ティーグレ・ティーグル・ティーガー
西の領地の都市、西の都は暖色系の華やかな建物に彩られた活気あふれる商人の街。
どうやら祭りの準備が行われているみたいで、街は一層賑やかさを増していた。至る所で目にする貼り紙には「エメラリア姫、16歳の誕生日パレード」そう書かれていた。
この前のギルドで言っていた祝賀とはこれのことだろう。
エメラリア
このお姫様の名前、どこかで聞いたことがあるような……
「ねえアミル?このエメラリア姫って」
「ハルヒサも男の子ですね~こういうのが好みなんですか?」
「なっ……そんな目で見てないよ!」
金色の綺麗な長髪に宝石みたいな緑の瞳、確かに写真のお姫様はまるで絵に描いたような美少女だった。
だからって、それに鼻の下を伸ばしていたわけじゃない。
「それはいいとして、この街にアミルが追っている相手がいるって?」
「そうですね。
正確には、相手がここへ来る、が正しいでしょうか、つまり待ち伏せです」
不敵な笑みを浮かべるアミルは少し怖い。
「明日までに色々と準備をしないといけないのですが……その前にハルヒサ、服は欲しくないですか?」
「服?僕の?」
そういえば、着ていた服は決闘の後、使い物にならなくなったので、焼却されたんだ。
今は彼女の服を借りているけれど、いつまでも借りっぱなしって訳にはいかないよな。
それに、ここは異世界なんだし、自分好みの服を堂々と着てみたい!厨二ファッションも異世界じゃ普通なんだ、だったら尚更。
「欲しい!」
ついでに格好良い鎧や武器も!
「じゃあ早速買いに行きましょう!」
この時僕は、まさかあんな事になるなんて思ってもいなかった。
…………………………
ルージュカラーのお洒落な服屋、店に入った僕の身に、事件は起こった。
試着室の中で突然、眩しい光で包まれて、気がつくとそこに、目の前で知らない女が立っていた。
「え……誰?」
ストレートロングの黒髪で胸元に大きなリボンのついたゴシックパンクなワンピース姿の女の子、
彼女もまた驚いた顔でこちらを見つめていた。
少女が誰であるかはすぐに分かったが、僕は同時に自分の頬を抓らずにはいられなかった。
痛い。痛覚は正常。
夢じゃない……。
「ハルヒサ、試着はできましたね?開けますよ」
カーテンの向こうから聞こえるアミルの声。
「駄目!開けちゃ……!!」
咄嗟に叫ぶもカーテンは意に反して開かれる。僕はバッ!と手の平で顔を隠した。
どうしてこんなことに……それは数分前に遡る。
陳列されたファンタジーな衣装に、僕は胸を躍らせていた。
目に止まった服を一通りキープしていると、アミルが僕の肩を叩いた。
「ハルヒサ、こっちで試着ができますよ」
床に魔法陣の描かれた、広さ半畳ほどの部屋。そこには全身が映る大きな鏡があって、ドアの代わりに紫色のカーテンが取り付けられていた。
「この店の試着は自動試着ですから」
そう言われてアミルに服を取り上げられた僕は、全裸で一人その試着室の中に放り込まれた。
そして、あの眩しい光に包み込まれた。
………
「良く似合ってるじゃないですかハルヒサ!」
胸元に大きなリボンのついたゴシックパンクなワンピース。
「どこが似合ってるんだよ!しかもこの長い髪は何……鬘?!」
「可愛いじゃないですか」
西の都のお洒落な服屋、そこでまさか女装をさせられるだなんて、そんなこと思ってもみなかった。
「てゆーか僕の選んだ服は?冒険者って感じの格好いいやつ!」
アミルははて?といった感じで、
「あれよりこっちの方がいいじゃない」なんて言い出した。
ちょっと待って、まるで意味がわからない!
「まあ落ち着いてくださいハルヒサ、これは保険です」
「保険?」
「西の都へ来たのは危険な目的を果たすため、でもこれは万が一でも失敗すれば命に関わります。
そうならない為に念には念を、変装姿なら、逃げなければならなくなった時に、追手の目を欺けるでしょ?」
彼女が言わんとすることはわかった。
でもそれならそうと、事前に相談とか、少し考える時間が欲しかった……
………………………….
