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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第三話 レオスと異国の冒険者4

 中央大陸へ向けて出港し、5日目の早朝。俺は異様な寒気と共に目を覚ました。

 それは霊的な話でも、体調不良でもなく、強大な魂力によって引き起こされたものだった。

 慌てて装備を整えて寝室を飛び出すと、同じように寝室から飛び出して来たエマとジョゼ、セレスと鉢合わせる。


「レ、レオスさん! 何だか分からないけど、ヤバいよ、これ!」

「分かってる! これはあまりにも異常だ。お前たちは船室から出るな」

「えっ!? で、でも」

「もしこれが、魔物によるものなら、お前たちは足手まといになる!」


 俺はそこまで言い切ると、船室の外へと急ぐ。

 これは明らかに普通じゃない。これだけ巨大な魂力を感じるとなると、CランクどころかBランクの可能性すらある。

 途中、同じように慌てている船員を見かけたが、全員に外に出ない様に言いつけた。


「レオス先輩!」

「モミジ、状況は!?」


 甲板に出ると、見張りをしていた船員とモミジたち四人パーティが武器を持って警戒態勢をとっていた。


「姿はまだ見えないですけど、たぶん真下にいます」

「……みたいだな。このレベルの魂力を持った水棲魔物と水上戦は不味いぞ。船員たちは全員中へ入れ、お前たちが敵う相手じゃない」

「そ、そうは行きません!」


 船員たちは首を振ると、震える手で武器を握りしめながらも戦う意思を見せた。同時に、船室に残る様に言いつけたはずの船員たちやエマたちが甲板に出てくる。


「おじ様、私たちを舐めないでください! この程度で怯む様なら、中央大陸へなど行けません!」


 船底に迫っている魔物の魂力を肌で感じれば、その強さは南大陸で戦って来た魔物とは段違いだということは全員が理解しているはずだ。若さとは魔物との実力差も測れなくなるほどなのだろうか?

 俺がエマたちをどう言いくるめようかと考えていると、モミジがニヤリと笑った。


「レオス先輩、いいじゃないですか。どうせ中央で活動していたらいつか出会うと思いますし、ここで引くようなら冒険者じゃありませんよ」

「いや、だが」

「若い頃の自分ならどうしたと思います?」

「ちっ……分かったよ。だが、お前たちが敵う相手ではないのは明確な事実だ。だからこそ、今から俺が言う事を全力でやってみせろ!」


 俺がエマたちの参戦を認めたのとほぼ同時のタイミングで、船が海底から迫っていた魔物と激突する。

 船体が激しく揺れ、エマたちがバランスを崩す。


「いいか! お前たちは何としても船を守れ! 魔物を倒そうと思うな、お前たちの持てる全ての力を使って、この船を沈めさせるな!」


 俺は大声で指示を出しながら揺れる甲板を駆け抜けると、そのまま手すりを飛び越えて海上へと身を投げ出した。


「『アース・ハンマー』!」


 落下と同時に海に向かって土の命技で作った特大ハンマーを振り下ろし、大きく海面を抉った。


「見えた!」


 大量の水飛沫の隙間から、巨大な魔物の姿を視認する。それは俺が思い描いていた通りの魔物であり、船乗りが海上で出会いたくない悪魔のような異形の生物の筆頭。多足系魔物とカテゴライズされた巨大なイカのような姿をした魔物だった。

 俺はその場で持っていた魔導盾の力を発動させて空中に浮遊させると、その上に乗ることで水中への落下を防止する。


「先輩! 大丈夫ですか!?」

「ああ! モミジ、やはりこいつは――」


 船上のモミジに魔物の詳細を伝えようとしたところで、俺目掛けて二本の触手の様な脚が迫る。

 剣を抜いて素早く魔物の脚の先端を斬り落としたが、すぐに斬った魔物の脚が再生を始めた。


「掴まってください!」


 モミジの声を聞いて俺は意識の半分を彼女の方へと向けると、視界の端に自身へ向かって伸びる水の命技が見えた。すぐに剣をしまって水の命技を掴み取ると、足場にしていた大盾を反対の手で掴んで合図する。


「頼む!」


 再生した魔物の脚が俺へと届く直前に、俺の身体は船上へと引っ張り上げられた。

 揺れる甲板に上手く着地すると、自分を引き上げてくれたモミジの仲間へ感謝を伝える事すら後回しにして、自分が見たものを報告する。


「巨大なイカの魔物だ。脚はいくら斬ってもすぐに再生する」

「本体を斬るしかなさそうですね」

「ああ。船はもちそうか?」

「私たち以外の全員で命力を流しているので、今のところは」


 レオスが辺りを見回すと、先ほどまで甲板に出ていたエマたちの姿がなかった。おそらくは船室に戻って船底により近い位置から命力を流しているのだろう。

 逆に船を守ることに慣れている船員たちの大半は海上に出ている部分の守りを担当しているようだ。


「それもいつまで持つか分からんな……モミジ、次で決める。援護してくれるか?」


 俺の提案を聞いてモミジの隣にいた東大陸系の女性が眉間にしわを寄せる。


「それは逆でしょう。昔のあなたがどれほど優秀だったか知りませんが、今この場で――」

「ミツバ。少し黙って」

「――っ!? モ、モミジ?」


 ミツバと呼ばれた女性は、モミジの言葉に驚いて目を見開いた。まさかモミジにそこまで言われるとは思っていなかったようだ。

 俺はそんな彼女を不憫に思いつつも、魔物の討伐を優先して話を進めた。


「俺は今から俺のできる最大威力の技を使う。だが、問題はあの再生する脚と、本体がいまだ水中にいることだ。俺が奴を水上へおびき寄せるから、モミジはあの脚から俺を守り、攻撃する余裕を作って欲しい」

