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真・烈怒龍 第一幕 ”希望”【レドラスタジオ・アーカイブス】  作者: 彩条あきら


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第五話 上陸

「なん・・・・・・だよ、ありゃぁ・・・・・・・・・!?」


 ようやく言葉を搾り出した八五郎の横で、吉田もまた絶句した状態だった。それもそのハズ、たった今目の前で隕石が海に突っ込んでいったのである。後に巨大な水しぶきを残して。これで驚かない人間など何処にいようか。


 海岸も騒然となっていた。この時期、竜ヶ守の海岸は県の内外から集まった海水浴客によって大いに賑わっている。海の家もいくつも出ているし、シートを広げてビキニのギャルが日光浴、なんて光景もそこらかしこに見受けられる。そんな平和な海岸に隕石である。いまや海岸の客たちは海水浴など放り出して、それとは全然別種の大騒ぎを起こしていた。とにかく、興奮。

 落下地点の海上から立ち上る凄まじい量の蒸気を指差して口々にはしゃぎ合うもの。その光景を見たがる小学生ぐらいの子どもを肩車してやるもの。あるいは空を見上げては、次第に拡散しつつある、隕石の飛んできた痕跡を探して写真に収めるもの。各々がてんでんばらばらな行動を取っていたが、そこに見受けられた表情は殆どが好奇心の類だった。誰もが目の前のソレの正体を知りたくて堪らなくて、考えることを忘れてしまったかのようだった。


 隕石が落下するということが、どういうことか。


 そのことに初めて気がついたのは、吉田だった。『竜神』のある丘の上から海岸の光景を俯瞰していて、隕石が海に落ちた、という言葉を何度も何度も脳内で反復しているうちに、ふと子どもの頃に観た、巨大彗星が地球に激突するSFハリウッド映画のワンシーンが思い起こされてきた。それでその瞬間、今自分たちがおかれている状況の重大さに気がついて愕然とした。


「・・・・・・津波、」

「え?」

「これ、もしかして津波が来るんじゃねーかな・・・・・・?」


 気づいたときには言葉を発してしまっていた。息が詰まったような吉田の言葉に、八五郎もすぐさま思い当たった様子であった。八五郎の目が見開かれ、ソレとまったく同時に店内のマスターに勝るとも劣らないぐらいに、見る見るうちに顔が青ざめていった。


「和子に電話するわ」

「ガキ連れて、避難ビル行かせろ」


 言うが早いか八五郎は携帯を取り出し、自宅に電話をかけ出した。彼の家は海岸からあまり離れていないが、すぐ近所に津波襲来時の避難ビルとして指定されているマンションが建っていたハズだ。流石というべきか、彼らの対応は早い。


* * * * *


 ようやく一息ついたマスターはカウンターに戻り、先ほどの乱闘で叩き割られた皿やコップの数々を調べると、片っ端から調理場の隅にあるゴミ箱に放り込んでいた。半ば諦め顔である。今に始まったことではないが、この店ではどうも食器の割れる頻度が高すぎる気がする。たぶん乱闘が多い所為だ。そうだ、今度からはもっと頑丈な皿を買ってこよう・・・・・・などと一人で考えていると突然、店の外から大きな爆発音のようなものが聞こえてきた。思わずマスターは身をすくめた。


 ようやく席に着いたほかの客たちも音に気づいたらしく、全員ちょっとだけ席から身を乗り出して、半開きになった入り口の方を覗き見たりしていた。だが先ほどから一貫して見えるのは、店の外に立ち尽くす吉田と八五郎の背中のみである。揃いも揃って身体が大きいため、座敷に座った客たちの位置からでは二人の姿が邪魔になってよく見えない。


「おい八っつぁん、どーしたんだー?」


 客の一人が外に声をかけてみる。返事は無い。流石に、一体どうしたんだ?という空気が彼らの間に走る。吉田と八五郎が突っ立って身動きしないなど、そんなに凄い出来事が起こったのか。

