吠えるムーンバレッツDQN【前編】
この異世界、ミーライル大陸は5つの広大な領地と、それを統治する中央都市王国からなる巨大な海洋国家である。
そんな大陸、四大領地(王国を含めて五大領地)の一つ、西の領地の片田舎からその都市、西の都に向かう僕たちに、道中ある問題が発生していた。
「何でこんなに契約金が高いんですか!」
そう食ってかかるアミルに受付嬢は事務的対応で繰り返す。
「ですから、来月に西の都で行われる祝賀パレードの支援金として、ギルドでは冒険者様からいただいた契約金の一部を寄付する取り組みを行なっておりまして」
「その通行税が払えないから、ここへ来てお金を稼ごうとしてるんです!」
「頑固な冒険者様ですね。はっきりと申した方が宜しいでしょうか、つまり、この程度の契約金が払えない冒険者様は、
一昨日来やがれって事で御座います」
交渉しようと粘りに粘った結果、僕たちはギルドからつまみ出された。「営業妨害」と尻に紙を貼られて。
しかし、契約金は確かに本当に高かったと思う。
…………………………
「もう二度と来ませんよ!こんなぼったくりギルド」
「でもアミル、ギルドが駄目なら他にどうやって」
「うーん……煙突掃除をするしかないのかしら」
言われてみれば、どこの家も煙突がある。訪ねていけば需要はありそうだけど……まるでどこかの黒い兄弟みたいだ。
そう考えながら煙突を見上げていると、ヒラヒラと空から何かの宣伝ビラが降って来た。
的当て大会、広場にて開催致します!
お一人様参加料5000G
優勝賞金は100000G!集え射撃の腕自慢!!
「じゅ、十万G!?アミル、これなら!」
「絶対優勝ですよ!ハルヒサ!」
…………………………
広場には大会の参加希望者がぞろぞろと集まっていた。
受付を済ませ、ルールを確認する。
①1対1の勝ち抜き戦で行う。
②指定の位置からスキルや武器を使って的を射止め、当たった得点箇所及び破損レベルにてその得点が高い方を勝者とする。(一本勝負、同点の場合は仕切り直し)
③使用武器、発動スキルの制限は設けない。
存分に腕を奮ってください。
以上。
シンプルでわかりやすいルール。
故に選手の実力が試されるってわけだ。
参加者の多くは当然だが弓やブーメランなど遠距離武器を持っている。
少数の武器を持たない参加者はおそらく、スキルを使って魔法で光弾やら光線でも出すんだろう。
でも困ったな……ここで重大な問題が。
「どうしました?ハルヒサ」
「アミル、僕、武器も狙撃に使えるスキルも持ってなくて……」
「ハルヒサ、あなた一体何しに来たんですか」
「いや……そう言われたって」
そんな話をしていると
『それならこちらで解決できるでしょう!レンタル品ですからお値打ちですよ是非!』
アフロにサングラス、花柄の派手な衣装にスピーカー?の様な物を持った。派手派手な男に声をかけられた。
そこには的当て用の武器がずらりと陳列されていた。
「よかったじゃないですかハルヒサ!」
「うん、これなら!」
注意深く品定め。優勝を狙うなら、ここから既に勝負は始まっているのだ。どれどれ……
ボロい弓、普通の弓、銃。
でもどれも微妙だなぁ。……え?
銃!?
思わず二度見をして、紹介文を【翻訳】した。
魔弾銃
遠距離型の武器の一つ。
特徴は使用者の熟練度や体調による魔力の増減などの影響を受けない魔弾での攻撃。
安全装置と魔弾の性質により、引き金を引いても魔獣以外には反応しない為、人間を誤射する心配がなく、他の武器と比べても魔獣に対する攻撃力の高さやその信頼性から、高い評価を得ている。
攻撃スキルが苦手な冒険者は勿論、貴族の護身用としても愛用される、いわば超高級武器である。
「銃……、異世界に銃って、ちょっと不釣合いに感じるけど、この造形の格好良さは否めない……それに【翻訳】しかスキルを持たない僕にとってこれは最適の武器では?……よし、決めた。
アミル!僕これにするよ!」
「駄目です」
「即答!?」
「値段を見てください値段を。そんな高級品をレンタルしたら、賞金貰ったって殆ど残らないじゃないですか、あなたのはこっち」
それは専用の石と指抜き手袋。
「素手で投げろってこと??」
アミルは当然だと頷いた。
え……本気?
