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真・烈怒龍 第一幕 ”希望”【レドラスタジオ・アーカイブス】  作者: 彩条あきら


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第十七話 “怪獣”デスジラス

7月15日(月) 11:00 仙台市南部 竜宮川中流域

 

 いかにも夏場といったクソ暑い一日もあと一時間ばかりで半ばを迎えようとかというその頃、川沿いに聳えた高さ80メートルもある赤白二色の四角い煙突の頭上を、迷彩色に覆われた中型のジェットヘリ――AH-1Sコブラが爆音を轟かせながら高速で通り過ぎていった。

 真っ白な外壁で囲まれたその大型の産廃工場は、その日朝早くから集結してきた無数の迷彩車両によって付近一帯を一部の隙も無く取り囲まれていた。川とは反対側に面した、広い面積を有する四角形の壁面には、建材である鉄筋やコンクリートをそこら中に撒き散らす形でポッカリと巨大な穴が開いていて、そこをずっと覗いていたりした日には知らぬ間に穴の奥に吸い込まれてしまいそうな雰囲気さえ醸し出していた。

 工場の周囲であちこちに停車している自衛隊の装甲車や小型車の車間では、車両と同じような迷彩色の服に様々な装備を携帯した隊員たちが、定期的に報告などをすべく駆け足で行き来を繰り返していた。

 

 工場の北側数百メートルの地点を走る道路上では、三つから四つのテントが横一列に並んで設置され、デスジラスが工場の壁面に作り上げた巨大な空洞を眺めていた。そこが臨時の戦闘指揮所ということなのだが、普通であればこんな公道のど真ん中を塞ぐ形で設営されたりするということはない。それというのも辰川工場の北側の半径二百メートル以内には、工場を常に監視でき、かつテントを設置するのに適したような広い場所が存在せず、殆んどが田んぼか道路のみなのである。そのため仕方なく、工場からある程度離れた位置を通るその道路の真上に指揮所を置いているのだ。

 尤も、仮にも戦闘を行うということもあってか、昨晩より工場の半径二キロ圏内の住民はその全員が避難させられており、国道54号線の一部を含む公道のいくつかを通行止めにしたところで、文句を言うものは誰もいなかった。範囲内にはインターチェンジも存在するが、そもそも高速道路自体が昨日の昼間にデスジラスによって寸断されているので、自衛隊車両以外はその付近を通ることも出来ないのだ。

 

 迷彩色の車両に囲まれたそのテントの目の前には今、十数人の隊員たちが大河原を前にしてキレイに整列していた。普通科中隊、戦車隊、航空隊など複数の隊から代表として集まってきた彼らはいずれも、今朝早くに編成された『対獣特別戦闘団』の一員である。文字通りデスジラスを“駆除する”ために東北方面隊の各部署から召集されてきたのだ。

 そしてその団長を務めるのが、我らが大河原義久一等陸佐なのである。大河原の役割は元々竜ヶ守市における災害派遣活動の現場指揮であったが、その任務の延長というかたちで今回の作戦にも関与することになっていた。

 

「――報告します。全部隊、所定の位置にて準備を完了しました」

「よし、別命あるまで現状で待機せよ」

「了解」


 大河原は伝達に来た隊員にそう指示を与えると、再び自分の目の前に視線を戻して、作戦の概要の説明を開始した。


「諸君も知っての通り、今回の任務はたったひとつ……D-02こと、怪獣・デスジラスの撃破及び死骸の回収である」

 

 大河原のよく通る声が、最大で10メートルほども離れた位置にいる隊員たちの下に届く。ちなみに識別番号が以前と異なっているのは、復活して外見の大幅に変化したデスジラスが、竜ヶ守の海岸から上陸してきたものとは別個体という扱いになったからである。

 

「これは方面総監部から指令が下ったように、形式上は“害獣の駆除”という名目である。だがしかし、実態はそんな生易しいものではない。文字通り、諸君らがこれから相手をするのは正体不明といってしまって差し支えの無い怪物である。我々の攻撃が何処まで効果を持つのか現状では全く判断が出来ないが、少なくとも未知のものを相手にする覚悟は忘れないで貰いたい」