 客たちも自分で座敷を立って見に行けばよいのだが、何せ今の今まで大乱闘があってやっと座り込んだばかりなので、誰も彼もが面倒くさがってその重い腰というか無駄に突き出た中年のビールっ腹を持ち上げようともしない。

 だが、分からない、という状況はだんだんイライラしてくる。そこで入り口のあるほうの、窓際の座布団に座っていた客がよっこらしょと呟いて立ち上がると、傍の格子戸を開けて外の光景を調べてみた。すぐに、驚愕の声が上がる。


「なんだありゃ!? 海から煙が上がってるぞ!」

「おいおい、マジかよ・・・・・・」


 などと言いつつようやく何人かの客たちが立ち上がりかけたとき、突然店の中に吉田が泡を食ったように飛び込んできた。吉田の慌てる姿などそうそう目にかけないので、むしろそのことで客たちが驚く。

 吉田はカウンターに飛びつくと、マスターに怒鳴った。


「マスター、店の電話貸して!早く!」

「え?吉田さん携帯持ってな―――――」

「いいから早く!」


 吉田のあまりの剣幕に、マスターは何も言わず、カウンターの裏に置いてあった店頭用の子機を取り出すと急いで彼に向かって差し出した。さっとソレを奪い取ると、吉田は目にも留まらぬスピードで端末側面の下ボタンを連打しはじめた。その小さな画面に次から次へと個別の連絡先が表示されては消えていく。吉田が探していた連絡先は、たったひとつだった。それはたぶん吉田に限らず、無関係な個人なら絶対に把握していないであろう電話番号だった。

 そして探し始めてからものの数秒で、その登録名を発見した。ほとんど勘で端末を操作していた吉田は確認も程々に速攻で送信ボタンを押すと、その縦長の機体を耳に当て、周囲が訝しげに見守る中で相手が出るのを待った。


『竜ヶ守町 町役場 沿岸警備課』


 小さく光る端末の画面には、そう表示されていた。

 無機質に繰り返される呼び出し音が、吉田には異様に長く感じられた。


* * * * *


 薄暗く濁った水の中、落下のエネルギーで海水の蒸発したらしい大量の白い気泡がごぼごぼと低く鈍い音を立てながら上昇していく。

 海岸から1キロも離れていない海底で、季節は夏。比較的深度の浅い海域ゆえ本来であれば海面から陽が射し込み、この海中はもう少し明るく見えるハズである。が、落下時に海底の堆積物がことごとく吹き飛ばされた影響か、その時点で周辺の海水はことごとく茶色い濁りを見せ、光が射すのを遮って海底全体を薄暗い不気味な空間へと変えていた。


 そしてその中を、ゆっくりと突き進む影がひとつ。

 周囲は暗く、その姿をハッキリ判別することは出来ない。進む方向に対して前後に長い形状なことだけはかろうじて見分けがつくが、それ以外は海中を舞う塵に紛れてしまってよく見えない。

 だがそれも一時的なことに過ぎなかった。暗闇を掻き分けて進む”ソレ”のある一点から、突然青白い光が発せられ始めたのだ。光は急に強くなったかと思うと、また急にしぼんでいく。そしてまた強くなる。その繰り返し。海中を移動する青白い光は明滅を開始していた。

 闇の中で充満した塵に光が吸い込まれ、何度も、何度も水色に照らし出される。それがどんどんと水の浅いほうへ向けて進んでいく。”何か”がそこにいるようだった。



 まったく同じ頃、そこから少し離れた、浅瀬に近い海底でも異変が起こり始めていた。

 そこには、先ほどの海底と違って光も射し込み、海中を行きかう魚や海底を這う軟体動物たちが集まりに集まって小さな集落というか、ある種小汚いパラダイスを作り上げていた。そんな彼らの足元には全長10メートルはあろうかという赤茶けた、ボロボロだが流線形を保ったままの、巨大な金属の塊が横たわっている。

 その側面に、かろうじて読める程度の文字が残されていた。


『第五八幡丸』


 その正体は、古い漁船であった。錆びや堆積物の具合からいって、この場所にきてから十年は下らないだろう。だが、それ以外には何も無い。何の変哲も無い、いまや海の生き物たちの棲み処にされただけの、単なる廃船である。


