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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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第二話 レオスと剣士の娘6

 エマ、ジョゼ、セレスの3人がパーティを組んでから一か月。午前の魔物討伐中に、セレスの長年の努力が開花することとなった。

 ジョゼが因縁深いスライム系魔物を発見し、3人で警戒しながら近付いたのだが、そこでスライムは俺でさえも見たことが無い動きを見せたのだ。

 対峙していたジョゼではなく、背後に控えていたエマへと狙いを定めると、体内で作り出した赤く燃え盛る火炎を彼女目掛けて噴射。

 ジョゼが下級命技では防げない攻撃であることを直感して助けに入るのを踏み止まってしまうと、彼の代わりにセレスがエマを庇い、命技を纏った杖で火炎を受け止めた。


「エミー! セレスちゃん!」


 ジョゼの叫び声が響き、見張り台から俺が救援に駆け付けた時には、スライムの火炎をバリアの様な水の壁で防ぎ切ったセレスが立っていた。


「セ、セレスちゃん? それって――」

「ジョゼ! 気を抜くなっ!」

「――っ! は、はい!」


 俺に一喝されて我に返ったジョゼは、素早くスライムに斬りかかって内部の魔石を破壊した。

 蠢く不定形の身体が水の様に崩れていく様を見届けた後で、俺たちは集まって状況を確認する。


「エマ、セレス、救援に入るのが遅れてすまなかった。スライムが炎で攻撃してきたのを見たのは俺も初めてだ」

「私は大丈夫です。セレスお姉さんが守ってくれましたから」

「ああ、見ていたよ。セレス、ついに目覚めたようだな」


 視線がセレスへと集まると、彼女は杖を握りしめて震える唇で尋ねてきた。


「今のって……術魔石から出た魂術ってわけじゃないんですよね?」

「あの防御力はどう見ても命技だ。それも上級の」

「じ、上級命技……私が? ありえないですよ、中級命技だって使えなかったのに」

「今なら使えるだろう。やってみろ」


 俺に促されて、セレスは杖に命力を纏わせる。まずは下級命技が発動して木製の杖が金属よりも硬い杖へと強化された。

 そして次に、今まで一度も成功したことがない中級命技に挑戦する。


「み、水に変われ!」


 セレスが想いを口にすると、彼女の命力が水へと形を変えた。

 水を纏う杖を目にしたことで、セレスはやっと自分が中級命技を習得したことに納得できたようだ。


「で、出来た……」

「すごいよ、セレスちゃん!」

「やりましたね!」


 セレスの隣でジョゼとエマが目を輝かせて喜ぶ。


「まだだ。セレス、今度は水の盾をイメージして前方に命力を集めるんだ」

「えっ? それって上級命技ですよね?」

「君が先ほど無意識にやったことだ。必ず出来る」

「は、はい」


 セレスは小さく頷くと、杖を正面に掲げた。

 杖から命力を外へと移動させ、先ほどエマを守ったように仲間を守る盾を形作る。


「いいぞ。声に出せ、『ウォーター・シールド』だ」

「ウォ、『ウォーター・シールド』!」


 俺に言われてセレスが技名を叫ぶと、彼女の正面に美しい水の盾が実体化した。


「よし、少し試すぞ」


 俺は一言前置きしてから剣を抜くと、セレスの水の盾を斬りつける。しかし、その斬撃は水の盾に完璧に阻まれて動きを止めた。ビリビリとした衝撃が剣を持つ手に伝わってくる。


「完成度は申し分ないな。セレス、もういいぞ」


 セレスが集中を解いて水の盾を消すと、俺は優しく彼女へ笑いかけた。


「見事な上級命技だった。ギルドで職員に見せればFランクに昇格出来るだろう」

「ほ、本当ですか!?」

「中級しか使えない若手がFランクになれるのに、上級が使える君が昇格出来ないわけはないからな」


 セレスは満面の笑みを浮かべて、エマとジョゼへと向き直る。二人とも自分の事の様にセレスの成長を喜んでいた。


「やったね、セレスちゃん!」

「先を越されてしまいましたけど、これで一歩前進ですね」

「うん。私、これからも頑張るから、一緒に中央大陸へ行こうね!」


 一番弱いと思っていた自分が、真っ先に成長して昇格できるという状況に理性が緩んだからか、セレスは聞き捨てならないことを口にした。エマとジョゼの表情がその場で固まり、それを見たことで口を滑らせたことに気付いたのか、慌てて口元を押さえている。


