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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第二話 レオスと剣士の娘8

 三人との戦いは、俺の勝利で幕を閉じた。

 俺は自らの勝利が確定すると、すぐに倒れているセレスに駆け寄って霊薬瓶で回復させる。一瞬のうちに手の甲から流れていた出血が止まり、傷跡も無くなった。


「レオスさん、俺にもかけてよ」

「これで回復できるのは外傷だけだ。命力や魂力の消耗はどうにもならん」

「ちぇ~」

「だが、魂術によって精神力を削られた場合は、魂魔石で魂力を補充することである程度回復することが出来るぞ」

「そうなの? じゃあ、午前中に稼いだ分を使っちゃおうかな……」


 ジョゼが立ち上がって魂魔石が入っている荷物の所へと歩き出すと、倒れていたエマが呻くように声をかけた。


「……ジョー、私にも……」

「エミー、起きてたんだ?」

「……ギリギリね。でも頭がぼうっとするし……動けないのよ……」


 エマが受けたのは自分の中級魂術の痛みを増幅したものだったため、精神ダメージが通常の魂術によるダメージとは比較にならないくらい強かった。身体は元気でも脳が疲労していて著しく思考力が低下している状態だろう。


「逆襲の異能の力はそれなりにセーブしたんだが、エマの脳にはあれでもきつかったようだな」

「セーブしなかったらどうなったの?」

「恐らくはショック死しただろうな」


 俺の回答を聞いて、ジョゼは聞かなければ良かったと青ざめた。エマもその会話を聞いてはいたのだが、朦朧としていたために自分がどれだけ危険な攻撃をされたのか理解できてはいないようだった。


「……うぅん。あ、あれ……?」

「――っ! セレスちゃん!」


 ジョゼが話をしながら荷物の中にある魂魔石を漁っていると、セレスが目を覚まして起き上がった。

 そこからのジョゼの動きは機敏の一言で、手持ちの魂魔石の中で最も純度が高い物をセレスの下へと持っていくと、素早く彼女の魂力を回復させた。


「あっ、何だかすごく楽になった……ありがとう、ジョゼくん。魂魔石ってこういう使い方も出来るんだね」

「へへへっ、セレスちゃんが元気になって良かったよ」

「そうだ。じゃあお返しに、ジョゼくんにもやってあげるね?」


 セレスは腰のポーチから魂魔石を取り出すと、ジョゼの額に近付けて彼の魂力を回復させた。


「あ、ありがとう……」


 ジョゼは頬を染めて照れながらお礼を言う。


「ジ、ジョー……、セレスお姉さんとイチャイチャしてるところ……悪いんだけど……私にも……」

「えっ!? あっ、ご、ごめん!」


 苦しそうなエマが声を上げたことで、ジョゼはセレスとの甘ったるい世界から帰還し、慌ててエマに駆け寄ると彼女の額に魂魔石を押し当てた。


「大丈夫? エミー」

「ええ。多少楽になったわ……邪魔してごめんね」

「い、いや、別にそういうのじゃないから」


 ジョゼは真っ赤な顔でセレスへの感情を否定するが、俺とエマにはバレバレだ。肝心のセレスはとても良く懐かれているくらいの認識でいるため、二人の関係がしばらく進展することはないだろう。


「三人とも落ち着いたか?」


 俺が軽く声をかけると、緩んでいた空気が引き締まる。

 三人は立ち上がって俺の前へと並び立つ。


「えっと、私は気を失っていたんですけど、私たちの負けですよね?」

「ああ。だが勝敗は最初から見えていたからな。お前たちも俺に勝つことが目的ではなかっただろう?」

「ええ。おじ様に勝てるとは最初から思っていませんでした。けれど、やろうと思っていたことは出来ました」

「俺も結構満足かな。やれることをやりきったよ」

「私は……もう少し上手く立ち回りたかったです」


 三人の感想を聞いてから、先ほどの戦いを今一度思い返す。

 仲間を信じて中級魂術での攻撃に専念したエマ。上級命技で仲間を守りつつ、魂術での攻撃も試みたセレス。素早い動きで仲間の窮地を救いつつ、最後は一人で自由に暴れまわったジョゼ。