 その船の周囲に堆積していた泥や塵が突然、甲板や海底から浮かび上がったかと思うと、沖のほうへ向かって流れ出し始めた。まるで何かに呼び寄せられるかのように、堆積物の数々が茶褐色の泥流となって海中を移動し始めたのである。集まっていた魚たちが、一斉に逃げ出していく。

 だが沖へと流れていくのは、泥だけではなかった。長い間そこに横たわり、もはや動くはずもなかった八幡丸の船体もがカタカタと小刻みに振動を開始していた。震え続けること十数秒。たったそれだけの間に船を海底深くに埋めていた大量の塵は取り去られ、船体の殆どは海中に姿を現していた。なおも抵抗し続ける八幡丸の錆びきった船体から、フジツボやらナマコやらが引き剥がされ、あわれ泥流に混じって流されていく。そしてさらに十秒ほどが経過しきったとき、ついに八幡丸の本体が海底から引っ張り出され、勢いづいて三つほどの破片に裂けると、ぐるぐると回転しながら泥流の中に飲まれていった。

 よく見ると、沖に連れ去れて行くのは八幡丸だけではなかった。徐々に濁りだした海中を逃げ惑う小エビの群れの向こう側では、チェーンの消えたボロボロの自転車やら、ナマコの群がる個人用の水上バイクなどが同じように見えない力で呼び寄せられ、泥水に混じって同じ方向に流れ出していった。


 どれも皆、十五年前の津波で持ち去られたものばかりだった。


* * * * *


「ゆっくり、押さないで! 落ち着いて堤防の上に上がってください!」


 ホイッスルを首にかけた若い監視員の男性がその茶色く日焼けした手でメガホンを作り、海岸を離れようとする海水浴客たちに向かって声を張り上げていた。隕石の落下という珍しい出来事に出くわし、ついさっきまで非常な興奮に包まれていた海岸であったが、やはり『津波』と聞くとトーンダウンするらしい。パニクって恐慌が起こらないだけまだマシだったかも知れないが、それにしても暗い嫌な雰囲気になってしまった。

 今まで海面から上がる煙を携帯で撮影し大はしゃぎしていた軽薄そうなギャルたちが、津波の可能性を示唆しただけで大人しく荷物をまとめ、黙って砂浜から一段高いところにある堤防目指して上っていってる、というのはなんとも不思議な光景である。


「やっばー、下にケータイ置いてきちゃっタ!」

「うぉー、やべーやべー」


 と思った矢先、突然そんな会話が聞こえたかと思うと、堤防の縁に立って客を誘導する男性の目の前をよく日焼けした二人組の若いカップルが猛スピードで通り過ぎ、コンクリ製の階段をすばしっこく駆け下りていった。


「あ、ちょっとお客さん!」


 監視員の男性は避難誘導の義務を持つものとして、降りていった二人に声をかけようとした。ここ数年来、監視員をやっていて見覚えの無い顔だが、おそらく地元の客ではないのだろう。

 今すぐにでも津波が来ておかしくないのだ。財布代わりや情報ツールとして携帯電話が重要なのは分かるが、少なくとも今はそんな場合ではないのだ。このあたり、同世代の客であっても人によっては大分対応が違うらしい。恐らくは、実際に津波に遭遇したことのあるかないかという、根本的な危機感の差だろうか。


 ・・・・・・・・・。


 いや待て、と男性は思った。彼らを避難させるのに夢中で今まで気づかなかったが、そういえば何故まだ津波が来ないのだろう。そもそも、あんな近い距離に隕石が落ちてきたのだから、大きかれ小さかれ波のひとつぐらい起こってもいいハズだ。

 昔何かの本で読んだが、隕石は直径僅か数メートルであっても信じられない破壊力を発揮するという。ところがあの落下の瞬間から今に至るまで、これっぽっちの衝撃波も高波もやってこない。いやむしろ、平時に波打ち際に寄せているハズの僅かな波さえ掻き消えているようだ。静かすぎて逆に不自然なのである。本当ならば、こんな悠長に避難誘導をやっている時間もないハズで――――――ん?