「つまり、レオス先輩に襲い掛かる脚を全部斬ればいいんですね」

「出来るか?」

「任せてください。ミツバは私と一緒に先輩を援護、テレンスは船員と協力して船を守って。セドリックは先輩と一緒に囮になっていざという時は先輩の盾になって」


 モミジの素早い指示に、三人の仲間が小さく頷く。心なしか全員が不服そうなのは、この戦闘の主軸が自分たちのリーダーであるモミジではなく俺だからだろう。


「よし、では始めるぞ」


 俺は船の丁度中央あたりの場所で魂力を全開にする。すると、セドリックと呼ばれた西大陸系の大男が俺の隣で同じように魂力を開放してみせた。

 俺は魂術が苦手だが、魂力の量に関してはそれなりに自信があった。だが、このセドリックという男も俺とほとんど変わらない量の魂力を生み出して、途轍もない存在感を放っていた。

 さすがモミジ、良い仲間がいるな。


「なるほど……モミジさんが昔からライバル視していただけありますね。凄まじい魂力だ」

「そういうお前もな。頼もしい限りだよ」


 俺とセドリックが互いを認め合っていると、船が大きく傾いて片側から何本もの白い脚が現れた。


「素直な魔物だな、簡単に釣れたぞ」

「感心している場合じゃないですよ、レオス先輩。守りは任せて、攻撃にシフトしてください」

「ああ! セドリック、任せられるか?」

「はい。私はこのパーティのタンクなので、防御は得意です」


 セドリックは大盾を構えて俺を庇うように防御態勢に入った。その間も襲い来る魔物の脚をモミジとミツバの二人が太刀を使って切り払っていく。

 俺は五行剣を抜くと、ありったけの命力を流し込んで遺物の力を起動する。

 刀身が黄色へと変化し、土属性の魂力が剣へと宿っていく。


「――っ! まずい、テレンス!」

「分かってるよ、モミジちゃん!」


 魔物の脚の一つが船のマストへと絡みつき、船体が大きく傾く。

 テレンスと呼ばれた金髪で細身の男が素早くマストへ接触すると、命力を流して折られないように強度を保つ。


「ぐっ! な、長くは持たないよ! レオスさんだっけ? さっさと決めちゃって!」

「ああ!」


 俺は傾いた甲板を駆け下り、船の側面に張り付いていたイカの魔物へと接近する。

 すると、本体から俺目掛けて黒い液体が発射された。イカ墨のようにも見えるが、あれはおそらく魂術だ。


「ここは私が受けます!」


 俺の横を並走していたセドリックが飛び出して、土属性を纏わせた盾で魂術を防ぐ。


「助かった、後は任せてくれ!」


 俺はセドリックの横をすり抜けるように走ると、跳躍して魔物の真上を取り、剣を振り下ろす。


「食らえっ! 『黄土斬』!」


 黄色の五行剣から放たれた土属性の魂力が刃となって魔物へと直撃し、その肉体を二つに斬り裂いていく。


「……浅いか?」


 斬撃が魔物の身体を半分まで斬り裂いたところで、魂力の刃の侵攻が止まる。

 俺は空中に固定した魔導盾の上に乗った状態でそれを見届け、二撃目を加えようとしたところで、船の方向から二つの魂力を感じ取った。


「『緑葉斬』!」

「『紅炎斬』!」


 二つの魂力の刃が魔物へと放たれ、その身体を十字に引き裂いた。

 俺がトドメを刺すよりも速く、モミジとミツバの攻撃によって魔物は絶命したようだ。船体に巻き付いていた脚からも力が失われていく。

 俺は大盾を持って船体へ飛び移ると、モミジとミツバに話しかけた。


「すまない、俺だけでは仕留め切れなかった」

「いえ、先輩の初撃のおかげで魔物に隙が出来て私たちが攻撃に移ることが出来たんです。だからこの勝利は先輩のおかげですよ」

「俺が初撃を打ち込めたのは、お前たちの援護のおかげだろう?」

「う~ん、まあ、それを言われると、そうですけど……」


 俺は何故かむず痒そうにしているモミジに対して手を差し出す。


「とにかく、お前がいてくれて良かったよ」

「へ? あっ……は、はい……えへへ」


 モミジは少しだけ頬を染めて照れながらも、俺の手を握った。


「お二人さ~ん。互いの健闘を称え合うのは後にして、こいつを剥がすのを手伝ってもらえません?」


 テレンスがマストに巻き付いた魔物の脚を必死で剥がしながら声をかけてきた。どうやら吸盤がくっ付いてしまったために、死んでも離れないようだ。


「すまない、今手伝う」


 俺はすぐに魔物を剥がす作業に取り掛かった。

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