第八話 烈火
「グギェェェェーッ!!」
銀色の恐竜もどきが足元に建っていた酒屋を一軒踏み潰し、その材木を蹴散らしながら背後を振り返るように、さっと右に体を90度近く回転させた。体を回したその遠心力で20メートルほどもある鋼鉄の尻尾がゆっくりと空を切り、その円周上にある民家や電柱をまるで紙くずか何かのようになぎ払う。
その後を追ってきた真紅の龍―――”烈怒龍”は、森林公園の北側に一歩踏み出したところでぴたりと動きを止めた。数十メートル離れた場所に立っている敵の恐竜もどきを睨み据え、牙の隙間から野太いうなり声を漏らして威嚇らしき行動を見せる。が、何故かそれ以降、その場から前に進もうとしない。
対する恐竜もどきは、烈怒龍がそれ以上近づいてこないのを見ると軽く口を開け、まるで笑う様に甲高い鳴き声を出す。そして更に体を回転させると、振り回される鋼の尾で再び何軒かの家屋を粉々にして撒き散らす。
するとその行動に反応したかのように、烈怒龍がまた再び低く吼えた。
それに更に返事をするかのような、恐竜もどきの甲高い叫び。声に合わせて恐竜もどきが首をぐねぐねと捩じって動かし、烈怒龍を睨め付ける。それはまるで、烈怒龍の反応を見て喜んでいるかのようにも見えた。
実際、烈怒龍は先ほどから町並みの中に踏み込むのを躊躇っているようだった。その運動能力からいって、やろうと思えば今すぐにでも敵に飛び掛っていけるハズなのだが、それをする気配がない。
恐竜もどきに何らかの侮れない要素でもあるのか、はたまた町を壊すことに躊躇いでもあるのか。
いずれにせよこの状況は、烈怒龍にとっては余り好ましくないようだった。
「ギェギェギェギェギェ・・・・・・」
そんな烈怒龍の躊躇いを察してか、恐竜もどきは益々興奮する様子を見せた。
恐竜もどきはやがて烈怒龍のほうを向いたまま、バックしながらゆっくりと街の中を移動し始めた。視線だけは烈怒龍のソレとぶつかり合いながらも、一歩ずつ確実にその間を離していく。
恐竜もどきが一歩下がるたび、その踵や尾が近くにある家や店の壁を突き崩し、道端に止まっていた小さな車を踏み潰した。
烈怒龍は体勢低く身構えながらも、やはり呻るばかりで動こうとはしない。
しかしそのとき、
「――――いじょうぶよ、大丈夫だから・・・・・・」
ふと、何処からか烈怒龍の耳に届いてくる音があった。
気付いた烈怒龍が耳をすまして注意深く聞き取ってみると、それは、正対している恐竜もどきの足元から聞こえているもののようだった。
真紅の守護竜は人間の何倍も鋭敏なその感覚を研ぎ澄まし、咄嗟に音の正体を探った。
殆んどすぐにクリアになっていくその音が意味していたのは。
「―――大丈夫だからね、ママがついてるからね!」
* * * * *
青い半袖を着た7歳ぐらいの男の子が路上に座り込み、我を忘れてひたすらに泣きじゃくっていた。その傍らには、必死の形相で男の子を抱きしめる若い母親の姿。
彼らの周囲は、散々蹴散らされた末に落下し降り積もった、無数の瓦礫や木材の山に囲まれていた。母親のすぐ目の前に、さっき踏み潰された酒屋の茶色く煤けた看板が転がっている。逃げ道は完全に断たれていた。
自分自身も震えながら、泣き止まぬ息子を一心に抱きすくめる母親のすぐ後ろで、浅い地響きが幾度となく繰り返されていた。その間隔は次第に短くなりつつある。母親は、自分たちのすぐ傍にあの巨大な恐竜もどきが迫っているのを肌で感じていた。
町並みをいとも簡単に蹴散らし、こんな状況を作り上げた怪物のことだ。自分たちのことも易々と踏み潰すだろう。逃げ道は、ない。この子一人だけを逃がすのも不可能に近い。