 

 そう言って大河原は全員の顔を隅々まで見渡すと、すぐ傍にいた右腕に後を引き継がせた。

 

「では伊野一曹、頼む」

「了解」

 

 伊野は相変わらずパソコンを片手にしたまま、大河原が一歩下がったのと入れ替わりに、自分は一歩前へ進み出た。普段と違って階級名も含めたやや堅苦しい呼び方であったが、恐らくは彼らに示しをつける必要があるからだろうと伊野は思った。

 伊野はそれには余り構わずに、いつものように隊員たちの顔をゆったりと眺め回して言った。

 

「先程の会議でも多少お話しましたが、D-02――デスジラスは周囲の無機物などを取り込むことにより、自らの身体を補強する能力を持っている模様です。その原理等は一切不明ですが、これまでの状況から判断して――」

 

 伊野の声が、そこで一段と大きくなった。その部分は特に重要な事項なのである。

 

「――工場内に侵入した昨日の時点から現在までに、工場内に残されていた最大で60トン近くにもなる有害物質を体内に蓄積している恐れがあります。ですので、万が一デスジラスが南方面に現れた場合には、何としてでも竜宮川への侵入は阻止してください。以上です」

「全部で五台ある戦車のうち、三台を南部と西部に配置したのもこのためだ。皆、頑張ってくれ」

 

 つい先ごろ後ろに下がったはずの大河原が、そこだけは再び口を挟んできてそう言った。それだけ大事な問題なのである。

 あくまでも工場内に残されていた重量が60トンというだけで、その全てがデスジラスの体内に取り込まれていると決まったわけではないが用心に越したことは無い。何せ工場の南部を流れる竜宮川に有害物質が流れ出せば、それはそのまま太平洋へと移動することになるのだ。何としてでもそれだけは避けたかった。

 

 大河原の激励に、居並ぶ隊員たちは声を揃えて威勢のいい返事を発した。男たちの野太い声の合唱が、一斉に仙台平野の南部に響き渡った。

 

* * * * *

 

「ただいま、1200。総員、攻撃準備」


 テントの屋根の下で計器のいくつも並んだ机を前にしながら、大河原はその手に取った無線に向かって小さく呟いた。

 その途端、工場の周囲を包囲していた車両の砲塔数十筒が一斉に稼動し、工場の白い壁面を向いて固定された。ずらりと居並ぶ車両の中には、車体上部に火器装備の備え付けられた装甲機動車、8輪式の装輪装甲車 そして今尚現役である74式戦車などの姿があった。いまや首都圏では最新型の10式戦車が大体何処でも配備されていたが、制式化されて15年経った現在でも東北をはじめとする地方の師団では、大した数は調達できていないのが実情であった。現に今この場でも、作戦の性質上仕方ないとはいえ10式の姿は何処にも見受けられない。

 

 だだっ広い田畑の合間や、工場のフェンス脇で待機していた普通科の隊員たちも、一斉のその肩から提げていた機関銃――正確には89式自動小銃の安全装置をはずすと同時に 工場の壁に向かって銃口を向け制止した。

 全ての銃口、砲塔が怪獣の潜む工場を狙って固定され、あとは敵が実際に出てくれば自ずと戦闘開始である。肩の高さで銃を構え、身動きを止めた隊員たちの間に、言葉にせずとも冷たい緊張感が流れた。

 これだけ多くの車両が、人間が集結しているにもかかわらず、工場を中心とする半径二百メートル以内の空間ではその後しばらくの間、物音ひとつしない巨大な沈黙が支配した。聞こえてくるのは、工場の遥か頭上を旋回する戦闘ヘリの微かなジャイロ音だけである。

 一同に緊張を走らせた張本人たる大河原はいつの間にか目を瞑り、あたり一面に漂う静けさを静かに味わっていたが、やがて決心がついたのか、伊野たちが見守る中で、無線に向かって再び、小さくハッキリと言葉を投げかけた。

 

「……攻撃、開始」

 