 既に三人がGランクの新人レベルを超えていることは明らかだった。余程無茶なことをしなければ中央大陸でも十分に通用するだろう。


「エマ、ジョゼ、セレス。三人とも見違えるほどに強くなったな。俺が……背中を預けても良いと思えるほどに」

「――それって!」


 ジョゼが目を輝かせて一歩近づく。

 俺はその無邪気な視線に笑顔で答えた。


「俺で良ければ、お前たちとパーティを組もう」


 俺にとって21年ぶりのパーティへの参加だった。




 ギルドの食堂で少し遅めの昼食を取った後で、俺たちは北の沿岸部へと集まった。若手たちが魔物と戦う姿を眺めながら、戦場から少し離れたところで話し合う。


「中央大陸でのパーティ戦闘では大きく分けて三つの役割が存在する。ジョゼ、分かる範囲で説明してみろ」

「えっと……魔物の注意を引きつけてみんなを守る『タンク』、攻撃に専念して素早く魔物を討伐する『アタッカー』、後はセレスちゃんみたいな中間の役割かな」

「タンクとアタッカーについては正解だ。だが、セレスの役割は中央大陸では微妙に変わってくる」

「どうなるの?」

「攻撃妨害、攻撃支援、魔石による回復、荷物の運搬など、タンクとアタッカーが防御や攻撃に専念できる環境作りをする役割。これを『サポーター』という。ちなみに、エマが習得した中級魂術の『陣』はサポーターが魔物の攻撃妨害によく使う術だから、セレスはエマに習うといいぞ」

「わ、分かりました!」


 セレスはやる気に満ちた返事をしたが、逆にエマは複雑な表情へと変わった。必死に練習して習得した魂術が自分の役割ではなかったからである。


「おじ様、私が『陣』を習得したのは無駄だったのでしょうか?」

「そんなことはない。あれがあると、大量の魔物に囲まれた時に突破口が開きやすくなる。セレスだけでなくエマも使えた方が何かと便利だ。魂術アタッカーが最も多用する中級魂術が『陣』ではないというだけだな」

「それは私が『陣』を習得する前に教えて欲しかったです。おじ様は何もアドバイスをくれなかったではないですか」

「お前たちまで中央大陸を目指していたとは思っていなかったからな。むしろ南大陸で戦うだけなら『陣』以外の中級魂術は過剰な破壊力を持つ魂術だ。習得の優先度は低い」

「過剰な破壊力……おじ様の上級命技よりもですか?」

「命技はどちらかというと防御寄りだからな。魂術は逆に攻撃寄りなんだ。だから俺も攻撃よりは防御が得意だな」

「なるほど……けど、おじ様が防御を得意としているのは、遺物の関係もありますよね」


 エマが左腕に装備している魔導盾に視線を向けてくる。実際に戦って見てこの盾の優秀さがよく理解できたのだろう。内側に嵌め込んだ魂魔石を使って防御しながら魂術を放てるだけでなく、術魔石で相手の魂術を吸収して無効化したり、空中に浮いて物理障壁を張ったりとやりたい放題の最強の盾だ。


「ああ。よって俺はこのパーティでタンクを務めさせてもらう。異論はあるか?」

「ありません。おじ様の防御が完璧なのは身をもって体験しましたから」

「私もないです」

「俺もだけど……とすると俺は何をしたらいいの? 走り回って敵を撹乱したり、足止めをしたりとか?」


 三人とも俺がタンクを務めることに不満はなかったが、これまでタンクを任されていたジョゼが少し不安そうに質問する。


「ジョゼにはエマと同じでアタッカーを任せたい。お前は仲間を気にかけて動くよりも、思うままに戦った方が強いタイプだ。ヘイト管理は俺に任せろ」

「アタッカーかぁ。分かったよ!」


 ジョゼは少しだけ嬉しそうに頷いた。これまで努力してきたタンクという役割に未練がないわけでないだろうが、それ以上に先ほど自由に戦った時の快感が忘れられず、自分には防御よりも攻撃が向いていると直感したのだと思う。


