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その6

 飯田君と牧多君は2人とも私の言葉に頷いた。


「皆さんも知っているとおり、ここ5年2組の教室は本棟3階、体育館は外です。牧多君と分かれた飯田君が本棟の出口から3階の奥にある5年2組まで戻ってきてカードを盗み、始まりの挨拶までに校舎の外にある体育館に現れる。これが困難なことは皆さんも想像がつくと思います。つまり、飯田君はシロです」


 朋ちゃんが『飯田君』の横にバツを入れる。飯田君もホッとしたようは表情を浮かべた。残る名前は『遠野君』だけだ。みんなが静まり返って私の推理に注目していた。


「遠野君ですが、給食が終わると全体の片付けを手伝わないで一人だけ抜け出しています。どこに行ったのですか?」


 私が質問を投げかけると、遠野君は片手をあげてから立ち上がった。


「給食の後、校舎裏の屋外清掃用の倉庫に行っていました。子猫を2匹保護したのでイカフライを持って様子を見にいきました」

「嘘ついているんじゃねーの?」


 遠野君の発言が終わるや否や、水野君が水を差してくる。私はそれを制止して、「確かに子猫が2匹いることは先ほどの昼休みに確認してきました」と言った。


 水野君はなおのこと不服そうに「三田は遠野のこと好きだから庇っているんじゃないの?」と言ってきた。

 これには流石の私もかちんときたけれど、それより先に副校長先生が動いてくれた。


「遠野君は確かにあの日のあの時間に校舎裏付近に居たよ。それは私が保証しよう」

 

 副校長先生の言葉に水野君もぐっと黙り込んだ。私はホッとして話を再開する。


「つまり、給食後に遠野君は校舎裏の外部清掃用の倉庫付近で子猫にイカフライをあげていました。そう考えると、物理的にバトマジカードを盗ることはできません」


 朋ちゃんは最後に残っていた遠野君の横にバツ印を付ける。これで容疑者として上がった4人全員にバツ印が付いた。


「じゃあ、俺のバトマジカードは誰が盗ったんだよ!」


 大きな声をあげたのは今回のバトマジカード事件の被害者とされる草壁君だ。草壁君は未だにバトマジカードが戻ってこないと真っ赤になって怒っている。


「それなんだけど、草壁君の漢字辞典を見せて貰ってもいいかな?」

「漢字辞典?」


 私のお願いに草壁君は怪訝な顔をした。


 バトマジカードと漢字辞典は一見して全く関係がない。けれど、佐藤先生が無言で頷いて見せたので草壁君も渋々といった様子で漢字辞典を机の中から出して、その上に置いた。


「それ、開いてみてくれる?」


 私のお願いに草壁君が漢字辞典をケースから出してペラペラとめくり出すと……。


「あった……」


 私の予想したとおり、漢字辞典の間にバトマジカードが挟まっていたのだ。

 呆然とする草壁君を見つめ、私は口の端を上げる。


 私の推理はこうだった。


 あの日、容疑者として上がった4人のクラスメイト達にはいずれもアリバイがあった。ならば、最初からバトマジカードは盗まれていないのではないかというものだ。


 けれど、あの日の草壁君の様子からバトマジカードがなくなった演技をしているとも思えなかった。となると問題になるのは消えたバトマジカードの行方だ。


 あの日、中休みの後は国語だった。国語では四字熟語を調べるために漢字辞典を各自使用した。私はその時に草壁君は無意識に持っていたバトマジカードを栞がわりに挟んでそのまま忘れていたのではないかと考えたのだ。


 バトマジカードをみんなで捜したとき、机の中のものは全部だしたので当然漢字辞典も出した。でも、漢字辞典をケースから出して中までは確認しなかった。


 これはある種の賭だった。バトマジカードが出てこない可能性もあったので、予想通りバトマジカードが出てきたことに私は心底ホッとした。


「遠野、ごめん」


 バトマジカードを握り締めて暫くの放心していた草壁君は、小さく頭を下げると遠野君に謝罪した。


「…………。俺もごめん」


 その様子を見ていた水野君が、続いて謝罪する。遠野君は「疑いが晴れたならいいよ。また仲良くして欲しい」と嬉しそうにはにかんだ。


 学級会ではそのあと、保護した子猫をどうするかという話し合いをした。


 最近、近所で野良猫が増えて住人の人が困っているので学校の倉庫で飼うのは駄目だと先生は言った。

 結局みんなで里親さがしをすることになって、その間は副校長先生が子猫を預かることになった。


 そして最後に、『学校に必要ないものは持ってきてはいけません』とクラス全員が注意された。『必要ないもの』にはもちろんバトマジカードも含まれる。


    ◇ ◇ ◇


 私と朋ちゃんで結成したUMA探偵チームの推理披露から数日後、いつものように朋ちゃんとお喋りしていた私は目の前に陰が出来たのに気付き顔を上げた。

 そこにいたのは水野君だ。


「子猫、タマコって名前にしたんだ。よかったら、放課後見に来ない?」


 私と朋ちゃんは顔を見合わせる。そして、にかっと笑って「行く!」と言った。あの子猫のうち1匹は水野君の自宅に引き取られた。


「三田、あのときはごめん」


 ホッとした顔をした後にそう言った水野君は、きっとずっと私に謝る機会を窺っていたのだろう。


「謝ってくれたからいいよ。ねえ、遠野君と石川君も一緒に行こうって誘ってもいい?」


 私の問いかけに、水野君は表情を綻ばせる。


「もちろん! 草壁も誘っておく」


 そして、笑顔でこう付け加えた。


「ついでにゲーム機持ってきてよ。みんなでバトマジやろうぜ!」


  ──了──

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