 その瞬間、全ての火蓋は切って落とされた。つい昨日、デスジラスによって踏み破られ、蹴散らされた工場北側のフェンスの隙間から大きな筒状の武器を抱えた自衛隊員二人がさっとその姿を現すと、大急ぎで大型の弾薬のようなものを筒の中に装填する作業を終えた。その筒の正体とは無反動砲、俗に言うバズーカ砲であった。

 筒をその肩に乗せて構えた隊員は、照準を覗き込んでしばらくの間息を止めてから、一気にそのトリガーを押し込み、84ミリの砲口から鉛製の対戦車榴弾を、秒速200メートル超もの速度で撃ち出した。

 ほぼ同時に、筒の後方部から猛烈なガスが噴射され、砲弾発射時の反動を相殺する。

 凄まじい勢いで飛んでいった大人の手のひらサイズの砲弾は、一瞬のうちに工場の壁に開いた暗い穴の中に吸い込まれていって消えた。次の瞬間、重いものを叩きつけた様な音とともに工場の建物全体が小刻みに揺れ、穴の中から外部へと真っ黒な硝煙が溢れ出てきた。

 すると間もなく砲弾を打ち込まれた工場の内部から地を震わせるような唸り声が響いてきた。そう、“ヤツ”は間違いなくそこにいたのである。

 

* * * * *

 

 一方その頃、砲弾を撃ち込んだのとは反対側にあたる工場南側で待機した隊員たちはというと、唐突に工場内から聞こえてきた地響きのような音に訝しげに耳を澄ませていた。彼らが僅かに顔を上げたその直後、今まで傷ひとつ無かったハズの工場南面の壁の一角に突如として亀裂が走り、間髪入れずにその周囲の壁が内側から爆発したようになって吹き飛ぶと、傷口を押し広げるようにして鉄筋コンクリートを掻き分けながら、前後に3~4メートルはあろうかという銀色の頭部がヌッと陽射しの下に現れた。

 デスジラス、出現である。その全身は一昨日竜ヶ守に上陸してきたときの姿とは勿論、昨日この工場を破壊したときの姿とも、かなり差異が目立つようになっていた。工場内で様々なものを吸収することによりその質量を増したのか体躯自体は初出現時よりも遥かに大きくなり、全体のシルエットも前回、前々回のものと比べると非常に滑らかなものとなっていた。ガラクタ同士がくっついて生じた隙間を、より微細なチリやゴミが埋めているのかもしれなかった。

 いきなりデスジラスの口がカパッと開けられたかと思うと、その牙の隙間から金切り声にも似た耳障りな鳴き声がそこら一帯に轟いた。

 それでも自衛隊員たちは怯むことなく、自らの構えた銃の照準を身長25メートル超の異形の恐竜に定めると、上官の指示を待ってシッカリとその場に踏みとどまった。

 デスジラスのギラギラと光る黄色い目が、その足元に見える小さな生き物たちを見下ろしては止まった。

 

* * * * *

 

 指揮テントにいた大河原たちの下にどこか遠くの場所から、ガガガという射撃の音が幾重にも重なって聞こえてきた。工場内に挑発の砲弾を一発撃ち込んでからこっち、穴の中からは何者も現れなかったため妙な沈黙が漂っていたのだが、訓練を積んだ隊員たちには遠くから聞こえてくるその音が89式自動小銃の三点バースト(弾丸を三発ずつ自動連射する機能)のものだとすぐに分かった。ということは既に、どこかで戦闘が始まっているのだ。

 その時大河原の眼前にある無線機から、普通科部隊の隊長と思しき声がした。

 

『――こちら第三小隊。工場南側に怪獣出現。現在、威嚇射撃を敢行中。繰り返す、工場南側に怪獣出現。威嚇射撃を――』

 

「隊長……」

「ああ、よりにもよって一番厄介な方角に逃げてくれたな」

 

 伊野にそう返すと大河原は、再び無線機のマイクを取って、工場を取り囲む全ての部隊に向けて命令を発した。

 

「第一、第二以外の全部隊、及び車両に告ぐ。至急、工場の南側へと移動。第三小隊の援護に回れ。繰り返す、第三小隊を援護せよ」

 

* * * * *

 