「まとめると、おじ様がタンクとして魔物の攻撃を引き受け、セレスお姉さんがサポーターとして魔物の行動を妨害、私とジョーがアタッカーとして魔物にトドメを刺す。ということですね?」

「そうだ。差し当たって、三人には習得してもらいたい命技や魂術がある」


 俺はこれまで三人を贔屓し過ぎないために言わずにいたアドバイスを一気に放出していく。

 セレスが律儀にメモを取っているのを見て、こういうところはクソ真面目なコンラッドに似ていると思った。ベアトリクスなら絶対にしない行動だ。

 エマとジョゼはと言うと、メモこそ取っていないが、どこか嬉しそうにしながらも真剣に俺のアドバイスに耳を傾けていた。


「エマは中級魂術の『破』を習得してくれ。以前、大型の貝系魔物が使っていたのを見たことがあるだろう?」


 中級魂術の一つ、『破』はエマがジョゼと二人で討伐した巨大な貝系魔物が使っていた強力な魂術だった。

 着弾と共に地面が爆発した光景を思い出したのか、エマは小さく頷いた。


「あれが『破』だったのですね……分かりました。やってみます」

「次にジョゼ。お前は命力を直接魔物にぶつける、中級命技の『ウインド・ショット』を習得するんだ」

「『ウインド・ショット』? セレスちゃんみたいに、上級命技じゃなくて? 俺、レオスさんが使っていた命力を武器にするやつがやりたいんだけど」

「セレスは上級命技の達人だったベアトリクスさんの娘だ。長年彼女に教わって修行を続けていた成果が花開いたからこそ一足飛びに上級命技を習得したが、普通は段階を踏むものだ。まずはしっかりと中級命技を使えるようになれ」

「わ、分かったよ……」


 ジョゼは少しだけ不満気に口元を尖らせながら頷く。彼のプライドを少し傷付けてしまったかもしれない。そんなジョゼの心境を察したのか、セレスが慰めるように彼の黒髪を撫でる。セレスにとってジョゼは可愛い弟のような存在になっていた。

 ジョゼは憧れているセレスに触れられたことで先ほどまでの不満をすっかり忘れて、彼女の手の感触に意識を集中させているようだ。

 ジョゼには悪いが、話を次に進めさせてもらおう。


「そしてセレス、君は――」

「中級魂術の『陣』……ですよね?」

「――そうだ。それと、君の事だからすぐに出来ると思うが、上級命技で自在に動かせる鞭を作れるようになってくれ。昔、中央大陸で流行った命技で、俺は何度か助けられた経験がある」

「鞭ですか。分かりました」


 上級命技の使い手は、その属性によって適した武器を創り出して戦う。

 俺の経験上、火は剣や槍、土は斧や盾、風は短剣や弓を使う者が多く、水の場合は杖や鞭を使う冒険者が多かった。

 三人にそれぞれ目標を設定すると、俺たちはパーティを組んでから初めての魔物討伐を開始した。

 俺が中心となって戦うので、南大陸の魔物はハッキリ言って敵はいなかったが、エマとジョゼ、セレスの三人も、周囲の冒険者たちが驚くほどの戦闘力を見せて、最前線で一時間も戦い続けた。

 最終的にはベテラン冒険者たちに、他の若手冒険者に獲物を譲る様に注意される形で幕を閉じたが、俺たちは4人パーティでの戦いに手ごたえを感じていた。

 さすがに一日でエマたちが目当ての命技や魂術を習得することは無かったが、すぐに追い越されるのではと思うほど三人の成長速度は速く感じられた。若い頃の自分と比較して、明らかに三人は優秀だったのだ。

 こうして魔物討伐を終えたエマ、ジョゼ、セレスの三人は、ギルドに戻ってすぐにFランクへと昇格した。

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