その5の1
帰りに風来坊の飼い主のおじさんにお茶菓子を渡すと申し訳無さそうに喜びました。好きなお菓子を他人も喜んでくださるのはこちらも嬉しくなります。
風来坊は私が来ると「コッコッコッ」と鳴いて近寄ってきます。恐る恐る撫でてあげると嬉しそうにしています。可愛いです。
帰ろうとするとついてこようとするのでおじさんに鶏に餌をあげてもらってる間に自転車で帰ります。
相変わらずきぃきぃ鳴いている泣き虫さんなので明日はホームセンターに寄りましょう。
次の日からは朝、薙刀の素振りをしていると風来坊が遊びに来ます。
うろうろするので餌を上げます。あれから毎日来るのです。流石に雨の日は来ませんが。
私は動物に好かれるのかもしれません。
前に美術の授業で湖まで行った時に私は湖を描いていたら、集中して気づきませんでした。白鳥やら鴨やらが集まっていたのです。
なにをするでもなく私の回りにいてびっくりしました。
まあ、その後は伊良痤天さんにからかわれたのでスルーしましたら、白鳥や鴨やらがバサバサはためいて、伊良痤天さんの側を通りすぎて湖へと帰って行くものですから羽根まみれになっていたので、笑いを堪えるのに苦労しました。
「お。やってんな」
アパートの裏手で素振りをすることしばし。戸が開いて真田さんが顔を出します。
隣の部屋に住む地方都市に通う大学生です。
スラリとした長身のイケメンで密かに憧れます。
チャラくないとこがかっこいいです。御陵くんとは違います。
「これはどうもおはようございます、真田総司さん」
「おはよう。て、武家の娘か」
いつも丁寧な私の挨拶にそうツッコミます。
「まあ。真田さんこそどうして下の名前が幸村とか昌幸ではないのですか?」
「はは。そりゃあ親が名付けたからな」
屈託なく笑うと大きく伸びをする。他愛ない会話をするだけで幸せです。
この時間がずっと続けばいいのにと思いますがそうも行きません。
「それよりその鶏は?」
「こちらは風来坊さんです」
「名前あるのね」
私の近くにいる風来坊を触ろうとするとつつかれました!
「いてっ!」
「コケッ!」
まるで気安く触るなよ兄ちゃんとでも行ってそうです。
「風来坊さん。おいたはいけません」
めっと注意するとどこかシュンとして行ってしまいます。傷つけてしまいましたか。でも注意はちゃんとしないといけません。
「真田さんはこれから大学ですか?」
「まあね。昼からだけど」
そして大あくびです。
「また、麻雀などをしてませんか?」
「まあ、ほどほど?」
苦笑した笑顔も素敵です。でもだらしないのは如何なものかと。
「真田の名に恥じぬ生活をしてください」
「いやいや。武将関係ないからね?」
そうこう話してる内に私も学校へ行かないと。
「それでは失礼します」
「うん。行ってらっしゃい……と、そうだ」
後ろ髪引かれる思いで去ろうとした私を呼び止める真田さん。
「最近、物騒だから気をつけて」
「はい。行って来ます」
ダンボール男のことでしょうか?それ以前にフラグを立てないでほしいんですけど。