表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・烈怒龍 第一幕 ”希望”【レドラスタジオ・アーカイブス】  作者: 彩条あきら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/24

第十五話 破壊

「デスジラスが復活しただと……!?」


 風桐3佐を筆頭とする第309輸送中隊の出発から三十分後。中学校の校庭にある竜ヶ守災害派遣部隊の司令部は、危惧していた“怪獣復活”の報に騒然となっていた。

 中隊の無線機からここ司令部に向け、風桐の名前で通信が入ったのがほんの数分前のことである。当初の予定通りならば霞目駐屯地から中隊到着の報告が届くハズだったその時刻、テント内では隊員たちが慌ただしく情報収集へと駆け回る羽目になっていた。上へ下への大騒ぎとは、正にこのことである。

 

 テーブルに手をついて立ち上がった大河原は最も怖れていた事態の発生に慄然としながらも、必死に状況を把握すべく頭をフル回転させていた。

 伊野の話では、デスジラスに明確なエネルギー源や骨格は確認されなかったはずである。再び動き出したのだから生き返ったと考えるのが妥当なのだろうが、だとすれば一体何が引き金になったのか。トラックに積載した時点では生命反応のない、ただのガラクタの山だったはずである。

 それもこれも、デスジラスというのがどういう原理で動く怪物なのか特定できないことには、判断のしようがなかった。

 そのとき、すぐ傍で黙々と情報の整理にかかっていた伊野のもとに、一人の尉官がやってきて険しい顔で詰め寄って言った。

 

「伊野1曹、怪獣が生きてると分かってたのなら、どうして風桐3佐に言わなかったのだ!?」

 

 伊野は仮にも上官にあたるその人物の顔を無感動な目で見返してから、淡々と告げた。

 

「自分は可能性があると言っただけで、実際の条件までは把握しておりません」

「よくもそんな無責任なことを!」

「よせ、今の状況は伊野の責任じゃない」

 

 大声を上げる尉官に対し、大河原はたしなめるように言った。

 大河原の記憶する限り、たしかこの尉官は風桐3佐の部下の一人で輸送中隊に所属していた人物である。だとすれば気持ちは分かるのだが、実際問題、これほど不確定要素の多い中で絶対に生き返ると断言しなかったことを理由に伊野を責めるのは酷というものだった。

 いやむしろ、断言したらしたで大河原以外の殆んどの人間は笑い飛ばしていたに違いない。“可能性”というのは要するにそういうことなのだ。

 どうしても誰か個人に責任を問うというのであれば、それを負うべきは他でもなく、満足な装備もなしで輸送中隊に『怪獣の死骸』を運搬させた大河原自身であろう。大河原は、通信設備の前で待機していた隊員に訊ねた。

 

「その後、風桐3佐から連絡は?」

「まだ続報ありません。おそらく通信機が紛失したか、破損したものと思われます」

 

 大河原は苦虫を噛み潰したような顔をして、目の前に広げられた仙台平野の地図を見下ろした。このどこかに、デスジラスが復活する要因があったということだろうか。

 あるいは、最初から死んでなどいなかったか。だとすれば尚更恐ろしい話だった。ガラクタの集合体が一個の生物のように振舞っていたというだけでも充分常識外れなのに、再びバラバラになっても死なないとなれば最早どう対処すればよいのだろうか。それこそ昨晩大河原が口にしたように『ゴーレム』というほかはない。

 あれが何らかの魔術的な力で生まれたのだとすれば、それは既に大河原の対処できる範疇を遥かに逸脱していた。隊内にそっち方面の専門部署でもあるのなら、そっくりそのまま引き取ってもらいたいぐらいである。

 

 と、テントの隅で通信機の前にはりついていたその隊員が、何の前触れもなく顔色を変えたかと思うと装着していたヘッドセットに注意を向け、しばらくしてからそれを外して大河原の方を振り返り、言った。

 

