表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お隣様は夢見がち  作者: 待雪
眠り姫とフラジール
3/6

3話 お隣様は語りたい

 満員電車から解放。

 駅から出たところで月斗のテンションが若干上がる。


 学校まで10分程度だけど、ここで花と合流するのだ。

 ···つまり胸焼けの時間である。


「つーくん!」


 つけ方が雑な気がするあだ名で月斗を呼ぶ声。

 もちろん花である。


「はーちゃんおはよ」

「おはよう、かーくんも」

「その呼び方なんとかならねえのか」

「ならない」


 ここまでがテンプレである。

 ちなみに、はーちゃん、とは本人がそう呼んで欲しいらしい。

 月斗もそれで良いようだけど、俺を巻き込むんじゃない。

 初めてそんな呼ばれ方した。違和感しかない。


 なんとなくチャラそうな印象の月斗とは違って、

 黒髪黒目で清楚な印象を受ける彼女だけれど、

 中身は騒が、じゃなくて賑やか。

 大人しそうだと思ったのにな、

 実際は真逆で面食らったのが懐かしい。


「ところで目が逝ってるけどどうしたの」

「花も言うかそれ」

「つーくんにも言われた?」

「言ったよ、いつにも増して死んでるって」

「思うことは一緒ですねぇ」


 二人が目を合わせて笑う。


「目の前でいちゃつくんじゃねぇ」


 胸焼けで死にそう。



 ***


 2限目が終わった。

 今日は金曜日だから次はホームルームの時間。


「風人、今日ホームルーム何するか知ってる?」

「あれじゃね、来週の」

「あー、遠足か」


 校外学習とかそんな名前ではない。遠足である。

 それがちょうど1週間後に控えている。

 クラスごとにすることも行先も自由に決められるイベント。

 うちのクラスは寺社とかが有名なあたりで、

 散策の予定になっている。


 ちょうどチャイムが鳴る。

 行先しか決まっていない遠足の詳しい説明が始まった。


 行動もクラス単位ではなく班単位で、

 二人班でも構わないそう。

 本当にただの遠足である。

 そしてお待ちかね···でもない班決め。


「風人、組んでくれないか」

「むしろこっちから頼む。他誰か誘うのか?」

「んや、二人で」


 月斗が二人班なのは意外。

 そんな驚きが察せられたのだろうか。


「花のクラスもさ、うちと行先一緒らしくて」

「だいたい理解したこれ以上胸焼けさせるな」


 合流して一緒に回りたいんだろう。


「風人には付き合ってもらう感じになるけど良い?」

「俺は特に行きたいところもないし。

 花と組むことになった女子とでも喋っとくよ」


 誰か適当に強引に連れてくるのが目に見えている。

 胸焼け被害者同士として話が通じるかもしれない。


「風人が積極的に喋りに行くとか珍しいな」

「お前らのやり取り見てるよりはマシだろ」

「酷い言いようだな」


 そう言いつつけらけらと笑う月斗。

 とりあえず半目を向けておく。


 そんな茶番も交えつつ、遠足の行程が詰められていった。



 ***


 5限目終了。

 うちの高校は5限で終わりだから帰宅の時間。

 満員で蒸し暑かった行きとは違い、

 帰りは電車もそれなりに空いていてありがたい。

 座れる席は相変わらず無いけど。



 駅からマンションまではせいぜい5分程度。

 なかなかに良物件ではないだろうか。

 その上隣人が姫野さんとあっては、

 もう学校中の垂涎の的な気がする。

 そもそも学校から少し遠い立地ではあるけれど。

 歩き時間が短いよりも、

 満員電車の時間が短い方が個人的には良い。

 姫野さんにも特に興味があるわけでもないし。


 帰宅。

 とりあえず着替える。

 脱いだ服はその辺に放っておく。

 自堕落な生活をしている自覚はあるけれど、気にしない。

 気にすることなんか少ない方が良いに決まってる。


 特に何をするでもなくだらだらしていると、

 長らく聞いていなかったインターホンの音が聞こえた。

 タイミング的に相手の予想はつくし、

 散らかった部屋は見せないようにせねば。


 最小限の隙間を作る程度にドアを開く。


 まぁ、予想通り姫野さんがいるわけで。

 制服のままで鞄も持っている。今帰ったところか。


「姫野さん、どうした?」

「急ですみません、昨日のことで。

 ···日向さん、助けて頂いてありがとうございました」


 表札で名前見たのかな。それにしても、


「助けてって···自殺じゃなかったのか」


 自殺しようとしていたなら感謝はしない気がする。

「助け」ではなく「お節介」になるだろう。

 いったい、どういうことなのか。


「まぁ、そう見えましたよね。あれ、私自身は意識がなくて」

「意識がないって?」

「夢遊病、なんでしょうかね」


 聞いたことはある。

 意識がないのにんなことをしたのも説明はつくか。


「病院には?」

「行ってないですね。

 一人暮らしですから何が起こってるのかわかりませんし。

 ただ、目が覚めたら変な場所にいるときがたまにあるので、

 恐らくそうではないかと」

「親に相談とかは」

「···してないです。これ以上母を心配させたくはありません」

「昨日みたいなことがあったらどうするんだよ」

「鍵をかけ忘れていただけなので。

 日向さんにも心配させてしまいましたね、気を付けます」

「まぁ、あんまり干渉するものでもないか。

 ···気を付けてくれよ」


 とは言いつつしばらく夜は気にしてしまうだろうけど。


「はい。それで、何かお礼がしたいのですが」

「気にしなくて良い。

 強いて言うならそれを治してくれ、気になってしまう」

「···善処します」


 まぁ、治そうと思って治せるものでもないか。

 それに、一人でどうにかなるものでもなさそうだ。


「何か手伝いがいるなら協力はする。隣人ではあるし」

「寝ているときの話ですし、失礼ですけど頼みにくそうです」

「そりゃそうだな」

「むしろ私が手伝いたいことが。明日って空いてますか?」

「空いてるけど」

「なら明日改めて訪ねさせてもらいますね」

「よくわからんけどわかった」

「では、失礼しました」


 そう言うと姫野さんは一礼して自分の部屋へ入っていった。



 情報量が多すぎて、部屋に戻ったらそのまま寝た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