6話 お隣様は休みたい
短め。
朝。目が覚めると見覚えのない部屋にいた。
――ように感じたが自分の部屋だった。
昨日の掃除の成果で、もはや別の部屋になっている。
この部屋は自分で片づけたのだと思うと、今更達成感がわく。
なんとなくすっきりした気分で、ベッドを下りた。
見違えたリビングにも感動しつつ朝食。
いつもなら食パンを焼いているところ。
けれど、せっかくシチューがあるのだ。
シチューとパンを合わせてみるのもいいかもしれない。
少しだけ豪華な朝食になりそうだ。
「···料理、練習するかな」
一人暮らししているのにも関わらず、
料理も片付けも出来ていないのはまずい気がする。
簡単なものから少しずつ練習していこうか。
···その前に調味料やらなんやらを揃えねば。
***
買い物らしい買い物をした感がある。
いつも弁当だけとかパンだけとかだったし。
卵とか野菜とかと実家で見覚えがある調味料と、米。
さすがに米を炊く位は出来る。してなかっただけで。
まずは卵焼きの練習からにするかな。
目玉焼きやスクランブルはさすがに出来るけど、
あれは料理と呼んでいいのか怪しい気がする。
問題発生。
そもそも卵が上手く割れない。
久しぶりすぎて卵を割るときの力加減がわからない。
これでは目玉焼きも作れるか怪しい。
···溶かれた卵を焼いたらどう呼ぶんだろうか。
バラバラにすればスクランブルエッグだけれど。
粉砕された殻の破片が卵に混ざったり、
ヒビを入れるどころか白身が漏れるほど割れたりとか、
色々な問題が発生しつつも、なんとか完成した。
塩の加減はレシピ(というほどでもないものだけれど)
の通りに作ったから大丈夫なはず。
かなり不格好だけれど、一応卵焼きである。
米を炊き忘れていたせいで単品で食べたけれど、
塩加減はちょうど良いくらいで普通に美味しかった。
***
6時、インターホンの音。
どうやらランニングはこれくらいの時間にするらしい。
こちらは既にジャージに着替え済である。
ドアを開けると、やはり姫野さんが待っていた。
···ジャージでも似合うんだな、こういう人は。
「お待たせ」
「いえいえ。もう着替えてたんですね。
むしろこちらが待たせてしまったようで」
「特にすることもなかったから着替えておいただけだよ」
卵焼きに苦戦していたけど、他は何もしていない。
「そうですか、良かった。この時間で大丈夫ですか?」
「平日含めこの時間なら全然問題ない」
「では、この時間で」
「了解。どの辺走る?」
「···決めてませんでした」
「ガバいな」
「日向さんも考えておいてくれれば···」
じとっとした視線を向けられる。
···まぁ、相談もせず任せてたのは良くないか。
「俺も訊いとけばよかったな。
適当に走ろう。ペースとかコースは任せる」
「はい」
30分程近所を走った。
だいたい5キロくらいだろうか。
帰宅部としては辛い量の運動である。
ただ、風人は一応男なのだ。対して。
「疲れました···」
まだ呼吸の荒い姫野さん。
立ててはいるが、膝に手を当てたまま動かない。
足も少しぷるぷるしている。
「1品作るって話だったけど」
「あぁ、すぐ作りますね」
「いや、そうじゃなくて。
ランニングに慣れてからで大丈夫だから」
こんな状態で作ってもらっても気が引ける。
「···すみません。甘えさせてもらいます」
少しは息も整ってきたようで、
ふらふらしつつ部屋に入っていった。
···次からは時間短めにした方が良いだろうか。
***
翌日。
筋肉痛な上に微妙に雨降り。
水溜まりを避けようとする度に痛い思いをする羽目になる。
「風人、顔死んでるぞ」
いつも通り月斗と合流した。
「ランニング始めたんだけどさ、筋肉痛酷くて」
「今日雨でよかったな、合法的に休めるじゃん」
確かに今日は休みになるか。
一応帰ったら姫野さんに言っておくかな。
「雨に感謝だな」
「木金辺りは晴れて欲しいけど。雨中遠足は雰囲気が微妙」
そういえば金曜日は遠足だった。
雨の中散策はきついな。
「お前らの雰囲気は平常運転だろうけど」
「当然」
「ドヤ顔すんな」
「まあまあ。せっかくなんだから風人も楽しもうや」
「そう思うなら自重頼むわ」
「ごめ、それは無理」
「おい貴様」
遠足はどうなるやら。
帰宅後、今日は休もうと姫野さんに話しに行ったとき、
今にも死にそうな顔をしながら無言で頷いていた。