「航空隊より入電! 推定1225より、大気圏外から飛来する正体不明の物体を捕捉。先ごろ、仙台市近郊に落下した模様!」

 

 それを聞いて大河原と伊野はほぼ同時に顔を見合わせ、瞬時に互いの言わんとしていることを理解した。そう、つい昨晩、伊野が大河原に話して聞かせたある“仮説”のことだ。すなわち、デスジラスが宇宙から飛来した可能性のことである。

 デスジラスが最初に海から上陸してくる直前、沖には正体不明の物体が落下している。今回もまた、復活直前に大気圏外からの謎の飛来物。そして何より、高エネルギーの放射線が常時溢れかえっているハズの宇宙という空間を飛行してきたと考えれば、その移動跡や死骸に確認された放射能汚染に対しての理由付けになる。

 大河原自身この仮説を聞いたときは正直驚いたものだが、確かに状況証拠だけ見れば充分ありえそうな話であった。もしかすると全国的に発生した昨日の電波障害も、デスジラスが宇宙からやってきたことと何か関連性があるのかもしれなかった。

 その仮説を提唱した張本人たる伊野は、大河原からちょっと目を逸らして自分のパソコン画面を覗き込んだ途端、どうやら何かに気付いた様子だった。

 

「……民放のテレビが、デスジラスの様子を中継してるみたいですね」

 

 そう呟いた伊野のパソコン上には、ワンセグ機能で受信したらしい地方テレビ局の番組が再生されていた。パソコンのスペックが安定しているようで、他にも数多く画面を開いているにもかかわらず映像の動きはかなり流麗だった。

 

「そいつをスクリーンに投影してくれるか」

「了解……すみませんが、そこのケーブル取ってもらえますか?」

 

 ふたつ返事で引き受けた伊野は平然と、ついさっき自分に食ってかかったばかりである尉官に頼みごとをしていた。物凄い神経である。

 その尉官は思わぬ頼みにやや憮然としていたが、仕方なく目の前にあったプロジェクターから伸びるHDMIケーブルの先端を探っていくと、やがて近くのパソコンに繋がっていた片方の端子に辿り着いてそれを引っこ抜き、黙って伊野に手渡していた。伊野は軽く礼を言っただけで受け取ると、急ぎ自分のパソコンの側面に接続させていた。

 すぐに大河原の依頼どおり、テーブルの反対側に吊り下げられた白スクリーンにプロジェクターから光が投射され、伊野のパソコンのディスプレイ上で起こったことが全て、そちらの大きな画面にも表示されるようになった。

 伊野は映像がちゃんと送られていることを確認してから、プロジェクターを弄って投影する高さやピントを調整した後、自分のパソコンの前に戻って画面端にあるアイコンをクリックし、出力される音声を最大ボリュームに変えていた。スピーカーは用意していないので、パソコンから出る音だけが頼りになる。

 

『―――ていますか、見えていますか!?』

 

 映像内では青空の下、やや興奮気味の女性リポーターがどこかの屋外の駐車場に立っているようだった。力強くマイクを握り締めるその三十代のリポーターは、この地方局の諸番組に出演する比較的有名な人物で、日常を象徴するような存在である彼女の背後に見えるのは、非日常の象徴たる巨大な怪獣の姿であった。

 

* * * * *

 

「信じられません、まるで映画の世界です。私はいま、仙台市若林区にある国道54号線沿いのパーキングエリアに立っています。しかしご覧ください。背後に見えるのは、建物よりも大きな体を持つ巨大な恐竜の姿です! 町を壊しながら移動する恐竜の猛威に、町の人々はいまパニックに陥っています!」

 

 彼女の実況通り、この町はいま大パニックに陥っていた。その光景は、昨日の竜ヶ守と殆んど同じであった。

 北の田園地帯から突如として出現した巨大恐竜の暴虐に、町の人々は訳も分からぬまま必死になって逃げ惑っていた。傲然と住宅地に踏み入り、そこらの家屋を蹴散らしながら今なお南進を続けているのは、識別番号D-01ことデスジラス。あの、レドラの攻撃を受けてバラバラに砕け散ったはずの怪獣デスジラスであった。