「え・・・・・・?」


 なんとなく海上に視線を向けた監視員の男性は、思わずそんな間の抜けた声を発していた。そこからおそらく50メートルと離れていないであろう海上で、いまこの瞬間、大量の海水が塊になって陸地に接近してきているのが見えたのだ。

 彼は一瞬それが津波かと思った。が、すぐに違うと分かった。彼の目に飛び込んでくる水の塊は文字通り、海上のある一点に山のような塊を作って進んできていたのだ。彼の記憶にある津波はもっとずっと横幅が広く、それこそ水平線を埋め尽くすような光景を生み出しつつ近づいてくるはずだ。あんな津波はありえない。監視員の男性は、思わず浜辺の二人に向かって声を張り上げていた。


「逃げろぉーっ!! 海から何か近づいてくる! 早くそこを離れろーっ!!」


 そんな男性の声に、もう殆んど堤防を上り終えた客たちの何人かが気がつき、海のほうを指差して口々に騒ぎ始めた。彼らも、何か様子がおかしいことに気付いたのだろう。そして、心ある何人かの客は波打ち際でまだグダグダやっている二人に向かって、監視員の男性と同じように声を張り上げてくれる。

 が、肝心の当人たちは殆んどお構いなしといった様子で、


「・・・・・るっせーな、まだ何も来ねーじゃねーか」


 しまいには、そんな独り言が聞こえてくる始末である。愚かさもここまでくると、逆に清々しい。

 と、ここでようやく二人組の女のほうが、海の異変に気付いた様子であった。


「ちょっとちょっとヒロシ、もしかして、あれのことじゃネ!?」


 真っ黒に日焼けした女が、海を指差して妙なテンションではしゃぎ立てる。男のほうはちょっと顔を上げて海を見るが、すぐ不愉快そうに眉をひそめた。


「ぁん? ・・・・・・・・おぃおぃ、だから何もねーじゃねーかよー!」

「あれぇーマジで!?」


 その会話を聞いて、「は?」といった具合になった人々が、堤防の上から再び海上を見やる。するとどういう訳か男の言うとおり、海上を進んでいたはずの巨大な水の塊は掻き消えていた。監視員の男性も目をしばたかせる。そんなバカな。


 だがそれも、ほんの一瞬のことだった。


 突然、様子を見守っていた彼らの目の前で波打ち際が一気に2、3メートル近くも後退したかと思うと、一瞬だけその動きを止め、それからすぐに映像に巻き戻しをかけたように、密度を増した海水の塊が砂浜目掛けて押し寄せてきたのだ。

 仰天したのは浜辺に残っていた二人組だ。海面から溢れ返るようにして寄せてくる波は、高さこそ数十センチに満たないものの、その異常なぐらいの流速の速さと、何の予兆もなく発生したということとで彼らの不意をつくには十分すぎるものであった。波に対して身構える余裕もなかった彼らは一挙に足をとられて浜辺に転倒すると、海岸中に溢れんばかりに出てくる波に揉まれながら男女共に、あっという間に人々が見守っていた堤防の根元にまで押しやられてしまった。


 堤防にぶつかった海水はパーンと気持ちのいい音を立ててその場にいた人々の顔に水を浴びせると、すぐさま勢いを失って、そのまま海中へと引き戻されていった。見守っていた人々が、飛び散る水しぶきから思わず顔を覆う。だが結局、その程度にすぎなかった。

 波が退いていってから、その場にいた人々全員が頭と言う頭に疑問符を浮かべ、互いに顔を見合わせはじめていた。まさか今ので終わりなのか? そんなワケが無いと誰もが思っていたが、同時に誰一人、隕石の落下で起こる波の規模など知りはしなかった。彼らの視界に入る海上を見つめてみても、それ以上何かが来そうな気配は無い。堤防の上は全員、どこか拍子抜けといった表情だった。