結局、彼女に着せられた服のまま店を出た。
「どうしたんですかハルヒサ、そんな隠れるように歩いて、先程まであんなに楽しそうに街を歩いていたのに」
「言うけどねアミル、こんなんじゃとても恥ずかしくて、人混みなんか歩けないよ!バレた瞬間変態だ……人生終わっちゃう!」
道行く人たちの視線が気になってしかたがない。
「大丈夫ですよ、どこからどう見ても女の子にしか見えませんし、寧ろ其処等の女の子より可愛いまでありますから、ナンパされちゃったりして、そっちの方が心配です。西の都の殿方は手が早いですから」
ううっ……それだけは勘弁してくれ!
あぁ……何だか目がぐるぐる回る……
人酔いしたのか、僕はその場でへたり込んでしまった。
………
「もう、わかりましたよ。私は一人で買い物をしてきますから、ハルヒサは適当な場所で待っていてください」
根性なし!そんな顔でアミルは言った。だってしょうがないじゃない、ごめんよ、僕のファイヤーボール……。
「でもアミル、この近くでどこか静かにできる場所なんてあるの?」
「そうですね……あそこはどうですか?」
それは綺麗なステンドグラスで飾られた大きなゴシック様式の建物だった。
「マリントル王立図書館です。歴史書、研究書などお堅い本から、絵本や漫画といった娯楽本まで、世界中の書籍が無料で閲覧できますから、時間潰しには最適かと」
確かに、ここなら退屈せずに時間が潰せそうだ。それに皆が本に集中しているから、周りの視線も気にならない!
「僕は図書館で待ってるよ!ありがとうアミル」
「それでは、買い物が済んだら声をかけに来ますから」
こうして僕とアミルは、一旦別行動を取ることになった。
ーマリントル王立図書館ー
図書館のゲートを潜った僕は思わず声を漏らした。
「わあ、凄い……!」
煌びやかで広い館内には、その壁と一体となった見上げる高さの大な棚に、びっしりと本が収められていた。
あんな高い所にまで本が……でもどうやって取るんだろう、階段も無いし、あの高さじゃ三脚に乗ったって届かない。 ん?館内で何か飛んでる、鳥?いや……
「本に翼が生えてる!」
驚くことに、図書館の本には翼か生えていた。
本たちは記された番号を呼ばれると、その翼で手元まで飛んで来て、読まれ終わると、また自ら羽ばたいて本棚へと戻っていく。
まるで本が生きているみたいだ。初めての異世界の図書館は驚きでいっぱいだった。
こうやって、見ているだけでも楽しいけれど、本を読まなければ図書館に来た意味がない。
そう思った僕は近くの本棚まで駆け寄った。
どれどれ…どんな本があるんだろう。
『今、そこにいる私』
『プレゼントデイ・プレゼントタイム』
『_''/-÷-・…°%^,/€』
ん?この本だけ言葉が違う。
僕はその読めない文字の本を手に取った。
他より古そうな、広辞苑みたいに分厚い本。表紙は動物の皮みたいな素材に不思議な模様が箔押しされていて、高級感があった。
よく分からないけれど、何が書いてあるのかが凄く気になる。
そうだ、スキルを使おう。こんな時、僕のスキルは役に立つ。
「スキル発動【翻訳】!」
翻訳した頁にはこう記されていた。
『大いなる力目醒めし時、その心哀しみあらば、それに終はりを与ふる料に、大地は砕け、空は閉ざされ、日の沈むよりも深く、全ての命を母のがり還さむ』
……なぁにこれぇ、何かの伝承?
「その文字が読めるのかい?」
「へ?!?」突然誰かに声を掛けられて、びっくりして振り返ると、
そこには気品の高そうな、紳士みたいな身なりの男性が立っていた。
「驚かせてすまない、本に熱心している貴女の横顔を見て、つい声をかけてしまった」
凛々しい表情に男らしくも優しい声、綺麗な黒髪に褐色の肌、それは所謂イケメンというやつだった。何だってこんな人が僕に声なんか!? やばい……キラキラしてて直視できない。
「こ、この本をお探しで?でしたらどうぞ!」
「いや、貴女が手に取っていたのに、それではまるで横取りだ、そんな不躾なことはできません。
でもそうだな…もしよければ、あちらのソファーでご一緒しませんか?」
「え……一緒に?」
断って本を渡そうと思ったのに、気が付いたら腰に手を回されて、僕はそのままソファーまでエスコートされてしまった。
え……なにこれ。どういう展開?
