表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

その4

 私が飯田君に声を掛けると、飯田君は少し顔をこわばらせた。たぶん私と一緒にいる人たちの一人が遠野君だったからだろう。


「一昨日、飯田君はトイレに行って交流給食に遅れたでしょ? あのとき、どういう行動だったか教えてくれない?」

「一昨日?」


 飯田君は私の質問が予想外だったようで、困惑顔だ。

これはとても大事なことなのだと私が伝えると、腕を組んで一昨日のことを思いだしながらぽつりぽつりと話し始めたてくれた。


「あの日は、学年交流給食だっただろ? だから、教室から牧多と移動したんだ」


 飯田君の言葉に隣にいた牧多君もそれを聞いて頷いている。


「体育館に行く渡り廊下の手前で急にトイレに行きたくなってさ。途中で通る中で一番近いのが本棟の1階のトイレだったから、そこで牧多と別れてそこのトイレに行ったよ。付き合わせて遅れさせたら悪いから牧多にはさきに体育館に行ってもらった。トイレが終わったらすぐに体育館に行ったから、はじまりの挨拶の途中で席についたよ」


「それで間違いない?」と私は牧多君にも確認をとる。牧多君は「間違いないよ。俺の1、2分遅れくらいで飯田は体育館に来た」と頷いた。


「うん。飯田君ははじめの挨拶の最後に体育館の後ろからこそこそ入ってきていたのは私も覚えているよ」と朋ちゃんも言った。


 体育館は校舎の本棟から一度外に出て、砂走の渡り廊下を渡った先にある。そして、5年2組の教室は本棟の3階の一番奥だ。


 つまり、飯田君が犯人の場合、飯田君は本棟の出口まで友達と行き、そこで別れて5年2組の教室まで戻り、草壁君の鞄を漁ってバトマジカードを探し出して盗り、友達の2分遅れで体育館に現れたということになる。


「無理ね……」


 私は小さな声で呟いた。

 物理的にどう考えても無理だ。これで飯田君犯人説も消えた。私達は飯田君に「ありがとう」と告げて、その場を離れた。


「どういうことなの?」


 私は眉を寄せる。犯人がいない。これではやっぱり一番怪しいのは遠野君だ。


「遠野君。あなたやっぱり……」


 私が遠野君に向き直ってそう言いかけたところで遠野君は焦って「俺は違う!」と否定してきた。


「でも、この状況じゃ一番怪しいよ。給食の後に何をしていたのか話してくれる?」

 私の問いかけに、朋ちゃんと石川君も同意して頷いている。その様子をみて遠野君は観念したように「わかったよ」と頷いた。


「校舎裏に屋外清掃用の倉庫があるだろ? あそこに行っていた」

「屋外清掃用の倉庫?」


 私たちは意外な告白に、3人で顔を見合わせた。校舎裏には確かに屋外清掃用の倉庫がある。園芸用の庭園の少し奥まったところだ。


「なんでそんなところに?」

「子猫を見つけて保護したんだ。あの事件の前日なんだけど、クラス当番だったから先生に頼まれて園芸用の庭園に水やりに行ったんだ。そしたら、水やり中に子猫の鳴き声が聞こえてさ。気になって鳴き声の方に行ったら、屋外清掃用の倉庫の近くで子猫が2匹鳴いていたんだ。暫く様子を見たんだけど親猫がくる気配もなかったからほうっておけなくて」

「でも、なんで昨日は給食の直後に?」

「イカのフライだったから、子猫も食べるかもしれないと思ったんだよ」と遠野君はバツが悪そうに言う。「あんまり食べてくれなかったけど」とも付け加えた。


 そこまで聞いたところで、朝のチャイムが鳴って佐藤先生が教室に入ってきたので話は中断になった。私達はそれぞれ散らばって席につく。私は席に戻った後もバトマジカードの行方を考えていた。


 朋ちゃんと時系列を整理して犯人になりそうな生徒は体育を休んだ山下さんと石川君、給食時間前後に離席していた飯田君と遠野君の4人だった。


 でも、山下さんと石川君はお互いにずっと見学していたと証言したからシロだ。

 飯田君も牧多君との証言から考えてシロ。遠野君は屋外清掃用の倉庫に行ってやってないという。


(犯人がいないわ……)


 私は壁にぶつかって頭を抱えた。

 遠野君にはこれからもう一度話を聞くとして、もし本当に遠野君が盗っていないなら容疑者が全員シロだ。じゃあ、草壁君のバトマジカードはどこに行ったのだろう?


 私は朋ちゃんと整理した時系列表をもう一度確認した。


(なにか、なにかを見落としていないかな……)


「あ、もしかして……」


 そこで、私は一つの可能性に行き当たった。


 中休みになると、私達はもう一度遠野君を囲んで話を聞いた。クラスメイトの男の子は急に私が遠野君に近づき始めたのに気付き始めたようだ。


「三田ってさー、朝からずっと遠野と喋っているよな。もしかして、好きなんじゃねーの?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