 しかもその姿は、竜ヶ守に出現したときとは大きく様相を異にしている。

 

 第一に初出現時よりも体が一回り小さい。当初は全長40メートル強あったはずのその体が、今では30メートル弱。歩行時の姿勢は変化ないのにも拘らず、地面から頭までの高さが微妙に低くなっていた。

 第二に身体の色。元々が黒と、金属光沢を放つ銀色との入り混じったまだら状態であったが、今ではくすんだダークグリーンと銀色のまだらに変化している。全身各部に見え隠れしていたなめらかな曲線はほぼなりを潜め、代わりに小さな板切れを無数に張り合わせたような角張った形状が目立つようになっている。

 そして第三が背びれの様子。巨大で青白い結晶状の構造は殆んど見えなくなり、代わりに暗い緑色をした布のようなものが背部から幾重にも垂れ下がって風に吹かれ、デスジラスの歩行にあわせてヒラヒラとはためいている。

 

 だがしかし、その恐るべき破壊本能だけは変わっていなかった。

 デスジラスが天を仰ぎ口を大きく開くと、全周囲に金属をすり合わせるような耳障りな叫び声が放出され、町中に響きわたった。女性リポーターはじめその場の全員が思わず身をすくませ、苦しみに耐えかねて耳を覆った。それでもカメラクルーが機材を落下させなかったのは、ひとえにプロの意地というものであろう。

 今日、グルメ番組のリポートをしにやってきただけの彼女らがこの状況に一番乗りできたのも、元はといえばデスジラスが轟かせたその不気味な咆哮に、撮影中のリポーター自身が真っ先に気付いたからであった。

 スクープと危険とは常に隣り合わせ。彼女らに一世一代の実況中継を許した怪獣の咆哮は、それと同時に凶悪な破壊力を持って地平に響きわたるのだった。

 

* * * * *

 

 映像を見やすくするために若干暗くしたテント内では、実況されてくる光景に隊員たちが思わず目を奪われ、知らず知らずのうちにその手を止めていた。

 映像を凝視していた大河原は、伊野の方を向いてやや訝しげに呟いた。

 

「気の所為か……? 昨日の映像で見たときよりも、若干体が小さくなったように見えるんだが」

「トラックに積んであったガラクタだけじゃ、元の質量に達してなかったんでしょうね。だとしても、大きすぎるとは思いますが……」

 

 冷静にそう返した伊野は、すぐさま画面脇に別のフォルダを開いたかと思うと、昨日の会議で上映していた映像の一部をキャプチャーしたらしいデスジラスの画像を何枚か選択し、現在中継されてきている映像のすぐ横に並べて表示させていた。

 それを見て、昨日の会議にも参加していた普通科の3佐が映像を指差しながら素っ頓狂な声を上げた。

 

「おい、あの怪獣の胸にくっついてるの、もしかして73式のフロント部分じゃないのか!?」

 

 大河原と伊野が再び中継映像に目を凝らしてみると、確かに怪獣の胸部に初出現時の映像には見られなかった装甲板らしきものが追加され、デスジラスの動きと連動して上下に稼動している。その形状は、言われてみればトラックのキャブ――座席の部分をフロントガラスごと縦方向に真っ二つに分割して、素体の上から被っているようにも解釈できた。

 そこで伊野ははじめて、現在のデスジラスの身体の至る部分で回転するタイヤのようなものの存在に気がついた。たしか伊野が小さかった頃にハリウッドで実写化されていた、変形する超ロボット生命体もこんな感じだった気がする。

 いずれにせよ、これでようやくハッキリした。

 

「……輸送中隊のトラックを破壊して、自分の体の一部にしたってことですかね」

「なんて奴だ……!」

 

 唸る大河原は、相変わらず通信機の前で待機していた隊員に向かって、有無を言わさぬ口調で言った。

 

