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その7

きっと他の物語に比べて退屈でしょう。私の日々の毎日なのですから。

でもこれでいいのです。砂時計が流れ落ちるまでは私は日々平穏無事に過ごせればいいのです。


それでもたまに思うことがあります。

こんな日々退屈で平和な毎日を過ごすことの意味を。

信号待ちしてる時に横断歩道をわたるおばあさんはここまでなんのために歩いてきたのか。


あそこでいちゃいちゃして歩いてる学生。

いや、うちの生徒ではないですか。

あんなに幅を広がって歩いたら他の通行人の人に邪魔です。

バカップ……おほん。あの方々の生きる意味とか難しく考えてしまいます。


それで悩んで分かることは日々生きるしかないということです。

退屈でも五体満足ならば不満はありません。

人よりも足りない幸せもありますが今日も自転車をこいでいきます。



その日は体育の授業がありました。バレーボールです。運動神経はそれなり。男子はマラソンだそうです。退屈なのでなくて良かったです。


でもGWが終わったらマラソン大会があるので嫌です。街で下心丸出しのおっさんに声かけられるくらい嫌です。


それはともかくとしてみんなペアを組んでトスとアンダーレシーブをしています。

この後の試合に慣れるためです。そうペアです。

以前よりクラスメイトと挨拶するようになったとはいえ遊ぶ人もいないのでぼっちはどうすれば?


「芹沢さん。私と組まない?」

「はい?私のようなぼっちでよろしいので?」

「ふふ。ぼっちて。自分で言うんだね。ま、それより相手いないならいい?」

「はあ。それではよろしくお願いいたします」

「丁寧か!」

彼女の名は表裏琴音ひょうりことねさん。

背が高くモデルみたいな美人です。誰にも優しくて伊良痤天さんと同じくスクールカーストの上位です。むしろトップです。彼女に告白した人は星の数ほどいるとか。しかし、路傍の石のこの学校の生徒では落とすことは不可能なのではと思います。