 工場南側を防衛する第三小隊の面々は、じりじりと接近してくるデスジラスに対し威嚇ではなく実際に弾を命中させる攻撃に切り替え、懸命に巨大な怪物の進行を阻止しようとしていた。

 ところが彼らがいくら奮闘してみたところで、デスジラスの前進が止まることはなかった。

 当然といえば当然の結果で、全身の殆んどが金属で構成されているデスジラスにとって5.56ミリの鉛の弾丸など、人間が米粒をぶつけられるような程度のものであった。効果などある訳がない。

 それを見せつけるかのように、デスジラスは全身から火花を散らせながら自衛隊員たちを見下ろして口を開け広げると、大げさに上半身を振るわせて、再度あのけたたましい鳴き声を上げてみせた。

 いくら撃っても効き目が無いと判断した隊員たちは、今度はデスジラスを工場からいぶり出したのと同じタイプの無反動砲を持ち出してくると、速攻で砲弾を装填し、その胸部に向かって照準をセットした。

 

「ってー!」

 

 小隊長の号令と共に引き金が引かれ、筒の後方からガスが噴出すると同時に特大の砲弾が射出され、狙った場所目掛けて一直線に突っ込んでいった。刹那、デスジラスの体の表面で小さな爆発が起こり、その前進が一瞬のことではあるが止まった。

 デスジラスはまたも金切り声を上げたが、先ほどまでとは違って少々苦しそうにも見えた。多少の効果はあったということだろうか。しかしそれでも、しばらくするとまた自衛隊員たちを目指してゆっくりと接近を再開するのであった。

 その後何度か無反動砲での砲撃を繰り返したが、結果は同じことであった。このままでは埒が明きそうになかった。

 

* * * * *

 

『――自動小銃および、無反動砲による攻撃、効果なし。怪獣は依然、竜宮川へ向けて進行中』

「……マズイな」

 

 無線越しに伝わってくる、工場の向こう側で繰り広げられる戦闘の様子を聞くにつけ、大河原は深刻そうな顔をしてそう呟いた。

 歩兵が所持する銃器での攻撃が効かないとなると、あとは戦闘ヘリによる対戦車ミサイルか、地上の74式戦車による105ミリ砲ぐらいしか有効な手立てが無かった。

 この展開はある程度予想していたところであるが、もし仮にこの二大切り札でさえ効かなかったとしたら、もう自分たちに勝つ手段は残されてはいなかった。何せ世間的には一応“害獣駆除”という名目で作戦を行っているため、戦闘ヘリ1機と戦車5台を導引してくるだけでもひと苦労だったのである。金属の体を持った怪獣に対抗するため、などと説明したところで受け入れてもらえるはずも無く、現時点ではこれが精一杯の戦力であった。

 

 大河原がチラリと左脇を見やると、伊野が静かに頷き返してきた。心から信頼する部下に後押しされ、大河原はいよいよ決心を固めた。

 

「74式戦車の3号、及び4号車へ連絡。105ミリ砲の射撃を許可。各自、目標を捕捉後地上部隊の後退を待って、砲撃せよ」

 

* * * * *

 

 74式戦車の主砲塔が右向きにググッと旋回すると、デスジラスの胴体をその直線状に置いた状態で停止した。その照準内に黒と銀で埋め尽くされたデスジラスの身体が見える頃、周囲では小隊長や分隊長の指示に従って隊員たちが機関銃を構えたまま、大慌てでデスジラスから距離をとって車両の陰に退避していた。

 やがて74式の射線上からは、人っ子一人姿が見えなくなった。

 

 ズシン、ズシン、と一歩ずつ重々しく近づいてくるデスジラスの足音が大地に響く中、次なる咆哮が発せられたその瞬間に、そちらを向いて固定されていた74式の無機質な主砲が、ついにその先端から火を噴いた。

 砲塔からカッと赤い閃光が放たれると同時に周囲に一瞬の静寂が生まれ、僅かに遅れて圧縮された空気が爆裂すると、その反動で74式の接地した大地に凄まじい衝撃が走り、まるでその場に雷の落ちたような轟音がした。