…………………………
『レディース・アンド・ジェントルメン!!
皆さんお待たせ致しました。これより賞金100000Gを賭けた的当て大会を開催致します!
私は本大会の主催者兼MCを勤めますチャーリーです!シクヨロ♪』
開催宣言と共に熱気に包まれる広場。
……さっきのアフロ、あれが大会の主催者だったのか。
まぁそんな事より
「ハルヒサ、目指すは優勝ですよ!」
「うん!」
熱気溢れる広場。
的当て大会、頑張るぞ!
…………………………
『魔砲のトム VS 召使いハルヒサ!!』
第一試合、早速僕の試合だ。
珍しく相手も武器を使用しないタイプだ。
先手は相手。
「スキル発動!【射撃】!!」
光を発した掌から光弾が的一直線に撃ち出された。
ドォン!!
光弾は見事に的に命中。中央から僅かにズレたものの100点満点中80点の好成績を叩き出した!
初戦からレベルが高いな……
体がブルブル……と震えた。怖気付いた?いいや
武者振るいだ。
よし、今度は僕の番。
観客席からアミルが期待の眼差しを向けている。
僕はサムズアップで返した。
手袋をはめて専用の石をぎゅっと握った。
落ち着け……まずは分析だ。
的との距離は約50メートル、
手袋は意外にも手に馴染んで悪くないし、この石ころも飛距離が出そうだ。
体調は良好、天気も快晴、風は無い。よし、最高の状態だ。
沸き立つ闘志、心なしか力が漲っている気がする、いける!
僕は大きく振りかぶって、的に狙いをつける。そしてー……
力いっぱいに投げた!!!
『ハルヒサ選手爆投!』
的一直線!いけーーっ!!」
ー!
…
……カツン。
「あれ?」
しかし石は的に到達するどころか、勢い足らず途中で地面へ落ちてしまった。
召使いハルヒサ、得点0
一回戦敗退。
終わっちまったーーーー!!
敗因は、圧倒的力不足。
「惨敗でしたね」
ズゥーン……。
アミルの言葉が心に刺さる。
「そ、そんなにガチ凹みしないでくださいさいよ!
もう仕方がありません、私がなんとか優勝します!」
くっ……彼女の荷物持ちどころか、お荷物だ。
僕は心の中で泣いた。
…
『狩人アイザックVS 魔法使いアミル!』
そしてアミルの試合。
相手は弓の使い手、経験も豊富そうだし、強そうだ。
しかし
『狩人アイザック 85点!
魔法使いアミル 220点!※的への損傷加点により+120点
勝者、魔法使いアミル!!!』
観客たちの大きな歓声と共に紙吹雪の様に火の粉が舞った。それは
心配御無用のオーバーキルだった。
彼女の魔法スキル【火炎の槍】が的を容赦なく貫き焼き尽くしていた。
(てゆーか、ぐつぐつ沸騰してるよ……怖)
その後も彼女の勝利は続き…
『それでは準決勝に移ります!!』
遂に準決勝まで駒を進めた。
彼女の試合を観に、観客はいつの間にか倍近くになっていた。
「凄いよアミル!もう優勝間違いなしだ!」
「そうですね、このまま順当にいけば……ですけど」
「アミル?」
大きく肩で息をする彼女を見てハッとした。
そういえば、この大会でどれだけスキルを連発したんだ?!小鬼の巣穴で見たスキルより威力は弱いけど、それでもド派手な魔法スキルだ。
「ハルヒサ、大会後はおんぶをお願いします。
大丈夫ですよ……賞金を手に入れるまでは倒れたりしませんから」
やばい……かっこいい……。
そんな会話の最中だった。
「なぁいいだろ?譲ってくれるよな、この試合」
『こ、困りますよお客さん!飛び入り参加だなんて、大体、エントリーはとっくに終了して、次は準決勝なんですから!』
何やら別ブロックの準決勝で観客とMCが揉めていた。
「いいじゃねぇか、譲ってくれるって本人も言ってる訳だしよ、この心優しい選手と俺様が交代するだけさ」
『ですが、それでは勝ち抜き戦である意味が……』
見るからに柄の悪そうな大男が、選手の肩に腕を回して何か強要しているみたいだ。異世界にもこういう奴はいるのかよ…
盛り上がっていた大会の空気はぶち壊し、迷惑すぎる……。
「なぁMC兼主催者さんよ?こいつが見えねぇか?」
大男がそう言って懐から武器を取り出した瞬間、それは場の空気を一変させた。
『そ、それは……!』
超高級武器、魔弾銃。
レンタルで見たそれとは違い至る所に改造が施されている。
拳銃サイズでありながら長く伸びた銃身と、
大きくその口を開けた45口径。
銃口には竜の顔を模したアイアンサイトが取り付けられて、グリップ部分には趣味の悪い金色の竜の刻印が刻まれていた。
『大口径の魔弾銃に竜の刻印レジェンド……!まさか!』
逃げ出す選手たちに騒つく観客。
なんだ?あいつは有名人なのか?