………
「わたしはウォルデン・レインバード、考古学を研究している者です」
「考古学って、じゃあこれは」
「これはランティストアで最も古い文字、古代文字を使って書かれた書物ですよ、もしかして、そうとは知らずに?」
「見慣れない文字の本でしたから……」
「でも興味はあった、そうではないですか?貴女の様な知的な女性は素敵ですよ」
「ち、知的なんて僕!いや、私……」
「訂正しないで、僕っ子か……うん、可愛らしいじゃありませんか」
なんだろう、普段されないような対応をされているせいか、
この人と話していると変な感覚になる。女の人だと思われているから?(男だってばれても困るけど、騙していると思うと心が痛い)
「おっと、もうこんな時間だ、最近王室からの仕事が忙しくてね、わたしはここで失礼します。
そうだ、差し支えなければ貴女の名前を教えてはもらえませんか?」
名前?
「は……ハル、ハルヒサです」
「ハルル・ヒーサ?珍しい名前ですね、でも貴女にぴったりな素敵な名前だ」
いや、今のは言葉に詰まって
「ハルルさん、わたしは貴女とまたゆっくりと話がしたい。もし考古学に興味があるのなら、是非わたしの研究所へ連絡を下さい。迎えを出します、いつでも歓迎しますよ、それでは」
そう言って名刺を差し出すと、ウォルデン・レインバードは足早に去っていった。
彼が図書館を出るのを見届けると、自然と大きなため息が出た。
何だか……凄い疲れた。
「お待たせしましたハルヒサ!」
「お帰りアミル……ってぶーーーーっ!」
帰ってきたアミルの姿に、僕は思わず吹き出した。
「何その恰好、サーカスのピエロ?!」
「驚きました?ふふ、変装ですから、これぐらい気合を入れないと」
いやそれ、変装っていうか仮装じゃないかな……子供に風船配ってそう。
でもおかげで緊張がほぐれたのか、疲れが吹き飛んだきがする、ありがとうアミル。
「それよりハルヒサ見ましたよ!誰ですか?さっきの素敵な殿方は。
もしかして、ナンパでもされちゃいましたか?」
「な、違うよアミル!あの人は……」
「中央都市王国考古学研究所 代表ウォルデン・レインバード?
……王国の考古学者様がハルヒサに何の用です?」
「偶々読んでいた本が古い本だったから、それで声を掛けられたんだ」
「ふーん、それで女の子に名刺を?でもこれ、脈ありのサインだったりして」
「嫌だそんなわけないよ!多分、絶対!」
…………………………
時間が過ぎるのは早いもので、図書館から出るともう夕暮れ時になっていた。
昼間はあんなに歩くのが恥ずかしかった大通りが、慣れというのは怖いもので、幾分普通に歩けるようになっていた。(まあ隣にピエロもいるしね)
「それでアミル、他に何か買ったりしたの?」
「そうですね、薬や食料、あとはこれ」
「手の平サイズの……球?」
「煙玉です。本当はもっと沢山欲しかったんですが、先に大量に買っていった人がいたみたいで、残っていた3つしか買えませんでした」
煙玉…これはどう考えたって、穏やかな用途では使われなさそうだ。
「ところでハルヒサ、さっきから妙な人たちを見ませんか?」
「妙な人?もしかして、また人に擬態した魔獣に狙われてるの?!」
周囲を警戒しても、すれ違う人たちに不審な動きは感じない。
「いえ、そうではなくって」
アミルは建物の屋根の方を指さして言った。
「ほらあそこ、あんなところに登って、一体何をしているんでしょうね」
そこには屋根の上に一人、首に白いマフラーを巻いた男が立っていた。本当だ、何をしているんだろう。
遠くてよく見えないけれど、下にいる誰かと何か合図を取り合っているみたいだ。
「パレードではこの大通りを馬車が通るんだっけ?」
「そうですね、ここは目抜き通りですから、明日は私たちみたいな通行人は脇に追いやられて、おしくらまんじゅう状態ですね」
「そうか、だから屋根に上っているんだ、人がまだ少ない今のうちから、よく見える場所を探しているんだよ」
「屋根から落ちたら危ないじゃないですか、そうまでしてお姫様を見たいものでしょうか」
「きっとお姫様のファンなんだよ」
「ファンですか、そんなに好きなら……」
「……アミル?」
「いえ、私も初めてなんですよ、こういう王族の祝賀パレードを見物するのは。
旅をしているなんて言いましたけど、各地域を実際に歩き始めたのは最近なんです。知識として知っていることはあっても、実際に経験したものは少ないんです。恥ずかしいですが」
意外だった。それは僕が、彼女はこの世界のことなら何でも知っていると、勝手に思い込んでいたからだ。
そりゃあそうだよな、アミルだって、自分と同い年くらいだし、僕だって、元いた世界のどれ程を知っているだろうか。きっと産まれ育った国のことでさえ、それの1%も知らない筈だ。
一人で旅をしている、それだけで凄いことなんだ。
「日も暮れてきましたし、そろそろチェックインでもしましょうか」
「チェックインって、もう宿屋を取ってるの?」
「勿論。混み合う前に先に部屋を取っておいたんです、野宿は寒いですから」
流石アミル、頼りになる!
