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その5

 そんなことを言い出したのは最初に遠野君が犯人だと言い出した水野君だ。私はキッと水野君を睨みつける。

 水野君は私から睨みつけられるとは思っていなかったようだったか、「なんだよ。目つきのわりー女!」と悪態をついてきたのでもう相手するのをやめた。


「遠野君。一昨日の話なんだけど、校舎裏の屋外清掃用の倉庫に行ったときに誰かに会ったりしなかった? 遠野君のアリバイを証明してくれそうな人」


 私の質問に遠野君は考え込むように腕を組んだ。そして、おずおずと話し始める。


「証明してくれるかはわからないけど、副校長先生が花壇を見ていてすれ違ったよ。行きも帰りも」

「副校長先生……」


 副校長先生とは言わずもがな、学校で校長先生の次に偉い先生だ。遠野君のアリバイを証言してくださいと頼んでそれを聞いてくれる保証はない。

 でも、現在進行形で遠野君がクラスメイトの男の子に無視されて、さらに私まで『遠野を好き』とからかわれ始めている状況だ。


(こんなの絶対おかしい!)


 そう思った私はみんなに提案した。


「よし! 副校長先生に証言してもらえないか聞きに行こう」


 私の提案に朋ちゃんと遠野君と石川君はギョッとしたような顔をした。


「だって、遠野君はやってないならこんな状況はおかしいでしょ? ダメ元で行ってみようよ!」


 3人は顔を見合わせる。それから「わかったよ」と頷いた。


    ◇ ◇ ◇


 私達はその日のお昼休み、職員室の副校長先生を訪ねた。


 副校長先生の席は職員室の一番端に、他の先生達の机を横から見渡せるような形で設けてある。職員室の入口から中を窺うと、お昼休みの時間は職員室にいて授業準備をしている先生が多い。副校長先生も席で学校便りを読んでいるところだった。


「副校長先生!」


 私達が4人で副校長先生を訪ねると、副校長先生はびっくりした顔をしていた。自席にいた担任の佐藤先生も私達に気付いてこちらに近寄ってくる。


「副校長先生は一昨日の給食の直後、校舎裏の花壇を見ていましたよね? そのときに、ここにいる遠野君とすれ違った筈なんですけど、それを証言してくれませんか?」


 単刀直入な私のお願いに、副校長先生は怪訝な顔をした。そして、「どういうことか最初から説明してくれるかな?」と言った。


 私達は副校長先生と佐藤先生に一昨日の出来事を説明した。


 草壁君のバトマジカードがなくなったこと。遠野君が疑われていること。

 私と朋ちゃんは遠野君の疑いを晴らそうと真犯人捜しをしたけれど、見つからないこと。

 容疑者扱いされている遠野君がクラスメイトの男子から無視されていること。

 遠野君に話しかけた私は『遠野が好きなんだ』とからかいの対象になっていること。


 神妙な面持ちでそれを聞いていた副校長先生は、話が終わるとふむっと頷いた。


「話はわかったよ。遠野君を見たと証言するのは簡単だ。けれど、そのカードが見つからないならまた別の犯人探しが始まるかも知れないね? 例えば、他のクラスとか」


 副校長先生の言葉に石川君は「そうかっ!」と叫んだ。きっと、石川君の中ではすっかり他のクラスの生徒の仕業に違いないということになっているのだろう。でも、私はもう一つの可能性の方が気になった。


「実は私、ここじゃないかって思う場所が1カ所あるんです」


 おずおずと話し出した私にみんなの注目が集まる。私はみんなに朋ちゃんとまとめたノートを見せた。


「一昨日の時間割をもう一度見て下さい。中休みの後──」


 私の推理をひと通り聞いたみんなは確かにその可能性もあると頷いた。草壁君は国語の授業が始まったとき、きっとバトマジカードをまだ机にのせていたのだ。


「とにかく」と副校長先生は言った。「クラスでいじめの火種があるなら放ってはおけないね?」


 副校長先生は佐藤先生を見つめた。佐藤先生は冷や汗をかいている。佐藤先生にしたらこの話は寝耳に水だと思うから、ちょっと悪いことをしたかもしれない。


「はい。次の時間は臨時の学級会にしてクラス全員で話し合いをします」


 佐藤先生はそう副校長先生に伝えた。そして、遠野君の身の潔白を果たす最終決戦は5時間目になったのだ。

 

    ◇ ◇ ◇


「今日の5時間目は予定を変更して学級会を開きます」


 教室に入ってきた佐藤先生の言葉に、5年2組のクラスはざわついた。後ろに副校長先生まで来たのだからなおさらだ。


「一昨日の昼休み、草壁君の持ってきたゲームカードがなくなったそうだね。それに間違いはない?」


 佐藤先生の言葉に草壁君はびっくりした様子で慌てて立ち上がった。


「はい。中休みまではあった俺のバトマジカードが盗まれました」


 佐藤先生はその言葉にゆっくり頷く。クラスメイト達はこれから何が起きるのかと興味津々に先生を見つめていた。


「草壁君。君は今、カードは『盗まれた』と言ったね? なぜそう思ったんだい?」

「だって、いつの間にかなくなったんです。みんなで捜したのに見つからなかった。っていうことは、盗まれたんだ」と草壁君は口を尖らせてムキになって言った。

「では、あの日のみんなの動きを整理してみようか」


 佐藤先生がチラリと私を見たので、私は頷いて立ち上がった。


「ここからは私、三田が説明させて頂きます」


 クラスメイト全員の視線が一身に集まるのを感じた。めちゃくちゃ緊張してくる。私はすーっと息を吸い込んだ。頑張れ、UMA探偵団!


「みんなも知っているとおり、一昨日草壁君のバトマジカードがなくなるという事件が起こりました。時系列に整理したので見て下さい」


 私が説明を始めると、朋ちゃんが立ち上がってノートの重要部分だけを黒板に転記し始めた。


「バトマジカードが中休みにはあったことはクラスの何人もが見ています。でも、お昼休みにはバトマジカードはなくなっていました。あの日の時間割は3時間目が国語、4時間目が体育、交流給食に清掃。中休みからお昼休みの間に教室から人気(ひとけ)がなくなってカードを盗れるとしたら、体育と交流給食の時間しかありません」


 ここで、朋ちゃんは黒板に書かれた体育と交流給食の部分に赤丸をつけた。


「体育の時間、見学者が2人いました。山下さんと石川君です」


 クラスメイト達の視線が一気に2人に集まる。石川君はともかく、山下さんはびっくりした顔をしていた。


「私はしてないわ! 石川君と一緒に見学していたもの!」


 山下さんが咄嗟に立ち上がって大きな声で叫ぶ。私もそれに頷いた。


「そうです。石川君と山下さんは一緒に体育を見学していました。ですから、お二人にはお互いにアリバイがありカードを盗ることは無理です」


 朋ちゃんが『石川君』、『山下さん』の字の隣にバツを入れた。それを見て安心したように石川さんも座る。


「つぎの可能性は学年交流給食です。この時、飯田君が遅れて来て、遠野君は終わりに抜けています。飯田君は本棟1階のトイレに行ったそうで、始まりの挨拶の最後にはいました。また、本棟の出口までは牧多君も一緒でした」




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