その3の2
数学教師が夢の世界に旅立った御陵くんに気づきました。後少しで授業も終わりだと言うのに。あの数学教師は恐ろしいです。ガンマンなのです。寝ている生徒に投げるチョークは百発百中。御陵くんの頭はぱっかりとスイカ割りのスイカみたいに割れてしまうに違いありません。
ああ。数学教師がチョークを狙います。みんな気づいていますが睨まれるのが嫌なのか黙って見守ります。
そしてチョークを構える数学教師の表情は悪の親玉のようにニヤリと口角が上がり狙いを定めます。ゴクリと唾を飲み込みます。そしてチャイムが鳴り響くと共に放たれたチョークは風を切り御陵くんの後頭部に。
しかし、チョークは御陵くんには当たりませんでした。なぜなら私がノートで弾いたからです。チャイムが鳴り響く中唖然とする生徒と、数学教師。
「……芹沢。なぜ防いだ?」
数学教師が楽しみを奪われた子供のような表情で尋ねます。
「……お戯れを先生。授業はもう終わりましたよ」
そして一礼すると廊下へと速歩きで逃げました。トイレへ逃げ込んで一息。今も心臓が早鐘を打ち鳴らしています。除夜の鐘よりも速いです。
しかし、その後が行けません。目立ちたくない私は教室へ帰るとクラスメイトたちから拍手喝采です。
「よくやったぞ、芹沢!」
「かっこよかったよ~!」
「我等居眠り同盟の仇を取ってくださるとは正に女神様!」
みんなでわいわいもてはやされて照れてしまいます。
でも、面白く無さそうに見ている生徒もいます。御陵くんのことが好きな方々でしょう。その逆鱗に触れないように席へと戻ります。
「ありがと~な~芹沢。お前のお陰でたんこぶ出来なくてすんだぜ」
嬉しそうにそう言われるのはいいのですが居眠りは行けません。どこぞの迷探偵じゃいるまいし。しかし、お守りの恩は返しました。次は起こしません。数学教師に睨まれたくはありません。
今日は珍しくも沢山の方とお話ししてLINEを交換しました。文通では駄目なのかと問えば皆さん笑ってくださります。そしてスクールカーストトップの伊良痤天さんは馬鹿にしたように笑ってきたのでみんなシーンとしてしまいます。みんなリア充には逆らわないのが暗黙のルールと言う同じ学生なのにどうしてこう、エロ……いえ、偉そうなのでしょう。私からしたら風来坊さんの方が。用務員さんの方がかっこいいです。
「あんた今時文通て。ウケる~」
「ホントそれな~」
「こいつ古くね?」
取り巻きを連れた伊良痤さんはにやにやと笑っています。とても不細工です。ウケる。きっとこの方のリア充トップと言うのは見せかけなのでしょう。正に裸の王様。
「止めろよそら。そうやってからかうのはさ」
「だって~。こいつ生意気じゃん……てなに笑ってるんだよ?」
「いえ。気持ち悪いなと」
「なんだとてめ~」
「ぼっちが生意気~!」
確かにそれに関してはその通りなので、からかわれても仕方ありません……なんてことはありません。人付き合いがあまり興味がないからぼっち。
しかし不思議と、こういう輩を怖がったことはありませんでした。