19話
雪が目を覚ましたのは次の日の朝だった。甲斐の言った通り、雪はひどく体調を崩し、ストレスから高熱も出していた。
「磯崎さん…」
「どうした?」
「お嬢が呼んでます」
「わかったすぐに行く」
食事と仮眠を済ませていると、部屋に男が訪れた。磯崎はソファから体を起こし、寝不足気味の辛さがあるも、その素振りを見せずに雪の元に向かった。
「す、ばる……」
「はい、お嬢。ここにいますよ」
「昴…」
部屋に磯崎がたどり着くと、雪は布団から手を差し出し、磯崎の手をぎゅっと握りしめた。雪の脳裏には磯崎が殴られ、倒れる情景がはっきりと残っていた。不安に駆られ、熱に魘されながら目を覚ますと、磯崎を呼び続けるのだった。
「大丈夫ですよ、俺はなんともありません。何も心配しなくていいんです」
だからゆっくり休んでください。そう続けて、磯崎は握られた手とは反対の手で雪の頭を撫でた。
冴木は全てを呪っていた。役に立たない部下も、この状況も…なにより、目の前に座る男を呪っていた。
「どうした桐生門、てめぇしばらく見ない間に痩せたか?好いた女殺されて、娘が怪我していっちょまえに悲しんでやがったのかよ?」
「相変わらずうるせぇ口だな」
部屋にいた冴木を除く男共の空気が凍てつくほど下がる。今すぐにでも、この男を殺してしまいたいと、誰もが思っていた。
馬鹿だとは思っていたが、これは想像以上だったと勝義は笑った。目で合図を送ると、冴木の横に立っていた紅蓮が、両手両足を拘束され倒れ伏す、その男を蹴りつける。
「ぐ、ぅ….!」
勝義はそんな冴木を冷たい目で見下ろした。
「冴木、お前すぐに死ねると思うなよ。だが安心しろ、てめぇのクソみたいなシマから金搾り取って、俺らのシマにしてやるから。まぁそんな悔しがるな。全て終わる頃には、どうせお前は死んでる。雪絵と雪の分、存分に苦しんでもらうぞ。…始めろ」
舎弟達が動き出すと同時に、勝義は息子2人を連れて部屋を出た。
「磯崎、雪の様子は」
「お疲れ様です組長、薬の副作用はだいぶ落ち着いたようですが、熱がまだ」
「わかった。しばらく俺が見ておく。磯崎も蒼士達も休んで来い。しばらく満足に寝てないだろ」
父親の顔、組長の顔が半々と言ったところだろうか。部下と息子を休ませ、勝義は雪の横に座った。気配に気がついたのか、雪はかすかに目を開いた。
「……パパ?」
「辛いだろう雪。何か欲しいものはあるか?」
「…抱っこして」
思わぬ甘えたな発言に、勝義は1度目を見開いた。だがすぐに雪の頭を支えながら自分の元に抱き寄せた。その上から布団をかけて寒くないようにしてやる。
「すまないな、雪。俺はお前たちばかり苦しめてしまう」
雪の小さな体を抱きしめながら、勝義は威厳を保てず、小さな声で呟いた。こんな雪の姿を見れば、雪絵も酷く悲しんでしまう。
「誰も、悪くないの。ごめんなさい、しなくて、いいよ」
だって、自分はこうして大好きな家に帰ってこられたのだから。雪はどんな場所よりも安心する父の腕の中で、また眠りについた。