「至急、方面総監部に連絡!」

 

* * * * *

 

 仙台市南部。北部と東部をひとつながりの高速道路に、さらに南部を東西方向に伸びた一級河川・竜宮川りゅうぐうがわによって挟まれたその土地に、市が建設し辰川工場と名付けられた大型の産廃処理場はあった。

 その敷地面積は9万平方メートルに及び、メインの処理施設に併設して粗大ゴミのリサイクル場や温水プールまでも兼ね備える、立派な市の行政機関のひとつである。

 周囲を田園と河川に囲まれ、高くそびえた煙突の先端からゆらゆらとなびく煙も併せて日頃はのどかなことこの上ない風景であったが、現在はまったくと言っていいほどその面影を見ることは出来なかった。

 何故ならば工場から見て北側に、巨大な恐竜――すなわちデスジラスの悠然と近づいてくる姿があったからである。

 

 田園地帯を通過し、途中の町を蹂躙した末、その先にあった高速道路も踏み貫いたデスジラスは、現在は辰川工場の真っ白な建屋に肉薄しつつあった。

 復活直後から脇目も振らず、ただひたすらに南進を続ける。デスジラスの行動は、ともすればかなり奇妙であった。まるでその先に何があるかを知っているかのようだったからだ。

 だがしかし、自分たちの住まいよりも大きなものが出現すればそれだけで恐怖と混乱の渦中へ入るような非力な人間風情が、そんな奇妙さに即座に気付けるはずもない。彼らにとって重大なのは、自分たちの生存を脅かす可能性をもった存在が接近しつつある、ただその一点のみであった。

 

 唸り声を上げつつ地響きを立てながら接近してくるデスジラスを背後に見つつ、施設の入り口からは次々に職員たちが飛び出してきていた。軽々とアスファルトを陥没させ、金属製のフェンスを引き倒す全長30メートルの恐竜に抗うすべなど、彼らは持っていない。そういう点では非常に合理的な判断であった。

 

挿絵(By みてみん)


 自分のことを見上げ、悲鳴を上げながら全速力で走り去っていく二足歩行の小動物たちを前にしながら、デスジラスは目前に迫った産廃処理場の真っ白な壁面を見つめた。

 この奥に入れば、自身が当初持っていただけの質量を取り戻すことが出来る。それはいつ知るでもなく、デスジラスという存在がこの巨大な恐竜の形をとる以前から分かっていたことだった。そう、自力で動けるようになったその時点から、ここを訪れることは必然だったのだ。

 

 デスジラスは何の感慨もなく右腕から伸びた槍のような銀色の爪を大きく振りかぶると、目の前に立ちはだかる白壁に向かって一気に叩きつけた。一撃でコンクリート製の壁に亀裂が走り、更にそれを押し広げようとするデスジラスの腕の一振りで、瞬く間に壁全体がバリバリと引き裂かれていく。

 砕け散った残骸の一部はねじれた鉄筋にしがみついたまま、まるで傷口から剥がれないまま萎びていく薄皮のごとくコンクリートの裂け目からぶら下がり、また一部は人間大のコンクリート塊となって怪獣の足元に続々と落下し、大地を打ってはいくつもの乾いた音を上げた。

 そしてデスジラスが執拗ともいえるほどに何度も同じ攻撃を繰り返した末、工場の北側の壁にぽっかりと、デスジラスがその巨体を押し込めるぐらいの非常に大きな穴が作り出された。デスジラスは締めとでも言いたいのか、最後に一際大きな叫び声を轟かせると満を持して、大量の廃棄物が蓄えられた工場の建屋内に突っ込んでいった。

 

 怪獣は、完全にその姿をくらませた。後に残されたのは辺り一帯に舞い上がったままの膨大な灰色の粉塵と、無惨に飛び散らされた無数のコンクリート片、そして前代未聞の事態にパニックを抑えられない市民の恐怖に満ちた喧騒だけだった。

 

 

(第十六話へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