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お隣様は夢見がち  作者: 待雪
眠り姫とフラジール
2/6

2話 お隣様は払えない

 お隣様との出会いがいろいろ衝撃すぎて、

 昨夜はあまり眠れなかった。

 しかし非情にも授業はあるのである。

 仕方ないので食パンを焼きつつ登校の準備。

 寝起きで米は食べづらい。


 隣が姫野さんなのなら、

 登下校のとき会っていても良い気がするけど、

 時間が違うからかそんなことはなかった。

 向こうは俺のこと知らないだろうし、

 会ったところで、ではある。

 昨日のことを問い質したい気持ちはあるけど、

 そんな度胸もない。


「ま、いつも通りの時間なら会わないだろ」


 いつもギリギリ登校になる俺である。

 どう見ても優等生の姫野さんと、鉢合わせするはずがない。


 もし、万が一会うことがあったら、昨夜のことを訊くか。

 余計なお世話だったのかもしれないが、一応助けたのだ。

 多少事情とかを訊くくらい構わないだろう。


 まぁ、会えばの話だけれど。





 ***


 いつも通りの満員電車。

 夏は終わったし、それほど暑苦しくはないが、やはり狭い。

 姫野さんはこんなのに乗って平気なんだろうか。

 それとも電車は使っていないのだろうか。


 ···そもそも何故彼女のことを考えているのやら。


 色々とショッキングすぎた。

 どうしても昨夜のことが気になって考えてしまう。

 せめて授業中は忘れていたいけれど。

 これでも成績は良い方なのだ。キープしておきたい。

 それに、上の空なところを先生に当てられでもしたら、

 何も答えられないまま笑われる。


 笑うような友達がほぼいないが。


 悶々としているうちに、乗り換え駅に着く。

 人の波に流されて別のホームへ移動。

 そこで、すっかり聞き慣れた声が聞こえた。


「よー風人!」

「···おはよ、月斗」


 数少ない、どころか二人しかいない友達の片割れ。

 新田月斗(にいだつきと)

 明るめの茶髪が腹立たしい程似合っているイケメンである。

 高身長のムードメーカー。

 一人でひっそりしていた俺に絡んできた変人。

 同じ電車に乗っていたというのはあるかもしれないけど。


 ちなみにもう一人の友達は月斗の彼女の水谷花である。

 彼女の方はクラスが違うので、

 40人いるクラスで友達は月斗だけ。


 作る気がないのだからそりゃ友達もいないわな。


「いつにも増して顔が死んでるけど、どした?」

「そんなに死んでるか?」

「死んで腐った魚みたいな目してる」

「普通に死んだ魚の目でよくないか」

「それじゃいつも通りじゃん」

「確かに」


 目が死んでる自覚はある。

 俺は月斗みたいに輝かしい日々は送れないし。

 ···魚って腐っても目は原型とどめているんだろうか。


「べつに何もないけど。疲れてるんかね」

「帰宅部なのにそんな疲れることあるのか」

「稀にな」


 原因はわかりきっているけれど。

 隣人が姫野さんだったなんて言ってみればどうなるか。

 目の前の輩がニヤニヤして面倒になるのが目に見えている。

 ありもしない恋フラグを見つけようとするに決まっている。

 ···それに、飛び降りようとしていたこととか、

 彼女のことを勝手に喋るわけにもいかないし。


「月斗は部活忙しそうなのに元気だな」

「はーちゃんがいるし部活で疲れることはない」

「しまった、惚気る隙を与えてしまった」


 はーちゃん、とは言うまでもなく彼女の花のことである。

 少しでも隙を見せれば惚気る。なんだこいつ。


「誰も困らないから問題無し」

「聞かされる俺の身になれ?」

「はっ、風人も惚気られるようになれば良いのでは」

「友達がお前ら二人しかいないのにどうしろと」

「確かに」

「そこは納得してほしくなかったな」

「事実だから仕方ない」


 さっき回避したはずなのに結局こういう話題である。

 油断も隙もない。

 花がマネージャーをしているのだが、

 高校で知り合ったとは思えない仲の良さ。


 他のバレー部員は耐えられているのだろうか。

 無理だろうな。南無。


「何があったのか知らんけど、頼ってくれて良いから」

「はいはい」


 何かあったというのは決定事項らしい。

 そんなにわかりやすいものかな。


 思えば、入学してから既に半年。

 月斗と関わり始めてからもそれなりに経っている。

 隠し事を読まれても不思議ではないか。


 ···いや、俺は絶対わからない自信がある。

 まだ短いといえば短い付き合いなんだし、月斗がおかしい。

 たぶん。


 中学でも嫌という程味わったものだけど、

 やはり陽キャと呼ばれる人種は格が違う。

 何故こうも容易く距離を詰められるのか。


 クラスメイトと距離を置こうとしていたはずなのに、

 月斗はそれよりも速く距離を詰めた。というか根負けした。


 今となっては良好な関係だし、それで良かったとは思う。

 惚気はいらないけど。

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