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中年冒険者は気苦労が絶えない  作者: 相馬あさ
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外伝 若手冒険者は好奇心が絶えない

 立ち去ったレオスを唖然と眺めていたエマに対して、ジョゼが窘めるように口を開いた。


「エミー、踏み込み過ぎたんじゃない?」

「……分かっているわ。でも、おじ様ともっと打ち解けるために、知っておきたかったのよ」


 エマは聞き取れるギリギリの声量で呟くように返答する。その声には悲しみの感情がこれでもかと込められていた。

 レオスの事をもっと知りたい。その気持ちが先行してしまい、彼があまり触れて欲しくない内容だと分かっていたのに、踏み止まることが出来なかった。

 エマは自分の発言を反省すると同時に、レオスにとって自分が秘密を話すほど心を許した存在ではないのだと実感し、拳を強く握りしめた。


「まあ、気持ちは分かるけどね。レオスさんって、どこか俺たちに一線を引いている感じだしさ」


 特に気にしていないような口ぶりでジョゼが言った言葉が、エマの心に突き刺さる。

 ジョゼは現在のレオスとの関係を悪くないと考えていたが、エマはそうではなかった。この二か月共に過ごしてきて、レオスともっと親しくなりたいと強く想う様になっていたからだ。

 気まずい沈黙が場を満たす中で、別の視点からレオスを見ていたセレスが、恐る恐る口を開く。


「たぶんだけど……ランバートさんはワクワクよりも、怖いが勝っちゃったんだと思う」

「どういうこと?」


 ジョゼが首を傾げたのを見て、セレスは自分の発言があまりにも説明不足だったと気付き、慌てて捕捉する。


「えっとね? 中央大陸を目指している私たち新人に対して、中央から帰って来た冒険者がよく言うんだよ。自分は中央大陸で冒険するという楽しさよりも、恐ろしく強い魔物に殺されるのが怖くなったんだって」

「中央大陸の魔物ってそんなに強いの?」

「そりゃあ、強いと思うけど……中級以上の命技や魂術が使えるなら中央でも戦力になるって言われているよ。ましてやランバートさんは上級命技が使える相手を一方的に倒していた。あの人は、自分が殺されるのが怖いんじゃないと思う」

「へ? じゃあ、レオスさんは何に怖がっているのさ?」

「さっき言っていたでしょ? 大切な仲間を失ったって。いくらランバートさんが強くても、中央大陸でソロ活動なんて出来ないもん。でも、ランバートさんは仲間を守り切れずに失ってしまった。仲間が死ぬのが怖くなって帰って来たんだと思う」

「……仲間……か」


 ジョゼは腕を組んで考え込んだ。レオスが本当に仲間を失う事を恐れて中央大陸を離れ、今では中央大陸の話をすることすら避けているのだとしたら、自分に何が出来るのだろうか?

 一番大事なのは、レオスが恐れているものを取り払う事だ。それが出来れば、過去の失敗からくる心の傷は時間と共に癒えるだろう。


「――決めた」


 ジョゼは何かを心に決めたように目を見開いてゆっくりと立ち上がると、エマとセレスを交互に見て、力強く宣言した。


「俺たちが今よりもずっと強くなって、レオスさんが怖くなくなるような仲間になってあげようよ!」

「わ、私たちが?」

「うん。レオスさんだって、昔は中央大陸でワクワクする冒険をしてたんでしょ? 俺、知ってるんだ。レオスさんは一人で強い魔物と戦ってる時、少しだけ楽しそうに笑うって事。きっとレオスさんは、本当は他の冒険者と同じで魔物と戦うのが好きなんだと思う。強い魔物と戦って、中央大陸を冒険するのが大好きだったからこそ、仲間を失って冒険を止めた時の傷が今でも治らなくて、ずっとずっと苦しんでいるんだと思うんだ」