ならばせめて、その瞬間まで傍にいて抱きしめてあげていたい。
それは彼女が母親として選んだ、息子に与える最期の愛情のつもりであった。
やがて、地響きが最大になると共に、母子の頭上に暗い影がさした。
母親が最期の瞬間を覚悟し、より一層男の子を強く抱きしめる。しかしその瞬間、
「グルアァァァァァァァァッ!!」
鼓膜が破けるかと思うほどの巨大な吼え声があたりを包み込むと同時に、彼らの頭上に何か巨大な黒いものが覆いかぶさると、一寸遅れて上から重いものを叩きつけるような衝撃が走り、母親は思わず目を閉じ身をすくめた。
続いてもう一度、空気を震わす同じぐらいの衝撃。目を瞑ったまま、母親は再び身をすくめる。その間ずっと小さな息子は、きつく抱きしめる彼女の体の内側にしがみついていた。
さっきよりも暗くなった彼女らの頭上では、まるで雷鳴のような音がゴロゴロと鳴り続けていた。
母親は恐るおそる目を開け、ゆっくりと顔を前に上げた。
するとどうだろう、あの真っ赤な龍が彼女と息子の上に覆いかぶさり、その巨体で恐竜もどきの振り下ろす重たい尾の一撃を受け止めているではないか。
遠くから見る表皮の色は赤く見た目にも刺々しい印象を受けるだけだったが、こうして体の内側に入ってみると、なぜか不思議と恐ろしさを感じなかった。赤い龍、すなわち烈怒龍がそういう存在であったのかも知れないし、あるいは恐怖で感覚が麻痺していただけかもしれない。
いずれにせよ、烈怒龍は自分よりも遥かに小さな母子をその体の内側に収めた上で、敵の攻撃を背中で受け止めていたのである。
半ば呆然としながら見上げる母親と、烈怒龍の視線が交差した。そこに見えるのは人間とはまた違うものの、確かな意思を感じさせるオレンジ色の瞳だった。
ふと我に返ったことで、母親は再び息子をかき抱いて身を縮めた。
そう、助けられた――――とこの場合言うべきなのかは分からないが、たとえそうだとしても、結局このドラゴンは人間ではないのだ。自分たちよりも巨大な怪物という意味では、あの恐竜もどきと大差ない。下手をすれば、今すぐにでも襲い掛かってくるかもしれないのだ。
と、そんなことを考えていた矢先、烈怒龍の右腕が突然動いたかと思うと体の内側にいる自分たちのほうに向かってゆっくりと伸びてきた。
思わず身を硬くする若い母親。身動きもままならないまま、次に下される審判を待つ。
その結果は――――解放。
烈怒龍はその右手を使って母子の目の前に積み重なっていた瓦礫を鷲掴みにすると、バキバキと音を立てて木材が砕けていくのもかまわずにショベルカーよろしく持ち上げた末、それらをまるでゴミでも放るかのごとく軽々と脇に投げ捨ててしまった。あっという間に、瓦礫に閉じ込められていた母子の眼前に一本の通り道ができた。
驚いて口をぽかんと開けている母親に対し、烈怒龍は道を作った方向に向けて何度も縦に頭を振って見せた。それは、まるで「行け」と言っているように見えた。
その様子を見た母親は何とかその場に立ち上がると、一旦躊躇した後、息子を抱きかかえたままの状態で一気に駆け出した。信じてよいものかどうか判断に迷ったが、どうせ死ぬなら同じことだと、思い切って賭けに出たのだった。
文字通り生きるか死ぬかの瀬戸際で子供と自分自身の命を背負っているという状況が、なんら特別な要素も持たない母親に一瞬の判断さえ可能なほどの強い決断力を与えていた。そして実際、その賭けは正しかったと言えた。
「うゆ・・・・・・」