…………………………
まさか、男女同じ部屋だとは思わなかった。
大通りから少し外れた小さな宿屋。
そこで僕は、一人考え事をしていた。
いくらお金が無いからって如何なものか、病院の時も同室だったけど、それはそれ、これはこれ。
アミルは気にしないって言ったけど、実際に隣のバスルームでシャワーを浴びられると変に意識をしてしまう。だからって別に変なことを考えてるわけじゃないさ、唯……
「ハルヒサ」
「は!!はひっ?!」
ベッドの上で寝転がっていた僕は、バスルームからのアミルの声を聞いて飛び上がった。
「ハルヒサ?聞こえてますか?」
「う、うん聞こえてる!どうしたのアミル」
「タオルを持って来てくれませんか?すっかり忘れていました、クローゼットの中にあると思うのですが」
「ちょっと待ってて!今探すから」
タオル……タオルは…「あった!」
「有難う御座いますハルヒサ」
「う、うん!」
扉の隙間から漏れた微かな湯煙が、不意に鼻をくすぐった。
石鹸と暖かなアミルの匂い……
バスルームの扉はモザイク柄とはいえ半透明なので、彼女が体を拭いているのがわかる。って!何考えてるんだ僕は!咄嗟に背中を向けて目を逸らした。なにか別のことを考えよう!そう……別のこと。
「ね、ねえアミル?」
「どうかしましたか?」
「朝言っていた、アミルの追っている相手が来るって話…力になれることがあれば手伝うよ」
「ああ、あれはいいんです、私一人でやろうと思っていますから」
「え、どうして?!確かに僕は弱いし、頼りないかもだけど……」
「そういう意味じゃありませんよ、唯、図書館の前で別れた時に、少し考えていたんです。
私の旅の目的、明日のこと、そして、これからのこと」
「僕は付いて行くよ!アミルにどこまでも」
「……それは標的を知っても、同じことが言えるでしょうか」
「え……それってどういうこと……?アミルの復讐相手だろ?そんなの悪い奴だってわかってるよ、たとえそれがどんなに非道で、恐ろしい怪物が相手だとしても!」
「……」
アミル?
「それがか弱い女の子でも?」
え……?
「私が標的とするのは……エメラリア姫です」
その名前を聞いて、何かの聞き間違いだと、僕は、その時本気でそう思った。
だって、標的がお姫様だなんて、そんなこと予想がつくはず無いじゃないか。
「標的が……エメラリア姫?」
「ハルヒサ、いくらあなたが極度の田舎者でも、三年前、ミーライル大陸中を揺るがした大事件、魔獣による中央都市王国襲撃事件は知っていますよね?」
……知らない。
「魔獣の狙いは王室の占拠による国家転覆、でもそれは、王室とこの国の平和を守る王国騎士団の活躍によって阻止された」
そんなこと、僕は知らない。
「沢山の犠牲者を出しながらも、王国は魔獣に打ち勝ちました。そしてより強い絆と平和を手に入れた。と、公の場では言われています。ですが、
実はそうではなかった。
実際は、王国騎士団の壊滅と王族の失踪。統治者の首は挿げ替わり、人の皮を被った魔獣が統治者となった。徹底した情報統制によって揉み消された真実。
このミーライル大陸は、魔獣によって侵略が完了してしまったやがて黄昏となる世界なんです」
「そんな、この異世界が……魔獣に支配された世界?!」
そんな……だってとてもそんな風には……!