「どうだ、俺の名前を言ってみろ」
『あ……あぁあ、あなた様は……
泣く子も黙る竜殺しの異名を持つギルドの鬼……!
竜哮の魔弾ドーキン!!』
「ハハハ!その通り!この俺がドーキ様だ!
おや?対戦相手が逃げてしまった様だ」
大男は怯えるMCの頭を鷲掴みにすると、顔をぐっと手繰り寄せた。
「おいMC!この場合はどうなんだ?試合結果を宣言しろ、高らかにな!」
『は……はいっ、宣言させて頂きます……
じゅ、準決勝第一試合、選手交代と対戦相手不在により……
勝者!竜哮の魔弾ドーキン!!!』
滅茶苦茶だ……!
これじゃあ試合を勝ち進んできた選手が馬鹿みたいじゃないか!
しかし肝心の主催者があんな状態、あれでは公平な審判ができる筈がない…
「アミル!こんなの大会じゃない!このままいけば決勝だけど、あんな奴がまともに試合をやる筈が無いよ!俺たちも棄権しよう、賞金は残念だけど……」
「そうですね、ハルヒサ、残念ですが」
アミルはMCに駆け寄った。
「MCさん」
『あ、あなたは準決勝第二試合の……」
「私の対戦相手も姿がありません。試合放棄ということで、自動的に私の勝ちになりますよね?」
「アミル!?」
見てみるとアミルの対戦相手も消えていた。
試合にならないと思って逃げたんだ。いや、そういうことじゃなくて!
冗談だよねアミル!あんな奴と試合をするなんて…
『でも君、それだと決勝の相手は……』
大男がアミルに視線を向ける。
「姐ちゃん、俺と試合でもするむもりか?」
「宜しくお願いします」
「チッ……田舎もんか?恐れ知らずで気に入らねぇな!」
そんなアミルの態度を見て、
手に持った魔弾銃を彼女の頭に突きつけた。
「間違えていますよ?私は的ではありません。それに、魔弾銃は魔獣にしか引き金を引いても発射されないんじゃないですか?」
「試してみるか?」
「何をです?」
煽るアミルに、大男は眉間に皺を寄せて彼女を睨みつける。
「チッ……!うぜえ女だ、
そこまで言うなら試合を受けてやるぜ
おいMC!的にはちゃんと魔獣の血が染み込ませてあるだろうな?」
『は、はいっ!武器に魔弾銃を使用される選手もありますので……ぐぁつ!』
その言葉を遮る様に、大男がいきなりMCを殴り飛ばした。
『ぐ……どうじで……』
「薄すぎるじゃねぇか、これじゃあ上手く狙いが定まらなぇよ!」
大男は的の方まで歩いて行くと、持っていた布袋から何かを掴んで取り出した。
「うっ……!!」
吐き気を催す腐敗臭、これは……
魔獣の生首!?
それが的に擦りつけられて、的はドロドロの血がべったりと付着した。
「これでどこから撃っても100%当たるぜ」
そんなのアリかよ!
誰がこんな形で決勝戦が始まると予想しただろうか、しかし
『そ、それでは……
竜哮の魔弾ドーキン VS 魔法使いアミル!!
