4話 お隣様は報いたい
夢遊病。
ノンレム睡眠中に、無意識のまま体は動く。
主に子供が発症し、成長につれ治る。
たまに成人が発症するケースもある。
要因も色々。
翌朝調べてみてわかったことだ。
一昨日、声をかけた時に目を覚ましたのは奇跡らしい。
それと、要因は色々なようだけど、
姫野さんの状況的に当てはまるのはストレスか。
あれだけ容姿端麗なら、妬みとかも多いんだろうな。
重度のストレスを抱えていると仮定してみれば、
何が起きているかなど容易に想像できてしまう。
女子に何か言われてるかされてるか。
確認をとるわけにもいかないし、想像の域は出ないけど。
仮定が現実のものであるとしたら。
いじめの類があるのなら、今度は手を差し伸べたい。
接点が無いのに出来ることなど限りあるが。
さて、いつもならだらだらしている土曜日。
でも姫野さんが用があるそうだし、
悪印象のないよう最低限身なりは整えておくかな。
***
10時、インターホンの音。
「おはよう、姫野さん」
「日向さん、おはようございます」
「昨日手伝うって言ってたけど、何かするの?」
「はい。お邪魔しても?」
そう言いつつこちらの部屋へ目をやる姫野さん。
まじか。 頬が引きつるのがわかる。
汚部屋とまではいかないものの、綺麗ではない。
「女子を上げるには散らかり過ぎてるんだけど···」
「ですよね」
「え?」
何故かそこでくすくすと笑う彼女。
分かってたってことか?
「一昨日、ベランダから少し日向さんの部屋が見えてしまって」
「あー···」
分かってて当然だった。
女子に見られるには恥ずかしすぎる部屋を···
「なので、掃除を手伝わせて頂こうかと」
「完全に俺が悪いのにそれはさすがに申し訳なさすぎる」
自分の後始末をさせるのはさすがに恥ずかしい。
「命を助けてもらいましたから。
それに比べれば大したことないです」
「ん···」
それを言われると断りにくい。
気にしなくても良いとは言ったが、本人は気になるんだろう。
素直にお願いするべきか。
「そういうことなら。お願いしようかな」
「はい。お邪魔しますね」
初めて女子を家に上げるのがこんな理由になるとは。
てか姫野さんは男の家に入るのは平気なんだろうか。
特にためらいもなく入ってきたけども。
本人が気にしてないならいいか。俺も何もしないし。
姫野さんにリビング辺りをお願いして、自分の部屋へ向かう。
さすがに自分の部屋は自分で片づけないと色々とまずい。
変なものを持っているわけではないけれど、
そもそも女子に自分の部屋を掃除してもらうのはやばい。
一人暮らしだから実質どこも自分の部屋な気はしたが、
もうそんな所は気にしないことにした。
自分の部屋というより寝室、か。
学校関連のものとベッドしか置いてないし。
見られて困るものはリビングにはない。はず。
***
「こんな綺麗な部屋久しぶりに見た」
「雑然とはしてましたけど、
汚いって程でも無かったですよ?」
「そこ違いあるのか」
「あります。たぶん」
「たぶんか。···とりあえずお疲れ様。
ありがとう。ちょっとそこでくつろいでて」
「···?」
「お礼になんか買ってくる」
何か振る舞えれば良いのだけど、そんな料理スキルはない。
普通に何か買った方が良いだろう。
「いえ、そんな···」
「気にせず。ちょっとは面子立たせてくれ」
「···なら、お言葉に甘えて」
「何が食べたいとかある?」
「んー、ゼリーでお願いします。みかんの」
「了解、行ってくる」
コンビニは怪しいけど、近所のスーパーで確か売ってたかな。
***
「買ってき···た···」
帰ってきたらソファで姫野さんがうたた寝中だった。
部屋に普通に入ってきたことといい、
どうにも警戒心無さ過ぎではないか。
「姫野さーん?」
「···んぅ」
起きた。
「おはよ。買ってきた」
「わざわざありがとうございます」
「気にすんな。それより男の家にいるってことを気にしてくれ」
「···?」
あんまり伝わってない様子。もういいや。
「···なんでもない。眠いのか?」
「いつも眠たいですね。授業中もよく寝てます」
そんなんだから男子に裏で眠り姫って呼ばれてるんだよ。
そう教えたい気はするけど彼女は高校が同じなの知らないか。
それに高校生になってるのに、
そんなあだ名知りたくもないだろうな。
「遅くても一昨日のあの時間くらいには寝てるんだよな」
「そうですね。朝も極端に早起きしてるわけでもないです」
「睡眠の質の問題か」
「寝たまま歩き回ってるくらいですしね、そのせいかも」
「授業中に夢遊病は起きないのか」
「ノンレム睡眠じゃないと起きませんよ」
「うたた寝程度なら問題ない、か」
「そうですね」
「でも授業聞いてないときつくないか」
「正直きついです」
「休みの日くらいはゆっくり寝れないのか」
「寝溜めですか」
「そう」
「···じゃ、ここで寝ても良いですか?」
···は?
微笑んだまま何を宣っているのか。
「夢遊病がどんな感じなのか見ててもらえないかなと」
「昨日そういうのは頼めないって言ってなかったか」
「もうさっき寝ちゃってたので良くないですか」
「めちゃくちゃな暴論だな」
「···それに、誰かと居るのなんて久しぶりで。
今、すごく落ち着いた感じがしてるんです」
端正な顔に陰が差す。
あまり踏み込まないほうが良いか。
「···わかった。俺が何かしたら通報しろよ」
またさっきまでの表情に戻った。感情がわかりやすい。
「はい。でも、その前に」