 飛んでいった105ミリの砲弾はあっという間にデスジラスの脇腹に命中すると、着弾点で瞬時に炸裂し、爆炎を広げると同時にデスジラスの体を構成していた金属類を吹き飛ばして、あたり一面に飛び散らせた。

 デスジラスはそこでようやく悲鳴のような声をあげ、手や足を振り回しながらゆっくりとした動作で工場のほうに後退しはじめた。戦車砲の威力は凄まじく、流石に効果が現れた様子であった。

 

 逃げ出そうとする雰囲気のデスジラスに向けて、もう一台の74式から次なる砲撃が行われた。今度は右肩から左肩にかけてが砲弾に貫かれた直後に爆発し、デスジラスがさらに一歩後退した途端、その右腕全てが音を立てて地面に落下した。

 もがいて暴れるデスジラスだったが、一台目の74式から駄目押しとでも言うべき最後の一発が放たれた瞬間、その首から上が粉々と呼べるほどに粉砕された。残っていた左腕と、長大な尾が瞬く間に力を失ってだらりと垂れ下がり、少しの間があった後、その全身がバラバラと音を立てて崩れ落ちていった。

 土煙と硝煙が収まった後、そこにあったのは大量の鉄クズ只それのみであった。

 勝負はあっという間に決した。

 

* * * * *

 

『――こちら第三小隊。目標の破壊を確認』

 

 指揮テント宛てにその連絡が入った直後、その場にいた全員がホッと安堵の表情を浮かべた。伊野も伊野でふぅ、と気が抜けたように息を吐いてみせた。落ち着いているように見えて、その実かなり緊張していたらしかった。

 一方大河原はというと、一人だけ緊張の糸を解こうとはせずに、無線を掴むと冷静に言った。

 

「了解。即刻、回収作業にあたれ。ただし、油断は禁物だ」

 

 大河原はそう言ったものの、テント内はほぼ完全に勝利気分であった。お互いに労をねぎらいあったり、方面総監部に連絡を入れたりと、殆んど撤収の雰囲気である。倒すべき目標が物理的に粉々になって死亡し、跡形も無いのだからある意味では当然ともいえたが、この時点では誰も、これ以上何かが起こるなどとは考えもしていなかった。

 普通の生物が相手であれば、それでも決して間違いではなかったのだろう。

 

 

 そしてその事態は、ある時点で唐突に発生した。

 

 

「現在時刻、1215。現時刻をもって作戦行動を――」

『――本部、こちら第四小隊。怪獣の残骸を回収中、不審な物体を発見、どうぞ』

 

 大河原は一同に号令をかけようとしてから、ハッとして振り向き、慌てて無線機の傍に駆け寄っていった。近くのテーブルでこれまでに入った情報を整理中だった伊野も、咄嗟に顔を上げて眉を潜める。大河原が、なるべく落ち着いた声を作りながら無線越しに訊ねた。

 

「こちら本部。その物体の外観を、詳細に報告せよ」

『詳細を報告。物体は強い光を放つ赤色の球体で、素材は不明。怪獣の体内に含まれていたものと推測されますが、表面に目立った破損等が見られず、先ほどから何らかの力が働いているのか、宙に浮いてい――』

 

 次の瞬間、ザザザという耳障りな音ともに通信にノイズが混じってきて、あっという間に向こう側の声が何も聞こえなくなった。

 大河原が思わず無線を顔から遠ざけていると、それを待っていたかのように、背後でも伊野が素っ頓狂な声を上げていた。彼には珍しく、やや狼狽した様子であった。

 

「なんだ、これ……!」

「どうした!?」

「いや、急にパソコンの調子がおかしく……」

 

 しかし、それだけでは終わらなかった。伊野が言い終えるのを待たずして、一同の周りにあった電子機器の殆んどがほぼ一斉に異音怪音を発してガガガと唸り声を上げ始めたのである。何の前触れも無くそんなことになったので、テント内にいた隊員たちは揃って狼狽えながらそれらの機械に駆け寄って、発生した異常の原因を調べようとした。

 

「なんだ、何がどうなってる!?」

「ここら一帯に、何処かから強力な電磁波が発射されてる模様です!」

 

