その4の1
しばらく続く睨み合い。伊良痤天さんはまるで鬼女のように私を睨んでいます。
おとなしめな私は小さい頃からかわれます。
でも私がちゃんとしてるなって人はあまりそう言うことはしません。伊良痤天さんのように見た目は拘るけど心を磨かない人ほど馬鹿にしとくるような気がします。
このような方がスクールカーストと言う井の中の蛙のトップクラスなのでしょうか?
「伊良痤さん」
「なによ?」
「トップに立つ者は威張り散らしてはいけないのです。人々の模範となるべき方のことを言うと思います」
「ちっ!うるさいな~」
更に迫ってきた伊良痤天さんのつけまつ毛が長いです。教えて差し上げた方がよろしいでしょうか?
そんなことを考えているとサッと私を守るように御陵くんがわりこんできました。
例えるなら猛獣同士の睨み合いにありんこが割り込んで来たように思えましたが、コミュ力の高い御陵くんはにこやかに笑い伊良痤天さんの肩に手を置くと優しく諭します。
「まあまあ。そんなに怒っちゃ、せっかくの美人が台無しだぞ?」
「そ、そう?高明がそう言うなら許してやらなくてもないけど?」
「さ、向こうで一緒に飯でも食おうぜ~」
御陵くんはフォローのつもりでしょうか?
伊良痤天さんを連れて行ってしまいました。
なんでしょうね、この茶番は。御陵くんの甘ったるい台詞にも吹き出しそうになりましたし。
でも助かったことは確かです。後でお礼を言わねばなりません。
「凄かったな~、芹沢!伊良痤に逆らうなんて」
「そうですか?所詮同じ学生ですよ?」
そう。甘々な恵まれた苦労知らずのね。劣等感が沸きます。
生徒たちに称賛されつつも教室を出ます。
あまり褒められても居心地が悪いからです。
喧騒の酷い廊下を歩いていく。弾ける元気な声。
皆さん青春を謳歌していますね。
屋上でお弁当を食べます。春も吹くのが疲れたのか今は穏やかなのです。
ぽかぽかと暖かいので制服まで暖まります。
昨夜作り置きしていた肉じゃがは冷えていましたが味が染みて美味しいです。野菜のスティックをカリカリかじりながらこれからのことに不安が過ります。
もし、いじめになど合ったらどうしようと。いえ、今の私なら戦える。
教師が逃げるから私は強くなったのです。
いじめが始まった瞬間首謀者を潰しましょう。
それが解決方法として良いわけはありませんが大人が頼りにならないから。
こちらが強くなるしかなかったのです。
そんなことを考えるとご飯が不味くなります。
遠くの景色にでも思いを馳せましょう。
遠くに見えるは雄大な五竜山。その昔、五匹の竜が生け贄を求めていたそうですが国が腕の立つ侍を集めてこの地に封印したと言う。
どこかの和風ラノベでしょうか。
五竜山に雲がかかるのを見届けてから草餅をおやつに食べます。
老舗の和菓子も嫌いではありませんが、どこにでも売ってる和菓子の飛び抜けてはいないこの平均的な甘さが好きです。
教室に戻ると伊良痤天さんたちはいましたがこちらになにかしてくると言う訳でもなくて安心しました。
伊良痤天さんがこれ以上の愚行を繰り広げなくて良かったです。
スマホを見るとクラメイトからは称賛のLINEが来たりします。
いつの間にかぼっちではありませんね。
こんなに早くぼっちじゃなくなっていいのでしょうか?
しかし、プライベードでは相変わらずのぼっちです。いえ、マイペースでした。
HRではだらけた担任が一言聞き捨てならないことを呟きました。
「あ~、働きたくね~。みんな~、問題起こすなよ~。だらけたいから~」
「センセ、相変わらず怠け者だな~!」
「そんなんでよく教師できんな!」
「はいはい。教師だって人間だから~。だらけることこそが私なのです~」
はぁ。教師としてはいかがなものかと思いますが、自分を貫いてることは潔し。
でもまた、教頭などに怒られそうですね。
「伊良痤~、あんま揉め事起こすなよ~?」
「センセ、なんで私ばっかり言うんですか?」
「さあ?胸に手を当てて考えれば分かるだろ~?」
そう言えば不思議と誰かが揉めたらこの教師、生敬雲龍先生は時折するどかったりします。