 が、直接波に揉まれた堤防の下では、そうとも限らない様子だった。


「ゲホッ、ゲホッ。・・・・・・ざっけんなチクショー!!」

「ぎゃははははははは、何コレ、マジちょーヤバイんですけど!? きゃっはっはっは!」


 ”マジちょーヤバイ”のはお前らのアタマだ、と思った人がその場に何人いたことか。男の方は怒りが収まらないらしく、ちょうど近くに流されてきていた自転車のサドルを見つけて鷲掴みにすると、海目掛けて力任せに叩き込んでいた。


「何が津波だ、死ねボケー!」

「きゃはははは、もっかいやって、もっかいやってー!」


ズンッ。


「「「・・・・・・・・えっ!?」」」


 堤防の上でも下でも、目の前の光景を見て、一瞬全ての思考が停止したようだった。


 鈍い銀色をした、先端は鋭くとがった形状の細長い何かが海中から突き出され、つい今しがた波で洗浄されたばかりの湿った砂浜の上に、深々と突き立てられていたのだ。続いて、それと全く同じ形状をした物体がもうひとつ海面から突き出され、最初のよりも3メートルほど右に離れた位置に突き立てられて、再び「ズンッ」という腹の底に来るような音を響かせる。

 そしてそれから数秒後、砂浜に突き立った二つの物体の間で海面が突然盛り上がったかと思うと大量の海水が押しのけられ、その下から全身が真っ黒に錆びついた、ほぼ縦長の円筒状の物体が驚くほどゆっくりと姿を現した。

 砂浜に”引っ張り上げられた”ソレは、頂点の部分が少し上下から押しつぶしたような形になっていて、その左右両端にできた窪みの奥からは常時鈍い黄色い光が放たれていた。その先端部分が上下にこじ開けられた途端、その奥から誰も聞いたことが無いような禍々しい音が放たれた。


挿絵(By みてみん)


「ゲギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!」


 次の瞬間、海岸のいたるところで甲高い悲鳴が上がり、それから堤防を上った先でそれまで様子を見守っていた人々が海岸に背を向け、一目散に駆け出し始めた。もちろん、どの口からも今後一生耳にすることは無いであろう凄まじい叫び声を上げながら。

 腰を抜かしてしまった人も大勢いたようだ。砂浜に下りていた女もその一人だった。二人組の男の方はというと、もう既に姿は見えなかった。堤防を上がってすぐのところで、右往左往する子供を蹴倒しながら路上を這って逃げていく様子が、ちらっとだけ見えたような気がした。


* * * * *


「ヨっちゃん、はやくはやく!!」


 吉田を呼ぶ、飲み仲間たちの声。『竜神』のある丘の上では客たちが海水浴場の良く見える位置に集まって、海岸のほうを指差しては口々に何かを騒ぎあっていた。

 吉田が慌てて店外に駆け出してくること数秒。マスターも後ろにいる。彼らが他の客たちの間に分け入り、海岸の様子を視界に入れたとき、そこでは想像を絶する光景が繰り広げられていた。


 金属光沢を放つ、二足歩行の恐竜のような形をした巨大な怪物が咆哮を上げ、海から町に上陸してきていたのだ。驚くことにそのメタリックな恐竜の身体は、そこらの民家やビルなどよりも遥かに巨大なサイズを誇っていた。ここからでもその足元で人々が逃げ惑っている様子が見えるが、はっきり言ってアリのようだ。本当に―――――今にも踏み潰されそうなぐらいである。

 そうして見ている間にたった数歩で砂浜を横切った恐竜は、今度は2メートルほどもあるコンクリート製の堤防に足をかけると、まるで人間が段差を一段上るぐらいの動作で楽々と、その上へと上ってきていた。


 吉田もマスターも、八五郎も他の客たちも、みんなその様子を呆気にとられて見ていた。先ほどは咄嗟に津波を予測し、アレだけの対応をやってのけた吉田ですらも、目を見開いたまま呆然と立ち尽くしているだけだった。文字通り、何も言葉が見つからない、というのが適当だった。


 町からはいつの間にか、けたたましい津波警報のサイレンが鳴り響くのが聞こえてきた。



(第六話に続く)


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