「いきなりこんなことを言われても、信じてもらえないでしょうね……」
「わからないよ!それが本当か嘘かなんて……でも、どうしてアミルはそれを知っているの?」
「……それは私が……」
…
「天⭐︎才⭐︎!だからです」
「……は?」
「嘘です」
えぇ……
なにこの空気、
しばらくの間、アミルは口を閉ざしたままだった。
床に落ちる水滴の音だけが静まりきった部屋の中で響いていた。
静寂の中、重い口を先に開いたのはアミルだった。
「……殺されているんです。目の前で」
その声は震えていた。
それでも一言一言、消えそうになる言葉を絞り出すように彼女は続けた。
「両親を……仲間を……王国を支配した魔獣たちによって」
僕には、こんな彼女の言葉が、とても嘘をついているものとは思えなかった。
だって、
彼女の言葉をで疑えるほど、僕は彼女を知らなくて、この世界を平和だと感じてしまう程、僕はこの世界を知らなすぎた。
だから……
「……聞こえる?アミル」
「……」
「言っただろ?
あの時、僕は紅蓮術師の召使いだって、一緒についていくって、
今の話を聞いたって、あの時の気持ちに変わりはないよ。
正直、三年前の事件とか、この世界のことなんて、何一つ知らないしわからない。
僕はこの世界の人間じゃないから。
でもだからこそ、自分勝手に君を信じられる!それに絶対服従できる!
僕は紅蓮術師の召使い、たとえ世界を敵に回すことになったとしても、
僕はアミルに付いて行く!」
床に落ちる水滴の音が、二人きりの部屋の中で静かに響いた。
…………………………
翌朝、パレード当日。
街は沢山の人たちでごった返していた。
予想はしていたけど、これは想像以上だ。
僕はアミルから預かった煙玉を持って人混みをかき分けていた。
(いいですねハルヒサ、作戦は以下の通りに、馬車が大通りの目抜き通りに入ったとき、私が合図を出しますから、その時に指定の場所から煙玉を投げてください。警備隊含めて皆が混乱しているうちに、私がエメラリア姫を拉致します)
よし、指定場所には辿り着いた、あとは馬車が来るのを待って煙玉を成功させる!
歓声が大きくなっていく、そして目標であるエメラリア姫を乗せた馬車が目抜き通りへ差し掛かる、その時だった。
ひゅ~ーーーー……ドドン!
一発の花火が打ち上がった。
(花火?そんな合図、アミルからは聞いていないけど……)
爆ぜた花火の中から空に広がる黒い影、あれは…大量の煙玉!?
(違う、これはアミルじゃない……!)
何百もの煙玉が目抜き通りに降り注ぐ。
まるで巨大なドライアイスを湖に落とした様に、目抜き通りは一瞬にして白煙に飲み込まれた。
視界は瞬く間にホワイトアウト
一体、何が起きたんだ!?
周囲の混乱に乗じてばらばらと、馬車へ向かって走る集団の人影が目の前を通過した。
「警備隊……?」
次第に目が慣れてきて、視界が鮮明になっていく。
そこには、白いマフラーの集団に取り囲まれた馬車と、集団の一人によって魔弾銃を頭に突き付けられた、エメラリア姫の姿があった。
「聞け!民衆よ!我々は反逆の同志!
人々を欺き、世界を破滅へと誘おうと企む魔の手から、このミーライルを守るために立ち上がったレジスタンスである!!」
「三年前の王室襲撃事件!魔獣軍団によるあの事件は鎮圧などされてはいなかった!
王室は乗っ取られ、ここにいるエメラリア姫は魔獣が姫の皮を被っている偽物だ!この真実を公に示すため、いまここで!」
「エメラリア姫を処刑する!!!」
前回から投稿が予定より遅れてしまいました。
マイペースな亀投稿ですが、これからもどうぞ宜しくお願い致します。
次回は来週、またお会いできれば。