドの受付へと移動する。

 受付には赤い巻き毛が特徴的な女性の職員が立っていた。南大陸系の血が混じっているのか、肌の色がエマたちに近い。


「こんにちは。もしかして、あなたがレオス・ランバートさんですか?」

「ああ」

「良かった、無事に到着したんですね。タチバナさんたちが報告に来ないから、どうしたんだろうと思っていたんです」


 どうやらギルドへの到着報告はモミジたちが行うはずだったようだ。


「モミジたちなら北門付近に出た魔物の解体作業で遅れている。作業が終われば報告に来ると思うぞ」

「そうでしたか、さっきまで冒険者の皆さんがざわついていたのはそういう訳だったんですね。あっ、申し遅れました、私はここの受付を担当しているバーバラ・アトリーです」

「よろしく。アトリーさん」

「バーバラで良いですよ。私の方が年下ですし、まだここに勤めて8年しか経ってないですから、ランバートさんの方が先輩です」


 8年も務めていればそれなりにベテランな気もするが、競争率の恐ろしく高い中央大陸のギルド職員の中では後輩なのだろう。


「分かったよ、バーバラ。それで……俺の事を誰かから聞いているのか?」

「はい。ヘレナさんから少しだけ聞いています」

「ヘレナさん? もしかして、ヘレナ・オルロープさんか?」

「オルロープ? ヘレナさんは、ヘレナ・オルセンさんですよ。今はギルドで新人育成を担当しています。ランバートさんとは顔見知りだと聞いていますよ?」

「オルセン……なるほど、そういうことか。確かにその人とは知り合いだ」


 ヘレナさんはCランク冒険者だったが、引退してギルド職員になったようだ。オルセンという苗字からして、いつも一緒にいたレックス・オルセンさんと結婚したのだろう。


「それでランバートさん。後ろの若い子たちを紹介してもらっていいですか?」

「ああ。右からエマ・メイレレス、ジョゼ・メイレレス、セレス・シーンだ」


 バーバラは俺から聞いた三人の名前を何かの書類に書き記しながら話しを続けた。


「……エマ・メイレレス、ジョゼ・メイレレス、セレス・シーンっと。今からギルドカードを作るから、ちょっと待ってもらえるかしら」

「ギルドカード?」

「ランバートさんの時代にはなかったらしいですけど、現在は中央大陸で活動する冒険者はギルドカードという身分証を持っているんです。なんでも、自分のランクを偽って大陸奥地の探索に出た冒険者がいたらしくて、それを防止するためですね。冒険者は求められた場合は必ずギルドカードを相手に見せなくてはいけません」


 なるほど、今はそんなものが存在するのか。俺の時代は冒険者の人数も少なかったし、所属している全員の顔と名前、ランクを把握していたが、人数が増えた現在では不可能に近い。そのためのギルドカードということだな。


「それじゃ、カードを発行してくるので少々お待ちください」


 そう言ってバーバラさんは一旦受付の奥へと引っ込み、数分後に四枚のカードを持って戻って来た。


「お待たせしました。これがエマちゃんで、こっちがジョゼくん。そしてこれがセレスちゃんのカードです」


 俺は上からジョゼのカードを覗き見ると、カードには名前と所属ギルド、そしてとても大きな字でFランクと書かれていた。なるほど、あれは確かに身分を証明するのに使えるな。


「それで、これがランバートさんのカードなんですけど……」


 バーバラは何故か俺のカードを渡す際に周囲を気にするような素振りを見せる。


「どうした?」

「……ずっと南大陸にいたランバートさんは知らないと思うので先に言っておきますけど、ランバートさんのランクは変更になりました」

「何!?」


 俺が多少声を荒げたので、エマたち三人はもちろんだが、少し離れた所にいた他の冒険者たちもチラリとこちらに視線を向けた。


「どういうことだ?」

「冒険者ランクの昇格基準が昔とは変わっているんです。それで、中央南ギルドに移籍するタイミングで現在の基準に沿ったランクへ変更になりました」

「なっ……ということは……俺は……降格したのか?」

「ち、違います!」


 バーバラは慌てて俺のギルドカードを突き出してくる。説明するよりも、見せた方が早いと思ったのだろう。


「どうぞ、自分の目で確かめてみてください」


 俺は彼女からカードを受け取って自分のランクを確認する。


「…………バーバラ」

「はい」

「昇格基準が具体的にどう変わったのか聞きたい」

「えっと、少し長くなりますけど」

「出来れば二人で話せる場所で頼みたい」

「わ、分かりました。では、そちらの扉から入ってください」


 バーバラは受付のすぐ横にあった木製の扉を指差す。

 俺はその扉に手をかけて、思い出したようにエマたちに声をかけた。


「少し事情を聞いて来るから、お前たちは食堂で先に食べていてくれ、俺も後から合流する」

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