ときどき躓きながらも瓦礫の中を走り続ける母親の右肩で、いつの間にか泣き疲れて黙り込んでいた息子が、顔を上げて背後を見ているのが分かった。自分が抱きしめる子供の声は、母親の内側に何処からとも知れぬ強力なエネルギーを湧き上がらせた。この子のことを思えば、不思議と疲れを感じなかった。
「亮太・・・・・・・・・あともう少しだからね、頑張ってね!」
そう言って息子を励まし走り続ける母親の耳元では、男の子自身も何かを口にしていた。
「ママ・・・・・・ドラゴンさん・・・・・・ありがとう・・・・・・・・・」
母親が、ハッキリ聞き取れていたかどうかは定かではないが。
* * * * *
全力で逃げ去っていく人間の姿を見守りながら、烈怒龍は喉の奥をゴロゴロと鳴らした。その様は図らずも烈怒龍に、どことなく安心しているような印象を与えた。
事実それは、彼にとって使命の様なものであった。無論、人間たちは知る由もなかったが。
そのとき重々しく空気を切り裂く音がして、左の頭上から長くて鈍い銀色をしたものが振り下ろされてきた。烈怒龍は咄嗟に左手を差し出し、落ちてきた鋼鉄のムチを受け止める。ズン、と大地に三度衝撃が走った。
恐竜もどきが、叩きつけた尾に更に力を込めて烈怒龍を押しつぶそうと試みていた。半開きの口からは、相変わらず甲高く嫌らしい鳴き声が聞こえている。
烈怒龍はひと声吼えてその攻撃を突き返すと、次の一瞬で右方向へ横っ飛びで跳躍し、敵の尾の届く範囲から離脱した。その途端、一時的に持ち上げられた鋼鉄の尾が地に打ちつけられ、その場に散らばっていた木材や家具の破片をより一層粉々にして散らした。
最初の位置から3,40メートル離れた場所に両手足を広げて着地した烈怒龍は、二足で立ち上がると敵に再び向き直り、数秒だけ”溜め”を作ると今度こそは全力疾走で突っ込んでいった。恐竜もどきも負けじと突き進んでくる。
潮風かおる町のど真ん中で、深紅の龍神と鋼鉄の巨獣とがぶつかり合った。
先制して烈怒龍が右の爪を繰り出し、恐竜もどきが左腕で受け止める。無防備になった烈怒龍の橙色の腹に、今度は恐竜もどきが右の爪を打ち込もうとした。左腕のソレと比べて右腕の爪は若干短く小さいため、懐に入りやすいのだった。
だがしかし、直撃を受ける寸前に烈怒龍の左腕がさっと働き、敵の腕の上方向からその動きを押さえつける。互いが互いにその攻撃を防ぎあう結果となり、ダメージを与えるには至らない。
両者の力は拮抗し、押し合いでは埒が明かなかった。 烈怒龍は押し込んでいた右腕を体の内側に巻き上げると敵の腕を跳ね上げ、上段に振りかざした右の爪をそのまま勢いをつけて敵の体目掛け振り下ろした。
大人の身長の半分ほどもあるナイフのような爪が、恐竜もどきの左の鎖骨と思しき部分に突き立てられ、一瞬の間を置いてその胸部を袈裟懸けに切り裂く。金属と金属をすり合わせる様な神経を逆なでする音が数秒に渡って響き、烈怒龍が爪を振り切った瞬間、恐竜もどきの胸から黒い液体のようなものが飛び散った。
恐竜もどきは甲高いが、しかし今度は苦しそうな悲鳴らしき声を上げ、懸命に右腕で烈怒龍を振り払うと、後ろ向きに大きく仰け反ってよろけて、烈怒龍の側からゆっくりと後退していった。
が、烈怒龍は容赦なく追撃に打って出る。
今しがた振り下ろしたばかりの右腕を今度は体の後ろに大きく引くと、腰の位置を徐々に低くしていって”溜め”をつくり、左足で地面を蹴って飛び出すと、そのまま同じ左側の肩で敵に向かってぶつかっていった。
体のバランスを崩していたところに猛烈な勢いでタックルをかまされ、恐竜もどきが更によろけて後ろに下がっていった。それでも烈怒龍の攻撃の手は緩まず、続いてもう一撃。その後すぐに体を反転させ、右肩で更にもう一撃。
