死体喰らい
あらすじにも書いた通り、これは作者が適当に走り書きしたものを気まぐれに投稿したものです。
批判は覚悟しています。
気が向いたら続編を書いたり、連載したりするかもしれません。
本当にそれでも読みたい方のみご覧ください。
人に殺される感覚は、存外、不思議なものだ。
ぞぶり、と。
やたらぎざぎざしたナイフが体の内側にゆっくりと挿入って来るのを感じながら、そう思った。
痛みはあるが、痛くはない。
怖くはないが、とても恐ろしい。
とても熱いが、そんなに熱くはない。
気持ち良いが、どうしてか気持ちが悪い。
そんな感覚に襲われて、こんな感覚に誘われて、だんだんと体から力が抜けていって、どんどんと体から血が抜けていって、伸ばした手が落ちて、開かれたまぶたも落ちて――――――、
「ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇ」
無邪気な、女の子の声。
人を殺した、誰かさんの声が、木霊している。
誰かを殺した、女の子の声が、反響している。
「殺されるって、どーゆー気持ち?」
笑っている。嗤っている。嘲笑っている。
にこにこと、にたにたと、にしにしと、笑い、嗤い、嘲笑いながら人を殺すような人間に、初めて会った。
もちろん、こんな風に死ぬ間際の人間に、不適切な、不謹慎な質問をしてくる奴にも、だ。
「痛いのかなァ、苦しいのかなァ、それとも―――気持ちいいのかなァ?」
こんな、頭がイカれた女の子が、殺したのか。
最悪。災厄。罪悪。害悪。
そんな言葉じゃ足りないくらいに、その女の子は『悪』だった。
思考だけが、頭の中でぐるぐる回る。
後悔だけが、心の底でぐるぐる唸る。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる回って、唸って、止まる。
ああ、この感じ。
もう、死ぬな………………。
「あれ?死んじゃった?」
静かな空間に、女の子は首を傾げた。
首を傾げた少女は、首を傾げたまま、刺さったナイフを抜いた。
「死んじゃった、かぁ………」
自分で殺したくせに、その声は、どこか寂しそうで、悲しそうで、苦しそうだった。
「あーあ、また、質問に答えてもらえなかったなァ。まぁ、いっかぁ。また、他の人に答えてもらおーっと」
じゃあ、と誰に言うでもなく呟いて、
「―――いただきます」
馬乗りになった女の子が手を合わせ、大きく口を開いたところで―――水を差すようで気が引けるけど、ぼくは言った。
「―――痛くもないし、多分苦しくもないと思うよ」
途端。
ばっ、と。
少女はぼくの体の上から飛び退き、こちらを驚いたような目で凝視している。
なんで、と。微かに口が動いた。
「なんで、って言われてもね」
ホコリを払いながら立ち上がると、服を伝って紅い雫が地に落ちた。
ぴちょん、と音が弾け―――途端、ナイフが数本、飛んできた。
女の子は空を裂くナイフを追いかけるように走り出す。
恐らく、ナイフを避けたところを狙うつもりだろう。
「随分と、洗練されてるね」
てっきり、もうちょっと幼稚かと思ったが。
顔には狂ったような笑みが浮かんでいる。だが、眼は確かにこちらを見据えている。
心意気もそこそこ、技術も多少はあるし、躊躇がない。
何より、狂っている。
「いいね―――面白い」
ナイフを避けると、本命の一撃が。
本命を警戒すると、囮のナイフが。
ナイフの勢いは衰えない。
一撃の重さは尋常でない。
でも―――それだけだ。
それじゃあ、ぼくを殺すことは出来ても、ただそれだけだ。
「さあ、来い」
ぼくは、両手を広げてそのナイフの群れを、一身に受け止めた。
ざくり。
ざくり。
ざくり。
ざくり。
ざくり。
ざくり。
突き刺さった刃が肉を突き破り、骨を砕き、内臓を引きずり回す。
けど―――足りない。
ぼくを殺せるだけだ。
「アーハはハハハハハハハハはははハハハハははハハはハハハハハハははははッ!!」
耳に入る少女の狂笑が、心地良い。
繰り出された本命の一撃はぼくの肋骨を砕いて、心臓を握り潰した。
名付けるとするなら、『死体喰らい』。
生きている者を確実に殺し、死体に調理してから喰らう。まさにピッタリだろう。
けど、やっぱり足りない。
それも、ぼくを殺すだけ。
『死体喰らい』の余波で体が吹き飛ばされる。おかげで体がぐちゃぐちゃになるけれど問題はない。
強いて言えば、言葉にならないくらいに痛い。
びちゃ。びちゃ、びちゃ、びちゃ、びちゃ。
そんな音を立てて、ぼくの体は元に戻った。さすがに服までは戻らなかったけれど、まあ、上々と言えるだろう。
「あなたは、なぁに?」
「さっきまで一緒に歩いてたじゃないか。忘れちゃったの?」
「なんで、生きてるの?」
「死んでないからね」
「心臓を潰したのに?」
「心臓を潰されたくらいで人は死なないよ」
「うそ。今までのひとたちはみーんな死んだよ」
「じゃあ君がしくじったんだろう」
「おかしい」
「君の方がおかしいだろ」
「あなたは、本当に、にんげんなの?」
その、少女の言葉にぼくは口の端を吊り上げた。
「ぼくは、人間なんかじゃあ、ないよ」
その姿は彼女には、まるで、おとぎ話の中の怪物のように見えただろう。
「正真正銘、ただの―――不死身のバケモノさ」
ぼくは笑う。
自分を殺した少女を前にして、愉快そうに笑う。
それを見て、少女も嬉しそうに笑った。
はい、ここで終わりです。
続き?ないですよ?
気が向いたら続きを書きます。
それでは、またどこかで。