* * * * *

 

 その頃、工場の南側でデスジラスの死骸の回収作業にあたっていた第四小隊の隊員たちは、大慌てで現場から離れようとしていた。何故ならば彼らの周囲に散らばっていた大量の鉄クズやガラクタ類が、一斉に重力を失ったかのようになって空中に舞い上がったかと思うと一箇所に向かって集合し始めたからである。

 その渦の中心には、猛烈な速度で明滅を繰り返す赤い球体が存在した。おそらくはソレに、周囲の物体が影響を受けて吸い上げられているのであろう。しかし、何も知らない人々にとってみれば、そんな事実を冷静に見極められるほどの余裕は皆無であった。

 

 宙に舞い上がった何百トンもの廃棄物は、光り輝く赤い球体を取り込むようにして瞬く間に結集していき、やがて黒と銀を基調とした巨大な恐竜の姿へと変貌した。つい先ほど、砕け散る直前と寸分違わぬ外見のデスジラスが、再び人々の目の前にその姿を現した。

 

「ギェギェギェギェギェギェギェギェ!!」

 

 突然の復活を遂げ、恐ろしく不快な叫び声を響かせたデスジラスの前に、不意を突かれた隊員たちはパニックを起こしていた。上官たちからの指示を待つ間もなく、各自が思い思いに機関銃を発砲し、慌てて怪獣の巨体から距離をとって走り始める。

 けれども、そんなものに効果が無いことは先程の戦闘でも既に明らかであった。唯一破壊力を発揮できそうな戦車砲は、指揮テントとの連絡が途絶えているためか未だに発砲されないままでいる。

 

 ふと、デスジラスが天に向かって咆哮した。空間ごと震わせるような、不気味な叫びであった。

 その叫び声が逃げ惑う自衛隊員たちの下まで伝播した途端、異変は再び巻き起こった。隊員たちの持っていた機関銃や火器兵器の数々が、次から次へと彼らの手を離れては空中に舞い上がると、一瞬にしてデスジラスの下へ殺到していったのである。奪われた機関銃がその体にひとつ残らず合体していくと、やがて完成したその姿は、いかにも戦闘ロボットというような禍々しい形態であった。

 今一度デスジラスが叫び声を上げたその瞬間、あまりの出来事に呆然とする隊員たち目掛けて、全身から突き出た銃口が一斉に火を噴いた。不意打ち同然のその攻撃に、丸腰だった隊員たちはなす術もなく撃ち抜かれていき、デスジラスの周囲にバタバタと倒れていった。

 

 その時デスジラスの頭上から、バババという爆音が聞こえてきた。少し離れた場所まで移動していたジェットヘリが、異変を察知しようやく戻ってきたのである。AH-1Sコブラならばミサイルや機関砲も装備しているため、ある程度現在のデスジラスにも対抗可能なはずであった。

 ところがデスジラスが徐に片腕を天に掲げたかと思うと、そこから突き出た機関銃の付近より、一筋の真っ赤な光線が迸ってAH-1Sの機体底部を薙ぎ払った。次の瞬間にAH-1Sは大爆発を起こし、火炎に包まれながら地上に落下してきて大破した。おそらくはヘリの搭乗員たちにも、傍から見ていた地上部隊にも、何が起こったのか全く分からなかっただろう。

 今度こそ、勝負はあっという間に決した。

 

 それは果たして、デスジラスに奪われた自衛隊の機関銃に付属していた、照準用のレーザー装置であった。だがしかし、本来であれば戦闘ヘリを撃墜できるようなエネルギーを持っているはずがない。デスジラスに取り込まれたことで、急激にその出力が上昇し、ただの照準器が殺傷能力を持つまでに至ったのである。

 

 撃墜され地面で炎上するヘリの残骸を前にしながら、デスジラスは再度けたたましい鳴き声を轟かせた。そこに浮かび上がる姿は、もはや容易に害獣などという扱いに出来る類のものではない。

 まさしくそれは、人間の常識を遥かに超えた存在たる“怪獣”の異形であった。

 

 

(第十八話へ続く)


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