4話
「ここがお嬢の部屋ですよ」
まだ足の怪我が癒えきっていない雪を抱いて、昴は10畳ほどの広さの部屋にやって来た。その部屋にはすでに勉強机やタンスが用意されており、元いた雪の家の物もいくつか置かれていた。
「布団は俺が夜、敷きに来ます。それとも、もう休みますか?」
「ううん、大丈夫」
昴は丸テーブルの前に置かれた座椅子に雪を座らせ、部屋の中を軽く説明した。
「では、家の中も案内しますね」
昴はもう一度、雪を抱き上げ、部屋をあとにした。
「こっちが中庭ですね」
「お花!!」
庭を一望出来る縁側に来ると、雪は咲き誇る花たちを見つけて目を輝かせた。
「お嬢は花がお好きなんですか?」
「うん!ママがね、お花屋さんなの!それでね、お家にはいつもお花が咲いてたの!」
「そうなんですね、近くで見ますか?」
「うん!」
花壇は綺麗に整えられていた。勝義が…というよりこの家の者が花を好むようには見えないが、色とりどりの花がそこには咲いていた。
母親が見たらきっと喜ぶ、雪はそう思って昴から渡されたサンダルを履いて、花壇を見て回った。
「ママもここに来たら、毎日一緒にお花見れるね」
雪の発言に、昴はハッとした。この子はもしかすると、自分の母親が亡くなったことを理解していないのではないか…そう感じたのだ。
冷たい親戚達は、ろくに雪に説明もせず、雪絵の火葬を簡単に済ませていた。あとは、雪の治療費入院費用を、誰が払うのか、そして雪は誰が引き取るのかと揉めていただけだ。
医者も看護師もまずは雪の回復に専念し、誰もはっきりと雪絵が亡くなったことを伝えていなかったのだ。
その事実を、勝義も知らなかった。
「昴、ママは?ママはいつここに来るの?」
2人でいつか会いに行こうと約束した場所に来たのだ。ママのために、パパを叱ってやるんだと、昔、意気込んでいた事を思い出した。
「それは………」
昴は自分の口から、母親が亡くなったことを伝えていいのか躊躇った。上手く伝えられる自信もなかった。今ならまだ組長もいるはずだ。失敗して、この少女の心を深く傷つけてしまう前に、相談するのが1番のはずだ。
昴は雪を抱き上げて、再び組長の元へと急いだのだった。