 ジョゼの言葉を聞いて、これまで黙って俯いていたエマが顔を上げる。


「……確かに、おじ様は戦っている時、少しだけ生き生きとしているわ」

「でしょ? 俺はレオスさんに助けてもらって、本当に感謝しているんだ。だから、俺たちがレオスさんを助けられるくらいに強くなって、レオスさんと一緒に中央大陸へ冒険に行こうよ! そしたらきっと、レオスさんは笑ってくれると思うんだ」

「私たちが中央大陸を目指すって言ったら、おじ様は怒りそうだけど?」

「それは俺たちがまだ弱いからだよ。強くなれば、きっとレオスさんは認めてくれるし、一緒に来てくれると思う」


 エマとジョゼの実力ではまだまだレオスの足を引っ張るばかりで、とても彼の恐怖を取り除くことが出来るとは思えなかった。けれど、二人がレオスと初めて出会った時と比べて見違えるほどに強くなったのは疑いようのない事実であり、それが自分たちはまだまだ強くなれるという確証の無い自信に繋がっていた。


「…………そうね。おじ様がいつまでも過去に囚われて苦しんでいるのは見たくないし、何より私も中央大陸には興味があるわ」


 もともと好奇心旺盛なジョゼはもちろんだが、エマも中央大陸にはそれなりの興味を抱いていた。

 周囲の冒険者たちが、なぜあそこまで中央大陸に惹かれているのか。一度気になって尋ねたことがあったのだが、子供の頃からの夢だの、冒険者の憧れの地だのと具体性の無い事を語られるだけだった。唯一理解できたのは、強い魔物と戦いたいという者の話だが、どうやらその意見を持っているのはごく少数の若手だけであり、ほとんどの若手たちは中央大陸という土地そのものに価値を見出しているようだった。

 結果として、エマは冒険者が中央大陸に何を求めているのか理解できなかったのだが、逆にそれがエマの興味を引いていた。

 若者たちを惹き付ける中央大陸。そこにいったい何があるのか、エマはそれが知りたくなっていた。

 エマとジョゼが互いの意志を固めるように手を合わせる。すると、セレスが席を立って二人に近付き、二人の手に自分の手を重ねた。


「私は元々中央大陸を目指していたけど、二人とランバートさんが一緒に来てくれたら、とっても心強いよ」

「へへっ。じゃあ俺たち三人で、本気で中央大陸を目指そうか!」

「うん」

「ねえ、セレスお姉さん。お姉さんはどうして中央大陸を目指しているの?」


 エマの問いに、セレスはふわりと回答をした。


「見たことないものを見たいから……かな?」

「え?」

「ど、どういうこと?」


 首を傾げるエマとジョゼに、セレスは苦笑いを浮かべながら説明する。


「小さい頃から、お母さんとお父さんに中央大陸での冒険について聞かされて育って、いつか両親が果たせなかった中央大陸を冒険するという夢を叶えるんだって、そう思って修行していたんだけど、ある時、じゃあどうして二人は中央大陸で冒険したかったんだろうって気になって、聞いたことあったんだ」

「強い魔物と戦いたいからじゃないの?」


 ジョゼの言葉にセレスはゆっくりと首を振る。


「中央大陸は、今でも未知の領域が多くて、大陸の中心へ行けば行くほど未開の地なんだって。そこがどんなところなのか、知りたくて冒険者を目指していたって聞いて、私は凄く納得したんだ」

「……なるほど。少し分かる気がします」

「私は別に、誰も見たことが無い物を見たいわけじゃないけど、中央大陸で冒険出来たら、きっと今までの人生では見たことないものにたくさん出会えるんじゃないかって思ったら、とっても楽しそうだと思ったの。そして、そのためにはもっともっと強くならないといけなんだよね」


 セレスはエマとジョゼの二人とお互いの目標を確認し合い。重ね合わせた手に少し力を込めた。


「セレスお姉さんも、私たちと目的は一致しているようですね」

「うん。私は見たことないものを見るため」

「私は冒険者を惹き付ける中央大陸の魅力を知るため」

「そのためには、レオスさんに認めて貰えるくらいに強くならないとね」


 こうしてエマ、ジョゼ、セレスの三人パーティは中央大陸を目指して強くなることを決意した。

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