烈怒龍の猛撃で、恐竜もどきはどんどん後退させられていった。おそらく尾の支えがなければ、今頃転倒していてもおかしくはなかっただろう。
小さな不動産屋を踏み潰し、街を南北に通る幅10メートルほどの市道を横切る形で、烈怒龍と恐竜もどきは戦いの場を街の南東から北西へと移動させていった。
* * * * *
「ギャギャギャギャギャッ!!」
恐竜もどきが突進してきた烈怒龍を抱きとめる形で体を横に引っくり返し、勢いのついた敵の体を地にたたきつけた。あっという間に、恐竜もどきは烈怒龍の上に馬乗りになった。
恐竜もどきは左手を限界近くまで高く持ち上げると、その長く鋭い銀色の爪を陽に輝かせ、何の躊躇いもなくソレを烈怒龍の頭目掛けて突き出した。
烈怒龍が咄嗟に左に首を動かすと同時に間一髪、そのすぐ脇に銀灰色の槍のようなものが突き立てられた。それを見て恐竜もどきが悔しそうな声を上げる。
突然、烈怒龍が頭の脇に伸びてきていた敵の左腕をがっちり右手でホールドすると、その付け根に狙いを定めて口を開いた。恐竜もどきが一瞬遅れてその狙いに気付くが、既に間に合わない。
次の瞬間、烈怒龍の喉の奥が青白く光り輝き、同じ色をした灼熱の炎が噴き出した。恐竜もどきの左腕が付け根で爆発を起こし、本体から切り離される。
「ギェーッ!」
恐竜もどきは悲鳴をあげ、圧し掛かっていた烈怒龍から飛び退いた。しかし左肩の付け根からは煙は上がっているが、出血している様子はない。いやむしろ、傷口には筋肉や血管の類が何故か一切露出していなかった。
一方、烈怒龍はもぎ取った敵の腕を掴んだまますぐに立ち上がったが、そのとき妙な現象が起こった。烈怒龍の手の中で、つい今しがた切断された恐竜もどきの左腕が見る見るうちに形を崩し、バラバラに分解して足元に落下していったのである。烈怒龍の足元に降り積もったそれらは変形したり変色したりしているものの、いずれも金属製のパイプやビスなどであった。明らかに生物のソレではない。
烈怒龍は少しの間だけその有様を見つめていた後、目の前で再び立ち向かってくる恐竜もどきに視線を戻し、手の中で最後まで形を残していた一番大きな爪の部分を足元に捨てて、敵を迎え撃った。
恐竜もどきが右から振り回してきた尻尾をその場で軽く跳躍してかわすと、着地時にその背中に取りつき、鉱物の様な外観を持つ瑠璃色の背びれの一本を手で掴み、力任せにたたき折る。烈怒龍はそれも足元に捨てた。
こちらに背を向けて立っていた恐竜もどきは振り返りざまに、残っていたもう一本の腕で裏拳を放ってきた。だが、烈怒龍はソレすらも身を屈めて回避する。
するとその瞬間彼の目の前に、敵の胸部を覆う金属の鎧の内側に光る、濃い青色の球体の様なものが見えた。たった一瞬だが、烈怒龍はソレが現れたのを見逃さなかった。
「ゴオオオッ!」
「ギッ!?」
烈怒龍は恐竜もどきの胸部を覆っていたろっ骨のような部品に手をかけると、あっという間にその隙間に両手を挿し入れ、全力で引き剥がしにかかった。メリメリと音を立てて部品同士の結合部が軋み、隠された拠点が露わにされていく。恐竜もどきも狼狽した様子を見せた。
そのとき、恐竜もどきの胸部に隠されていた青い球体が突如、ストロボライトのような発光をはじめた。これには流石に烈怒龍も怯んだのか、咄嗟に身を引き背後に飛び退った。
一方、恐竜もどきは胸部の光の明滅を止めぬまま、自らの周囲を見回していた。辺りは戦いの中で生み出された瓦礫や鉄くずでいっぱいだった。彼はその中から、最も使えそうな物体を見つけ出し命令を送るだけでよかった。そう、彼の”心臓”を通じて。
やがてさほどの時間もかからぬうちに、その効果は目に見えて顕れはじめた。