スポーツも上手く、綺麗なトス。ナチュラルメイクの表裏さん。むしろすっぴんでも通用なさるでしょう。

トスとアンダーを繰り返す私たち。

回りの視線が痛いです。なんで芹沢なんかと組んでるのと言いたいのでしょう。

そう思うあなた方よりはマシと言いたいですね。




「ふぅ。芹沢バレーも上手いんだね」

「そんな……表裏さんほどでもないです」

「そっかな~?てかクラスメイトなのにさんづけ?」

「これは失礼。クセなものでして」

「まあ、芹沢さんらしいけど。薙刀やってたんでしょ?」

「え?あ、はい」

最近行かないといつも薙刀を持ち歩いてるから知ってるのでしょうか。


「どして止めたの?」

「……それは」

なんと言えばいいのか分かりません。

しかし、友達でもないかたに話すのも違うと思いました。


「う~し。試合すんぞ!俺にお前らの全力見せてみろ~!」

「うぃ~」

「センセ、うざっ!」

テンション高めの教師にみんなうざがっています。それを聞いて表裏さんは苦笑します。


「先生、かわいそ」

「まあ、そうですね。でも尊敬されてないですね」

「芹沢、きっつ~。ま、試合がんばろ?」

「はい」

なぜ。薙刀を止めたのか。その言葉は頭に残ってしまいました。



親が失踪すればバイトしなければなりません。

そう言った生徒を支援する制度はあるものの贅沢も出来ません。

薙刀をするよりは働いたり成績を落とさないように勉強する時間が欲しかった。


それに鍛練は一人でも出来ます。なにもない私の特技と言うほどでもありませんが。おとなしめな私の個性です。




バレーはそれなり白熱して私の交流のない生徒たちが、ぎこちないスパイクを決めたりしています。

まあ、私もバレー部の人なんかと比べたら駄目でしょうからね。


前の試合が終わり次は私たちの番です。

対戦相手の中には伊良痤天さんとその取り巻きたちがいます。

このまえのことを根に持っているのか睨みつけて来ます。

私はそれを涼風のように受け流し週末の花見に思いを馳せます。


ぼっちの花見ですが桜の舞いを楽しめます。

それだけで幸せな気分になるので鬼女の睨みなど取るに足りません。


「うぉらぁ~!くたばれ!」

まるで日頃の鬱憤をぶつけるかのようなスパイクの一撃。滴る汗。その美しいフォームに私は見惚れてしまいました。

性格はともかくアートを眺めているかのような美しさ。


「どうだ!私はあなたよりも優れてるんだ!」

「はいはい。そうですね。素晴らしい」

「お前、私をばかにしてんのか?」

「いえ。とてもそんなことは……」

「はいはい。揉めない揉めない」

伊良痤天さんのフォームの美しさに見惚れてにこにこと褒めただけなのにネットの向こうから睨まれました。動物園の虎が睨んでるかのようです。


「ありがとう表裏琴音さん」

「ん。気にしない~。てかフルネーム呼びか~」

「まあ、癖でして」

他人にあまり興味がないから人の名前を覚えてないとは言えない。

なのでフルネームで読んで覚えようとしている。



そうこうしてる内に取り巻きの打ったへろへろサーブが来ます。


それをうちのチームの生徒がアンダーで受けて私がトスをあげて、表裏琴音さんがスパイク。


単純でしたが綺麗で素早いサーブが決まってあちらのチームは悔しそうです。

とはいえ向こうの方がリードしているのでなんとか追いつきたいところです。


「……たのし?」

「……はぁ?」

「いや。いつもよりいきいきしてるからね」

「左様ですか」

確かに指摘されたように楽しんでるのかも知れない。いつもぼっちでしたので。


楽しかったので天井サーブにドライブ回転をかけて3点ほど取って追いつきます。


素人なりにどう点を取るか考えているのです。

普段なら適当に流す私でしたのに。


どっちが点を取るか。それで勝負が決まる。

ブルマだったらな~とほざくセクハラ体育教師の見ている中ラリーは続きました。

素人の応酬なぞテレビで見るに耐えないものです。

芸能人のスポーツ大会のようなものでしょうか。


それでも回りの観客方々の声援を聴きながらのスポーツは普段の私にはない楽しいものでした。



そして、しつこいまでの諦めの悪さ。私は伊良痤天さんを少し見直しました。なんて言い方はおこがましいかもしれませんが。




それでも普段鍛えてないのか体力的にまだまだ元気な表裏琴音さんの一撃により撃沈されました。

リア充とて同じ人間。勝負事で気後れする必要はありません。


「やったね、芹沢!あなたスポーツ得意なんだね!」

「それほどでもないです。でも楽しかったですね」

素敵な表裏琴音さんの笑顔に見惚れてしまうとこでしたよ。


「そうだ。今度私たち花見するんだけどあなたもどう?」

「私ですか?あ~いえ。お気持ちはありがたいですけど一人の方が気楽です」

「そっか。おっけ。また誘うね~」

特に気にした風もない。さすがリア充。私だったら傷ついて二度目は誘わないかもしれません。




せっかくの誘いはありがたいですが、人の輪に入るのは気疲れてしまう。

それならば一人でいる方が楽です。



今日はよく運動したのでお昼も美味しくいただけました。

「それでさ~、隣のクラスの琴美が結構なイケメン好きなんだ~」

「あ~、分かる。俺もコクられたわ」

「あんたホントに鬼のようにコクられてるよね?」

「まあな……あ。まだお前にコクられてねーよ?後、芹沢にも」

「お前、ゆーな」

「戯れもほどほどにしてください」

何故かお昼を屋上でと食べていたら表裏琴音さんと御陵くんが一緒にいます。

表裏琴音さんはお弁当を。御陵くんはパンを食べています。

いや、そうではなくていつの間にか当たり前のように一緒にいるのでらよいのでしょうか?


「ん?どうしたの芹沢さん。黙り込んで」

「いえ。いいのですか?お友達との食事を……その。私として」

「いやいやもう、友達でしょ~?傷つくわ」

キョトンとした後にふざけた感じで傷ついた表情をするのでこちらは、あわあわしてしまいます。


「そうだぞ?お前はハッキリ言い過ぎる」

「そうですか?それは反省しなければなりません。

ですがあなたはなぜここにいるのですか?」

「ぐさっ!傷ついたぜ。隣の席同士だから親交を深めようとしただけだよ」

「そうですか。その申し訳ないですね」

「「真面目か!」」

二人は私にツッコミを入れた後弾けるように笑っています。


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