「…………セレス、君は二人を中央へ連れて行く気なのか?」


 俺の口から異様に低く冷たい声が出て、内心で俺自身も驚いた。セレスは青ざめた顔で振り返り、俺と視線を合わせる。


「え、えっと……中央大陸へ行くのは、私の夢ですから」

「それは知っている。俺は君が中央へ行く際に、エマとジョゼも連れて行くのかと聞いている」


 セレスは言葉にすることを一瞬だけためらったようだが、俺の機嫌を伺うように慎重な面持ちで答えた。


「そ、そのつもりです。それと……ランバートさんにも、一緒に来て欲しい……です」

「俺に?」

「はい。私たちにはランバートさんが必要です。今すぐとは言いません。ですが、エマちゃんとジョゼくんがもっと強くなって、三人が中央でやっていけるだけの力を身に付けたら、その時は、私たちのパーティのリーダーになってくれませんか?」

「…………」


 俺は咄嗟にセレスから視線を外した。くるりと踵を返すと、海を見て心の平静を保ちながら返答する。


「俺はとっくの昔に負け犬へとなり下がった冒険者だ。いや、冒険者ギルドに所属しているだけで、何一つ冒険などしていない。俺の役目はここで新人をフォローして魔物を狩ることだけだ」

「ランバートさんは強いです。中央の魔物にだってきっと負けません。なのに、どうして冒険を止めてしまったんですか?」

「……それを詳しく話すつもりはない」

「っ――なら、理由は話さなくてもいいです。でも、ランバートさんだって本当は冒険者に戻りたいんじゃないんですか? 私は必ず、足手まといじゃなくなります。エマちゃんとジョゼくんは今よりももっと頼もしく成長します。だから、私たちと一緒に冒険に行きましょう!」


 セレスの説得に、俺は返す言葉もなく海の先を見つめて拳を握りしめた。

 中央大陸での冒険。それは俺が子供の頃から目標としていた夢だった。その夢を叶え、仲間と冒険し、ついにはダンジョンに挑んだ。その時の高揚感が蘇ると共に、今も脳裏に焼き付いている仲間の死を強く意識する。

 自分は行かないと言えばいいだけ。ただそれだけだというのに、その言葉が出て来ない。

 セレスの誘いをキッパリと断ることが出来ない自分に驚いた。俺の心はまだ冒険を求めていたことに、俺自身が気付かされたのだ。

 震える俺の拳に、優しく手が差し伸べられる。


「おじ様、私たちからも言わせてください」

「レオスさん、一緒に中央大陸へ行こうよ」


 可愛がってきた双子の誘いによって、俺の心は更に揺れ動かされた。感情の揺らぎを悟られないように気を付けながら、俺は何も動じていないふりをして二人の手を振りほどく。


「前にも言っただろう。あそこはリスクとリターンが見合っていない。無駄に命を危険に晒すだけだ」

「それは……実力が足りない場合の話ですよね? 私たちが強くなればなるほど、リスクが減って、リターンが増えると思うのですが、違いますか?」

「そ、それは……」


 エマの主張は正しく、俺と同じDランク冒険者が集まったパーティならば、それなりに安定して中央大陸を探索できる。

 中央大陸では危険度でエリアが区分されているので、しっかりと南大陸で実力を付けてから、経験のある冒険者のパーティに入れてもらうことが出来れば、中央での活動は軌道にのる場合がほとんどだった。


「レオスさん。今まで黙っていたけど、俺は中央大陸へ行ってみたい。でも自分だけが行きたいんじゃなくて、レオスさんと一緒に行きたいんだ」

「おじ様は私たちに、中央へは行かない方がいいといつも念を押していましたよね。でも、私にはそれが、おじ様が自分に言い聞かせている言葉のように聞こえていました。本当はおじ様だって、中央大陸へ戻りたいのではないですか?」


 半年間、寝食を共にした双子に心の内を見透かされ、俺は自分の情けなさに打ちひしがれた。エマとジョゼの方が、俺よりも俺の真の欲求を理解していたのだ。

 しかし、中央大陸を去ってから20年以上の間、中央大陸で活動することを否定し続けてきた俺は、自分の欲求に対してそう簡単に素直になることなど出来なかった。

 俺は3人に向き直ると、感情を押し殺した表情で告げる。


「午後から訓練場で、俺と戦ってくれ。そこで見極める」


 その言葉の意味するところを瞬時に理解した3人は、静かに頷いた。

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