決勝戦を始めます!』
MCの宣言により、試合は始まってしまった。
「私が先手ですね、それでは
魔法スキル発動【火炎の槍】!!」
「唸れ、竜哮!!」
『アミル選手120点!ドーキン選手120点!』
仕切り直し!
「【火炎の槍】!!」
「竜哮!!」
『アミル選手120点!ドーキン選手120点!』
仕切り直し!
戦いは互角、いや、明らかにアミルの方が点数は上の筈なのに…!
ーそして
「そろそろ降参したらどうだ?日が暮れちまうぜ」
試合は思わぬ長期戦に突入していた。
スキルの連発でアミルは立っているのも精一杯、対するドーキンは息一つ切れちゃいない。当然か、相手はスキル必要としない魔弾銃、スキルを使うアミルとは相性が最悪だ。
悔しい……僕は見ていることしかできないなんて!
「このままじゃ、確実にアミルが負ける……!」
「さっさと降参しやがれ!テメェに勝ち目は無えよ!」
しかし何故だろう、有利なはずのドーキンは頻繁に弾の入ったケースを確認して落ち着かない様子。
「ひょっとして、残弾が残り僅かなのでは?」
残弾?そうかアミルは
「女ぁ……まさかてめぇそれを!!」
「撃てる弾が無くなれば試合続行はできませんから、私の勝ちです。そうなるまでは、絶対に的は外しません」
「ぐぅう!!!」
相手は図星か、言い返せない!
「魔弾銃がなぜ評価されてなお普及しないのか、それは本体の値段もさることながら、消耗品である魔弾のコストもバカにならないから。
このままいけば、私に勝ったとしてもあなたは大赤字になりますね」
魔弾銃の思わぬ弱点がそこにあった。
「止めだ!止めだこんな試合!!」
ついにドーキンが匙を投げた。
「降参ですか?」
「……うるせぇよ」
ガチャリ!
な……!
『ちょ、ちょっとドーキンさん!』
慌てるMC、アミルの額に突きつけられる魔弾銃。
「こんな的当てなんざやってられるか、
顔貸せよ糞売女、決闘でこの俺様が、生意気なテメェにわからせてやるよ」
「わからせる?そんな銃で脅したって、何も怖くありません。その武器は」
「魔獣じゃなければ攻撃できない…か?
だったらこいつの血を浴びたら、どうなるかな?」
「危ないアミル!!」
ドーキンは再び袋から生首を取り出し、それを思いきり、アミルの顔面に振り下ろした。
バシャッ!!!
飛び散る血飛沫、
最悪だ…最悪すぎて吐きそうだ。
「何だテメェ……ぁあ?」
「ハルヒサ!!!」
でも彼女には掛からなかった。
「邪魔するんじゃねぇよ、誰だテメェ……」
「…い」
「は?」
「テメェじゃ無い!俺は……
紅蓮術師の召使いだ!!!」
僕は初めて、自分より強いであろう相手に啖呵を切った。
「召使い?ハハハ!召使い風情が、お姫様を守る騎士にでもなったつもりか?」
何とでも言えばいいさ(でも心臓バクバク後悔の嵐)
「俺が決闘を申し込んでいるのは女の方でお前じゃ無い。もっとも、手足縛って二人三脚ってなら話は別だがな」
ふざけるな!そう言葉が出ようとした時だった。
「いいでしょう」
アミル!?
「ハルヒサ、私をおんぶしてください」
「そんなことしたらアミルに血が……それに!」
「ドーキン、あなたの狙いは大会の賞金、そして刃向かった私をわからせること。そうでしょ?だったら私は彼におぶさって一切手を出さない、決闘での攻撃は彼の足のみで行う。これなら文句はないんじゃない?」
「随分と舐めた提案してくれるじゃねぇか……
いいだろう!お前ら2人、仲良く蜂の巣にしてやるぜ!」
ちょっとアミル?!
本気で言ってんの!?
『そ……それではここで急遽、両者合意といたしまして決勝戦はー竜哮の魔弾ドーキン
VS 魔法使いアミル&召使いの
"決闘"となりました!!』
後編に続きます。
次回は来週、またお会いできれば。