* * * * *
「おい、なんだアレ!?」
「マジかよ、あんなのアリなのかよ・・・・・・!」
町の離れたところから戦いを見守っていた市民たちが、あちこちで驚愕と恐怖の声を上げだしていた。彼らの視線の先では、胸部からチカチカと青い光を発する巨大な恐竜もどきと、その目の前で警戒態勢をとる赤い守護龍とが対峙している。
当初市民たちは、上陸してきた巨大な怪物をその姿かたちからゴジラのような怪獣と判断していた。もちろん、恐竜のような姿かたちをして巨大だというだけで、まさか現実に口から光線を吐いたりするワケがないと高をくくっている。
ゆえに、”守護神”である烈怒龍が出現したとき、彼らは確信したのだ。ほとんど伝説どおりの存在ならば”神”のような存在が負ける訳はないと。だから彼らは希望を持てたのである。
ところがいま目の前で起きている現象は、そんな彼らの希望を揺らがせるほどのものであった。それは自然に生まれた生物が、決して持ち得るハズのない能力だったからである。
「車が・・・・・・!」
恐竜もどきの傍で、ショベルカーなどの建設用重機が数台、無重力のような状態になって空中に浮き上がっていた。
* * * * *
「ジャアアアアアアア!!」
恐竜もどきの叫び声と共に、宙に浮き上がった重機がその左肩に吸い付いていったかと思うと、見る見るうちにその形状を変化させて新たな腕のようなものを形成した。
一旦その場を離れようと跳躍した烈怒龍目掛け、恐竜もどきの新たな左腕からワイヤーの様なものが何本も発射されたかと思うと、あっという間にその体に幾重にも絡み付いていった。空中で突然捕らえられた烈怒龍は身動きがとれない上にバランスを崩し、ものの数秒で地面に叩きつけられてしまった。
更に跳躍したときの速度が残っていたため、そのままいくつかの建物をなぎ倒して地上を滑らされる。苦しそうに吼える烈怒龍と、対照的にそれを見てさも楽しげに鳴く恐竜もどき。
相手の動きが止まると恐竜もどきは発射したワイヤーを巻き取っていき、倒れた烈怒龍を自分の足元へと手繰り寄せた。その過程で更に数件の家屋を破壊し押しつぶす。その間、烈怒龍は殆んど声を上げなかった。
恐竜もどきは甲高い声で叫び、目の前まで引きずってきた仇敵の体を見下ろし悦に入っていた。これから一体どう痛めつけてやるか、考えているのだろうか。
だがしかし、その余裕は一瞬で潰えた。
足元の烈怒龍がカッと目を見開いて、己のほうを見上げているのに気付いたからだ。しかも、いつの間にかその全身が青白く輝き、熱気のようなものを発し始めている。
何かおかしい、そう思った恐竜もどきは背後に下がろうとした。
その刹那。
烈怒龍の全身から青白い炎が噴き出し、恐竜もどきの懐に突っ込んできていた。
そしてこの瞬間、ハッキリしていたはずの彼の意識は消えてなくなっていた。
* * * * *
遠くから見つめていた市民たちは三度呆然とし、その光景を静かに見守った。
突然、烈怒龍の巨体が掻き消えたかと思うと、その目の前に立っていた恐竜もどきの胸元をたった一筋の青白い炎が貫通していき、次に瞬きをしたときには既に烈怒龍が恐竜もどきの背後に着地していた。
誰も何が起こったか理解できぬまま恐竜もどきが断末魔の悲鳴をあげ、やがて腕から頭、そして胴体と体の端から順番に、まるで出来の悪い粘土細工を乾燥させたときのようにボロボロになって崩れ落ちていった。
背後を振り返ってそれを確認した後、烈怒龍は軽く一声吼えるとまた姿が消え、代わりにその場から無数の光り輝く粒が風に乗って流れていった。
(第九話へ続く)




